ある日、突然。
……実弥に、別れを告げられた。
満月の日の事だった。
本当に、綺麗で。
綺麗…。
実弥の、優しい笑顔が……情景が、蘇る。
嫌だ。何で?
……何度も呼び掛けた。けど。
振り返ることは無い。
それどころか……無視された。
実弥は、何も言わずに私から背を向けたんだ──…。
* * * *
後ろの席の善逸に、話し掛けられる。
……キメツ学園、高等部2年生。我妻善逸。
たまに絡む程度の仲で、席が近くなってからは話すことも多くなった友人。
……実弥は、高等部3年生。1つ上の先輩。
いつも、実弥が私の家にまで迎えに来て、私たちは一緒に登校していた。
……けれど。
“もう迎えに行かねぇから、待ったりなんてするなよ”
スマホに届いていた、一通のメッセージ。
そこに書かれている文の通り、今日はいくら待っても実弥が来ることは無かった。
正直、何かの冗談なんじゃないかって思って。
ギリギリまで、ずっと待っていた。
……けど。
いくら待っても、実弥が来ることはなくて。
あぁ、本当に……終わっちゃったんだ。
そう、実感してしまって。
そこで、善逸ではない誰かに話し掛けられる。
振り返れば、モッサモサの黒髪に死んでるに等しい表情筋。
青色の瞳でこちらを見据える──…冨岡義勇先輩と、視線が交わった。
あれ、何でここに居るんだ…?
一応…今、授業中……。
相変わらずの言葉足らずに困惑。
何、え……え?
その言葉でやっと理解する。
冨岡先輩は、私の話を聞こうとしてくれているんだ。
……不器用で、優しい……
……あなた、一生傍に居ろよォ?
──…俺が絶対、幸せにしてやっから。((ニッ
……実弥もそうだ。
不器用で、それで、凄く優しかった。
いつから…いつ、から。
目尻に溜まった雫を、大きなその手の指が汲み取った。
……優しい、なぁ。
言葉が足りないが、どういう意味かは何となく理解出来た。
きっと、実弥の事を言っているんだろう。
またしても言葉が足りない…が、きっとまた実弥の事を指しているのだろう。
なんせ、懐からおはぎを取り出しながらそんな事を言っているのだから。
懐に直で入れた萩など食べたくもない。
私がそう言うや否や、懐から取り出したお萩を自分の口に運ぶ先輩。
……ちょっと引いた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。