言い終わらないうちに、ぐいっと腕を引かれ、前へバランスを崩しながら先生の胸に飛び込んでしまう。
左耳のそばで先生の少し尖った声が響く。
私はつい肩を震わせてしまった。
バレてる。
苦い気持ちになりながら、私は正直に答えた。
可愛いこと!?と驚きを発しかけた刹那、耳に先生の唇が触れてきて全部消えていった。
啄むような優しいキスや、時折這わされる舌の感触に声を漏らしそうになって口を押さえ必死に堪える。
先生の独り言は、恐らく人通りがあるからということなんだと思う。
これが放課後だったら、私が恥ずかしいとか言っても問答無用で口を覆う手を外してくるから。
でも、ドキドキして何も考えられない中我慢するのは口を覆っていても結構大変で、ただキスの場所を変えられるだけでも簡単に声が零れてしまい顔が熱くなる。
私にしか紡がないその声音と愛おしげな囁きに酔わされ、愛されていると実感する。
誰にも言えなくても、毎日少ししか一緒にいられなくても、幸せ。
だけど――私は、どうしてもしてほしいことがあった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!