第9話

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なんかあいつの足音がするな、と思った。

すると、少し前に閉まったドアが急にガラリと開いて、俺の前に現れたそいつは予想通りの生徒だった。

忘れ物でもしたかと聞けば、告白されました、と沈んだ声で言われ思わず目を見開く。

まだ続きがありそうだったので先を促すと、彼女は、俺が好きだけどドキドキした、と言い、胸のあたりを握りしめて泣きそうに崩れた表情で俺を見た。
あなた

これって浮気ですか?

紫川先生
…………
俺は彼女を自分の元に呼び、包み込むように抱いて、そっと尋ねた。
紫川先生
……なんて言ってほしいんだ?
彼女の答えは、
あなた

……好きって、言ってほしいです




――つい唇に笑みが浮かんだ。

完全に俺に堕ちている。目移りできないほど、完全に。

お前は知らないだろうが、密室に男女が二人きりな状況は何かしら恋愛的な効果を生む。わざわざここで会ってたのはそのためだ。

物足りなさを感じさせて、もっとと欲しがるように、唇へのキスは絶対にせずに。
あなた

先生……

縋るような声が耳に届く。

……やっとここまで堕ちてきた。
紫川先生
ああ。……好きだ、あなた。お前が好き
あなた

……私も、好きです

紫川先生
知ってる。こっち見ろ
そう言うと、あなたが一度鼻をすすって上半身を起こし、俺の足の間で膝立ちしたまま、じっと見つめてくる。

まだ首に回されている華奢な腕は“離れたくない”と言っているようで、口元が緩む。
紫川先生
……あなた
はい、と返事を紡いだ彼女の唇に、優しく深く口付ける。

俺の毒のような愛を、口移しで注ぎ込む。
紫川先生
……お前には、俺だけだ。な?
目の前で満足そうにとろけているあなたが、はい、とはにかんだ。
あなた

大好きです。先生