なんかあいつの足音がするな、と思った。
すると、少し前に閉まったドアが急にガラリと開いて、俺の前に現れたそいつは予想通りの生徒だった。
忘れ物でもしたかと聞けば、告白されました、と沈んだ声で言われ思わず目を見開く。
まだ続きがありそうだったので先を促すと、彼女は、俺が好きだけどドキドキした、と言い、胸のあたりを握りしめて泣きそうに崩れた表情で俺を見た。
俺は彼女を自分の元に呼び、包み込むように抱いて、そっと尋ねた。
彼女の答えは、
――つい唇に笑みが浮かんだ。
完全に俺に堕ちている。目移りできないほど、完全に。
お前は知らないだろうが、密室に男女が二人きりな状況は何かしら恋愛的な効果を生む。わざわざここで会ってたのはそのためだ。
物足りなさを感じさせて、もっとと欲しがるように、唇へのキスは絶対にせずに。
縋るような声が耳に届く。
……やっとここまで堕ちてきた。
そう言うと、あなたが一度鼻をすすって上半身を起こし、俺の足の間で膝立ちしたまま、じっと見つめてくる。
まだ首に回されている華奢な腕は“離れたくない”と言っているようで、口元が緩む。
はい、と返事を紡いだ彼女の唇に、優しく深く口付ける。
俺の毒のような愛を、口移しで注ぎ込む。
目の前で満足そうに蕩けているあなたが、はい、とはにかんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。