空は目を丸くした。
彼から言葉を重ねられる前に、勢いで畳みかけていく。
後から過去形にしたら変な日本語になったが気にしない。その程度今は構ってられない。堂々とするんだ。
空は、ぽかんとした表情で私を見つめ、正面から両肩を強く掴んできた。
ぐ、と肩を掴まれている手に力がこもる。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
だって空から好かれてるなんて、考えてもみなかったことで。
聞き間違いじゃないかと疑うくらいには、空を異性として意識していなかった。
――なのに。
『男』の顔で、真剣な声で告ってくるから。
身体中が一気に熱を上げ、私は俯いて唇を固く閉じた。
やばい、心臓バクバクいってる。
空はしばらく何も言ってこなかったが、その間も視線だけは感じた。
いつからだろう。最初は確か「かっこいい」っていうのと、「クールに見えて優しいな」っていう印象だった。普通に、“先生”に対して抱く感じの。
それが『好き』に変わっていったのは――
先生と毎朝ふたりで過ごしてくうちに、自然と。
付き合ってからは放課後も一緒にいるようになって、朝との違いにびっくりしたけど、それでも想いは消えなくて。
恋してるんだなって……好きなんだなって。
返す言葉に迷って、黙っているとそっと抱きしめられた。
耳元で囁かれ、どきりとしつつも依然黙り込む。
去っていく空の背中を見送って、私は来た道を引き返した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!