理事長は私が登場すると、反対側の袖に入っていった
これからは、私の独壇場ということか
学園のトップから許しを得たのだ。言いたい放題言ってやろう
演台の前までゆったりとした足取りで歩き、台の上に置かれたマイクを調節する
台本も何も無い。ただ、私が言いたいことを言うだけ
たったそれだけなのに、以前と違って、生徒たちは全員、私を真剣な面持ちで見ていた
・・・・・・ここまで注目されたことなんて、本条家の恥さらしとして言われた時以来か
けどその時と決定的に違うのは・・・・・・彼らの眼差しが、私を侮蔑の対象として見ていないこと
散々敵意を向けられていた相手から初めて受ける視線に、少し新鮮さを感じる
まあ、今更くるりと手のひら返しをされても、無駄だけどね
マイク越しに伝わる私の声は、どこまでも清々しいものだった
全てから解放された声。もう何にも囚われないと、私の世界に皆を誘う声
さあ、有無を言わさずに・・・・・・言いたい放題言ってやろうじゃない
初っ端から衝撃的なカミングアウトをされ、一周まわって何も言えない生徒の面々
それは生徒だけに限らず、事情を説明されていない一部の先生達も、呆然と私を見つめていた
構わず私は話を続ける
徐々に落ち着いてきたのか、少しずつ声が溢れ出し、それはホール中に轟く叫声へと成り代わった
ふぅ・・・・・・まあこうなるとは予想していたけど、ちょっとうるさいな
私は敢えてマイクの頭に指を近づけ、意図的にハウリングを起こした
きーーーんと、耳障りな音が響き渡る
その瞬間、注目は再び私に集中し、同時に全員の口が閉ざされる
うん。やっぱりハウリングは使える
気を取り直し、積もる話はまだまだあるのだと言いたげに、口を開く
衝撃的なカミングアウト3回目。しかも自分の身に起こっている事であり、そして命に関わる事だとやっと理解したらしい生徒たちは、一斉に批判の声を上げた
怒りのあまり、自分の考えもままならない様で、口々にぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる
まったく。これだから適合者は嫌なのよ
ふっと鼻で笑い、そして冷酷に突き放した
にっこりと、空前絶後の最上級の笑みを浮かべる。ただし、口周りの表情筋以外は微動だにしていない
まるで私は、彼らを虫以下の存在として見ているような目をしていただろう
この本条瀬奈という人間にとって、自分たち適合者が持つ超能力は取るに足らないものであることを理解したのかは分からない
ただ断言出来るのは、自分たちがしていたことが自分たちに返って来たということ。これについては、私に罪などない
それはこの場にいる全員が分かっているらしく、誰も言い返すことは無かった
なら最後に、言いたいだけ言ってやりましょう
これが本当に言いたかったこと
たったこれだけ。こうすれば、不適合者が苦痛に耐える毎日を送る必要もなかった
あの女子生徒が、自殺未遂を犯すなんて、しなかったかもしれない
過去を変革することはできない。ならば、未来の為に動け
私は生徒たちに向かって問いかけるが、返事をする者は誰一人としていない
論破されたからか、それともやはり寿命のことが衝撃的だったのかは知らないが、私はスルーして話を続ける
最後に懇請の言葉で締め、一歩下がって一礼する
出てきたステージ袖へと向かう途中、ぱらぱらと拍手が起こり始め、それは次第に大きくなり、姿を消す頃には大歓声の飛び交うものになっていた
ステージ袖に着いた瞬間、やっと終わったという脱力感から、膝から崩れ落ちてしまった
・・・・・脆弱だな、私
忙しいのはこれからなのに
それでも、私の胸を渦巻く達成感は、今までに感じたことのないほど大きなものだった
もう人生に悔いはない・・・・・・そう言っても過言ではないくらいに
でも、私にはまだやるべき事があるから
この秘密を墓まで持っていかないのであれば・・・・・・彼らが私の演説に心を打たれたのであれば
私もその対価をお返ししなければならない
背後から沸き起こる拍手の嵐に陶酔しながら、私はゆっくりと立ち上がり、瞳を閉じた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。