どこか腑に落ちないまま帰宅し、あてがわれた自室・・・・・・というか、他の住み込みの使用人との相部屋で制服を脱ぎ、使用人の服に着がえた
衣装はシンプルなメイド服だ。黒地の膝丈ワンピースの上に、フリルたっぷりの白いエプロンを重ね、頭にはちょこんとエプロンとお揃いのカチューシャが乗っかっている
前世の同僚にもメイド服を着たがっていた人がいた。この世界にもコスプレという概念はあるが、毎日のように着ていると、これを着て楽しむ方の気持ちが分からなくなる
いや、着る前から分からなかったけど。一切元同僚の気持ちが理解出来なかったけど
まあそれはいいとして、早く仕事に行かなければ他の使用人たちに怒られる。さっさと片付けてしまおう
クローゼットを開け、ハンガーにかけた制服を入れる
ぽんぽんと一、二度服を叩いて、扉を閉めると、私は全身が映る大きな鏡の前に立ち、身だしなみを整えた
勤め先は名家。使用人と言えども身だしなみには気を遣わなければならないのは当然のこと
おかしな所が無いか一通り確認した後、その場で一周くるりと回り、ワンピースの裾を翻してみる
うん。異常なしと
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
やけに態度のでかい適合者の先輩は、挑発に乗らなかったのが癪に触ったのか、さっさとどこかへ行ってしまった
大した仕事もしてないだろうに。この廊下の掃除は午前中、遅くても1時までには終わらせなければならない範囲
それを、夕方から参加する学生の使用人に丸投げとは・・・・・・大人気ない
屋敷の二階。当主の執務室に面するこの廊下を掃除しろとのご命令だ
一応、あの人は先輩だし、逆らえない。それに彼女の言葉を否定したが最後、いびりが酷くなるだろう
ただでさえ劣悪環境の中と言うのに、これ以上悪化してたまるか
一人がやらかすと、他の不適合者にも矛が向く。もう素直に言うことを聞くというのが、不適合者の間での暗黙の了解だ
私は片手に箒を持ち、ふんっと気合を入れる
生まれてからというもの、ずっと使用人扱いされ、仕事を叩き込まれた私
あの人たちよりも手際は良いというそれなりの自負がある
どの道、手柄は横取りされるけど・・・・・・それはそれでいい
ぎゅっと柄を握る力を強くし、人知れず唇を噛み締める
不適合者だから何?
適合者だから何?
私は1人の人間。それに変わりはないのに
─────────ああ、やっぱり居心地が悪い
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!