第16話

虫がいいにも程がある
627
2020/05/27 14:56
考えに考えた結果、私は根負けして白状する───────とはならず
とりあえず、動揺していると勘づかれないよう、得意のポーカーフェイスを張りつけ、ましろの目をしっかりと見つめ返す
本条 瀬奈
本条 瀬奈
頬の烙印を見ればわかるでしょ。正真正銘の不適合者。超能力なんて使えない、無能だけど
そっと、右頬を撫でながら呟いた
ここにあるのは、私が不適合者であるという最たる証
──────右頬に刻まれた、一重の五芒星
覆しようのない戒め
これがある限り、私はずっと不適合者でしかない
・・・・・・けど、ましろは常識に囚われる『馬鹿な奴ら』ではなかったらしい
宮澤 ましろ
宮澤 ましろ
うん。知ってる。でも私が言いたいのはそこじゃなくて・・・・・・不適合者のフリをしているだけなんじゃないかなって
本条 瀬奈
本条 瀬奈
え・・・・・・・・・?
思わず、間抜けな声が零れてしまった
ましろの言っていることが的確すぎたから
恐らく、それはましろにとって、確信まではいかないもの。せいぜい空想の中でしかないはず
でも、その妄言とも捉えれるようなことを敢えて私に聞かせた・・・・・・つまりそれは、妄想から確信へと変えるための確認
私が本当にただの不適合者なら、笑い飛ばしていたところだろう
でも、ましろの言っていることは正しい。正しすぎて、私は何も返せずにいた
無言──────それは暗に肯定したということ
それはましろも分かっているだろう
今更否定するなんて、寧ろ彼女の好奇心を掻き立てるだけかもしれない
どうしよう・・・・・・どうするのが最善策?
真実をここで話すか。それとも、これまで以上に絡みが激しくなる覚悟で隠し通すか
ふと、俯いた顔を上げ、ましろを見ると、いつになく真剣な表情で私の答えを待っていた
それから何も追求しない。ただ、私がましろを信じ、真実を話し聞かせることを望むだけの、純粋な眼差し
自分を試している。そして、私をも試している
どれだけ私が、ましろのことを信頼しているのか。逆に、自分がどれだけ、本条瀬奈という人間から信頼されているのか
──────残念ながら、私はそこまで、軽い人間じゃないの
散々手を煩わせてきて、今更秘密を易々と教えてなるものか
本条 瀬奈
本条 瀬奈
そう。でもごめんなさいね。私はただの不適合者・・・・・・超能力者を蔑む、反抗的な不適合者に過ぎないの
あからさまに悲しそうに眉を下げるましろを置いて、私は柔らかなソファから立ち上がり、さっさと廊下へと続くドアの前へ歩いて向かう
本条 瀬奈
本条 瀬奈
さよなら。お邪魔したわね
別れ際にそう言い残し、リビングから立ち去る
自分の靴を履いて、ましろの家を出た
元々、私はましろに配布物を届けに来ただけ。本来の目的はしっかりと達成しているのだし、長居する必要も無い
でも・・・・・・
本条 瀬奈
本条 瀬奈
(まさか、ましろがここまで勘が良いなんて)
自転車のスタンドを足で軽く蹴り上げながら嘆息する
このまま私の素性が露見してしまうのは避けたい。どうしても
この秘密は墓まで持っていくの。そうじゃなきゃ、この世界が破滅していくのを見ていられないじゃない
・・・・・・そうよ。この世界の人たちを力を見せつけて見返す、なんて事はしない。己の力で滅びていく様子を高みの見物する
前世の記憶を取り戻し、この世界の愚かさを知った時から、そう決めていた
でも
本条 瀬奈
本条 瀬奈
もし私が秘密を明かせば・・・・・・助けられる命はあるというの?
誰にも聞こえないような小さな声で譫言うわごとのように呟く
不適合者の言葉に耳を傾ける人間なんている訳が無い。ましろが特殊なのだ
だから私は諦めた
だから私は傍観を決め込んだ
なのに今更、それを撤回する方が馬鹿げている
・・・・・・もう、考えるのはやめよう

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