第26話

二回目の本題が本題でした
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2020/09/15 13:32
婦人
・・・・・・本題に入りましょうか
本日二度目の『本題』に入ることになってしまった
少しツッコミを入れたい気持ちに駆られるが、今はそれどころではない
聞かれることはわかっている。どうせ、あの事だろう
婦人
単刀直入にお聞きします。瀬奈さん・・・・・・あなたはどうして、不適合者なのに超能力が使えるのですか?
・・・・・・やっぱりか
背筋を伸ばし、凛とした声で私に問う
そんな婦人を他所に、私は伏し目がちに、握られた自分の拳に目線を落とした
私を尋ねた時点で、この事を聞かれるとは勿論思っていた。寧ろ聞かない方がおかしい
この世界において、私はかなり異質な存在。不適合者だという事実は覆しようがない。あの計測器の結果が全て正しいのだから
計測器が不適合者だと判定すればその人は不適合者になる。超能力など使えない、不適合者に
計測器が間違うはずがないと言う固定概念が、今の不適合者の状況を作る一因になったのだ
つまり、不適合者は何があっても超能力は使えない、ということになる
なので、私が超能力を使ったことは、到底信じられないことに違いない。自分の目で見てもなお、何が起因しているのか分かるはずがない
だから聞いた。私の元に赴いてまで
・・・・・・その気持ちを、蔑ろにできようか
すっと顔を上げ、決意を込めた瞳で婦人を見つめ返した
本条 瀬奈
本条 瀬奈
それについてはお話します。その代わり、決して外に漏らさないことを約束してくださいますか?
婦人
もちろん。命の恩人様の秘密を漏らすようなことは致しません
婦人は自分の胸に手を当て、こくりと頷く
それを見て、少しばかり頭の中で整理した後、私は口を開き、ぽつぽつと語り始めた
本条 瀬奈
本条 瀬奈
私の知る超能力は・・・・・・この世界のように、限りのあるものではないのです────────





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婦人
そう・・・・・・では、もう超能力を使ったということは、本当のことを言うつもりなので?
本条 瀬奈
本条 瀬奈
そのつもりではありますが・・・・・・まだ、何も決まっていません
婦人
偶然、気持ちが揺れた日にあの子が倒れたなんて・・・・・・そんな事もあるのですね
話している間、終始驚きを隠せないようだった婦人は、口元に手を添え、小さく頷いていた
洗いざらい全て話した。私の前世のこと、超能力の真実のこと、植え付けられた種の成分アストロータのことも・・・・・・ましろに話したことと丸っきり同じ内容で
まだよく理解出来てはいない様子ではあるが、それなりに噛み砕いているようだ
長話で冷めきったであろう紅茶を一口飲み、ふぅと心を落ち着かせるように婦人は息を吐く
婦人
まだ何も決まっていないのでしたら・・・・・・こちらとしては好都合ですね
本条 瀬奈
本条 瀬奈
はい?
含みのある台詞に、私は素っ頓狂な声を上げる
何を計画しているのか全く予想できず、小首を傾げた
本条 瀬奈
本条 瀬奈
それは、どういう事でしょうか・・・・・・?
婦人
瀬奈さん。その告白、私たちにお手伝いをさせてくださいませんか?
いえ・・・・・・私たちに、任せてください
さながら、貴族の奥方の様な顔つきで、私に静かに提案してきた
思ってもみない申し出に、暫時、思考停止
私の手伝いをする─────つまり、私に協力をするということ
いや、一任するという場合ならば、私は何もせず婦人の家が全てをやってくれるということだろうか
私にとっては願ってもないチャンスだ。婦人の家は本条家と並ぶ名家に違いない
もし婦人の家が私の後ろ盾になってくれれば強いし、批判する者がいたとしても、表立って行動は出来ないだろう
・・・・・・けれどそれは同時に、本条家の面子を潰すことに他ならない
それに──────
本条 瀬奈
本条 瀬奈
ありがとうございます。ですが、そのお気持ちだけ、受け取らせてください
婦人
何故でしょうか? このご様子ですと、まだ本条家の当主様にも何も言っていないのでしょう?
・・・・・・本条家の当主様に言い出しづらいのかと思いまして
少し躊躇いがちに、使用人が着用する服を見ながら、私を説得しようと御託を並べる
婦人からすれば本気で私のことを手伝いたいと思ってるだろう。この提案は嘘ではない・・・・・・嘘ではないが、私にとって、それはお節介だ
確かに、私は旦那様に・・・・・・父にこの事を言うつもりは無い。言うよりも前に門前払いされてしまうだろうから
だから私は自力でどうにかする。必ず、自分の力だけでこの状況を打開してみせる
本条 瀬奈
本条 瀬奈
それはそうですが・・・・・これは私がすべき事。助力は要らぬ借りになります
失礼だとは思うが、棘のある言葉で婦人の説得を全て否定した
こうでもしないと、立場の弱い私は婦人の勢いに押し負けてしまう。それに手っ取り早いのは、私の覚悟を婦人に暗に伝えること
そうすれば自ずと引き下がってくれる。そう分かっている
思った通り、私の意図を察した婦人は、「そうですか」とだけ言い、それ以上追求することはなかった
お礼と伝言を頼まれただけだった────恐らく真の目的は今の勧誘だったのだろうが────らしく、そのまま婦人は屋敷から去っていった
・・・・・・まあ、早く私を取り込んでおけば将来安泰とでも思って、婦人の家の当主様はすぐに使いを送ったのだろうな
当主が行けば多少の圧力にはなるが、ただそうなれば我が家の当主も面会に立ち会う必要があるし、何より説明が必要になる。だから、立場もあり、私に会いに来る理由が大きい婦人が来たのだろう
前半は婦人の本心で、後半は家絡みの事情と言ったところか。まあ、婦人が私の力になりたかったのは間違ってないとは思うけど
さて。話も終わったことだし、ここを片付けて出よう。なるべく早く仕事に戻らないとまたどやされる
少し紅茶の残ったティーカップとソーサーを二つ重ね、急にがらんなった客間を静かに後にした

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