ちひろは微笑むと俺に抱きついできた。
何時もと変わらない笑顔。
俺は少し安心した。
緑子から電話がかかってきた時は何事かと思ったけど、この分なら大丈夫そうだ。
ちひろは俺の胸を両手で推し俺から離れた。
俺はそっと手を伸ばしちひろの肩に触れようとしたが、ちひろは俺の手を払った。
ちひろは泣きながら声を張り上げて言った。
こんなに感情をぶつけてくるのは初めてだ。
消えそうな声で呟くと、ちひろはイヤリングとブレスレットを外し地面に投げつけた。
このイヤリングとブレスレットは俺がプレゼントしたものだ。
言葉が出ない。
正直なんでイヤリングとブレスレットをプレゼントしたのか覚えていない。
ちひろとの関係がギクシャクしてて少しでもちひろが喜んでくれればと。
いや、違うちひろの機嫌が良くなればと。
いや、それも違う。
俺は、俺は。
ちひろの言う通りだ。
俺はあの日以来、ちひろと上手く行かなくて。
ちひろと別れたくなくて、ちひろに嫌われたくなくて意味の無いプレゼントやデートばかりしていた。
今思えばちひろのこと何ひとつ考えてなかった。
自分の事のばかり考えていた。
俺は彼氏失格だよな。
ちひろは俺に背を向け走り出した。
俺の声はちひろには届かなかった。
打ち上げ花火の音にかき消されたのだ。
打ち上げ花火の色鮮やかな光が闇夜に消えていくちひろの後ろ姿を映し出した。
俺はそれを黙って見送る事しか出来なかった。
後を追うことが出来なかった。
俺はその場で力無く泣き崩れた。
ちひろは俺に沢山の物をくれた。
俺を好きでいてくれた。
なのに俺はちひろに何を残せたんだろう?
辛い想いばかりさせてしまって、悲しい想いばかりさせてしまって、今でも泣いているのに俺は、俺はいったい何を今までしていたんだ。
ちひろごめんな。
こんな不甲斐ない彼氏で・・・。
こうして俺達の夏が終わりを迎えようとしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。