第16話

短編集16 jn
1,685
2020/01/30 02:58


仕事を終えて帰宅する。
時計に目をやるともうこんな時間だ。
慌てて服を着替え家の近くの
コンビニへと足を運ぶ。


決まってこの時間に僕は
このコンビニに来る。

その理由は君に会うため。
と言っても名前も知らない。


初めて君を見かけたとき
君はコンビニの前で
人目もはばからず号泣していた。


こんなところで泣くなんて
と正直驚いたが、
君の泣いている姿から
目が離せなかった。


ただコンビニに行っても
僕は声をかける勇気なんてない。
イートインスペースに座っている
君をただ眺めるだけ。


きっと君は僕のことなんて
知らないだろう。


こんな遅い時間に女の子が1人で、
何度声をかけようと思ったか
でもなかなか一歩踏み出せなかった。



またいつも通り、コンビニへ向かう。
そこには初めて見たときの君の姿。
今日こそ。
そう思って声をかける。


『‥あの?大丈夫ですか?』

そう言って君の前にハンカチを出す。

「‥あ、すいません」

と言ってハンカチを受け取った君は
なんの躊躇もなく鼻をかんだ。


さすがに鼻をかまれるとは
思ってもなかったのでびっくりした。
そして少しして君が顔をあげた。


「‥あ、イケメンの人。」

『ん?』

「あ、すいませんありがとうございました。
 洗って返します。
 いつもこのコンビニ来てますよね」

『あ、うん。』


君も僕のこと知ってくれていたんだ。
それだけでなんだかとてもドキドキした。





『ふふっ』

「え、なにソクジンくん」

『え、いや初めてあなたと
 話したときのこと思い出してた』

「もう、忘れてよ恥ずかしいじゃん。」

『忘れるわけないじゃん。
 初めましての人のハンカチで
 鼻かむような女な子。』

「もー、言わないで!」




あのあと、
ハンカチを返すときも
お互い名前知らないから、あなたは

「あの、イケメンさん」

なんて声をかけてきた。




すごく素直で純粋で掴みどころのない子。



いつかコンビニで泣いてた理由を聞いた時

「え?ストレス発散だよ〜」

なんて。あんなところでしなくてもいいのに。



でもきっと僕は
初めて君をみたときから
その君の自然体なところ
自分の気持ちに嘘のないところに
惹かれていたんだと思う。



『あなたすきだよ。』

「ふふっ、わたしもすき」





そうだ今日は手を繋いで久しぶりに
あのコンビニに行ってみよう。



ずっとこの幸せが続くように。

プリ小説オーディオドラマ