第17話

短編集17 jm
1,653
2020/01/30 14:26


『あなた先輩ですよね?
 俺、先輩のことすきなんですけど、
 付き合ってくれませんか?』


いきなり告白されて驚く。
しかも相手がかわいくてかっこいいと
人気の後輩くんときたもんだから尚更。


「…え、いきなり何?
 わたし君のことよく知らないし。
 すきな人いるから」

『あなた先輩のすきな人って
 彼女さんいますよね?
 まさか、奪う気なんですか?』


「っ!君には関係ないでしょ。
 だいたいわたしのすきな人なんて
 知らないのに勝手なこと言わないで」


正直図星だった。
でもバレないように平静を装う。


『ふふっ、知ってますよ?
 だってあなた先輩がその人のことを
 見るように、
 俺は先輩のこと見てましたから』


「君だったらわたしなんかじゃなくて
 ほかに良い人いくらでもいるでしょ?」

『なんかじゃないです。先輩が良いんです。
 あと君じゃなくて、ジミンです。
 よろしくお願いします先輩。』

そう言って去って行った。



次の日からジミンくんの猛攻撃が始まった。

朝教室へ向かうとなにやら
クラスの前で女子たちがキャッキャしている。


『あ、あなた先輩!
 おはようございます。』

あー、騒がしさの正体は君のせいか。
女子たちの視線が痛い。


「おはよ」

無視するのは違うから挨拶を返し
そのまま教室へ入った。


わたしが返事をするとそのまま
帰っていった。
特に用があったわけではないみたいだ。


それからジミンくんは
ちょくちょくクラスに来るようになった。

ひとつ質問してきてそれに答えて
すぐ帰る。
そんなことの繰り返しだった。




"おまえ、あの後輩と付き合ってんの?"


わたしの想い人からそう言われる。
まあここ最近毎日だし。
そう思われても仕方ないよね。
なんだかんだジミンくんの質問に
ちゃんと答えてるしわたし。


「え?付き合ってないよ、
 あの子人気者で有名な子だよ?」

"そっか、良かった"

「…え?なんであんたが良かったのよ」

"は、あれだよあれ。
 子を手放す親の気持ち"

「…あんたに育てられた覚えないし」


簡単に良かったなんて言うな。
彼女いるくせにその気にさせんな。
わたしがすきなこと気付いてるくせに。




『あなたせんぱーい!
 一緒に帰りましょう』

「‥やだ」

『えーひどいなあ。
 って先輩?なんか元気ない?』

そう言って顔を覗いてくる。

「‥元気ある。」

『嘘つくならもっと上手につきなよ。
 ま、そこも先輩の良いところだけど』

「…ねえ、なんで君はさ
 振られるって分かってたのに
 告白したの?」

わたしにはそんな勇気到底湧いてこない。

『え?振られる気なんてないですよ俺。
 長期戦ですから。
 まずは知ってもらわないと』

そう言って目を細めてニコッと笑う。

まさかの答えにびっくりしたが
君のその笑顔が不覚にもかわいいと
思ってしまった。


「ふふっ、なんか君といると
 自分が馬鹿らしいや。」

『‥早く俺のことすきになってくださいよ』

「…そうだね、」



早く諦めなくちゃって思えば思うほど
どんどん頭から離れなくなる。


『あ、そういえば
 連絡先、交換しましょ』

「…いいよ」

そう言ってカバンからスマホを
取り出そうと手を伸ばす。


ない。あれ?やっぱりない。


「…ごめん、スマホ教室に忘れた。
 わたし今から取りに行くから
 また、明日ね!じゃ」

そう言って走って元来た道を戻る。



学校へつき
教室に入ろうとしたとき中から
声が聞こえてきた。


'そういえばお前彼女と最近どうなの?'

"あ、俺?うーん最近微妙"


それはわたしのすきな人の声だった。
なんとなく入るのが気まずくて
そのまま廊下に座る。
盗み聞きなんて趣味悪いけど。


'え、そうなの?まあお前
 モテるから別れてもすぐ次できんじゃね?
 ほら、あなたとか'

え、わたし。
いきなりでてきた自分の名前に驚いていると

"あーあなたな。
 あいつ顔は良いけど、性格がな〜
 俺は、ザ・おんなのこ!みたいな
 性格の子がすきだからさ
 ま、一応キープで 笑"

'はは、お前さいてーだな 笑'



なに期待してたんだろ。
わたしはあいつのどこがすきだったんだろ。
わたし見る目ないな〜
まんまと騙されてた。

こんなとき涙のひとつも出れば良いのに
こんなときでも強がるから
あんなこと言われるんだろう。



スマホは諦めそのまま昇降口へ向かうと
そこにはジミンくんの姿。

「え?なんでいるの?」

『取りに戻ってたら帰るの
 遅くなるじゃないですか。心配なので』

「ふっ、まだ全然暗くないんだけど?
 でも、ありがとう」

『で、スマホはありました?』

「…あーなんか机になかった
 盗まれたかな?」

自分でも呆れるくらい挙動不審。

『‥もう少し上手に嘘ついてください。
 なんで先輩はそんな顔してるんですか?』

「…そんな顔?
 わたし元々こんな顔だけど」

『あーほんとに。
 なんで泣きそうなのって聞いてるの。』


そう言われた瞬間
なぜだか分からないけど勝手に涙が溢れた。



どのくらい泣いていたのだろう。
他の生徒の声で我に返った。
その間ジミンくんは
何も言わずに隣にいてくれた。


「…ごめんね、行こう。」

『先輩ちょっと寄り道しましょう。』


そう言って学校の近くにある
公園に立ち寄る。
ベンチに座るとどうぞと言って
冷たい飲み物をくれた。


もらった飲み物を目に当てる。


「ありがとね」

『はい。』


それだけ言って隣に座っている。

「優しいんだね、君。
 普通なら何で泣いたか気になるのに」

『先輩から言ってくれるまで待ちます。』

「…かっこいいじゃん」

『‥やっと気付きました?』

「やっぱ、今のなし」

『えーなんでですかあ』


自然と笑えてる気がする。


「じゃあさ、今からひとりごと言うから」

そう言ってさっきあった出来事をはなす。

「ま、わたしってザ・おんなのこ!
 って性格じゃないしね」

なんて少しふざけて言うと

『‥先輩は女の子です。
 俺知ってるから。
 先輩があの先輩を見つめる目。
 話してるときの顔。
 ただの恋してる女の子だった』

「泣かせないでよ」

必死に堪えていると
いきなり抱きしめられた。

『泣いたあとまた、笑えばいいから』


そのまま胸の中で声を殺して泣いた。




「…ジミンくん、ありがとう。」

『あ!初めて俺の名前呼んでくれましたね?』

瞳をキラキラ輝かせている。

「‥そうだっけ?」



それからもジミンくんは
変わらずクラスに来てくれる。
今までは質問される側だったけど
する側に変わった。

放課後もたまに一緒に帰るようになった。


『ところで先輩、あとどのくらいで
 俺のことすきになりそう?』


そう言って首を傾げて
こちらを覗き込んでくる姿に
自分のこと分かってやってるなって
思いながらもドキっとする。


「‥ま、まだ」

ほんとはもう完全に意識している。


『えー、そっか。
 最近先輩と目が合うことが増えたなーって
 思ったんだけどな』


そう言われた瞬間顔が赤くなるのがわかった。
君の声が聞こえたら、君を学校で見かけたら
自然と目が追ってたから。



『ま、いいんですけどね
 長期戦ですから』



ニコッと笑ってそう言う君は
きっと気づいていると思う。
もうすぐ決着がつくことを。













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