第25話

短編集25 th
1,616
2020/02/09 02:41


小さい頃の記憶。
公園で1人で遊んでいるとわたしと同じ歳
くらいの男の子がわたしの手を引き
一緒に遊ぼうって。

それからほぼ毎日その男の子と遊んだ。
でもある日からぱったりとその男の子は
来なくなってしまった。

もう名前すら覚えていない。
だけど笑ったときのその男の子顔。
それだけが脳裏にずっと焼きついてる。



社会人3年目になる今。
それなりに恋愛は経験したけど
いつもうまくいかなかった。
原因はきっとわたし。
あの男の子のことが忘れられないから。

もう20年くらい前のことだし
名前も知らないのに大人になった今
もし会ったところできっと気付かない。
なのになんでだろう。おかしいよね。
その男の子にいつか会えるような気がするの。



会社へ出勤するとなんだかざわついてる。
トラブルかな?なんて思いながら
自分のデスクへ向かう。

朝礼が始まると部長が話し出した。
その横には知らない男の人。

〈え〜、今日付で◯◯営業所から転勤になった
 キムくんだ〉

『キム テヒョンです。よろしくお願いします。』

〈仕事内容はもちろん問題ないと思うが、
 その他勝手が違うところもあるだろうから
 みんなサポートしてあげてくれ〉

朝礼が終わった途端、餌に集まるハイエナのように
女性社員たちがキムさんの元へ駆け寄る。
なるほど、朝ざわついていたのはこれだったのか。
まあ確かにすごく綺麗な顔立ちをしてらっしゃる。


お昼休みお弁当を手に屋上へ向かう。
食堂はあるけど人が多い。
その点屋上は人が居ないし、
今の季節は屋上で食べるのが気分転換になり
気持ちが良い。


いつも通り屋上の扉を開くと人が居た。
音に気付いたのかその人が振り向く。

「え、テヒョンさん?」

『あ、あなたさん…』

おお、もう名前把握してるんだすごいなあ。

「どうしたんですか?
 食堂なら2階ですけど…」

『…えっと』

と少し困ったように笑うから察した。

「もしかして
 追いかけまわされたんですか?」

少し笑いを含んだように言うと

『‥もうそれはハイエナのように』

って笑った。

「えっ」

その笑った顔がわたしの記憶にある
男の子とあまりにも似ていたものだから
つい声が出てしまった。

『あ、どうかしました?』

「あ、いえなんでもありません」

『とゆうか僕たち同い年ですよ
 敬語やめましょう』

「え、もうそんなことまで把握してるんですか
 すごいですね」

『え、いや‥まあ。
 とりあえず敬語なしでよろしく』

そう言ってニシシと笑った顔は
あの男の子そのもので胸がキュッとなった。



それからずっと気になって仕方がない。
あなたはあのときの男の子ですか?
聞きたいけどなんて言うのが正解?
わたしだけが覚えてる記憶かもしれないのに。


それにもし、もしも仮に
ほんとにあの男の子がテヒョンさんだとしたら
それでなに?わたしはどうしたいの?


そんな考えも、当分の間仕事が忙しくて
する暇なんてなくあっとゆうまに
テヒョンさんが来て1ヶ月。
みんなを忙しくさせていた仕事も片付き
テヒョンさんの歓迎会が開かれた。


主役の周りには女性社員がぴったりと
くっついている。

それからお酒も進みみんな席を移動しだした頃
わたしの隣にテヒョンさんが座った。


『あなたちゃん、隣良い?』

「あ、テヒョンさん。どうぞ」

『あ〜だから敬語なしって言ったよ〜
 あと、呼び捨てで良いよ
 僕も呼び捨てするね?』

酔っ払ってるのか素で人懐っこいのか
分からないけど、単純に嬉しい。

「うん、わかった」

それからしばらく仕事の話しとか
同い年ならではの会話が続いた。


『ねえ、あなたはさ運命って信じる?』

「え、いきなりどうしたの?」

『うーん?で信じるの信じないの』


そう言われて頭に浮かんだのは
やっぱりあの男の子のことで出会えることが
運命なら、わたしはそれを信じたいって思った。


「信じ‥たい。かな?」

『そっか』

「‥テヒョンは、どっちなの?」

『僕?僕はもちろん信じてるよ』

ってニコっと笑ったと同時に
別の席からテヒョンを呼ぶ声が聞こえ
そっちに行ってしまう。


空いてしまった隣の席を見つめながら
寂しいなあと思ってしまった。

それからすぐしてお開きになり
みんな2次会に行くぞーって盛り上がって
次のお店へ向かっている。
わたしは遠慮しておこうと思って
近くに居た同僚に帰ることを伝え
みんなとは反対側の駅の方へ歩きだした。


歩き始めて数分。
あなたと名前を呼ばれた気がして振り向くと
そこには少し肩で息をしながら近づいてくる
テヒョンがいた。

「え、どうしたの?」

『どうしたの?じゃないよ。
 2次会行かないなら教えてよ〜』

「‥2次会行かないの?主役なのに?」

『うん、あなたいないし』

って真剣な顔でそんなこと言われたら
ドキッとしてしまう。

「で、でもよく抜けてこられたね」

『お店に忘れ物したって言って
 そのままあなた探してた。
 ねえ、まだ時間あるなら2人で少し話そうよ』

「え、うん、いいけど」

『やった』

って嬉しそうに子どもみたいに喜ぶ姿に
なんか期待してしまう。
近くにあった落ち着いたBarに入る。


『僕さ、小さい頃○○町に住んでたんだ』

席についてお酒をひと口飲むなり
そんなことを言ってくる。

「え?そこわたしの地元だよ」

ってとりあえず冷静に返事をしてみるけど
心の中ではもしかしてあのときの?
なんて思ってしまう。

『僕さ、その町にある公園で同い年くらいの
 女の子と友達になったんだけどさ
 いきなり引越しすることになって
 お別れも言えずにさよならになったんだ』

「え、そうなんだ」

わたしの記憶と似てる。
この際、言ってしまおう。

「わ、わたしも小さい頃公園で
 同い年くらいの男の子とよく一緒に遊んでた。
 でも突然ぱったりと来なくなって、
 名前は覚えてないんだけど
 笑った顔が…」

って言ってなんか勇気がなくなり
黙ってしまうと

『‥笑った顔が?』

「…テヒョンに似てるの」

『…』

やっぱりテヒョンなわけないよね。
ってちょっと期待していただけにショックだな
と思っていると

『やっと気付いてくれた』

「え?」

その言葉の意味を理解するのに少し
時間がかかってしまった。

『僕、初めからあのときの女の子が
 あなたって気付いてたよ』

「え?なんで?え、やっぱりあのときの
 男の子はテヒョンなの?」

『うん、そうだよ。
 それに僕、あなたの名前覚えてたし。
 社員名簿見たときに名前みてもしかして?
 って思ったけど顔見たら
 綺麗になってるけど昔と変わってない。』

「え!?名前覚えてたの?
 言ってくれたら良かったのに‥」

『僕だけしか覚えてないかもしれないじゃん
 現に名前忘れられてるし…』

って少し拗ねたように言う君が
とても愛しく感じた。

「…それはごめん。でもやっぱりそうなんだ
 わたしあの頃の男の子のことずっと
 忘れられなかったんだ。わたしの初恋」

って嬉しくなってつい口走ってしまった。


『僕も初恋だよ。
 ずっと会いたかったあなた』

「わたしも会いたかった」

なんだか涙が溢れてきた。
あのときの男の子に会えたことが
そしてその男の子がテヒョンだと分かったことが
嬉しかった。
きっとわたしは今もテヒョンに恋してる。


「…その初恋はまだ有効ですか?」

『…当たり前じゃん。運命だもん』



そう言ってわたしの大好きな顔で笑った。

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