第30話

短編集30 th
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2020/02/15 02:45


1年生最後の日。
友達の帰りを待ってるうちに教室で寝てしまった
わたしにキスをした人。

それは、目にかかる長い前髪に年中マスク姿。
ほとんど言葉を発しないので変人扱いされてる
キムくんだった。


出席番号が一緒で隣の席になることが多かったから
挨拶したりどうでも良いこと話しかけたりしてた。
鬱陶しかったら無視しても良いのに
ちゃんと頷いてくれてたからわたしはみんなが
思ってるような人じゃないと思う。


そして2年生になった今。
また同じクラスで隣の席。
あの日のことがすごく気になって仕方ない。

あのときの人はほんとにキムくんなのか。
なんでキスしたのか。
でもキスって言ってもマスク越しだったけど。

わたしのことすきなのかな?とか
ちょっと勘違いするよね。


まあ、本人に聞く勇気なんてないんだけどね。
だからいつも通りね。

「キムくんおはよ」

軽く会釈される。

「また同じクラスで隣の席だね。よろしくね」

コクンと頷く。


キムくんの顔ってどんなんだろう。
でもキムくんの手って綺麗なんだよね〜

とか思いながらついついキムくんのこと
じーっと見てしまう。

キムくんの顔がゆっくりこっちを向いたので
さすがに見過ぎたし、なぜか

「キムくんって手綺麗だね」

って思ってたことそのまま言ってしまった。

少しの間のあと軽く会釈されたから
ありがとうってことかな?って勝手に解釈。



放課後友達と遊んでバイバイして
駅まで向かってたら急に雨が降ってきた。
とりあえず小走りして屋根付きの場所見つけたから
慌ててそこに避難する。

隣の人も雨宿りかななんて思いながら
バックからハンカチ取り出す。
空を見ると明るいから通り雨だろうなとか
考えながら濡れたところを拭いてみる。
まあこんな小さいハンカチじゃ全然追いつかない。

意外に濡れたなあ。
春になって暖かくなったとはいえやっぱり
雨に濡れるとひんやりする。


すると横から少し大きめのタオルが差し出された。
その手はどこか見覚えがあって、
パッと顔を見るとすごく綺麗な顔をした男の人だった。


「…キム‥くん、ですか?」

『ふふ、よく分かったね?とりあえず使って?』

キムくんが喋った!笑った!って固まってると
はい。ってタオルをまた近くに差し出されたので
素直に受け取った。


「ありがとう、キムくん。」

コクンと頷く。

キムくんってこんな顔してるんだー
すごく綺麗なのになんで顔隠してるんだろう?
って思いながらその横顔をじーっと見てしまう。


『‥見過ぎだよ』

「あ、ごめん。綺麗な顔だったから」

ってまた思ってたことそのまま言っちゃうし。


『あなたちゃんっておもしろいね』

いきなり名前呼ばれてまた固まると

『テヒョンで良いよ』

って意外にめっちゃ喋ってくれる。

「…なんでテヒョンくんそんな綺麗な顔隠してるの?
 それに普通に喋ってる」

『うーん、顔出してるとめんどくさいから』

めんどくさい?顔が?
って少し考えて、綺麗な顔だからか!
って納得した。綺麗なのも大変なんだなあ。

『それに…』

「なに?」

『普通じゃないよ。緊張してる。喋るの』

って少し俯きながら言うテヒョンくんに
少し心臓の動きがはやくなる。

「そうなの?でも嬉しいかも
 いっつもわたしだけが話してたから」

『…終業式の日』

って言われて一瞬にしてあのときのこと
思い出していっきに顔が赤くなる。

『やっぱり気付いてたんだ』

「え?」

『あなたちゃんって分かりやすいよね』

って言って笑ってる。
それは褒めてるのかな?でも嫌ではない。

「…なんで、その、あんなことしたの?」

『うん?可愛かったから』

「なっ!」

すました顔してそんなこと言ってくる。
実は慣れてるんだそうゆうの。だってそりゃ
こんだけ顔綺麗なんだもん。当たり前だよ。
ってなんか少し悲しい気持ちになった。

『あんまり注目されたくないから
 目立たないようにこんな格好してるのに
 普通に話かけてくるし。頷くだけなのに
 なんか1人でニコニコしてるし』

「え、なんかわたし空気読めない人じゃない?
 勝手に話しかけて」

『え、なんで?嬉しかったよ?』

ってすごく笑顔。口四角にして笑うんだ。
なんかかわいいな。

『それよりなんで俺のこと分かったの?』

「あ!え、手だよ。手がいつも見てた手だった」

『‥いつも見てたの?』

ってなんか意地悪に聞いてくる。

「え、いつもってゆうか、そうなんか
 うん、見てたよ。すきだもんテヒョンくんの手」

誤魔化す言葉なんか浮かばなくて素直に伝える。

『‥手、だけ?』

「え?」

ってテヒョンくんの顔をみると
その瞬間に唇に柔らかい感触。

『俺は、あなたちゃんがすきだけど?』

え、口と口?しかもまたこの人はこんなこと
すました顔して‥って思ったら
なんか耳赤いし、照れ隠し?なのか
目のあたり掻いてるし。それはほんと?


嘘ついてるようには見えなくて。
あの日からテヒョンくんのこと
すごく気になってたけど、
それが恋なのかどうかなんてまだ分からなくて

そんなこと考えてたら雨はもう止んでいて。
でもとりあえずなんか言わなくちゃ。


「わたし今、すごくドキドキしてる」



『また明日も話しかけてくれる?』

「うん、もちろんだよ」


もう少ししたらこの気持ちの正体に気づくと思うから。


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