第55話

過去のお話 大正時代
1,517
2021/05/13 03:00
善逸の声がする
懐かしい話をしているような
私と善逸と
お父さんやお母さん
獪岳兄にお爺ちゃん
私たちの、悲しいおはなしを
















(なまえ)
あなた
キャァァァァ!
大正時代
奉公のお使いに出ていた私は鬼にであった
グルル……
(なまえ)
あなた
フェッ……
見たこともない化け物
私を見てよだれを垂らしていた
ガァッ
ゴリッ
腕の砕かれる音がする
(なまえ)
あなた
い"っ……
グワァァァ!
あ、ダメだ
そう思った瞬間に、
私の目の前に真っ赤な血が広がった
視界の端に、微かな金色が見えた気がした
*****
俺はその日もいつも通り任務が嫌だって駄々こねて
怒った炭治郎に蝶屋敷から放り出されていた
渋々山に向かい、到着したのは丁度夜が更けた頃
炭治郎との合同任務だったから、2手に分かれて
鬼を切ってたら女の子の悲鳴が聞こえたんだ
急いだけど間に合わなくて
俺が見たのは、爪を赤く染めた鬼と
喉笛をかききられて崩れ落ちた女の子
鬼の首を切って女の子に駆け寄ると、
なんだか違和感があった
善逸
善逸
俺……?
女の子の顔は、俺によく似ていた
考えれば、あり得ない話じゃない
子供を捨てるような無責任な親
俺の他に一人二人捨ててたってありえる
つまり、この子は……
俺の、妹だったかもしれない
善逸
善逸
……っ
思わず、拳を強く握りしめる
しばらくその場に立ち尽くしていたが、
そのうちに鬼の気配が消えた
炭治郎が切ったんだろう
竈門炭治郎
竈門炭治郎
善逸!
駆け寄ってきた炭治郎は、
俺の視線の先に横たわる少女を見て動きを止めた
だが、すぐに我を取り戻して俺に近寄る
竈門炭治郎
竈門炭治郎
……連れて帰ってあげよう
善逸
善逸
……合ってるかも、分からないのに?
俺が呟くと、炭治郎は少し悲しそうな顔をした
竈門炭治郎
竈門炭治郎
……違っても、きっとこの子は奉公人だ
竈門炭治郎
竈門炭治郎
行く場所がないなら、
一緒に埋葬してあげよう
確かに、死んだ後まで一人なのは悲しすぎる
そう思った俺は、
炭治郎と一緒に女の子を連れて帰った
女の子の体は、やけに軽かった

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