善逸の声がする
懐かしい話をしているような
私と善逸と
お父さんやお母さん
獪岳兄にお爺ちゃん
私たちの、悲しいおはなしを
大正時代
奉公のお使いに出ていた私は鬼にであった
見たこともない化け物
私を見てよだれを垂らしていた
ゴリッ
腕の砕かれる音がする
あ、ダメだ
そう思った瞬間に、
私の目の前に真っ赤な血が広がった
視界の端に、微かな金色が見えた気がした
*****
俺はその日もいつも通り任務が嫌だって駄々こねて
怒った炭治郎に蝶屋敷から放り出されていた
渋々山に向かい、到着したのは丁度夜が更けた頃
炭治郎との合同任務だったから、2手に分かれて
鬼を切ってたら女の子の悲鳴が聞こえたんだ
急いだけど間に合わなくて
俺が見たのは、爪を赤く染めた鬼と
喉笛をかききられて崩れ落ちた女の子
鬼の首を切って女の子に駆け寄ると、
なんだか違和感があった
女の子の顔は、俺によく似ていた
考えれば、あり得ない話じゃない
子供を捨てるような無責任な親
俺の他に一人二人捨ててたってありえる
つまり、この子は……
俺の、妹だったかもしれない
思わず、拳を強く握りしめる
しばらくその場に立ち尽くしていたが、
そのうちに鬼の気配が消えた
炭治郎が切ったんだろう
駆け寄ってきた炭治郎は、
俺の視線の先に横たわる少女を見て動きを止めた
だが、すぐに我を取り戻して俺に近寄る
俺が呟くと、炭治郎は少し悲しそうな顔をした
確かに、死んだ後まで一人なのは悲しすぎる
そう思った俺は、
炭治郎と一緒に女の子を連れて帰った
女の子の体は、やけに軽かった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。