部屋に戻り、うずくまる
初めて切る、生き物の感触
直前に向けられた一瞬の悲痛な視線
耳の奥で響く女性の声
髪を振り乱しながら掴みかからんとしてきた
女性の姿が目に焼き付いている
口から乾いた笑い声が零れ、目元に涙が滲んだ
違う
あれは人じゃない
分かっていても、やはりそう思ってしまう
思いだす度に、うまく息ができなくなる
隠のお陰で、たぶん後片付けは完璧だ
帽子を被っていたし、
うつむいていたからたぶん顔も見られていない
でも、家の外に出るのが恐ろしくなった
寝ることができない
寝れば、あの悪夢を思い出してしまう
寝なくても、あの感触が手から消えない
昼も夜も分からない
そんな世界で私は一人だった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。