第64話

過去のお話 記憶の罪悪感
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2021/12/21 13:45
部屋に戻り、うずくまる
初めて切る、生き物の感触
直前に向けられた一瞬の悲痛な視線
耳の奥で響く女性の声
市民
『人殺しっ……!』
髪を振り乱しながら掴みかからんとしてきた
女性の姿が目に焼き付いている
(なまえ)
あなた
……ははっ
口から乾いた笑い声が零れ、目元に涙が滲んだ
(なまえ)
あなた
……私はッ……人殺しだ……!
違う
あれは人じゃない
分かっていても、やはりそう思ってしまう
思いだす度に、うまく息ができなくなる
隠のお陰で、たぶん後片付けは完璧だ
帽子を被っていたし、
うつむいていたからたぶん顔も見られていない
でも、家の外に出るのが恐ろしくなった
寝ることができない
寝れば、あの悪夢を思い出してしまう
寝なくても、あの感触が手から消えない
昼も夜も分からない
そんな世界で私は一人だった

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