次の日の朝、昭裕から連絡が来た。
どうやら昭裕は詐欺の容疑をかけられているようだった。
昨日の段階では証拠不十分ということで帰されたが、もちろん、本人に心当たりはないらしい。
そして昭裕曰く、誰かが警察にデマの情報を流したらしい。
昭裕に心当たりがない以上、間違いなくその『誰か』からの攻撃を受けていることになる。
しかし、その誰かを手繰り寄せる術を、僕たちは持っていない。
アイはリンゴを頬張りながら言う。
僕も朝食のパンを一口食べる。
昭裕はそんなことをするやつじゃない。
それは僕が1番わかっている。
何よりも許せないのは、親友が攻撃を受けているのに、何もできない自分だった。
アイはリンゴの最後の一欠片を食べ終えると、
小さく呟き、席を立つ。
その呟きは、僕の耳には届いていなかった。
アイのおかげで少し落ち着いた。
だが落ち着いた途端、別の問題が僕の頭に浮かび上がった。
アイははぁ。とため息をついて言う。
その言葉が、僕の記憶の網に引っかかる。
アイは背中を向けたまま答える。
そういってアイはソファに座り、ネットの世界にログインした。
ブブッ。
僕のスマホにメッセージが届く。
まことさんからだ。
昭裕のことだと思ったが、内容は全く別のことについてだった。
『昨日は変なタイミングで電話しちゃってごめんなさい。急だったから、慌てちゃって。』
やはり、完全に誤解している。
なんとしてでもこの誤解を解かなくては。
『イヤイヤ!大丈夫ですよ!あの子は、本当になんでもないただの……。』
ただの、なんだ?
僕が作った、AIだ。
友達、と言うよりも子供と言ったほうが僕としてはしっくりくる。
だがそんなことを言えば、さらに酷い誤解を招くことになる。
友達。
と言って、じゃあ今度みんなで会いましょう!
みたいな流れになっても困る。
悩みに悩んだ結果、
『ただの親族なんで!』
そう送った。
間違い……ではないはずだ。
『ほんとのほんと?』
『ほんとのほんとです。』
本当……のはずだ。
嘘はついてない。
『そっか。良かったぁ。』
良かった?
何に対して?
僕に良い感じの女の子がいなくて良かったってことか?
いや、それは自意識過剰すぎる。
まことさんは、きっとこう思ったんだ。
もし、僕があの時、良い感じの女の子と一緒にいたとしたら、その時間を奪ってしまったことになるから、相手が親族で良かった。ということだろう。
うん。
そっちだ。
間違いない。
だが、彼女が次に送ってきたメッセージはこうだった。
『彼女候補がいるのかと思っちゃった。』
……。
僕はなんて返信すれば良いかわからず、そっとスマホをテーブルに置いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!