第19話

19話
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2021/12/14 06:00
2日後、ニュースである人物が逮捕されたことが報じられた。
容疑者は6名。
詐欺グーループの幹部と大元らしい。
その中には、
真板昭裕と三良杏の名前があった。
僕は別に驚きはしなかった。
ただただ、後悔しかしていなかった。
デジタル災害が収束したあと、僕のパソコンにメッセージが届いていることに気がついた。
それは、アイからのメッセージだった。
そこには、アイが起こした災害の目的、三良たちのこと、それらが細かく書いてあった。
まず、アイの最大の目的は三良たちを完全に追い込むことにあった。
三良たちが詐欺をしている確実な証拠を掴もうとすれば、個人情報を覗くことになる。
しかし、犯罪グループの実体なんていう情報は、強固なファイアウォールに守られ、いくらアイといえども、突破することは難しい。
そこでアイは、ハッキングに特化したAIに自分の意思を刷り込ませることを計画した。
ただ、それはものすごく難しいことだ。
結局、他のAIにハッキングしなくてはならないのだから。
アイには時間が必要だった。
ハッキングを完了させるまでの十分な時間が。
そこでアイは、あの災害を起こした。
自分のハッキングをカモフラージュするための囮として、あの災害を巻き起こしたのだ。
そして、他のAIの力を借り、詐欺の証拠を警察へと流した。
アイは三良たちを逮捕へと追いやったのだ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
僕はただ泣いているだけだった。
なのに、アイはこんなにも僕のために動いてくれていた。
昭裕もだ。
アイのメッセージには、昭裕のことも書いてあった。
『昭裕は、振一郎のことをずっと庇ってたみたいなの。三良が振一郎に目をつけたことを知って、相当慌てたみたい。上司である三良に振一郎を見逃すように頼んだりもしてたみたいね。あなたと三良のデートに、いちいち割って入ってきてたのもそのせい。』
『でも、長い付き合いだ。小柴さんにだけは言わないでいてやるよ。ただ、二度と俺たちに近寄るな。連絡もしてくるな。』
昭裕は、最後まで僕を庇っていたんだ。
昭裕がやっていたことは決していいこととは言えないけど、僕と昭裕は、やっぱり親友だった。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
僕だけだ。僕だけが何もしてなかった。
何もできなかった。
あの災害による死傷者は0だったらしい。
火災や事故も、小規模のものしかなく、二次災害へと発展することはなかった。
いまだにニュースはデジタル災害の話題で持ちきりだ。
同時に多くのAIが暴走したせいで、一体、何が原因なのか、全くわからないという。
アイはきっと、それも想定した上で行動したのだろう。
僕に飛び火しないように、自分のデータを綺麗に消したんだ。
僕は今、警察署の前にいる。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
ごめんアイ。僕にはもう、何もないから。
何もできなかった僕が、何もしなかった僕が1人だけ楽しく暮らすなんて、できない。
1人でいるのがこんなにも辛いなんて、昔の僕は想像もしていなかった。
警察官
どうしましたか?
警察官が尋ねてくる。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
先日のデジタル災害。僕がやりました。

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