驚きのあまり、その場で足を止める。
アイはそんな僕を気にもとめず、スタスタと先に行ってしまう。
アイが振り返り、早く来いと手招いている。
だが、僕の足は鉛のように重くなってしまい、歩くことができない。
逮捕には至ってないにしろ、警察が任意同行を求めるなんてよっぽどのことが起きていると考えていいだろう。
しかし、昭裕が何か違法なことをするなんて考えられない。
足元のアスファルトから、得体の知れない威圧感を感じる。
なんとなく、そう聞いた。
なんとなく。なんて。そんなわけがない。
たまたま。道で。
僕はその話を本当だと思い込むことにした。
いつの間にか隣に並んでいたアイが僕の耳元で叫ぶ。
スマホを耳から離して言う。
アイはベーっと舌を出すと、スタスタ歩いて行ってしまった。
まことさんが不思議な質問をしてきた。
彼女?なんでそういう話になるんだ?
できればあなたを彼女にしたいです。
と心の中で言う。
もしかしてアイのことか!?
しまった。
アイとはいつもイヤホンで会話していたせいで、まことさんに声が聞こえていることを忘れていた。
なんて説明しよう。
妹ってことにしておけば良かった……。
やってしまった。
完全に誤解された。
彼女でも、妹でも、姉でもなく、僕にあれだけ馴れ馴れしく話しかけられる存在。
それは、
『友達以上恋人未満』
それしかないだろう。
アイがよく言っているやつだ。
『やっぱり、この世で1番キュンキュンする関係って、友達以上恋人未満だよねぇ~!』
あの言葉の意味が、ようやくわかった気がする。
慌てて追いかけて、アイの腕を掴む。
昭裕のこともあるし、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
一体。
何から言えば良いというのだ。
思い返せば、この日から僕の日常は崩れ始めていたのかもしれない。
いや、もっと前からだったのだろうか。
少なくとも、もう引き返せないところまではきていたんだと思う。
あの出来事は、もう6日後まで迫っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。