第11話

11話
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2021/10/19 06:00
驚きのあまり、その場で足を止める。
アイはそんな僕を気にもとめず、スタスタと先に行ってしまう。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
昭裕が!?逮捕されたんですか!?
アイが振り返り、早く来いと手招いている。
だが、僕の足は鉛のように重くなってしまい、歩くことができない。
小柴 まこと
小柴 まこと
いや、まだ逮捕っていうよりも任意同行って形なのでなんとも言えないんだけど……。カフェから出たら警察の人が急に来て……。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
警察はなんで任意同行なんか……。
小柴 まこと
小柴 まこと
それが私にもわからなくて。
逮捕には至ってないにしろ、警察が任意同行を求めるなんてよっぽどのことが起きていると考えていいだろう。
しかし、昭裕が何か違法なことをするなんて考えられない。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
多分、何かの間違いですよ。あいつのことだから、すぐにけろっと戻ってきますって。
小柴 まこと
小柴 まこと
そうだよね……。昭裕くんは、捕まるようなこと、するわけないもんね。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
はい。絶対に。長年友達でいる僕が言うんですから、間違い無いですよ。あいつはなんだかんだ言って、いつも僕のことを助けてくれる、すっごい良いやつですから。
小柴 まこと
小柴 まこと
うん。
足元のアスファルトから、得体の知れない威圧感を感じる。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
そう言えば、まことさんは昭裕と一緒にいたんですか?
なんとなく、そう聞いた。
小柴 まこと
小柴 まこと
え!?あ!えぇっと!その……。なんていうか。
なんとなく。なんて。そんなわけがない。
小柴 まこと
小柴 まこと
あ!たまたま!そう!たまたま道で会って、時間があったからカフェでお茶してたんです!そしたら警察の人が。
たまたま。道で。
僕はその話を本当だと思い込むことにした。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
そうですか。
アイ/AI
アイ/AI
ねぇ!振一郎!!早く来てよ!
湯川 振一郎
湯川 振一郎
うわ!
いつの間にか隣に並んでいたアイが僕の耳元で叫ぶ。
アイ/AI
アイ/AI
遅いよ!振一郎!
スマホを耳から離して言う。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
今電話中だ。
アイはベーっと舌を出すと、スタスタ歩いて行ってしまった。
小柴 まこと
小柴 まこと
あれ、今、彼女さんと一緒?
まことさんが不思議な質問をしてきた。
彼女?なんでそういう話になるんだ?
湯川 振一郎
湯川 振一郎
いや。僕、彼女なんていないですよ?
できればあなたを彼女にしたいです。
と心の中で言う。
小柴 まこと
小柴 まこと
あ、じゃあ妹さんかお姉さん?
湯川 振一郎
湯川 振一郎
いや。僕一人っ子です……。
もしかしてアイのことか!?
しまった。
アイとはいつもイヤホンで会話していたせいで、まことさんに声が聞こえていることを忘れていた。
なんて説明しよう。
妹ってことにしておけば良かった……。
小柴 まこと
小柴 まこと
あ。ごめんね。変なこと聞いて。また、何かあったら連絡するし、振一郎くんの言う通り、昭裕くんは大丈夫だと思うから、気にせず楽しんで!じゃあね!
やってしまった。
完全に誤解された。
彼女でも、妹でも、姉でもなく、僕にあれだけ馴れ馴れしく話しかけられる存在。
それは、
『友達以上恋人未満』
それしかないだろう。
アイがよく言っているやつだ。
『やっぱり、この世で1番キュンキュンする関係って、友達以上恋人未満だよねぇ~!』
あの言葉の意味が、ようやくわかった気がする。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
おい!どうしてくれるんだ!
慌てて追いかけて、アイの腕を掴む。
昭裕のこともあるし、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
アイ/AI
アイ/AI
なんでそんなに怒ってるのよ!
一体。
何から言えば良いというのだ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
ンンンン……!もう良い!とりあえず頭を整理したいから早く帰るぞ!
アイ/AI
アイ/AI
えぇ!?振一郎が遅かったんじゃない!って、ちょっと!走らないでよ!私まだこの体に慣れてないんだから!
思い返せば、この日から僕の日常は崩れ始めていたのかもしれない。
いや、もっと前からだったのだろうか。
少なくとも、もう引き返せないところまではきていたんだと思う。
あの出来事は、もう6日後まで迫っていた。

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