第16話

16話
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2021/11/23 06:00
アイ/AI
アイ/AI
好き。
その言葉の持つ意味合いも、
感情も、
僕は知っている。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
……そりゃあ、僕だって好きだよ。アイのこと。
アイ/AI
アイ/AI
違う。そうじゃない。
そして、
その言葉の持つ意味合いも、
感情も、
1つだけでは無いことも知っている。
アイ/AI
アイ/AI
違うの。振一郎。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
無理だよ。そんな急に言われても。そんな風に思われた経験なんて1度もないし、第一。
君とは……。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
君とだけは……。無理だ。
アイは目を赤くして、絶対に泣くまいと堪えているのか、震えた声で言う。
アイ/AI
アイ/AI
振一郎。そんなに違うのかな。私達って。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
そういうことじゃなくて……。
アイ/AI
アイ/AI
私、足もあるし腕もあるし、心だってあるよ?確かに全部が全部人間と同じかといえばそうじゃないけど、私だって思いっきり笑うし思いっきり泣くよ?それでも、私は人間だ、生きてるんだって言っちゃいけないの?振一郎は私を人間と思ってくれないの?
湯川 振一郎
湯川 振一郎
そうじゃないんだ。僕は君のことをただのAIだなんて思ったことはないよ。少なくとも、君が初めて涙を流したあの日からは。
僕の言葉を聞いて、アイの中で今まで必死に我慢していたものが崩れた。
アイは、あの日とは違う涙を流した。
アイ/AI
アイ/AI
私、不安だった。今も不安の中にいる。私が人間に憧れれば憧れるほど、人間から遠ざかっていくんじゃないかって。生まれたあの日の方が、私は人間らしかったんじゃないかって。
アイ自身が、1番自分を信じられなかったんだ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
アイ。一緒に外を歩いた時、一体何人が君のことをAIだって思ったかな。多分、1人もいない。僕でさえ君のことをAIだって忘れちゃうくらいに、君はちゃんと人間だよ。
アイ/AI
アイ/AI
じゃあ、どうして私じゃダメなの?
言葉に迷う。
アイのことはもちろん好きだ。
掛け替えのない存在だ。
アイを失うなんて、考えたくもないほどに。
でも。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
アイのことは好きだよ。愛してると言ってもいい。でも、その愛はきっと、君が求めてるものとは違うと思うんだ。だって、君を生んだのは僕だ。1人の女性としては、見れないよ……。
胸が痛い。
また、僕はアイを悲しませている。
その事実が、痛い。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
ごめん………。
アイは頰に伝う涙を一生懸命ぬぐおうとしている。
しかし、流れる雫は止まらない。
アイ/AI
アイ/AI
私、頑張るよ。振一郎に好きになってもらえるように頑張るよ。もっといろんなこと勉強する。だから。だから……。
アイは自分の顔を両手で覆う。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
アイ……。
アイはそのまま、しばらく泣き続けた。
しばらくして、少しずつアイは落ち着きを取り戻した。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
アイ。
アイ/AI
アイ/AI
うん。大丈夫。ごめんね。
泣かせたのは僕なのに、アイは僕に謝った。
アイ/AI
アイ/AI
振一郎。1つだけ聞かせて。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
うん。
アイ/AI
アイ/AI
まだ、昭裕達のこと、信じてるの?
湯川 振一郎
湯川 振一郎
……。うん。昭裕のことも、僕はアイと同じくらい大切にしたいんだ。
僕のその言葉を聞いて、ようやくアイは泣き止んだ。
アイ/AI
アイ/AI
分かった。私、やっぱり、そんな優しい振一郎のこと放っておけないや。
アイ/AI
アイ/AI
振一郎。ごめんね。愛してるよ。
アイが微笑んだ。
アイ/AI
アイ/AI
さようなら。
瞬間、アイの体は魂が抜けたようにその場に倒れこむ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
え?
湯川 振一郎
湯川 振一郎
おい!おい!アイ!どうしたんだよ!アイ!
いくら呼んでも返事がない。
パソコンでアイのデータを見る。
アイの体から、アイは消えてしまっていた。

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