第17話

17話
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2021/11/30 06:00
まさかアイのやつ、自分で自分を……。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
アイ……。
どれだけ呼びかけてもアイが目を覚ますことはなかった。
気づかないうちに、朝が来ていた。
青白い光が、カーテンの隙間を縫うように部屋に入り込み、アイの顔を照らす。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
そんな……。そこまでしなくてもいいじゃないか。
僕はまた、アイを手放してしまった。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
どうすればよかったんだよ。
僕には、何もわからなかった。
何を信じて、どんな言葉をかければよかったのか。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
どうすればよかったんだよ!!
と、その時。
家の外から、僕の悲しみごと吹き飛ばすような爆発音と悲鳴が無数に響き渡った。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
なんだ……。
急いでベランダから外を覗くと、家から数十メートル先のあちこちで火災が発生していた。
限りなく黒に近い灰色の煙が、のろしのように上がっている。
そして、僕のスマホには不協和音と共にいくつもの通知が届く。
見てみると、
現在東京でデジタル災害が起こっているという。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
災害?
僕は急いでテレビをつけた。
ニュースキャスターが険しい表情で速報を読み上げている。
ニュースキャスター
繰り返します。現在デジタル災害が東京全域に広がっています。自動料理機からの火災、無人タクシーの衝突事故などが確認されています。スマホやテレビも一部地域では使えなくなっているようです。まだ安全圏にいる方は、落ち着いて、なるべくデジタル機器がない場所に避難してください。繰り返します……。
どうやらただ事ではないらしい。
しかし、不気味なことが1つ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
ここでの被害が1つもない。
僕の家にも自動料理機やその他デジタル機器がいくつかある。
1つ1つ確認したが、なんの反応もない。
パソコンを開き、災害状況を調べる。
東京のマップに災害が起きている場所が赤く表示されている。
それを見て、僕の体温は再び高まっていった。
マップ上では、東京のほぼ全てが赤く染まっている。
僕の住んでいる場所から半径数十メートルを除いて。
『私に組み込まれてる、感情を学習するプログラムって、複製したり、移行したりできるの?』
『もし私に兄弟ができたら、振一郎をもっと助けられるし。何より、こうやって誰かと映画を見たりしたいなって。』
アイが僕に問いかけた意味がなんとなく分かった気がした。
さっきアイと口論した直前、あの時は気持ちが高ぶっていたせいで気に留めなかったが、確かアイは僕のパソコンを操作していた気がする。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
まさか。
アイのプログラムを見直す。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
やっぱりかよ。
アイのプログラムが大量に複製されている。
おそらく、今起きている災害の原因はアイだ。
でも、どうして。
どうして急にこんなことを。
いや、急にというわけではないのか。
複製の話を僕にした時点で、きっと計画していたのだろう。
僕が1番危惧していたことが起きている。
このままでは、きっとアイは止まらない。
災害が東京だけにとどまっているうちはまだいい。
このままだと関東全域に、やがては全国に広がるだろう。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
なぁ!アイ!聞こえてるんだろ?返事してくれよ!なんでこんなことするんだよ!!
アイからの返事はない。
どうしてこうなった。
何がいけなかったんだ。
アイを生まなければよかったなんて、僕は絶対に思いたくない。
でも、何をどうしてればこうならずに済んだのかもわからない。
これはしわ寄せだ。
今まで人と関わろうとしてこなかった僕への罰だ。
きっとアイの気持ちにも、昭裕の気持ちにも、まことさんの気持ちにも、気づけなかった僕のせいなんだ。
湯川 振一郎
湯川 振一郎
なぁ!アイ!返事してくれって!
これは僕への罰だ。
僕は今、1つの決断を迫られている。

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