秋さんの1LDkのマンション。
男の一人暮らしとは思えないほど無駄な物がなく小綺麗で、家具もシンプルなのにチープに見えず、要するに住処までイケメンだった。
(…完璧なの?この人)
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テーブルにはウイスキーのボトルと水割りセット。
でも、彼はグラスにロックで割る様子もない。
(割り水は俺用なのかな)
もう自分酒弱いんであんま呑めませんなんて言えない雰囲気だよ。
果たして案の定、
潰れた。完全に潰れた。瞬殺だった。
そもそも秋さんちに来る目的が何だったのかあやふやだ。
でも断じて酒の相手では無かったはずなんだけど。
俺の顔を心配そうに覗き込む。
(…好い匂い…シャンプー?)
思えば、マンション近くまで来て迎えに来てもらう為電話した時、シャワー浴びてたとか言ってたなあ。
タクシーで帰れるほど、今月は金の余裕は無い。今月だけの話ではないのだけど。
でも、
(初めてお邪魔した家にお泊まりって図々しくないだろうか)
しかし悪酔いした自分が一人で帰れる自信は微塵もない。
通学駅5つの俺の一人暮らしのマンションより、この秋さんの部屋からの方がたしかに大学が近い。明日、日付的にはもう今日だけど、一限だけ受講ればいい。
秋さんは仕事休みだと言っていたし。
もう、甘えちゃうかー。もう、遠慮してもしゃーないな。
そんな事言いつつも平常運転の秋さんだ。
すぐにフカフカなブランケットと、ベッド代わりにも充分な大きさのソファーの場所を用意してくれた。
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静かな部屋にタイピングの音が微かに響く。
時々書類みたいなものを手にしているから仕事の事の様だ。
当たり前なんだけど大人でやっぱイケメン。イケメン社会人。
時々ウイスキーの中の氷がカラリと鳴る。
(…飲み過ぎだよね、秋さん。)
(酒、強すぎだろ、全然酔った素振り無いし)
(俺ばっか、かっちょわりぃ…)
身体は酔いでダルいのに、少しも眠れる気になれなかった。
だけど、気まずくて寝たフリしつつ彼の出す生活音を眺めていた。
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少し酔いもさめてきたのか、身体が楽になってきた。
トイレでも借りるふりで、起きたふりで、なんて一考していたら、秋さんが作業を終え立ち上がる気配がした。
俺の傍らに秋さんは近付いた。
(?)
タイミングを逃した俺は狸寝入りで少し緊張している。
むにっ。
(?!)
(…ほ、ほっぺ、つまんだ??!)
心臓がバクバクと騒ぎだした。
(な、な、な何だよ、今の?)
数十秒、秋さんはその場を離れず側にいた。
俺は動揺しつつもどうしていいのか分からなくて、きっとバレバレの寝たフリを続けるしかなかった。
一瞬の事だったのに頬に触れた秋さんの指の感触の余韻。
赤面してるであろう顔も背けられない。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、俺にブランケットを掛け直すと、空いたグラスや酒瓶を片付けにキッチンに去った。
秋さんはさっきどんな表情してた?
何を考えていたの?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。