第2話

お邪魔します
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2019/11/20 18:50
秋さんの1LDkのマンション。
男の一人暮らしとは思えないほど無駄な物がなく小綺麗で、家具もシンプルなのにチープに見えず、要するに住処までイケメンだった。
(…完璧なの?この人)
So-sk(そうすけ)
So-sk(そうすけ)
「…お、邪魔します…」
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テーブルにはウイスキーのボトルと水割りセット。
でも、彼はグラスにロックで割る様子もない。
(割り水は俺用なのかな)
もう自分酒弱いんであんま呑めませんなんて言えない雰囲気だよ。
果たして案の定、
潰れた。完全に潰れた。瞬殺だった。
秋(アキ)
秋(アキ)
「ゴメン、無理に付き合わせちゃったね」
So-sk(そうすけ)
So-sk(そうすけ)
「いえ…俺こそ…すいません。」
そもそも秋さんちに来る目的が何だったのかあやふやだ。
でも断じて酒の相手では無かったはずなんだけど。
秋(アキ)
秋(アキ)
「大丈夫?気持ち悪くなってない?」
俺の顔を心配そうに覗き込む。
(…好い匂い…シャンプー?)
思えば、マンション近くまで来て迎えに来てもらう為電話した時、シャワー浴びてたとか言ってたなあ。
秋(アキ)
秋(アキ)
「電車もう無いし泊まってきなよ」
タクシーで帰れるほど、今月は金の余裕は無い。今月だけの話ではないのだけど。
でも、
(初めてお邪魔した家にお泊まりって図々しくないだろうか)
しかし悪酔いした自分が一人で帰れる自信は微塵もない。
秋(アキ)
秋(アキ)
「大学、ここからのが近いんだよね」
通学駅5つの俺の一人暮らしのマンションより、この秋さんの部屋からの方がたしかに大学が近い。明日、日付的にはもう今日だけど、一限だけ受講ればいい。
秋さんは仕事休みだと言っていたし。
もう、甘えちゃうかー。もう、遠慮してもしゃーないな。
秋(アキ)
秋(アキ)
「車で送ってあげられたらよかったけど、オレも呑んじゃったしね」
そんな事言いつつも平常運転の秋さんだ。
すぐにフカフカなブランケットと、ベッド代わりにも充分な大きさのソファーの場所を用意してくれた。
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静かな部屋にタイピングの音が微かに響く。
時々書類みたいなものを手にしているから仕事の事の様だ。
当たり前なんだけど大人でやっぱイケメン。イケメン社会人。
時々ウイスキーの中の氷がカラリと鳴る。
(…飲み過ぎだよね、秋さん。)
(酒、強すぎだろ、全然酔った素振り無いし)
(俺ばっか、かっちょわりぃ…)
身体は酔いでダルいのに、少しも眠れる気になれなかった。
だけど、気まずくて寝たフリしつつ彼の出す生活音を眺めていた。
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少し酔いもさめてきたのか、身体が楽になってきた。
トイレでも借りるふりで、起きたふりで、なんて一考していたら、秋さんが作業を終え立ち上がる気配がした。
俺の傍らに秋さんは近付いた。
(?)
タイミングを逃した俺は狸寝入りで少し緊張している。
むにっ。
(?!)
(…ほ、ほっぺ、つまんだ??!)
心臓がバクバクと騒ぎだした。
(な、な、な何だよ、今の?)
数十秒、秋さんはその場を離れず側にいた。
俺は動揺しつつもどうしていいのか分からなくて、きっとバレバレの寝たフリを続けるしかなかった。
一瞬の事だったのに頬に触れた秋さんの指の感触の余韻。
赤面してるであろう顔も背けられない。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、俺にブランケットを掛け直すと、空いたグラスや酒瓶を片付けにキッチンに去った。

秋さんはさっきどんな表情してた?
何を考えていたの?

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