第3話

運命の番。α×Ω
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2020/12/29 21:26


あれから数ヶ月。


その瞬間は突然訪れた。


ひまり
ぁ…れ…?


バクバクと鳴り出す心臓と、止まらない汗。
熱を持った身体は、周りのβでさえも翻弄しだす。


やばいやばいやばい。


カフェの仕事を終える頃に気づいた身体の怠さ。
急いで帰ろうと思い走ったのが悪かったのだろうか、息切れする身体を無理に動かした途端始まった。


発情期 ヒートだ。


ひまり
や…だぁ…みないでっ…


道を歩いている人は立ち止まり、僕のフェロモンに困惑している。
それに今日は首輪をしていない。知らない人にうなじを噛まれたりでもしたら…



(どうしよう、どうしよう…)



「あんたっ…それ、誘ってんの…?」

ひまり
ちがっ…ちがいます…っ


顔を赤らめた男の人に話しかけられる。
僕のフェロモンにも何とか耐えているから、βなのだろう。



「じゃあ薬飲めよ…くっ…やばいぞ、匂い…βでもクる…」



口元を抑えながら話してくる男の人。


野次馬8割、心配2割の観衆の中、どうにもできない自分の身体を埋める。

ひまり
くすりっ…今もって…はぁっ…なくて…



「はぁ!?…どうすんだよ…っ…だれか…抑制剤!!」

ひまり
ごめっ…なさい…
ひまり
ごめんっ…な…さい…


周りの人に、迷惑かけて、知らない人を翻弄して…
今だって自分では何もできない。



"Ωじゃなきゃよかったのに"



その言葉で頭が埋め尽くされる。



(ヒートなんてこないでよっ…知らない人に抱かれたくない…)



悔しさと恥ずかしさと苦しさで涙が溢れ出る。


ひまり
たす…けて…



そう、願った時だった__











ブワッとむせる程の匂いに包まれる。


僕の大好きな金木犀の匂い。


己緒
はっ…大丈夫ですか…!
ひまり
ぅっ…ぅぅ…


抱きしめてくれたのは、いつもの学生さんだった。


息を切らしながら思い切り抱きしめれる。

己緒
病院っ…行きましょう…ふっ…
己緒
まさか…っ…貴方だったなんて…
ひまり
はーっ…はーっ…


学生さんだって苦しそうなのに、僕のことを心配して…。


それに、学生さんはαだ。
僕の匂いで耐えられないだろうに、傷つけないようにぐっと堪えてくれている。



「あのっ、僕もΩです!手伝います!」



意識が朦朧とする中、Ωだという人が駆け寄ってきた。
心配そうに僕の身体に触ろうとした時、学生さんがその手を払い、周りから僕を守るような低い声をだす。

己緒
はっ…俺の"運命の番"に触るな…!


「落ち着いて下さい!僕は貴方からこの方を奪ったりしませんよ!深呼吸して!」



学生さんの声に観衆が一歩後退りをする。
αが本能から叫んだその声に、周りの誰もが2人を運命の番同士だと理解しただろう。


そんな中Ωだという方は必死に説得してくれた。



「あと!誰か!このαの方を抑えておいて下さい!!この方首輪してないです!!」



Ωの方の必死な訴えに、数名の人が助けに入ってくれる。
少し乱暴だったが、興奮気味の学生さんを数名の人が抑え、その間に抑制剤を飲む。


薬が効いてきて、眠気が襲う中、学生さんの匂いが沢山するジャケットを被せられた。



「これ、今さっきあのαの方からもらいました。持っているだけでも落ち着くと思います」



すんっとジャケットに顔を埋めると、金木犀の柔らかな匂いが身体を包み込む。
ひまり
学生さんの匂い…っ
ひまり
すき…っ…学生さんすき…


救急車が来るまでの間、ギュウッとジャケットを握りしめ、匂いを感じる。
発情期の身体は求める人間のことを思い、気持ちが溢れる。


その時、気づいた。


この匂いは香水なんかじゃない、学生さんの、運命の番だけがわかるαのフェロモンなのだと__


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▽▽


次の日、目を開けると病院のベッドで寝ていた。


胸元には学生さんのジャケットがある。

ひまり
夢じゃ…ない


昨日の出来事を夢のように思う一方、沢山の方に迷惑をかけたことを思い出し飛び上がり周りを見渡す。

己緒
っ!ひまりさん!
ひまり
ぇぁっ…!学生さん…!!

横の椅子に座っていたのは、学生さんだった。



"運命の番"



その言葉を思い出し、ぼっと顔が赤くなる。


ひまり
学生さんっ…えっと…その…
己緒
己緒こおです
己緒
俺もひまりさんの名前、さっき知りました
ひまり
っ!


己緒。初めて知った学生さんの名前。

ひまり
こっ…こおさん…
己緒
はい
ひまり
昨日は…すみませんでした


深く頭を下げる。
ひまり
薬、持っていかなかったのも僕の不注意で…
ひまり
沢山の人にっ…迷惑かけちゃって…
ひまり
僕が、Ωだから…


そう、僕がΩじゃなかったら起こらなかった事故だ。


己緒さんだって、あんなに苦しむことはなかった。



「これだからΩは」



以前上司に言われた言葉。


その通りじゃないか。
僕は迷惑ばかりかけて…


ぐっとベッドシーツを掴み、ぶつけようのない悲しみに耐える。

己緒
…ひまりさん
ひまり
ん…


その時、己緒さんが優しく抱きしめてくれた。


己緒
俺、昨日のひまりさんのフェロモン匂った時、身体が痺れるくらいひまりさんに釘付けになったんです
己緒
ユリの花の香りがむせるほど匂って…
己緒
その時、本能ですぐこの人は"運命の番"だって気付きました
己緒
…俺、カフェで働いているひまりさんと会うのが楽しみだったんです。いつも優しく声がけしてくれて…可愛いなって
ひまり
かっ…可愛い…!?
己緒
はい、だからひまりさんが運命の番だって気づいた時、すっごく嬉しくて…この人を離したくないって…
己緒
俺も昨日は沢山の方に迷惑かけました
己緒
お互い様ですよ
ひまり
〜っ…


優しく言葉がけに身体の緊張がほぐれる。


ほのかに香る金木犀の匂い。


その匂いをもっと感じたくて自然に抱きしめ返す。
己緒
…ひまりさん、俺は貴方と番になりたい
己緒
お友達から、初めてみませんか…?
ひまり
…っ!!


真剣に向けられた顔にどきりとする。


ずっと気になって子に告白されるなんて…。


ひまり
でもっ…己緒さんは学生でっ…僕なんかよりきっといい人が…
己緒
っ!ひまりさん以外に俺に好きな人なんてできるわけがない!
己緒
ひまりさんがほしい…!
ひまり
ぁっ…ぅぅ〜っ


そんなこと言われたら…!!


ひまり
僕もっ…己緒さんと一緒がいいっ…
ひまり
そばに、いてほしい…っ
己緒
っ…絶対側にいます。ひまりさん、好きです
ひまり
僕もっ…己緒君のことが…すきっ…


好きになる以外の選択肢なんて、ない。



これが、僕達の出会い__


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▽▽


あの日から数日後、2人でデートをして、お互いのことを知ることから始めた。


僕にはもったいないくらいなんでもできて、顔も整っているこーくん。


隣にいるのが申し訳ないって思ってしまった時もあったけれど、そんな時にもいつも手を握ってくれた。


それから、何度も何度もデートを重ねて…


そして…






己緒
ひまり、俺と結婚してくれませんか?
ひまり
〜っ!!…うん、うん…!!

プロポーズもされた。


目の前に光る婚約指輪に涙が止まらないくらい嬉しくなって、周りの目なんて気にせずに思い切り飛びついてキスしちゃったなぁ。


もちろん、返事は喜んで。


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▽▽


それからまた数ヶ月、抑制剤を飲まないと決めた今月の発情期。


愛する旦那さんの帰りを待つ中、僕はせっせとベッドとクローゼットを行き来していた。

ひまり
このハンカチも…あとっ…この服も…


両手でいっぱいに掴んだこーくんの服。


顔を埋めれば大好きな金木犀の香り。


よいしょとベッドの上に置き、身体を覆うように重ねていく。


中に潜れば、こーくんの匂いでいっぱいだ。

己緒
ただいま〜…っ…この匂い…!
ひまり
っ…!


帰ってきた…!


服を重ねた中から顔を出すと、僕を愛おしそうに見つめるこーくんの姿。
己緒
これって…!俺の服?
ひまり
うんっ、沢山こーくんの匂いがするのっ
己緒
はぁぁぁ…可愛い…
己緒
上手に"巣作り"できたね
ひまり
えへへ…♪


初めの巣作りだって、上手って褒めてくれた。


好き、好き、好き。


くっきりとついたうなじの歯形をなぞり、笑みが溢れる。


こーくんが運命の番で、本当によかった。


大好きな運命の番に包まれたその日から2ヶ月後、愛おしい彼との子がお腹に宿ったのでした__










こちらのオメガバース作品、人気でしたら短編集として続編書こうかと思っています。

次回は何を書きましょうか。オメガバース?家族のお話し?友情?
何を書くか気まぐれなこの作品。更新されるまでのお楽しみです。

それでは、次回もお楽しみ下さい。

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