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第1話

あっという間だった。
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2020/12/07 13:37


お前はわしにとっての宝物で、"最愛"の存在じゃ__


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▽▽



夏の終わり、満点の星空の下で捨てられた赤子を見つけた。


籠の中ですやすやと眠っている赤子は、自分が捨てられたことさえ知らないのだろう。


戦いが絶えず、子1人育てることが苦しい今、赤子が捨てられることは多々あった。
捨てられた子を見つければ、近くの施設に連れて行くのだが、何故か今日は行く気にならない。


無意識にその子を抱き抱え、抱きしめた時に感じた暖かさに、人の子と"吸血鬼"という存在の差に胸が痛む。


エテルナ
…暖かいのぅ


吸血鬼、人の血さえ飲めば生きていける存在。人間からは恐れられ、辛い思いをしてきたものだ。
吸血鬼は人の血を飲み生き続ける、そう伝えられ過ごしてきた人間は、何もしていないわしをも恨んだ。


吸血鬼は歳を取るが、顔立ちが変わらない者が多い。
わしもその1人で、20歳くらいの青年の顔立ちのままなのだ。
いつまで経っても変わらない幼さの残るわしの顔は、気味が悪いと何度言われたことか。


吸血鬼は人の血を飲む、確かにそうして生きている吸血鬼もいるだろう。だかわしは血を飲まなくても生きていける。唯一弱点があるとしたら、動物の肉を食べなければいけないことだろうか。
人間の血の代わりに、動物の肉を食べ補っている身としては、動物がいなくなれば生きていくことはできない。
牛、豚、鳥のレバーがあれば生きていける。


そんな暮らしをして数百年。
森の奥に家を作り、何の目標も無く生き続けている。



(この子は…わしと違い大きく育ち、やがて死ぬのじゃろうな…)



昔のことを思い出しながら冷たく、血の気のない手で優しく赤子を撫でる。



__スッ



数回撫で手を離した時、赤くの目が開いた。


エテルナ
っ!


瞳の色は深い赤色で、例えるなら…そう、"ワインレッド"。
吸い込まれそうな赤色の目に、見惚れた。


赤色の目…吸血鬼のわしから見たらとても美しいと思った。だが、人間から見たらどうなのだろうか。


赤色の目をした人の子はそういないだろう。



(この子を施設に預けて…幸せになることができるのだろうか…)



そう思った時には、既にこの赤子を育てるという以外の選択肢は考えていなかった__



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▽▽


鳥がさえずり、木に止まり毛繕いをする姿を見つめ、背伸びをする。


籠いっぱいに入った洗濯物を干すには最高の日和だ。


エテルナ
〜♪
ディア
っ!…お父さん!
エテルナ
おっ、ディア。今日も元気じゃな
ディア
うん!


庭を走り、飛びついてきた最愛の"息子"を優しく撫でる。


ディア
お父さんの手はいつも冷たいねぇ?
エテルナ
ん〜?それはなぁ、わしがディアくらいだった頃…
ディア
魔女に姿を見た代償として暖かさを取られちゃったんだよね!
ディア
だから血がなくならないように毎日お肉を食べるんでしょ?
エテルナ
…あぁ、そうじゃ。
エテルナ
冷たいお父さんは嫌いか?
ディア
ううん!どんなお父さんも大好き!


いつかバレる嘘まで付いて、吸血鬼だということを隠し数年、すくすくと育ってくれた息子。


ディアと名付けた。


本が大好きで、真面目で優しくて、争うことが嫌いな子。
可愛くて、愛おしくて、自慢の息子だ。


洗濯や料理も手伝ってくれる。


そんな我が子も学校へ行く歳になった。
毎日わくわくした顔で教科書をカバンに詰める姿は可愛らしい。


そんな平和な日常が戻ったのも最近の話だ。長かった戦いは終わり、荒れ果てた街は瞬く間に回復していった。


エテルナ
どんな時でも、平和が1番じゃのぅ…
ディア
何か言った〜?
エテルナ
いや、お父さんの独り言じゃ
エテルナ
…そろそろお昼の時間じゃな、かぼちゃのスープでも作ろうかの
ディア
やった〜!かぼちゃのスープ大好き!


肉だけで済む食事だが、ディアと食べる時同じものを食べるようにした。


バレないように__バレないように__



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▽▽


ガシャン!!__


皿が割れ、破片が飛び散る。



エテルナ
っ…ディア…
ディア
っ!来るな!嘘つき!


パシッと手を払われ、睨み付けられる。


ついにこの日が来てしまった。
ディア
吸血鬼だったなんて…
ディア
もしかして…本当のお父さんとお母さんはお前が殺したのか!?
エテルナ
違う!わしの話を聞いてくれ…!
ディア
お前の話なんて聞くわけないだろ!?
ディア
そうだよ…何で気づかなかったんだ…
ディア
いつまで経ってもシワひとつ増えない…白髪だって…この人は"歳"をとってないじゃないか
エテルナ
ディア…


ディアが14歳の頃、ついに吸血鬼だと言うことがバレてしまった。


きっかけは友達同士の噂話から。


この森には昔吸血鬼がいて、この村の人が襲われたと言う話を聞いたらしい。
森の吸血鬼というのはわしのことだろうが、人を襲ったことなどない。


だが昔から本が大好きだったディアはその吸血鬼という存在に興味が湧いたのだろう。


そして…調べていくうちに、自分の父親が"吸血鬼"なのではないかということに気がついてしまった。

ディア
襲われた村の人って言うのが僕の本当の親のことなんだろ!?
エテルナ
…わしが吸血鬼だと言うことを黙っていたことは本当に申し訳ないと思っている
エテルナ
じゃが…わしは人間を襲ったことなどない
エテルナ
それだけは信じてくれ…
ディア
っ…


初めて息子の反抗的な態度を見て、気が動転する中、本当のことを伝える。


この時が来ることをわかっていたのに、苦しいものだな。


"お父さん"


そう言ってくれていたのに、初めて"お前"呼ばわりされた。
おまけにディアを捨てたの本当の親を殺した犯人扱い、本当にショックだった。


だが、吸血鬼でもディアの親はわしだ。それはこれからも変わらない。


だから…

エテルナ
これからも、ディアの"お父さん"でいさせてくれ…


深く頭を下げ、今まで黙っていた本当のことを告げる__


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▽▽


夏の終わり、星が綺麗な夜にろうそくの光が揺らぐ。


エテルナ
ディア、19歳の誕生日おめでとう
ディア
ありがとう、父さん


ふぅっと息を吹きかけ、火の消えるろうそく。


数年前の反抗期は何処へやら。すっかり心が安定したディアは、大人への道を着々と進んでいた。


吸血鬼だとバレて数年、数ヶ月はギクシャクした関係が続いたが、疑いも晴れ無事に元の日常に戻ることができた。


戻ったのはいいのだが、吸血鬼のことについて質問ばかりの毎日に困った日々は今ではいい思い出。

ディア
いつの間にか父さんの背越しちゃったね
エテルナ
そうじゃな、本当にすくすく育ったのぅ…
ディア
そう言う父さんだって、お肌ぴちぴち、シワひとつないじゃん?
エテルナ
ふふふ、言うようになったの
ディア
あははっ


吸血鬼と言うことを隠さずに過ごせる今はとても楽だ。



(いい子に育ったものじゃ…)


ディア
そういえば、父さんはお肉さえあれば生きていくことができるのになんで僕と一緒な物を食べるの?
エテルナ
ディアと同じ物を食べて過ごしたいからじゃ
エテルナ
ディアと食べる食事は楽しいんじゃよ


今までは吸血鬼だということがバレないように食べていた食事だったが、正体がバレてからもディアと食べる物は美味しかった。


わしの作った料理を、口いっぱいに頬張り、美味しいと言ってくれる姿はいくつになっても可愛くて、堪らない。


昔のように頭を撫でながら伝えると、幸せそうな顔で笑った。


赤色の瞳に悩むことがあったディアだが、今では黒髪とよく似合う男になっている。
エテルナ
本当に…わしの自慢の息子じゃ
ディア
っ!ありがとう


そう、祝ったのが懐かしい__


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▽▽


それから…何十年も、何十年も経った。


ディアが24歳の頃、恋人を連れて来て、26歳の時にその女性と結婚した。


わしの為に一緒に住んでくれるようになって、28歳の時に孫も産まれ、幸せな日々を過ごした。


だが、人の一生はあっという間で、脆い。


病気になることもあり、足りない栄養は自ら摂取しなければいけない。睡眠も生きる為には必要で、学びも成長の為に必要不可欠。


何もかも、吸血鬼のわしとは全く違う。









もちろん、歳を取っていくのも__








初めてディアと出会ってから、時間が経つのはあっという間だった__









「ほう…人の子はビタミンも鉄も自ら摂取しないといけないんじゃな」



ディアを育てることになった次の日、本を買い人間の子について学んだ日。



「ディア、粉のミルクじゃが我慢しとうくれ、母親の乳を飲ますことができなくてすまないのぅ…」



母親の乳を与えることができなくて申し訳なく思った日。



「っ…ディア、こんなに熱が出て…今冷たいタオルと水を持ってくるからの」



初めてディアが風邪をひいて、心配で堪らなかった日。



昨日のことの様に思い出す懐かしい日々。


ディアの成長と共に、喜びが増えていく。



「おぉ…!つかまり立ちができるようになったのぅ!ディアは偉い子じゃ」


ディアが初めてつかまり立ちをした日。


「今…わしのことを"とーさん"と言ってくれたのか…?…ふふ、偉い…偉いのぅ」


初めて"お父さん"と呼んでくれた日。


「よしよし、辛かったのぅ…でもな?お父さんはディアのその目が大好きじゃ。例え笑われても、お父さんはディアの味方じゃからの」


赤い目の色を馬鹿にされ、泣きながら帰ったディアを慰めた日。



全てわしの思い出じゃ。



ディア、何度その名前を呼んだだろうか。


お父さんと、何度呼ばれただろうか。


時間はすぐに過ぎて行く。
人間の一生は早すぎるのぅ。


あぁ…本当に…本当に…








エテルナ
あっという間じゃった…



わしよりも冷たくなったディアの手を握り、涙を流す。


願うならば、もう一度"お父さん"と呼ばれたい。


もっと一緒に食事をして、村に買い物に行けば良かった。
居なくなって気づく当たり前の大切さ。


エテルナ
わしは衰えもしない…
エテルナ
衰えていくディアを見るたび辛かったんだぞ…


ディアを吸血鬼にするなど考えたことがなかった。


こんなに苦しい思いは、ディアにはして欲しくなかったから。


でもなぁ…でもなぁ…



エテルナ
ディアにはずっと生きてほしかったんじゃ…



__享年、87歳。


最愛の息子は、わしより先に亡くなった。



"お父さんの子で幸せでした"



生前に書いていた日記には、そう書かれていた。



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▽▽






ディア
ねぇお父さん、僕の名前の由来ってなぁに?
エテルナ
ディアの名前の由来はのぅ…
エテルナ
ディアネスから取ったんじゃ。…ここから遥遠くの国でな…





"最愛"って意味じゃ__




わしの大切な大切な宝物。



"ディア"



またどこかで会えたら…


幼かった頃の話をうんとしよう__















はじめましての方ははじめまして。いつも見てくださっている方はこんばんは、茶々丸。です。
新たに小説を開拓しました…!

コンセプトは、幸せから切ないまで詰める。
いつもの茶々丸の作品とは違い、切ないお話も詰める予定です。
1話、2話で終わる話ですので、これもまた1話が長いですが、見てくださると嬉しいです。

今回はBLではなく、家族のお話。

吸血鬼がお父さんになり、息子の最期を見送るという切ないお話しでした。

少しでも感動してくだされば、嬉しいです。

次回もお越しください〜!

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