大和(やまと)
よいしょっと…
大和くんたちが運んでいた明希人を、床に下ろした。
奏多(かなた)
なんか、気絶してね?
要(かなめ)
いや、寝てるだけ。
要(かなめ)
夢見てるんだけど…
要(かなめ)
どこだろ、ここ。
要(かなめ)
刑務所…?
菜々子(ななこ)
ねぇみんな!
菜々子(ななこ)
みてこれ。
私は明希人の首元を指差した。
そこには「AKITO」と黒い文字で書いてあった。
その横には「01」と。
菜々子(ななこ)
そういえば…
菜々子(ななこ)
二重人格の殺人鬼が脱走したっていうニュースやってた…
飛人(ひびと)
それが…明希人?
菜々子(ななこ)
うん。
菜々子(ななこ)
ニュースで、「首元に01とある」って言ってたから絶対そう。
奏多(かなた)
じゃ、警察直行で。
菜々子(ななこ)
待って。
飛人(ひびと)
え?
菜々子(ななこ)
色々聞きたいから。
奏多(かなた)
おーい
奏多(かなた)
明希人ー?
奏多(かなた)
起きろー
奏多くんが明希人の頬を、ぺちぺち叩く。
明希人(あきと)
ん?
奏多(かなた)
起きた。
菜々子(ななこ)
明希人。
明希人(あきと)
なんだよ…?
菜々子(ななこ)
自分の名前以外に覚えてるもの、ある?
明希人(あきと)
…ねぇよ。
飛人(ひびと)
要さん。
要(かなめ)
嘘だねこれ。
要(かなめ)
刑務所での記憶はあるでしょ?
明希人(あきと)
…
しばらくしてから、明希人は頷いた。
大和(やまと)
他に覚えてることは?
明希人(あきと)
小さい時に誘拐されて、誘拐された場所で人の殺し方を教わった。
奏多(かなた)
だいぶ雑な殺し方をだったけどね。
明希人(あきと)
うるせぇ殺すぞ。
奏多(かなた)
俺は、毎日死んでるようなもんだから。
菜々子(ななこ)
そっか、毎日記憶を無くしてるんだっけ。
奏多(かなた)
そそ。
飛人(ひびと)
んで、他には?
明希人(あきと)
それからずっと殺し屋として働いてたけど…
明希人(あきと)
一昨年、サツに捕まった。
要(かなめ)
それで、先月抜け出してきたと。
明希人(あきと)
…そう。
明希人(あきと)
俺の中にはもう1人「明希人」がいるから、そっちを使えば大丈夫だと思ってた。
明希人(あきと)
でも、何年も人を殺し続けてきた俺は、人を殺さない日々がつまらなかった。
大和(やまと)
何言ってんだ、お前…
明希人(あきと)
人を殺すって、楽しいんだぜ?
明希人(あきと)
どうせ誰も助けてくれないのに、もがいて、悲鳴をあげて…
私は、明希人のその言葉に殺意を覚えた。
明希人(あきと)
だから、もう1人の「明希人」を殺して、俺が出てきちまった。
明希人(あきと)
「生きるために不必要な能力を持つ」って、殺してほしいって言ってるようなもんだろ?
そう言って明希人は、口角をにやりとあげた。
明希人(あきと)
だから、この「room」のリーダーから殺してやろうと思ったんだよ。
菜々子(ななこ)
…違う。
明希人(あきと)
は?
菜々子(ななこ)
私はそんな目的で「room」を作ったんじゃない。
飛人(ひびと)
菜々子さん、ちょっと落ち着こう…?
飛人くんのそんな声を無視して、私は続ける。
菜々子(ななこ)
私は、
菜々子(ななこ)
この能力の辛さを共有して、
菜々子(ななこ)
能力の辛さを和らげて、
菜々子(ななこ)
この能力のことを、笑って、みんなに、誰にでも話せるように、なりたかった。
途切れ途切れだったが、私ははっきりとそう言った。
要(かなめ)
菜々子ちゃん、やめて。
菜々子(ななこ)
みんなも、そんな気持ちで「room」に入ったはず。
菜々子(ななこ)
みんなのそんな気持ちをズタズタにした、明希人を、お前を、
菜々子(ななこ)
私は許さない。
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第9話 明希人
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。