第2話

アザレアの花と抜け落ちた記憶
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2022/07/20 04:41
ローズ
、、、っ!
ここは、どこなの?
ズキッと痛んだ頭を抑えながら、私は重たい瞼を開けた。



あたりを見渡すと、そこは花畑だった。
ローズ
まっしろ、、、。
アザレアかしら。







少し息を落ち着けた私は、状況を確認することにした。
ローズ
まず、ここがどこか分からないわね。
ここまでどうやって来たか記憶もないわ。
ローズ
攫われてきたとか?
ここで私は自分自身の身なりを確認した。
ローズ
可能性はありそうね。
かなりいい服を着ているわ。
ネックレスもしているし。
ここまで言ってハッとした。
ローズ
私って、誰だっけ?
ローズ
いや待って、覚えてるわ。
ローズ、、、ローズよ。
ローズ
、、、それで?
どこの村で生まれた、どこに住んでいるローズなのか分からないわ。
『分からない』

その事実を私は案外冷静に受け止めていた。
ローズ
まあ、いつか思い出すわよね。
私は結構楽観的らしい。






受け止めてしまえばあとは心も落ち着いてきて、私は周りをぐるりと一周見回した。
ローズ
お家?
すると、今いる位置から少し歩いた坂の上に小さな木の家があることに気付いた。

住民がいるのだろうか、それとも無人の小屋なのだろうか。

そのどちらであるとしても、あそこの家に記憶が戻るまでおいてもらおう。
意地でも。

そうでないと、私は本当に森の中に独りになってしまうから。
ローズ
よしっ!
両手で頬を挟み込むようにして叩いて、気合を入れ、いざ歩き出そうという時、足元の、何か大きなものにつまずいてよろけた。

ローズ
何よこれ、、、。
棺桶?
白と黒でできたモノトーンの、、、棺桶だ。


私なんてすっぽり入ってしまいそうなくらいの。
ローズ
なんだか不気味だわ。
まだ真昼なのに。
開けてみようかと蓋に手をかけたけれど、立派な錠前で施錠されていて、びくともしなかった。
ローズ
鍵?
これじゃ開かないはずね。
諦めて早くあの家を訪ねましょ。










コンコン。

木製のドアを叩くと、中から長身の男が現れた。
ブラッド
お客さん?


その男の名はブラッドと言うらしく、この家で記憶屋なる商売をやっているらしい。
何よそれ。


その男は色白で線が細く、女性のような儚さを持った不思議な人だった。
でも、それでいて、角ばった手指は途端に男性らしさを感じさせる。

茶色、よりも少し薄い、グレーや白も混ざったような綺麗な色の髪。肩にはついていないけど少し長め。
空よりも青く、海よりも深い、優しい瞳。

まさに造形美だった。







ブラッド
記憶が戻るまでここで暮らすといいよ。
ブラッドの厚意に甘えた私は、この小さな木の家に転がり込んだ。


、、、のだが。
ブラッド
、、、散らかってるけど。
私が見渡したその部屋は、ブラッドの言葉通り、散らかっていた。


食べた後そのまま流し場に置かれた皿とコップ、溜まった洗濯物と整頓できていない雑貨品。

、、、許せなかった。
ローズ
どういうこと?
ブラッド
え?
ローズ
どうしたら部屋がこんな風になるわけ?
それ以前に、よくこんな部屋で何日も暮らせたわね?
それに、こんな部屋に客を招こうとする精神も理解できないわ。
あなたは一体全体どうなってるわけ?
私は一気にまくし立てた。



すると、ブラッドはバツが悪そうに視線をそらし、降参だ、とでも言うように小さく両手を上へ上げた。
ブラッド
ごめん。
、、、ちょっと前までは綺麗だったんだよ?
ローズ
そんなの関係ないわ。
すぐに片付けるわよ。
手伝って。
ローズ
紐はある?
髪が邪魔なの。
ブラッド
ああ。
僕のでよければ。
プレゼントするよ。
ローズ
、、、ありがと。
この男、妙にキザっぽいのが鼻につく。

調子が狂う。
ローズ
あなたも手伝うのよ。
ブラッド
、、、分かってるよ。
私は手早く髪を一つにまとめると、洗い物から取り掛かった。
ついでにコーヒーも入れた。



その次は洗濯。

この家には幸い、水は引かれているようだった。




掃除や料理のやり方は、体が覚えていた。

それなら他のことも覚えておけよ、と思ったけれども、何か事情があったかもしれないので黙っておく。






洗濯が終わった私は、束の間の達成感に包まれながらリビングに戻った。
ローズ
ブラッド?
リビングのものの整理済んだ?
ブラッド
、、、少しだけ。
彼に任せたリビングは、先ほどと変わり映えしない汚さだった。
ローズ
全然変わってないじゃない。
もうっ!
見るからに整理が苦手そうなこの男に任せたのが馬鹿だった、そう思い、諦めて私が手を伸ばすと、その手首をブラッドがつかんだ。
ローズ
、、、何よ?
ブラッド
まあ見ててよ。
ブラッドが右手の人差し指を左右に振ると、その瞬間やわらかい風が起こり、散らかっていた雑貨はあっという間に棚に収納されてしまった。



ブラッドは、してやったりとでも言うようにいたずらっぽく笑った。




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