第3話

第一章 告白
2,911
2018/10/24 04:59
時間は、三時間ほど前にさかのぼる。
帰りの挨拶が終わった瞬間、クラスの中は一斉にガヤガヤと騒がしくなった。
カバンを手に立ち上がりかけたところに、親友の亜美が手を振りながら駆け寄ってくる。
亜美
リンー、今日カラオケ行かない?
私の名前は、鈴と書いてそのまま〝すず〟なんだけど。
亜美はそれを音読みにして、私のことをリンと呼ぶ。
響きも可愛いし、そのまま鈴の音も表してるみたいで、私はそう呼ばれることが嫌いじゃなかった。
長谷部鈴
長谷部鈴
あー、ごめん。今日委員会
亜美
え。あー……学祭の?
長谷部鈴
長谷部鈴
うん
亜美
めんどくさい委員に当たっちゃったねー
長谷部鈴
長谷部鈴
しょうがないよ。くじ引きだし
肩をすくめて私は苦笑を返す。
しょうがない……確かにそれは本音なんだけど。
公平を期する為に、先生は部活をしてる人も塾に通ってる人もひっくるめて、クラス全員で学祭委員を決めるくじ引きをした。
結果、女子は私。
そして男子がこともあろうに、2年にして野球部エースピッチャーの三浦くんに当たってしまったのだ。
秋大会を控えた三浦くんは、案の定委員会なんて出られる訳もなく。
結果、委員の仕事はほとんど私一人でこなしているのが現状だ。
公平を期する為のくじ引きが余計に不公平になっている事実には、正直不満を感じないわけではなかったけど。
不満を声に出して言えるほどの勇気もないし。
まあどうせ、学祭が終わるまでのことだし……ね。


私立綾城学園高等科。
それが、私の通う高校なんだけど。
コースは普通科コースと芸術コースがあり、私、長谷部鈴は現在普通科の2年に属している。
普通なのはコースだけじゃなくて、私自身もそうで。見た目も普通、成績も普通、スクールカーストでもヒエラルキーのど真ん中。
それに反してうちの学校の芸術コースは県内でも有名で、音大や芸大への進学率がとても高く、中等科から通う生徒も少なくない。
校舎はコの字型になっていて、職員校舎を挟んで西と東にカッチリ分かれているから、お互いの校舎を行き来するなんてことは、まずない。
それこそ学祭の時季ぐらいしか交流はないし、何となくだけど、芸術コースの生徒達は普通科の生徒のことを見下しているような雰囲気もあって。
同じ綾城学園とは言っても、まるで他校同士のようなよそよそしさがある。
私を綾城の芸術コースに通わせたがっていたお母さんなんか冗談半分で、どうせならあんたも近所の人に芸術コースに通ってますって言っといたら? なんて言うけど、芸術コースはブルーのネクタイ、普通科コースは赤のネクタイって、決定的な違いがあるから、そんな噓はすぐばれちゃうんだけどね……。

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