気づくとあの公園に来ていた
始まりの、あの公園に
手当してもらったベンチを見つける
足を投げ出して座ると、一年前より太くなった足が見えた
冷たい空気が頬を撫でる
静かな公園は私が孤独だと嘲笑うかのように静まり返っていた
ポツリと呟いた
懺悔するかのように手を組んで空を見上げた
厚い雲に覆われた空はひとつの光も見えなく、暗い
目を瞑る
息を大きく吸った
脱力してため息をついた
白い息が広がる
こんな気持ちじゃダメだ
楽しい気分にならなくちゃ
自分で選んだ選択肢なんだから
テレビで流れていた聞き慣れた歌が脳裏をよぎった
気づいたら声に出していた
小さな声で呟くように歌う
それでも夜の公園には大きく響いていた
自分以外の声が聞こえて息が止まりそうになる
聞こえるはずがない声が後ろから聞こえてきた
頬が温かいもので包まれた
それが手だと気づいたのは少ししてからだった
混乱の中声を上げる
そう言った男の顔がほころんだ
ガッチさんが言ったのか
さっきのメッセージの意味が分かった
いつぶりかの優しい声が響く
混乱する脳を必死に動かす
目の前の男は一年前と変わらない笑顔を浮かべた
頬をつねられる
痛みが広がった
枯れたはずの涙が再び流れ出した
次から次へと流れる涙が、頬をさするキヨの手を濡らした
言葉になっていない声を出しながら泣き続ける私にキヨは笑いかけた
その言葉にさらに涙が止まらなくなる
いつの間にか隣に座ったキヨが私の背中をさすっていた
泣き腫らした目がヒリヒリする
背中に回されたままの手があったかい
キヨは笑う
電話を取ることもなく切る自分を思い出す
着信拒否をしなかったのはまだ繋がっていたいと思っていたからなのかもしれない
キヨの鼻の頭は赤い
噛み締めるように目を閉じたキヨの唇は弧を描いていた
その幸せそうな笑顔に心が締め付けられた
ハハッ…と笑い声が聞こえた
言えない…幸せじゃないなんて言えない…
頬に手を伸ばされる
優しく頬を撫でられ、心地良さに目をつぶった
キヨは立ち上がって私を見下ろした
影が落ちる
真面目な顔がそこにあった
今まで見てきた顔とは違った
必死で、苦しそうに…懇願するように私を見つめてくる
キヨが私の手を取る
強く握られた手は熱かった
顔は逆光で見えない
今までの記憶を思い出す
記憶を思い出すことは怖いと思っていた
でも、思い出すのは楽しい思い出ばかりだった
今度はキヨが気の抜けた声を出した
キヨは照れくさそうに笑って私の手を取った
二人で顔を見合わせて笑えるのはいつぶりだろう
いつの間にか指が絡み合った手に幸せを感じる
声は小さかった
だけど赤くなった顔が光に照らされる
いつの間にか雲の隙間から月明かりが覗いていた
キヨは顔を隠すように歩き出す
何度目かも分からない感謝の言葉の後、あの時は裾を握るのが限界だったキヨの背中に抱きついた
恥ずかしくなってすぐに離れた
再び自然に手を握られ歩き出す
そう声が聞こえた
満足そうに微笑む横顔が月明かりに照らされている
きっと今日は一生の思い出に残るだろう
いつの間にか空から舞っていた白い雪がキラキラと光る
寒さと幸せを噛み締めるようにキヨの手を強く握り返した
end. 幸福な少女は現実を生きる
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。