目が覚めた
カーテンからは光が差し込む
今度は月明かりではなく、暖かな陽の光が
顔に触れると涙がこぼれ落ちた
涙でびちょびちょに濡れた枕が気持ち悪い
確認するように、傷がつくほど顔に爪を立てた
ブーブー…ブーブー…
急にスマホが震え出す
表示は…
久しぶりに声に出して呼んだ彼の名前に苦しくなる
声に出して後悔する
私の人生で一番濃かった1ヶ月を一晩で全て思い出した気がした
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最後の夜、私はガッチさんに言った
顔を上げられなくて下を向いたまま服を握りしめる
キヨが選んでくれた服が虚しく見えた
一呼吸おいてガッチさんの声がこぼれた
頭をクシャクシャっと撫でられる
優しくて温かい手に涙が込み上げた
頭に置かれた手の力が強くなる
反射的に顔を上げてしまった
そこには悲しさをこらえるように笑うガッチさんの姿があった
それは一瞬で、笑顔はいつもの穏やかな顔に変わる
私の言葉を遮ってガッチさんは言った
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スマホに手を伸ばす
しかし、既に震えは止まっていた
一度声に出してしまったことを後悔しても遅い
涙が次々と溢れて息ができないほどに苦しい
どれくらい時間が経っただろう
涙を流す水分すらも消えていた乾燥した肌に冷たい空気が当たる
ピコンッ
声を出す気力も無いままスマホを手に持った
そう一言だけのメッセージ
そのまま私は気絶するように眠りに落ちた
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やっと目覚めた頃には外は真っ暗だった
時計の針は10時を過ぎていた
今日は奇しくもパーティーがあった1年前と同じ日付だった
あの日キヨが選んでくれたコートを掴んで玄関に向かった
夜道にはまだ人通りがあった
手をポケットに突っ込んで縮こまる
本当は家に帰りたくはなかった
だって、辛いから逃げたんだ
白い息が出る
あの日の私はストレスによって記憶を忘れていた
いや、忘れようとしていた
うっしーと帰った日、話しかけてきたのは私の家の隣に住んでいると言う人だった
隣人は言いにくそうに言葉を濁す
それだけ言ってそそくさと帰って行った
忘れようとしていた記憶を鮮明に思い出した
お金だけ置かれたテーブル、タバコと香水の匂い、片付かない部屋
顔を見ることすらも少なかった母親
夜道に伸びる影は暗く、濃かった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。