見慣れ始めた天井が視界に入った
自然と出た名前にハッとしてあたりを見回した
キヨはいない
ドアがガチャりと音を立てて開いた
そこにはやっぱりキヨが立っていた
もう暖かい布団にも慣れてしまったのか震える体をさする
そう呟くとキヨは笑った
扉が閉まる
こんなにもこの家に慣れてしまった
薄着で外にいたあの日を思い出す
もうこの心地よい温もりを忘れることは出来ない
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つけっぱなしのテレビからは今日の天気について話すキャスターの声が聞こえる
聞きなれたクリスマスの音楽とともに雪が降る街の映像が流れていた
急かされるまま用意をする
スマホを操作するキヨはどこか嬉しそうに見えた
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賑やかな三人の中に入れず、仕方なく笑う
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凍るように寒い外に出ると、あの時と同じような光景が広がっていた
車とフジと…そして見慣れない人が一人
こちらに笑顔で手を振る男に見覚えがあった
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そう言って目の前の男は優しく笑った
走り出した車の中で賑やかに声が響く
厚い雲か空を覆った東京は朝なのに薄暗い
どこかに向かって車は動いていた
はぐらかされたまま独り言のようにキヨは呟いた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。