第30話

結婚生活30
117
2020/11/25 00:20
オペが夕方の4時に決まり、そこからバタバタとあっという間にオペ室に運ばれた。
もちろんオペ室に隆二は入れない。
『隆くん、怖いよ。』
「分かってる!ちゃんと待ってるから先生に任せて頑張ってきて!」
そう言ってドクターや看護師さんや私の親が居る前でキスをしてくれた。
周りが顔を赤くする様な瞬間。
でも私はパワーが入った様で安心した。
『隆くん頑張ってくる!』
隆二はニコっと笑って手を振った。
そしてオペ室に入った。
すごく怖くなった。
でも私が頑張らなきゃ赤ちゃんに会えない。
先生に任せて頑張らなきゃ。
























あれ?
なんか周りの声が聞こえる。
夢?
「そろそろ目が覚めるかな?」。
「赤ちゃん体重いくつだった?」
そんな声が聞こえた。
意識が、どんどん鮮明になってきたら急に苦しくなってきた。
喉がおかしい。
塞がっている様な…
目を開くと主治医が立っていた。
「藤堂さん。目が覚めたね!お疲れ様!赤ちゃん元気に産まれたよ!今気管の管抜くね!」
コクンと頷く私。
産まれた?
いつ?
あたし寝てたの?
良く分からない状況。
「藤堂さん。すごく危険な状況だったから全身麻酔で帝王切開をしたんだ。赤ちゃんは元気で男の子。体重も、しっかりあって立派だよ!良く頑張りましたね!」
全身麻酔?そんなにヤバかったの?
産声聞けなかった。
産まれた瞬間を見てあげれなかった。
抱いて触れてあげれなかった。
無事だと聞いて安心したけど凄く悲しかった。
1番最初の聞く、触れる、抱くが出来なかった。
私は涙が止まらなかった。
待ちに待ってやっと来てくれた赤ちゃん。
その最初を見れなかった私。
自分を責めた。
「藤堂さん辛かったね。でも赤ちゃんも藤堂さんも無事。これから嫌でも泣き声も抱く事もたくさん出来るから。」
そう言ってくれた。
でも私は今もずっと、この時の後悔の様な感情は消えない。
2011年11月
夕方の4時半
3500グラムを越える男の子の赤ちゃんを出産した。

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