第2話

ため息
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2021/06/10 00:34
静かで涼しい部屋。ここは保健室だ。

部屋の端にあるベッドには慧が横たわっており、まだ顔が青白い。呼吸は安定しているが、まだ目を覚ましていない。

保健室の先生は、貧血だと言っていたため大事には至らなかったようだ。
青白い慧の顔よりも顔色が悪そうな玲は静かにベッドの側の椅子に座っていた。

もしかして自分のせいなのではないか。初日からはしゃぎすぎたのではないだろうか。慧が来てくれたことが嬉しくて、ついうざ絡みしてしまっていただろうか。
自分の知らない間に、慧が辛い思いをしていたとしたら・・・?
ネガティブな思考が頭をよぎり、罪悪感に打ちひしがれそうになっていた時、廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

その足音があまりにうるさいというか、焦っている為玲は怪訝に思い、今にも泣きだしそうな顔を上げた。
足音が近づいてきて、ガラッと大きく音を立てて保健室のドアが開く。

息を乱して保健室にかけこんできたのは、創だった。
夜崎 創
夜崎 創
慧!!!!
星山 玲
星山 玲
あ・・・!!創・・・・。
夜崎 創
夜崎 創
玲ちゃん、慧は!?
創の目は最早血走っていて、慧がベッドに寝ていると分かると大股でベッドの側まで来て、慧の顔色を見て顔を曇らせた。

その心配ぶりに玲はますます縮こまり、両手が震えだすのが分かった。
夜崎 創
夜崎 創
慧・・・・。どうして、だって今日は元気そうだったのに・・・・。
星山 玲
星山 玲
・・・っ、ご、ごめんなさい・・・!!
玲は大きな目から涙をこぼしながら謝る。
創は動きを止めて玲をの方を向き、椅子を引っ張ってきて座る。
夜崎 創
夜崎 創
玲ちゃん?どうしたの、そんなに泣いて。何かあった?
玲は泣きながら肩を震わせる。強く握られた拳は、もう指の先が白くなっていた。
星山 玲
星山 玲
あ、あたしの・・・っ、せいなんで、す。きっと。あたしが、無理させ、たから・・・・。
夜崎 創
夜崎 創
そんなこと、玲ちゃんがするはずないと思うけどなあ・・・
創は玲の背中を優しくさすりながら話を聞く。

無論、玲は何もしていない。慧が倒れるほど負荷をかけるようなことはしていないのだ。
創は、目の前で泣きじゃくる心優しい女の子にこう語りかけた。
夜崎 創
夜崎 創
玲ちゃんは本当に優しいんだね。
こういう時、人は責任から逃れるために都合のいいことを考えたりするんだ。オレも時々やっちゃうんだけど。
でも、君はそうじゃない。自分のせいだって思ってるわけだ。ちょっと考えすぎなところはあるけれど、オレは玲ちゃんのそういうところが気に入ってるよ。

自分のせいかもしれないって思えるところがね。
玲はただ泣き続ける。
創の言葉が彼女にどれくらい響いたかは分からないし、的外れなことを言っているのかもしれない。

ただ、創が玲を一生懸命慰めようとしてくれていることは伝わっている。彼女はそれだけでも嬉しかった。
星山 玲
星山 玲
・・・・ごめんなさい、こんな、泣いちゃって。
夜崎 創
夜崎 創
ふふ、いいんだよ。大丈夫!
創は目の前の二人を愛おしそうに見つめる。
三人とも家が近く、幼いころから遊んできた仲だからこそ、確かな絆があった。
創の場合は愛情に近しい何らかの感情を抱いている。
しばらくして、休み時間が終わりに近づいてきたとき、ふいに慧がうめいた。
月島 慧
月島 慧
・・・う
夜崎 創
夜崎 創
慧っ!?
星山 玲
星山 玲
けーちゃん!!
ぼんやりしながらも、慧は目を開ける。


目の前には、涙ぐむ親しい友が二人。
月島 慧
月島 慧
・・・っ、えーと・・・?ほけん、しつ?
夜崎 創
夜崎 創
わあああ慧起きたーー!!良かった、良かったよー!!
月島 慧
月島 慧
・・・うるさい・・・・。
創が慧に飛びつき、慧は創を押しのけようとする。
いつもの光景が戻って来て、玲は治まった涙が再びあふれてくるのを感じた。
星山 玲
星山 玲
・・・っう、うう・・・うううう~~~・・・。
月島 慧
月島 慧
え、なんで玲泣いてんの・・・?なんかあったの・・・?
夜崎 創
夜崎 創
おめーだよ原因はぁ!!もう、心配させやがって・・・・
月島 慧
月島 慧
ええ・・・???
もういつも通りの日常だ。

嬉しそうに泣く玲に戸惑いながらも、なんとか授業には間に合いそうで安堵する慧。
誰よりも嬉しそうに笑う創。
今度は喜びの涙を流す玲。

三人の声が、静かだった保健室に響いている。
星山 玲
星山 玲
ああー、本当によかった・・・。急に倒れたからマジでびっくりした。先生は貧血だって言ってたけど。
月島 慧
月島 慧
貧血・・・?だったかな。貧血とはまた違うような気もするけど・・・先生が言うならそうなんだろうな。
夜崎 創
夜崎 創
え、違ったの?んー、まあでも、前に貧血になったときと様子は大差ない感じだったけど。
月島 慧
月島 慧
じゃあそうなんじゃない?俺も詳しくは分からないし。
星山 玲
星山 玲
ふーん・・・・・

あっ、ねえ、慧は今日クラス戻るの?
月島 慧
月島 慧
一応そのつもり。あ、クラス分からん
そう言って困ったな、と独り言を漏らす慧に、必要以上の喜びを押し殺しながら玲はこう告げる。
星山 玲
星山 玲
ふふん、なんとですね?

あたしと同じクラスでしたーー!!
月島 慧
月島 慧
え、まじ?すごいな
星山 玲
星山 玲
・・・反応薄くなーい!?まあいいけどぉ・・・
保健室に笑い声が響く(主に創)。

これから始まる新生活に緊張しながらも心躍らせる三人。
予鈴が鳴り、小走りで教室に向かう。
月島 慧
月島 慧
・・・二人とも、よろしくな
夜崎 創
夜崎 創
改まってなんだよもー!もちろん、こちらこそよろしく!
星山 玲
星山 玲
・・・おう、よろしく!
創はいつも通り気さくに、玲は少し恥ずかしそうに返す。

楽しくなりそうだ、と慧は頭の中で考えながら、教室へと急いだ。

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