必死であの殺人鬼から逃げる。
少し先を走る新那さんと深良ちゃんの後を追いかけながら、ちらっと後ろを振り返った。
私の目線の先には皆が逃げ惑う中、1人だけ動かずじっと立っている男の子がいた。
その子は立ったままぼんやりと空を見上げている。
──その時、視界の端に男の子に向かって走り出す、殺人鬼の姿が映った。
考えるより先に体が動いていた。
踵を返し、男の子の方へ向かって走る。
新那さんと深良ちゃんの叫ぶ声が聞こえた。
でも、私の足は止まらなかった。
もう一度そう叫ぶと、男の子がこちらを見た。
男の子がそういいながら、私から目を反らすように視線を殺人鬼の方にやった。
殺人鬼の姿を見た瞬間、男の子の顔が強ばる。
私は男の子に駆け寄ると、その腕を引いて新那さん達の方へ走った。
…ジャリッ、ガシャンッ…ガシャッ、ザッザッザッ
後ろから殺人鬼の追いかけてくる足音が聞こえる。
新那さんが遠くで呼んでいる。
ザッザザッ…ガシャンッ
殺人鬼の足音は真後ろにまで迫っている。
そう思い振り替えると、殺人鬼は私たちのすぐ後ろにいた。
全然、距離は開いていない。
殺人鬼が鎌を振り上げる。
とっさに男の子の腕を引いて転がるように横に倒れた。
ザンッ!!!!!
鎌が振り下ろされた。
鎌は、私たちがさっきまで立っていた場所に刺さっている。
とっさに転がったお陰で上手く避けることができたようだ。
鎌は避けられたものの、今ピンチなのは変わらない。
立ち上がって逃げようとするが、恐怖で体が動かない。
横を見ると、男の子も顔をひきつらせ、硬直している。
たくさん纏った布の下から、殺人鬼の濁った目が私たちを見た。
殺人鬼が再び鎌を振り上げる。
覚悟してぎゅっと目をつむった。
──その時
ヒュッ──ガンッ!!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。