僕は家に帰ると、パソコンを立ち上げた。イマドキは珍しいのかもしれないが、スマホよりもパソコン派だ。
このキーボードとマウスの音がとても心地よい。
僕は特に何かを調べる課題も出ていないのだが、無意識であるワードを打ち込んでいた。
゛性同一性障害 ゛と。
カーソルを検索ボタンまで動かしてクリックすると、この障害の定義についての記事が多く出てきた。
その中で、一際 僕の目を引き付けたのは……
「CAN BLOC」というサイトだった。
そのサイトではユーザー同士の悩みなどを聞き合い、交流ができるようだ。
僕は早速、「Kei」というアカウントを作成する。
そして、ある悩みボックスを開いた。
「私はレズビアンかもしれません。男の子には全くと言っていいほどときめかないのですが、可愛い女の子をついつい視線で追ってしまったり、話しているとドキドキすることがあります。気持ち悪いかもしれませんが、私の体験談を聞いてもらいたいです。」
そんな文面のボックスだった。
他にも、僕と同じ 性同一性障害や、他のLGBT。
性別を持たない人や、人を好きになれない人。
たくさんの人の悩みが溢れていた。
きっと、こんな悩みが多いのは、まだこの社会が…この世の中が ゛普通 ゛ということに縛られ、人それぞれの個性を認められる世界になれていないからだと思う。
でも、もちろんその個性を受け止めきれる力のある人間もいる。そして、見ず知らずの他人なら第三者として客観視することで、冷静に対応できる力を持つ者もいる。
そうしたこの世界で、「CAN BLOC」は赤の他人にだからこそ伝えることの出来る悩みを発信できるのだ。
ホーム画面へ飛ぶと、 「CAN BLOC」の定義というものがあった。
CAN BLOCは全世界の人々を救うためのコミュニケーションツールです。ここだからこそ、伝えられる悩みを皆さんで解決していきませんか?
ぜひ、人助けとしてこの世界の未来のために協力しあいましょう。
そういう事が書かれてあった。
だが、この世の中で全ての人が善人なわけではない。もちろん、善人もいる。
それと同時に、悪人だっているのだ。
そうした人を避けるために「BLOC機能」というものもあるらしい。
このサイトでは、個人の自由が尊重されている。
CAN BLOC……僕はこのサイトに夢中になっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!