第12話

好きになりたい
218
2020/11/23 16:48


俺の家に泊まりに来ないかだって…!?

お泊まりとか、それはそれで楽しそうだ。

でも、彼氏の家に行くだけで前に亜美ちゃんからも美嶋だって男なんだ!とか、それこそこはるんからは、エッチしたの?とか、そういう事を言われてきたから、今回の私は、あの時の何も知らなかった私とは心構えが違う。

きっと、泊まりに来ないかって誘ったって事は、大星もそれなりにそういう事を考えてるかもしれない…?

なんて、ただ純粋に泊まりに来ないかって言ってきただけかもしれないけどね。

それに、修業関係なんだからさすがにそういう事は…。

うーん。読めない。

でも、お母さんには大星の家に泊まりに行く!と、ストレートに言ってはいけなさそうだというのは何となく分かる。

なので家に帰ってから、金曜日の夜に友達と集まって大星の家でお泊まり会をするとだけ伝えた。

これで大丈夫!なので大星には、

「お母さんからOK貰えたよ!大星の家でみんなで集まってお泊まり会って伝えてある!」

とLINEを返しておいた。

でも、大星の両親は私が泊まりに来て問題ないんだろうか?念の為その辺も聞いておこうと思って、追加でLINEを送った。

「その日、おばさんとおじさんは?2人に渡すお菓子とか何か良いのないかなぁ?」

と。

その夜、部活終わりの大星からは

「その日、両方いないんだ。」

と来た。


え?じゃあ、金曜日の夜は大星と私の2人きりってこと!?


でも良い。泊まりには絶対行かないと。
もしかしたらその中で、大星の事を好きになるかもしれないじゃんか。

その大星からもう一通LINEが来た。

「その日母親は夜勤で、父親は知り合いの教授のいる、大阪の医大で講演があるらしくて、出張で留守にしてるんだ。」

あぁ、そういう事なんだ…。

「そうなんだ!お医者さんって大変だね…。」

と返信をする。

そのまま私達はしばらくLINEを続けて、金曜日のスケジュールを決めた。




そして迎えた金曜日。私達は大型ショッピングモールにやってきた。隣接して広いインテリアショップがあったりと、見るところがたくさんありそう!

ちなみに大星は買い物したかったものがあると言う。

「夏休みに部屋を片してた時に、なんか部屋にアクセント欲しいなって思ってさ。」

「ええ!?大星が部屋を片した!?あの部屋既に綺麗じゃん。」

「そう?全く見てないのにとってある小学校の時の教科書とか、昔遊んでたおもちゃとか、結構あったんだよ。クローゼットとかにね。後、出窓の部分もゴチャゴチャしてたから片したんだよ。」

「ゴチャゴチャしてたっけ!?」

「してたしてた。」

なんて話しながらインテリアショップの方に入る。広すぎて迷子になりそう。

「それで、なんかいい感じのライトとか、ウォールシェルフ欲しいんだよな。」

「ウォールシェルフ?なんだっけそれ。」

「壁にかける棚だよ。」

「ほぉ!壁に穴開けて付けるやつ?」

「うん。別に家は賃貸じゃないし、何も問題ない。」

「そっかぁ。ウォールシェルフ付けようとか、そういう発想したこと無かったなぁ。」

私と大星は、お目当ての物以外にも、色んな部屋のディスプレイがあったから、そのディスプレイの中に入りながら大はしゃぎ。まぁ、子供のようにはしゃいでるのは私なんだけど。

「大星!この机にこの椅子!なんか社長が居そうな部屋の雰囲気じゃない!?」

「あぁ…分からなくもない。」

大星は私の発言にクスッと笑う。

「どういう社長が居そうなの?」

と、椅子を指さして私に社長を実演しろと遠回しに言ってきた。

「ヤダよ?やらないよ?」

「は?ノリ悪ー。」

部屋のディスプレイは寝室、リビング、キッチン、子供部屋、色んな種類の展示があった。

「可愛い…!子供部屋だよ!?」

なんて、カラフルで可愛い部屋のデザインに私は目を輝かし、勉強机に目をやる。それから引き出しを開け閉めして楽しんでると、

「そうだなー。お前にピッタリじゃん。」

と、また大星にからかわれた。

「何それ!どーゆー意味!?」

「ごめんなー。分からないよなー。小学生だもんね。」

こういうやり取りをしていると、本当に小学生の時の事を思い出す。いっつも大星はこうやって私をからかってきていたな。

最近、大人びた大星を見る機会が多かったから、こういう大星の変わらない一面を見るとなんだかホッとする。

私の知ってる大星だって思える。

それからも他のディスプレイを見ながら、大星は私をからかって笑いつつも、ちゃんとウォールシェルフのかける位置とか、どんな物を上に置いているかとか、きちんとチェックしていた。

だから私も力になれればと思って、

「大星の部屋にこのライトあったらいい感じかもよ!」

と言って、ディスプレイのライトを手に取って大星に見せた。

「あぁ。良いかもな。大きすぎなくて丁度いいかもね。」

「うん!可愛いと思うこのサイズ!」

「うん。俺もこういうの嫌いじゃない。他も見てから決めようかな。」

なんて言いながらもうしばらく歩いた後、中にあるカフェのコーナーで休憩をした。

その時に大星からこんな話が出てきた。

「俺さぁ。最近進路の事考えてて。」

「進路…!?」

「うん。」

言うて私達ももう高2だ。来年は受験生。この間進路調査の紙も配られたっけな。

大星はというと、前にも少し話した通り、お母さんが学業の事にすごく厳しい。大星は医者志望ではないらしいが、お母さんは医者になる前提で大星に学業や進路の事に口出しをしてくるという。

大星、悩んでたもんなぁ。だから私は大星の話の続きを真剣に聞いた。

「最近気になっててさ。こういう仕事が。」

と言う。こういう仕事?

「こういう仕事って?」

「あぁ、それこそ今こうしてインテリア見てるけどさ、俺、あぁいう部屋のディスプレイとか見るの好きなんだよな。」

「へぇ!そうなんだ!」

「うん。インテリアが単純に好きなのか、それこそ空間デザインに興味があるのか、その辺はよく分かってないんだけどね。」

そういえば大星は昔から部屋が綺麗だったし清潔にしていたけど、それだけじゃなくて几帳面に何かをコレクションして並べたり、美嶋家のリビングにあるソファだって、俺がこれがいいって言ったものだって言ってたこともあった。だから、インテリアに興味があったと言われても納得出来る。

「じゃあ大星は、そういう事を学べるような学科を探して受けるの?」

「うん。確定はしてないけどその方向でも考えてみようかなって。ただ、母親がなんて言うかなぁ…。」

大星は頬杖をついて私にそう返す。

「おばさんは、大星が医者になる気がない事は知らないの?」

「知らない。ていうか、俺の話なんて聞く耳持たなくて。学業の事になると口うるさいガミガミババァに豹変するんだよ。俺が医大には進まないって言ったら、どんな顔されるか分からない。」

「おばさん、怒ったら怖そう…。」

でも確かに、部屋のディスプレイを見てる時の大星は楽しそうだった。私も楽しかったけど、大星は楽しいに加えて真剣さも感じられた。

そんな大星に私は尋ねた。

「大星は、どうして医者になりたいと思えなかったの?」

「小さい時はそりゃあ、父さんのように!なんて言ってたけど、でも中学とかになるにつれて、母親の強制感も強くなるし、俺の人生ってなんなんだろうって思う時期が出てきたんだよ。そう思うってことは、俺は医者になりたい訳じゃなかったのかって分かったんだよ。」

「そっかぁ…。そういう事だっんだ。」

「うん。」

私はお父さんは会社員で課長をしてて、お母さんはパート。父親の跡を継いで…とか、そういう環境で育ってきてないからこそ、そういう家庭もあるんだなって新鮮な気持ちで聞けた。

「かと言って、医者になりたくないって伝えた時に絶対母親は、じゃあ何なりたいって言うんだ!?って反論してくるはずなんだ。だから医者に代わる別の目標掲げないと、絶対に納得なんてしない。母親は中途半端が嫌いなんだ。」

「そっか…大変だね…。まぁ、おばさんからしたら大星は一人息子なわけだし、何かと大事だし心配なんでしょう。」

「それは分かってるんだけど、なんかなぁ。それにいずれはちゃんと話さないといけないから、気が重くてね。」

大星は困り顔をしてそう言った。

「それで、大星は医者の進路以外に何かなかったか、模索中って事?」

「まぁ、そんな所。でもインテリアとか空間デザインの事は無理矢理興味示してる訳じゃなくて、部屋片してて思い出したというかさ。昔家族で、新しく家を買うわけでも無いのに、近くにあった住宅展示場に俺がお願いして連れて行ってもらったりしてたんだ。だから別に、興味が無いわけじゃない。それに今日こうして部屋のディスプレイ見てて、やっぱりこういう場所に来るの好きだなぁとか、こういう空間創るの面白そうとか、そんなこと思いながら見てたよ。」

大星はカフェの席から、部屋のディスプレイがあったスペースの方を眺めてそう答えた。
でも大星はおばさんの事を気にしているからか、またしても、

「でも、やるからにはどうする、とかそういう細かいビジョンくらい無いと、母親は納得しなさそうだから、どう伝えるか考えてる。」

と、おばさんのことを口にしていた。
そんな不安そうに思っている大星に私は背中を押すためにこんな事を伝えた。

「大星なら大丈夫だよ。」

「え?」

私は大星の手を握る。

「だってこれは、おばさんの人生じゃなくて、大星の人生なんだから。大星の好きな事をすればいいと思う!だって、人生1度きりじゃん!きっとおばさんも分かってくれるよ。」

それを聞いて大星はホッとした表情で、

「…ありがとう。」

と言ってくれた。

「まぁ、多分父親は味方してくれると思うけどね。基本承認主義だし、医者になれなんて強制された事も1度もないんだ。」

「そうなんだ。それならおばさんに話する時に、おじさんもその場に居てくれた方が安心できそうだね。」

「そうだな。」

大星は私の頭をポンと触って、

「進路についてはもう少し考えてみる。それから粗方考えが固まったら、両親には話してみるよ。」

と言った。

「うん!」

それから飲み物を口にした後、大星には

「千紗乃はどうするの?」

と聞かれた。

「私?私はそうだなぁ、美大とか受けてみようかなって考えてる。」

「お、さすが美術部。目星はついてるの?」

「まだちゃんと見てない…。」

「そうか。まぁ、3年になったらすぐに進路調査の紙もまた出さないとだし、受験対策の話もされるだろうから、それくらいにはもう学校絞ったりしておいた方が良いよ。」

「だよね…そうする!」

大星はしっかりしてるなぁ。そんな感じで2人で進路の話をした後、お買い物再開。大星は自分好みのウォールシェルフも、ライトも買う事が出来た。

私もついでに、部屋に飾るコットンボールランプを買った。

大星には、

「お前それ買って満足して飾らないまま放置しそうだな。」

と笑われたけど、いや、絶対この土日で飾ってやる!

他のお店にも足を運んで買い物を楽しんだあと、泊まりの為にまとめておいた荷物を取りに行く為に、自宅に1度戻った。今日買った物は家に置いてこう。

大星の家に行くの、緊張する…!

イツメンのLINEには、頑張れとか、楽しんで!のスタンプがたくさん届いていた。


それからその夜、大星の家へ。

「お邪魔します…。」

「どーぞ。」

大星の部屋に荷物を置きに一緒に部屋に入った。

「風呂と飯どうする?」

と大星に聞かれた。

「あ!しまった!お風呂入ってきてから来た方が良かった?」

「あ、いや、どっちでも良いよ。」

「それなら、後で借りていいかな?」

「はいはい。飯は?」

「ご飯どうしようかね…。」

「悪いな。俺がなんか作れれば良かったんだけど…。」

実は大星、勉強もスポーツも出来て成績優秀でほとんど成績が5ばっかりの中、家庭科の成績だけ上がらないと嘆いていた。とはいえ3以上らしいけどね。

「大星料理作れないんだね!調理実習でいろいろやってきたのとかあるじゃん。」

「そんなの忘れたよ。俺、そんなに調理実習好きじゃないし…。玉ねぎみじん切りとか、実技試験対象になったやつしか出来ないんだ。」

という事だった。

「あの…なんか作る…?」

最近お弁当も作り出したし、少しなら自炊はできる。でも大星は、

「お前に怪我されても困る。なんか出前でも取るか。俺が出すよ。」

と言ってきた。

「大星、包丁くらい使えるよ?」

「良いから。万が一怪我したら後味悪いじゃん。」

という事で結局ピザを頼む事になった。

ピザが来る前にお風呂を借りる事にした。

「大星、お風呂お先です。」

「はいよ。」

大星はリビングのソファに座りながらテレビを見ていた。美嶋家のテレビは大きいなぁ。画質もすごく綺麗。

「相変わらずテレビ大きいよね。テレビ何インチあるの?」

「さぁ?70インチくらいはあるんじゃん?」

「70!?」

「うん。」

そこで昔みんなで大星の家でゲームをして遊んだ時のことに触れた。

「そりゃあみんな大星の家でゲームしたくもなるよね。こんなにテレビ大きいと。懐かしいなぁ…!楓ちゃんとか、美紀ちゃんとか、智也くんとかそれこそ奏太とかも呼んでワイワイしたよねー!奏太激弱だったよね!」

…しまった、また奏太の名前を出してしまった。

そうこうしていたら、家のインターホンが鳴り、ピザが届いた。それから飲み物も用意して、ソファの目の前のローテーブルにピザもお菓子も置いて、パーティーのように飲み食いした。

大星とはソファに隣同士に座りながら一緒にテレビを見た。

「ピザのゴミ大丈夫?私が来てる事おばさん知らないんでしょう?」

「あー、いいよ。別に詮索とかしないし、それにピザの入れもんのゴミなんて、水かけてふやかして丸めれば、ちっちゃくなるから。」

「え!?そうなんだ!!うちは畳んで捨ててたよー。」

「じゃあ後で実演だな。」

こういう会話、日常って感じがしてほっこりする。

もし仮に、私が将来大星と結婚したら、こんな風に会話をして、一緒にテレビを見たりするんだろうか…?


なんてぼんやり考えた。


ある程度食べ終わった時に、


「千紗乃?」


と呼ばれたから大星の方を見ると、


不意打ちで唇にキスをされた。



私は驚いて目を丸くする。


「ごめん、驚いたよな。」


「う…うん。」


あぁ、私は最低だ…。


だってこんな時に、



ここに一緒に居るのが奏太だったらどんな感じだったんだろうって考えてしまっているんだから。



大星はそうとも知らず、私の頭を優しく撫でる。

「ピザもう食わない?食わないならラップしてしまっちゃうけど。」

「あ、うん。明日の朝にでも食べるよ。」

「うん。分かった。じゃあちょっと、さっき話したやつやるから台所来て。」

大星はそう言ってピザの入れ物ごと持って台所へ移動した。



私、お願いだから今日だけでもせめて、奏太のことを思い出さないで…!!


それから夜の11時過ぎ。ご飯も食べ終わって、テレビも見て、少しゲームをして遊んで、大星はお風呂に入りに行った。

さっき、客間に布団敷くみたいな話されたけど…


私は大星の彼女だ。


そうだ。大星を好きになるんだ。


大星にも好きになってもらって、


もう、本当のカップルになってしまえばいいんだ。


それから大星がお風呂から出てリビングに戻って来た時に抱きついてみた。

「…どうした?」

私はもっとギュッと力を入れて大星にしがみつく。





「大星…一緒に寝たい。」






大星はそのままゆっくり腕を回してくれて、何も言わずにその場で私達は少しの間抱き合った。

それから大星から口を開く

「……じゃあ、客間じゃなくて寝るの、俺のベッドで良い…?」

「うん。」

「……分かった。先に部屋で待ってて?髪乾かしてきちゃうね。」

大星はちょっと優しい口調でそう言うと、洗面所に戻って行った。







『千紗乃…今のは反則だって……。』





10分くらいして、大星が部屋に上がってきた。

「あ!そうだ。千紗乃、これ置いてみるか。」

大星は今日買ったインテリアショップの袋からライトを取り出した。

「あ!置こう置こう!」

ウォールシェルフの方は、今の時間だと壁に付ける時の音が近所に響くと迷惑なのでやめた。大星はライトをいい感じに出窓においた。ここならベッドからも手に届く位置だし、部屋の雰囲気にもあっている。

「私も早く飾らなきゃ!」

「ホントに!?」

「失礼な!ちゃんと付けるよ!」

「はは。仮に飾ったとしても、その後電球点かなくなったらそのまま取り替えなさそうだなお前。」

失礼しちゃうなぁ。大星は私をガサツな人だと思ってるみたいだ。

「ちゃんと取り替えますー!」

それから、大星とはしばらく学校の話をした。イツメンのみんなから話してもらった彼氏さんとの話とか、文化祭お互いのクラスは何をやるのかとか、そんな話をしていたら30分以上が経った。

「もう11時半前か。」

と時計を見て大星。

「そういえば明日おばさんは何時に家に帰ってくるのが?」

「明日は朝の10時くらいじゃないかな?」

「あ、意外と早い…。聞いといてよかった。じゃあおばさんが帰って来るまでに出ないとね。」

「ごめんな、急がせて。」

「大丈夫だよ。」

それに、明日は午後から大星も部活があるようだ。なのでこのまま寝る事になった。

大星は私を奥の壁側に寝させてくれた。

「お前寝相悪いんだろ?お前がこっちだと朝落ちてそうだもんな。」

「大星が私に落とされてるかもよ?」

「それは勘弁だわ。」

なんて言いながら大星は普通に接してくる。何もしてこないから驚いた。

「ベ…ベッド意外と広いねぇ…。」

「あぁ、これセミダブルだから。」

「贅沢だね!大星1人でセミダブルなんて。」

「これくらいゆとりあった方が良いんだ。」

「へぇ…。」

そこから会話が一旦止まり、沈黙した後、大星は電気を消すためにリモコンを手に取った。

「暗さどれくらいがいい?」

と私に聞いてきた。

「俺、豆球でも暗いやつでもどっちでも寝れる。お前普段どっち?」

「え……あぁ、そうだなぁ。どっちでも…。」

「そっか。」

そう言って大星はリモコンで部屋の明るさを豆球に切り替えてから、

「お休み。」

と言ってリモコンを壁に引っかけ、私のいない反対方向を向いて寝てしまった。

「えぇ…!」

とつい声を出してしまった私。

「……何?どうした?」

とぶっきらぼうに大星。

「いや…えっと……。」

いけ、行くんだ千紗乃。これじゃ何も進展しないぞ…?

私は大星に後ろから抱き着いた。


「え…!千紗乃…!?」

「大星、こっち向いてよ。」

「なんだよ…どうしたんだよ。」

大星は寝返りを打ち私の方を向く。

「……まだ……寝たくない。」

大星はフッと笑った後に、

「このセリフ漫画のやつが使うと思ってたけど、こういう時に言うのか。お前熱でもあるんじゃないの?ってね。」

と私のおでこに手を当てて小馬鹿にしてきた。

「大星、真面目に聞いてよ…。」

そして私のテンションから空気を読み始めた大星は、私のおでこに当てていた手を離した。

「千紗乃…どうした?ホントに。」

と大星に尋ねられたから、

「カレカノの夜ってさ…こういう感じなの?」

と返した。

大星、私は大星と先に進みたいの。でも、私には何をしていいか分からない。お願い大星。


大星の事を好きになりたいから…。

「……本当にどうしたよ?」

「いや…その……。」

えーっと…こういうのなんて言うんだっけ…?私は絞り出した言葉をそのまま伝える。

「大星と…イチャイチャしたい。」

「は?」

大星は唖然としている。私は緊張して目をギュッと閉じた。
大星はため息をついて、

「お前、また原西達になんか言われた?」

と尋ねてきたから、

「言われてない!」

とハッキリ答えた。

「せっかく今一緒にいるから…少しでもカップルらしい事したいなぁ…って。」

「…それはお前の意思?」

「うん。」

それから大星は優しく私の髪を撫で、

「ごめんな、千紗乃。本当は俺もそうしたかったんだけど、千紗乃に嫌がられたくなくて慎重になってた。」

と言ってくれた。

ダメなの。大星。大星の事好きになりたいし、大星に私の事も好きになってもらわないと…。じゃなきゃダメなの…!

だから私は緊張しつつも初めて自分から、大星の唇に一瞬だけ、軽く触れるようなキスをした。

「千紗乃…。」

そんな私の行動を見て、大星も私を抱き締め、その後私にキスをしてくれた。

キスは30秒以上ずっと続いた。

その後私達のキスはもっと激しくなって…。


この間大星が花火大会の帰りにしてくれた、舌を絡めるキスをしてきた。

あぁ…大星……。


大好き…大好き…大好きだよ……。

そう唱えていたら、本当に好きになれるかな?

でも、大星とのキスは全然嫌じゃない。

むしろ気持ちがいい。


お互いに声を漏らしてしばらくキスを続けた。気が付けば大星が私の上に乗っている状態になった。

だから私は言った。





「大星とこの間の続きがしたい…。」



でも大星はこんな時でも冷静だった。

「…は?お前言ったよな?それは本当に好きなやつとしろって。」


それに対して私は咄嗟に大星にこう伝えてしまった。



「好き!大星!」




大星はそれを聞き固まる。




「…ねぇ、私達付き合って4ヶ月くらい経つし…。そろそろ…もっと先に進みたい。」



そう伝えても大星は手を出してこない。



だから私は大星の手を掴み、それを私の胸の膨らみの上に置いた。



「いいよ…大星。私は…大星としたい。」


少しピクっとその手は動いたけど、大星はそのまま私の上からいなくなり、起き上がってベッドに座りこんだ。

「お前、本当に変だよ。」

私も起き上がって、すぐに大星に抱き着いた。


「大星…もう好きな人が出来るまでとか…そういう条件要らなくない…!?」

「え…?」

「私…ずっとこのまま大星と一緒に居たいな。」


ー美嶋とはもう別れるべきだと思う。


ーそりゃあ、別れるんだから、もう元の関係には戻れないでしょうね。


この間の亜美ちゃんから言われた言葉をこのタイミングで思い出し、私はつい大星の前で泣いてしまった。


「千紗乃、それなんの涙?」


「決まってるじゃん。これからも大星と一緒に居たいって涙。」


そう言ってるのに大星は、

「千紗乃、今日はもう寝よう…。」

と言って、また元の位置に寝そべってしまった。

「大星…!なんで……。」


「なめんな。何年の付き合いだと思ってんだ。お前が無理してる事くらい1発で分かる。」


「大星…違う…!」


私は慌てて布団に潜ってもう一度大星の事を抱きしめた。

「大星…お願い。こっち向いてよ…。寂しいよ…。」

でも大星は、


「千紗乃は嘘つきだ。」


と言ってきた。


「お前、自分の意思なのかってさっき俺が聞いた時、うんって答えたくせに、全然じゃん。無理してる奴をこれ以上抱くことなんて出来ない。」

「無理なんてしてない…!」


大星を抱きしめる力を強めたけど、


「ウザイ。」


って、手を払いのけられてしまった。


「触んな。」


こんなに冷徹な態度を取られてしまったから、これ以上は行くに行けなかった。



「大星…ごめん。」



大星、あなたは私の何を読み取っているの?

あなたは私の事、どこまで知っているの…?





それから朝になり、ハッと目を覚ますと横にいたはずの大星の姿が無かった。



「へ…?大星!?」


慌てて大星を探し始めた。見た感じ2階はいなさそう。1階に居るってことかな?


もし1階にも居なかったら…?なんて不安も走った。


でも、


「おはよう。起きたか。」

と言って大星がダイニングテーブルの所で朝ごはんを食べていた。朝ごはんと言っても、昨日のピザの残り。後はグラノーラを食べていた。

「お…おはよう。」

時間は8時。大星はいつもこれくらいに起きるのかな…?

「千紗乃、まだ寝ててよかったのに。9時くらいまで寝てても問題無いよ。まだ眠かったらベッド全然使ってもらっていいからさ。」

と大星はグラノーラを食べながら私にそう言ってきた。

大星は普通の態度だった。良かった…。大星に嫌われたかと思った。

「いや…大丈夫……。」

「そう?まぁ、もう少しゆっくりしてって。親から帰宅するってLINEまだ来てないから。」

「……LINE来ない事はないの?」

「いや、この後俺も部活で家出るからさ、母親の帰りが遅くなるならエアコン1回消しちゃうし…とか思って。だからLINEくれって言ってあるんだよ。」

「あ、そうなんだね。」

「うん。」

それから大星にダイニングテーブルの所に座るよう言われ、大星の席の向かい側の椅子に腰掛けた。大星は私の分のピザを用意すると言って台所へ。

「お前もグラノーラいる?」

「…あ、じゃあお願いします。」

「おけー。」

大星、昨日の夜の事何も触れてこない…だから逆に怖かった。

私は大星に勇気を出して話を振った。

「昨日の夜は…ごめんね。」

と言うと、

「あぁ…俺もごめん。せっかく千紗乃が甘えてくれたのに。」

と、謝ってきてくれた。

「あぁ…良かった…。大星に口聞いて貰えないかと思った…。」

「そんな事しないよ。不安にさせてごめんな。」

それから私は大星のいる台所に行き、大星の手を優しく握った。


「大星、キスしてもいい…?」

「うん。良いよ。」

私達はそっと唇を重ね合わせ、離してはまた触れて、また離しては触れて…。そんなキスを何度も繰り返した。

大星とのキスは本当に心地が良くて、ついうっとりしてしまう。



ー大星の気持ち、確かめないとだよね?


ーうん。絶対その方が良いよ!


そうだ。あの時亜美ちゃんのバイト先でみんなで話した事を思い出した。

結局、大星の気持ちを聞けずにいる。

うーん…聞くの勇気いるなぁ…。


でも、あの時は奏太じゃなく大星の事が好きだって話だったからこそなった流れであって…。

どんな気持ちで大星が今私にキスしてくれたりするのかはすごく気になるけど…


なんだか今知ってはいけない気がした。


ただ、これだけは確かめたい。


「あのさ、大星。」

「ん?」

「大星は、どうして私を泊まりに誘ったの?」

「え…?」

「いや、あのね…前にこはるん達に、テスト勉強のために大星の家に行くって伝えた時に…大星も男なんだから…そういう展開になるよ的な…事を言われたの。だからつまり…えっと……今回私を呼んだのも…」

とたどたどしく話していると、

「それ以上言わなくていいよ。分かった。言いたい事は読み取れたから。」

と止められた。

その後ちょっと意地悪そうに、

「もし、そうだって言ったらどうする?」

と聞かれた。でも、そんな大星の言葉にどう返していいか分からなくて、私はその場でうーんと唸るばかり。すると大星に笑われ、

「ごめん困らせて。」

と頭を撫でられた後に、

「単純に、両親どっちも居ないなら、千紗乃呼んで2人で過ごしてみたいなって思っただけだよ。」

と言われた。

恥ずかしい…。大星は別に私としたいとかは考えていなかったんだ…。

「千紗乃、飯食っちゃおうぜ?座って待ってて。てか、俺のグラノーラふやけてるわ絶対。」

なんて言ってクスっと笑う大星。私はうんと返事をして席に戻った。

それから朝食を食べながら談笑し合って、あっという間に大星の家を出る時間になった。

「送ってやれなくてごめんな。」

「ううん。大丈夫!また月曜日ね。部活も頑張って!」

「ありがとう。また来いよ。」

「うん!」

私は大星に優しくキスをされて、

「じゃあね。また月曜。」

と言われた。

「うん。お邪魔しました。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

千紗乃が家を出た後、俺は玄関にしゃがみこんでため息をついた。


千紗乃…お前、あの様子だときっともう気付いたんだろ…?自分が今好きなのは奏太だったって事。


それで、今後の俺との関係が心配であんな風に無理してたんだろ…?


それに気付いてるのに千紗乃を手放せない俺は、





本当にずるい奴だ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そんな事があっての数週間後、
青南高校の文化祭の日がやってきた。






続く

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