第22話

別れ
206
2021/02/11 15:10



入試も終わって文化祭。

去年の文化祭からもう1年が経つんだなぁ。

大会の準備で忙しい中、奏太が友達を連れて遊びに来てくれた。

奏太とは失恋してからというもの、お互いに受験勉強やら、奏太は大学生との練習もあったりして、なかなか会えていなかったけど、このまま会わずに疎遠になってしまうのは寂しいので、勇気をだして呼んでみたんだ。

それに、奏太は誕生日が5月だったのに、引かれたら嫌だ…とか、怖がって行動できなくて、買ったまま渡せていなかったプレゼントがあったんだ。

だから、このタイミングで奏太にはプレゼントを渡した。

「千紗乃!ありがとう!」

奏太にはメガネケースをプレゼントした。

そんな奏太は関東大会で結果を残し、来月インターハイに出るそうだ。開催地は遠くて今年は群馬の会場でやるらしい。

「応援に行きたい!!」

と言ったが、

「遠いし無理せんでいいよ!」

と言われた。

近況としては、推薦入試が再来月あるらしいから、奏太のこの2ヶ月は怒涛のラッシュになるみたいだ。

奏太とは落ち着いたらまた会おうって言う話に落ち着いた。



今年のうちの組は体育館でのダンスメドレー祭り!と言っても私はダンスも歌も別に上手くないから、衣装や照明の裏方に回った。

軽音楽やダンス部、演劇部の子を筆頭に作ったこのステージは最高の盛り上がりを見せた。なんだかちょっとしたフェスみたい。

それから、別の組は男女逆転劇をやるというから、気になって見てみると…?


「え!!」


主人公の女の子、めちゃくちゃ可愛い…!
でも男女逆転劇なんだから、あれは男の子なんだよね…?とか思ってよく見てみると、正体は大星だった!!

私は一緒に来た由香っちと和ちゃんと叫び声を上げた。


「美嶋って女子になってもあんなに可愛いのね。ずるっ。」

と由香っちがなんだか妬んでいるみたいだった。


そして、文化祭終了と同時に美術部の引退を迎えた。

「みんな、ありがとう!」

文化祭終了後に花束と色紙を貰い、みんなで大泣きした。

帰ったらこの色紙を部屋に飾ろう。

陸上が出来なくなって妥協な感じで入った美術部だったけど、毎週火曜日が楽しみでならなくなったし、絵を描く楽しさも倍増した。

こんな風に思えたのも、同期のみんなと私たちを育ててくれた先輩や、ここにいる後輩たちのおかげだ。

「先輩方!引退後もお時間ある時に是非遊びに来てくださいね!」

と、新しい2年生の部長からも言って貰えた。



文化祭が終わってから少しして、家に大学の合格通知が届いた。

リビングでお父さんお母さんに見守られながら封筒から通知書を取り出して、ゆっくり慎重に開ける。でも、横から入ってきたお姉ちゃんに、

「おっっそ!早く開けよ。」

と通知書をぶんどられて、思い切り開かれたのを覚えてる。

「千紗乃ー!!合格じゃない!!」

「やったー!良かったなぁ!」

「あぁぁぁ、良かったぁ…!!!」

ちなみに玲ちゃんも合格の通知が届いたそうで、晴れて私は春からは玲ちゃんと一緒にキャンパスライフを送れることが確定した。

10月には由香っちもAO入試を終えて、見事合格したみたいだった。和ちゃんは11月に推薦入試。

一般入試組は亜美ちゃん、こはるん、大星と言ったところか。この3人は1月に試験がある。



去年の今頃は、修学旅行で札幌にいたのにな。今年1年は本当にみんな忙しいね。


そんな時、10月15日を迎え、みんなから誕生日プレゼントを貰った。その日にまさかのサプライズが…!

「千紗乃、おかえりー。」


「え…えええ!!!?」


家に帰るとリビングに奏太が居た。


「どどど…どういう事!?」

慌てる私。するとお姉ちゃんがリビングに入って来て、

「あぁおかえり千紗乃。奏太連れてきちゃった。」

「連れてきちゃったじゃないよ!!奏太、来週大会だよ!?」

「えー!明日は買い物したいから奏太を荷物持ちに…」

「なんて事を…!!そんなの彼氏さんに頼めばいいじゃん!」

「別れたわよこんちくしょう!!それに、最近奏太にも会えてなかったから、私が車走らせて連れてきちゃったよ。」

お姉ちゃんは本当に大胆な人だ。奏太もお姉ちゃんの圧にやられたんだろうな…。

ん?明日?

「奏太、もしかして泊まるの…?」

するとお母さんが、

「当たり前じゃない!!こんな夜遅くに帰すなんてバタバタさせちゃうでしょう?」

と言う。お姉ちゃんもそれに続き、

「そうよ。明日合流すんのも面倒だし、一緒の場所から出発した方が良くない?」

と言った。

それからお父さんもごく自然に奏太に話しかけ、なんだかうちの家族がもう一人増えたみたいな感覚になった。


「千紗乃、あんた明日暇でしょ?着いてきなさいよ。受験だって終わっただろうし、誕生日プレゼント買ってあげるわよ。」

「え!ホントに!?」

「気が変わらないうちに明日来る事確定させなさい。」

ちなみに奏太は私が合格した事はLINEで報告していたから知っている。

「千紗乃、せっかくじゃけぇ一緒に行こうや。」

という事で明日は3人で出かけることになった。

それから、奏太も入れて5人。私の誕生日をお祝いしてくれた。なんと奏太がケーキを用意してくれたそうだ。

「千紗乃、見てよ。奏太が選んだケーキの割にはセンスいいと思わない?」

「俺が選んだ割にはって失礼やのぉ。」

お父さんお母さんからも、奏太からもプレゼントをもらっちゃって、なんだか幸せな誕生日会だ。

すると、お姉ちゃんが

「ちぇー。アイツノリ悪いなぁ。」

とスマホを眺めて言い出すから、何かと思って聞いてみた。

「ん?大星。アイツに今写メ撮って千紗乃の誕生日パーティー中ー!奏太今日泊まるんだー!あんたも来ればー?って送ったのに、「千紗乃は受験終わって良いなぁ」しか返信して来ないの!なんなのもう。大星、もっと昔は可愛かったのにな。」

とお姉ちゃん。

仕方ないよ。大星だって忙しいんだ。

しかも、ご丁寧に奏太が泊まること言っちゃうなんてね。

大星は彼女さんいるし、もう前程私と奏太が一緒にいるのは気にしないはずだけど…なんだか私が知られたくなかった気もする。

大星は来ないかぁ。確かに、ここに大星が居たらもっと楽しかっただろうに。


そんな大星からは学校で誕生日プレゼントを貰っていた。今年の3月くれたからって事みたいだ。

中身は手袋だった。ミトンのモコモコの手袋だから冬場絶対に温かいはずだ。


大星、ありがとうね。大事に使います。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

奏太が家に泊まる…?

あぁ、やっぱり千紗乃と奏太、上手くいったってことだよな?

彼女んちに泊まりに来たって感じか。

最近奏太とはLINEもしてなかったから近況は聞いてないし、千紗乃も奏太の事を俺に話してくるわけがない。

でも、上手くいってるみたいで何よりだよ。



千紗乃。良かったな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日、お姉ちゃんの買い物にたくさん付き合わされたけど、お姉ちゃんからは新しいカバンをプレゼントしてもらった。

気前が良かったのか、奏太にもプレゼントをしていた。奏太が気になったランニングシューズを試着して、それをお姉ちゃんが買ったのだ。

そんなこんなでドタバタとした一日が終わり、私を先に家でおろしてから奏太を送る話になっていた。

それからお姉ちゃんにこんな事を提案してみた。

「お姉ちゃんさぁ、車運転できるなら、来週奏太の陸上大会の会場に連れて行ってよ。」

と提案したが、場所が群馬と聞くと、ふざけんなと言って聞く耳を持ってくれなかった。


やっぱり無理か…。と思ったけど、



お姉ちゃんは本当に気まぐれだ。土曜日の朝になってお姉ちゃんがいきなり私を起こしてきた。何かと思えば、

奏太の応援行くんでしょう?

と言ってきた。

私は飛び起きて急いで支度をして、奏太の応援にお姉ちゃんと出かけた。

朝早くに出発したから、道路が混む前に到着出来た。奏太に会場名予め聞いておいてよかった。LINEもさっき見たようで、私達が今群馬にいる事を驚いていた。



そして開場。

奏太が陸上に懸けてきた想いを胸に、爽快に走り出す。


「奏太ー!!!!」

「いけごる゛ぁぁぁ!!!!」


お姉ちゃんと私で白熱した戦いをスタンド席から大声で応援をした。


400mリレーのタイムは今のところ奏太達の学校が暫定1位。


しかし、やはり全国は甘くない。

その後タイムは抜かれ、奏太達の学校は3位に終わったのだ。


チームメイトと悔し涙を流し、藤ヶ谷高校陸上部員として最後の大会を終えた。

後で私とお姉ちゃんの所にも会いに来てくれて、


「ありがとう…。本当にありがとう!」


と深々と頭を下げて、涙を流した奏太。私も奏太を見てもらい泣き。完全に大泣き状態だ。

私は奏太を抱きしめて、

「よく頑張ったね…!!」

と伝えた。


結果は3位だったけど、本当に奏太はたくさんの努力を重ねてきたからこそここまで来れたんだと思う。

あなたが居たから、私は陸上の楽しさを知れたんだよ。あなたに憧れて居なかったら、私は始めてなかったから。

陸上との出会いをくれた奏太には感謝しかない。私こそ本当にありがとう。



その後奏太からは、無事に志望校に推薦で合格したと報告が来た。



それから12月。クリスマスになった。

受験シーズンも大詰め。みんなは今年はクリスマスに集まったりするの控えるのかな?と思ったけど、

彼女らはそんなこと無かった。


クリスマス当日はそれぞれ、彼氏に会うって事だったけど、イヴはみんなで盛り上がろうと言う事だ。

すると、由香っちが私と亜美ちゃん、こはるんにこんな話を持ちかけてきた。

なんと、由香っちの彼氏の絢斗くんが、近くのカラオケ店の大部屋で、青南に通ういろんな友達集めてクリスマスパーティーを開催するらしい。

「30~40人くらいは入れる部屋らしいよ。」

「え!広い!!」

という事でそのパーティーにみんなで行ってみることにしたけど、

「あ、みんな、一応参加するにあたって、プレゼント交換をするから上限千円でプレゼントを用意してきてね!って言ってた!後はコスプレする事!だって!」

「コスプレ!?」

「うん!サンタコス!クリスマスに関連してれば何だっていいのさ!」

という事で、由香っちと一緒に当日のコスプレ衣装とプレゼントの買い出しに出かけた。

亜美ちゃんとこはるんは持っているらしい。去年何かの会に行って着たりしたのかな?


当日、無難なサンタの衣装を着て会場入りしたけど、亜美ちゃんに怒られた。

「千紗乃!あんたはなんでこんなに可愛くて綺麗なのにトナカイ着ぐるみ選んじゃうかなぁ?由香!一緒に選んだなら否定しなきゃダメでしょ!」

「えぇ…!?」

ちなみにこはるんも亜美ちゃんもだいぶセクシーな感じのサンタコスだ。

すると、

「こういう事もあろうかと、私のお姉ちゃんのサンタコスも借りてきたから、千紗乃はこっちに着替えなさい。」

と、カバンから別のサンタコスを出してきた亜美ちゃん。そのまま着替えに連れていかれた。

「な…何これ…!!」


オフショルのワンピース型で肩が全部出てるし背中もめちゃくちゃ見える…!丈も短いよ…。

「亜美ちゃん…ブラ紐見えるよ…。」

「ヌーブラあるよ?付けてきな?」

「えぇ…!?」


という事で亜美ちゃんに修正させられたサンタコスと、化粧もしてもらった状態で会場に戻ると、みんながざわめいた。

「ちーちゃん可愛い!!」

「千紗乃ちゃん超美人じゃん!!いいなぁ!私もそんな風に可愛くなりたい!!」

それに、違うクラスの男女からも声をかけられた。

これ、会が終わるまで気が気じゃないぃ…!!


そういえば、大星は来ないのかな…?

「ねぇ由香っち。絢斗くんと大星って仲良いんだよね?…来るかな?」

「えー。どうだろうね。絢斗に聞いてみようか?」

という事で、大星から出欠を聞いてるか、一緒に聞きに行ってもらうと、

「大星!?アイツ行けたら行くとか言ってそのまま音沙汰無いんだよ。電話してみっかな。」

と言って大星に電話してくれた。

「大星お前、いつくんの!?」

その時絢斗くんが、

「お前の彼女の長瀬さん?超可愛いコスプレしてるよ?良いの?」

と言ったから、私は慌てた。

もう、大星とは既に別れてるんだけど…

由香っちは、電話が終わったあとに絢斗くんに馬鹿野郎と怒鳴って蹴りを入れていた。

「お前ってやつはホントに…!」

「すまんすまん!!由香から聞いてたのに忘れてたよ…。長瀬さんごめんな。」

「いや、私は別に…。所で大星はなんて言ってた?」

「え、長瀬は彼女じゃねぇよって言われてじゃあなって切られた。」

「美嶋のやつ…。」

大星はやっぱり来てくれないか。

せっかくならこの格好、大星にも見てもらいたかったな。


それから会終了の30分前。誰かが部屋に入ってきた。

「絢斗。」

部屋の入口のドアを見るとそこには大星が腕を組んで立っていた。

「おお!大星!!」

靴を脱いで椅子の上で跳ねて、今別の子が歌ってる曲の合いの手を打っていた絢斗くんはぴょんと椅子を下りて大星の元へ。

「お前、なんで制服!?コスプレは?」

「はぁ?仕方ないだろ塾帰りだよこっちは。」

との事。

「ちーちゃん、美嶋じゃん。一緒に美嶋んとこ行こ?」

そう言われて由香っちに手を引かれる私。

でも、大星は人気だから私が行くより前に他の男女が大星を取り囲んでしまった。


「うわ…美嶋ってすごいモテるね。」

結局大星とは会の中で話すことは出来なかった。


一瞬、目は合ったけど、私が大星に近付こうとしたら、別の子に先越されてしまった。



それから、着替えてお店を出て外で亜美ちゃんとこはるんと話していると、

由香っちと絢斗くんが大星を取り押さえて出てきたのだ。

「ねぇねぇ、美嶋がまだ遊び足りないってさ!!」

と由香っち。

「はぁ?」

「大星、いいじゃん。ちょっとまだ時間あるだろ?遊ぼうよ。」

という事で女子4人と大星と絢斗くんという変な組み合わせで一緒に近くのスケートリンクへ。

「あー!くそー!トリプルアクセル出来ねー。」

「プロじゃあるまいし出来るわけあるかい。」

と絢斗くんに由香っち。みんな滑れて良いなぁ。実は私、



滑れません。



小さい時に滑れなかっただけだから、今ならどうだろうと思ったけど、そこは変わらなかった。

「千紗乃ちゃーん…怖いよぉ…。」

こはるんもいざ初挑戦してみたら怖くて滑れないみたいで、私とこはるんはお互いに手を握り合っている。

「何やってんの坂崎さんたち。」

と大星。するとそこへスイスイ綺麗に滑る亜美ちゃんがやってきて、

「小春、私が教えてあげるよ!美嶋、千紗乃頼んでいい?」

と言って亜美ちゃんはこはるんの手を取った。

「え、あぁ。」

という事で私は大星から教わる事に。まさか勉強以外でも教わるシチュエーションが出てくるなんて。

「大星こわいーー離さないでーー!ぎゃー。」

私と大星は向き合い、大星が私の手を引っ張ってくれている状態になっている今。全然足も氷から離せなくて何も出来ない。ツルリと後ろにコケそうだ。

「お前危ないって!!!とりあえず後ろには重心かけんな!」

「じゃあ、前!?うわぁ!」

そのまま大星毎巻き込んで前に倒れてしまった。

「いっった。ふざけんなよもぉ…。」

「ごめんなさいーー。」

「お前、陸では走れても氷の上はダメなのな。」

「えーん!勝手なんて違うに決まってるよー!」

それから大星に手を取られて立ち直し、

「じゃあ、こうしよう。」

って大星の右手が私の左手を握る。

「お前は右手でそのまま手すりに掴まってろ。滑るぞ。」


ゆっくりではあったけど、少しずつ滑れるようになって来て、感覚をつかみ始めた。

右手も手すりから離してみて、今は大星の手だけを握っている。

「大星ありがとう…!」

「ん?もう平気か?」


なんて、大星は意地悪をして私の手を離してくる。

「あぁあぁ!!それはまだ早い!!あぁぁ!!行かないでー!!」

大星はそんな私を見てケラケラ笑う。

「あー面白い。」

「面白くない!!」

その後大星は何だかんだでまた手を握ってくれて、

「俺居ないとまだ無理か。」

と微笑んだ。

「うん…。」

少しまた滑った後、大星が小さい声でこう話しかけてきた。


「さっきのサンタコス、露出し過ぎ。」


「え…!あれは…亜美ちゃんのお姉さんので…。」


「やっぱり。お前のじゃ無かったか。」


大星は少し間を空けてから、










「でも、可愛かった。」







聞き間違いなんかじゃなく、今確実に私にそう言った。


私はその時の自分の顔が真っ赤になっていた事は知らず、後で亜美ちゃんからいじられた。


それから帰り道を大星と一緒に歩く。

制服姿で大星と一緒に電車に乗るのなんていつ以来だろう。

すると大星は、ふと何かを思い出した。


「ねぇ、帰りあそこ寄っていい?」



それは、前に私達がやってきた大型ショッピングモール。そこの中庭スペースでイルミネーションが彩られていてかなり綺麗みたい。


という事でいざ立ち寄ってみると、


「ホントだ…!綺麗!!」


真ん中には大きなツリーが。光り輝く白いツリーを、イルミネーションの明かりが綺麗に彩り、ロマンチックな空間を生み出していた。

そんな空間に今は大星と一緒にいる。


私は大星の横顔を少し見た後に、

「彼女さんとじゃなくて良かったの…?ここに来るの。」

と尋ねてみた。やっぱり大星と2人でいるときはどうしても彼女さん嫌がらないかなと気になってしまう。

「彼女とは明日もっと綺麗なところ行きますー!」

と大星は唇をちょっと尖らせてそう言った。

「へぇ。ラブラブだねぇ!」

すると大星がぼそっと、

「そっちこそ。」

と言った。私はなんの事か分からず眉をひそめた。その時、19時ぴったりになった。

それと同時に1分間のイルミネーションショーが始まった。

中庭の噴水も演出で使われ、ライトで噴射する水に色がつき、より幻想的空間になる。

2人でショーを堪能した後、

「動画撮り忘れた…。」

「俺も撮っておけば良かった。」

と、2人して反省した。

その時に大星が、私が大星からもらった手袋をはめている事に気付く。

「それ、俺があげたやつだ。」

「そうだよ!大事に使ってます。」

「おぉ、温かい?」

「うん!付けてみる?」

と片方大星に渡してみる私。

「えぇ!?何それ!」

と言いつつも大星は受け取って付けてみてくれた。

「あぁ。やっぱり温かいわ。」

「でしょー!」

「てか、そりゃそうだわ。買う時俺、ちゃんと中の素材触って確認したからな。」

なんて、拘ってくれていたことを聞いてほっこりした。


それから地元の駅について、ケーキ屋さんに目がいく私。美味しそうだ。

お母さんからもさっき帰りまだかと連絡が来ていたのに、なんだかまだ帰りたくない。

大星とケーキが食べたいな。

「大星、ケーキ一緒に買って食べない?」

「は?家にもあんじゃねぇの?」

「えー!でもせっかくだし食べようよ!あのケーキ屋さん中がカフェになってるよ?」

外の出店ブースはケーキを買うのに列が出来ていたけど、カフェの方はたまたまスムーズに入れて、私と大星でケーキを堪能した。

「大星のブッシュドノエル美味しそう!」

「食う?」

「うん!」

私は大星の頼んだブッシュドノエルにフォークを刺して大きいひと口分頬張った。

「ふざけんなし!一口でかい!」

「大星も私のケーキ食べていいよ!」

「全部イッちゃっていい?」

「ダメ!!」




家に着いてからふと思った。


今日私、大星と何気なくクリスマスデートをしたんだなって。





あれから約1ヶ月半。


それぞれの受験が終わり、自由登校期間に入った。


一般入試組だった大星も亜美ちゃんもこはるんも、みんな志望校に合格した。


後は本当に卒業式を残すのみだ。


バレンタインの時はみんなもう学校に来てないし…。


でもせめて、去年渡せていなかったし、家からも近いから大星には作ってあげようと思って、ネットで調べてチョコクッキーを作って持って行ってあげた。

大星はもっと美味しくて可愛らしいお菓子を彼女さんからもらっているかもしれない。

でも、友チョコなんだから別に渡したって良いよね?

そう思って大星の家を尋ねるも、大星は出かけていていないとの事だったから、おばさんにクッキーを託して大星の家を後にした。

あぁ、彼女さんに会いに行ってるんだろうな。


大星は一途だなぁ。







そんなことを思った、ちょっとほろ苦いバレンタイン。




バレンタインが終わり、あっという間に卒業式の日がやってきた。



ちなみに大星の誕生日と卒業式が被っている。


大星の誕生日が最後の高校生活の日になるなんてね。

私達は式後、クラスのみんなと泣きながら話したり、卒アルにメッセージを書きあったり写真を取ったりして最後の時間を過ごした。

「あぁ!亜美ちゃん!こはるん!」


教室に亜美ちゃんとこはるんが会いに来てくれた。

「卒アル書いて!」

「もちろん!」


私にはお姉ちゃんがいるけど、亜美ちゃんは私にとってももう1人のお姉ちゃんのような人だった。私と違って気が強くて、美人でかっこいい女の子だった。亜美ちゃん、ありがとう。


「千紗乃ちゃん!私も!」

「あ!私も書いて欲しい!」

こはるんは常に可愛い乙女な子で、女子の塊だったなぁ。たまに鋭い事も言うけど、そんなこはるんのギャップが好きだ。こはるん、ありがとう。


「亜美!小春!私もお願い!」

「おっけー!」

「うん!待ってねん!」

由香っちはいつも明るくてパワフルで、そんな由香っちからたくさん元気をもらったよ。2年間クラスも同じになれて本当に良かった。由香っち、ありがとう。

「千紗乃、私まだ書いてない!」

「わぁ!和ちゃんいっぱい書いて!」

中学から同じの和ちゃん。怪我の事で1番話を聞いてくれてたくさん支えてもらったね。奏太に会えたのも、和ちゃんのおかげだよ。和ちゃん、6年間ありがとう。


少しして美術部の子達に会いに行った。


「千紗乃!来くれたの!?」

美術部で1番仲の良かった玲ちゃん。玲ちゃんが居たからこそ部活の時間が充実したよ。部長としてもお疲れ様でした。一緒の大学に行ける事も凄く嬉しい!大学でも宜しくね!


その後、廊下で道田くんに遭遇。


「長瀬!書いて書いて!」

「貸して貸してー!私のも書いてね!」

道田くんに告白して貰った時は驚いたけど、嬉しかったよ。その後もこうして友達で居てくれてありがとう。また遊ぼうね。



そして私は、3組にいる大星に、プレゼントの袋も持って会いに行った。

でも、人気者の大星は3組に留まっているわけがなく…

同じクラスの絢斗くんにも聞いたけど、

「えー?教室出ていくのは見えたけど、何組の奴と一緒に居たかまでは分からなかったなぁ。」

との事。

大星とはここでは会えなかった。




そして、とうとう教室とお別れだ。



青南高校の生徒になれて良かった。校舎も、先生方も、本当にお世話になりました。


私は由香っちと和ちゃんと教室を出た。この後3人で遊びに行くことになっていたのだ。


制服で遊びに行くのも今日が最後だ。



校門を出たその時、後ろから私を呼ぶ声がした。


「千紗乃…!!」


その声は、大星だった。

「千紗乃、私達先に行ってるね!ゆっくり話しておいで!」

と和ちゃんに言われ、私は大星と2人になった。

「すまん。さっき探してくれてたんだって?絢斗から聞いたよ。」

「あぁ!そうだったの!?うん、探したけど居なかったから戻ってきちゃったんだ。」

すると大星が卒アルを出してきて、

「そこのベンチで書くか。お前の貸して。」

と言ってきた。


私は大星にこう書いた。


大星と高校でまた会えて嬉しかった!
勉強もたくさん教えてもらったし、
私の修業にも付き合ってくれてありがとう!
大星と一緒の高校生活を送れて
本当に良かったよ!!
たくさんの思い出をありがとう!
これからもずーーっと仲良くしてね!
千紗乃より


大星の手から戻ってきた私の卒アルは、大星の綺麗な字でこう残してくれていた。


3年間ありがとう!!
昔と変わらずバカなままで
久々に会った時はある意味ほっとしたよ!(笑)
大学でも元気にやれよ!
俺も頑張ります。
by大星


書き終えた後、大星にプレゼントを渡した。

「大星、誕生日おめでとう!」

私が大星にプレゼントしたのは、シャーペンとしてもボールペンとしても使える2wayタイプのシックなボールペンだ。

「何!?高そうなやつ!めっちゃかっけぇじゃん。」

「良いでしょう!大学生って感じしない?」

「お前の思う大学生の感性がよく分かんねーけど…まぁ、そうかもな。」

大星は私の頭を撫でて、

「ありがとう。大事に使うね。」

と言ってくれた。

「うん!」

それから少し間が空いて、

「千紗乃…?あのさ…。」

と大星から話を振ってきた。

「ん?なぁに?」


「ホワイトデーの日会える?お返し渡したい。」

と言う大星。

「ほんと!?わぁ!わざわざありがとう!何時くらい?」

「午前中かな。午後は彼女んとこ行っちゃうからさ。」

「あ…そうか。」

という事で、大星とはホワイトデーの午前中に会うことになった。






そして迎えた当日。




大星は家に迎えに来てくれた。


彼女さんに会う前だからか、服がオシャレで大人っぽかった。

それから大星がこんなことを言う。



「ちょっと、丘に行かね?」



私は大星と一緒に丘に向かう。それから、もう無くなってしまったけど、秘密基地を作った木の上に登りたいと言い出した。

小学生の時のように2人で登って安定したその太い枝に乗り、そこに座った。


「はい。お返し。」

「ええ!!ブランドもんじゃん!!」

去年奏太からもらったお返しもブランド物だったなぁ。2人ともなんだかオシャレだなぁ。なんて思って中身が気になって、私はその場で開けてしまった。

「可愛い!ラングドシャだ!ホワイトチョコ挟まってるじゃん!食ーべよっと!」

「今食うんかい!!」

でも、さすがに今全部食べてしまうのは勿体ないので、食べるのは1枚だけにした。


それから大星と少し談笑した。するとあっという間に大星がそろそろ電車に乗る為に駅に移動しないといけない時間が近付いてきてしまった。


「早いねぇ。大星とは高校生として会うのは今日が最後かな?」

「…かな?」

「次会うときはお互いに大学生だろうね!」

と話をした後、大星が少し寂しそうな顔になる。それから大星が私の手を握ってきた。



「え…?大星……?」





「千紗乃…今から言う事、する事は、俺とこの後別れたら、そのまますぐに忘れるって約束してほしい。1回しか言わないから、よく聞いてね。」







「え…?あぁ…うん、分かった。」






大星…?




なんだか様子が変だ。




ウグイスの鳴き声が聞こえ、風が吹き、葉っぱの音がする中で、大星は口を開いた。


私達はお互いの目をじっと見つめる。




「…2年の時の文化祭で……俺、お前に気持ち伝えたよね…?あの時に言えてなかったこと、今ちゃんと伝えたい。」



私はそれを聞いて心がザワついた。


声を出せず、私は首をこくんと縦に振った。


大星は少し笑みをみせた後、こう続けた。


「…お前の事は…小学生の時からずっと好きなんだ。」


「え…」


それから大星は、私の好きなところをたくさん挙げてくれた。

「…いっつも声でかくてうるさくて…。大星大星って懐いてくる所が可愛い。

俺に嫌われたくないって言って、俺との関係をずっと大事にしようとしてくれるのが本当に嬉しい。

はしゃいでいつも楽しそうにしてる所が、

子供のようなリアクションをする所が、

バカだけど、懸命に頭回して頑張る所が、

俺がからかうと負けじと言い返して来る所が、

実は嫉妬しちゃう所とか、

誕生日を絶対に忘れない所とか、

挙げたらキリがないけど、

俺はお前のそういう所の全部が好きだよ。」



私は急に涙が溢れてきた。




「お前の笑顔も、その長い髪も、その白い肌も、その綺麗な鼻筋も二重の目も、口も、その声も…全部好きだ。」


これはなんの涙…?私は涙を拭って懸命に大星の事を見る。


涙で大星の顔を遮られてしまうのは嫌だったから。


「お前にとっての好きな人にはなれなかったけど、俺は…そんなお前と付き合えて幸せだった。あの時の事は一生忘れない。」



ダメだ…全然涙が止まらない…!


「お前は俺に、本気の恋を教えてくれた。お前は…俺の人生の中で1番好きになった人だった。だからずっと、お礼を言いたかった。」


大星…胸が苦しい。


こんなに人生で泣いた日は無い。


大星は真っ直ぐな瞳でこう伝えてくれた。







「千紗乃。一瞬でも…こんな俺を彼氏にしてくれてありがとう。…本当に大好きでした。」







私は俯いて、大星の胸に頭を付けて大泣きした。何でこんなに泣いているの?自分の感情が全然分からない。




大星は私の髪を撫でて、頬に手を添える。



「千紗乃…こっち向いて?」












顔を上げると…私の唇に覚えのある感覚が。






大星は、そっと私の唇にキスをした。





ほんの数秒の事だった。


大星は唇を離し、



「……今聞いた事、俺にされたこと…全部もう忘れるんだよ?約束な。」


と言って私のおでこに大星のおでこを当ててきて、



「じゃあ…行くね。」


と言って、大星は私を置いて木をおりて、そのまま行ってしまった。


無論、こんな涙まみれの視界の状態じゃ、全然走れない。


木なんてもっと下りれるわけ無い。



あぁ……大星……。苦しいよ……。



大星の気持ちを聞くとこんなに苦しくなるのは何故…?



大好きでしたと過去形で言われたことに、こんなに心を痛めたのはなんで…?



大星…あの時、大星の事を好きになれなくて本当にごめんね。




こんなに私の事を愛してくれて、ありがとう。




そんな男の子はきっともう出会えない。



でも、もう二度とあの時には戻れない。




私は泣き崩れて、しばらくその木を離れられなかった。



聞いた事、された事を忘れるなんて…そんな約束出来ないよ…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


千紗乃、バイバイ。



元気でいろよ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

時は流れ、私達は大学生になった。




続く

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