「ちーちゃん誕生日おめでとう!!」
「ありがとう!」
大星と別れてから1ヶ月くらいが経とうとしている。10月15日は私の誕生日だ。
大星と元に戻れていない現状と、その傷も少しずつ癒えて来ている今だからこそ、みんなが用意してくれた誕生日ケーキがすごく美味しく感じる。
今日はこはるんの家にお邪魔している。
家に帰ったら帰ったで、家族もケーキを用意してくれているみたいだから連チャンでケーキだ。
「はい!これプレゼント!」
こはるんからクッション、亜美ちゃんからは香水、由香っちからはイヤリングを貰った。
「みんな、ありがとう!」
それに嬉しいのが、この目の前にあるケーキは調理部であるこはるんがベースを作ってみんなで飾り付けしてくれたものと聞いている。
あとはなんと、
しばらく連絡も取っていなければ、会えてもいなかった奏太が、
「誕生日おめでとう!確か今日だよね?」
とLINEをくれた事。
忘れずにずっと覚えていてくれたなんて感激だ。好きな人からこうしてお祝いのメッセージをもらえるなんて幸せだ。
「ありがとう奏太!今日で17歳になりました!」
とLINEを返す。それでいてプレゼントまで買おうか?なんて提案してくるから驚いた。そこは、気持ちだけで充分と伝えてある。
…さすがに大星からLINEは来なかったな……。
第15話
そして10月末!誕生日もそうだけど
それ以上の一大イベントである、青南高校2年の修学旅行の日がやってきた。
場所は北海道だ。
空気が澄んでいてすごく気持ちがいい…!
1日目は全体で時計台見学の後、さっぽろ羊ヶ丘展望台に行って、その後に宿泊のホテルへ向かう事になっている。
2日目は全体で北海道旧庁舎見学と午後から自由行動!私達はイツメン4人でラーメン横丁とか、白い恋人パークに行く事になっている。
最終日の3日目は午前中の自由行動の後に、締めくくりはさっぽろテレビ塔だ。
「すご!めっちゃガン見しちゃうね!」
時計台の見学の時は中も見せてもらえる。時計の機械なんかは見ていてとてもワクワクした。歯車の部分を見ながら音を聞く。なんだかこれが落ち着く瞬間だった。
「このレトロな感じ、良いよね!」
なんてクラスの子とそんな話をしながら見学を終え、次はさっぽろ羊ヶ丘展望台だ。そこでクラーク博士の象の前で撮影。
それにしても景色が綺麗だなぁ…!奥には札幌ドームも見える。それに羊もいる!だから羊ヶ丘なんだね!と思った。
冬になると雪でこの草原が真っ白になるらしい。そんな光景も見てみたいな。
そして宿泊のホテルへ移動。
え、めちゃくちゃ綺麗なんですけど…!!
部屋もすごく綺麗で広い和室だ。部屋はちょうど4人ずつで割り振られたから3人とは部屋も一緒だ。
「観光も楽しいけど、修学旅行は夜が楽しいよね!」
なんてこはるんが行った。
私達4人は一先ず部屋に荷物を置いて、整理を始めた。すると亜美ちゃんが、
「由香と小春は夜、彼氏にでも会いに行くの?」
と尋ねた。
「うん!コウくんと会うよー!」
とこはるん。彼女は本当に乙女だなぁ。
由香っちはというと、
「私は多分会うけど、アイツも男子同士でワーキャー騒ぎたいだろうからまだ保留かな。」
と言った。
あぁ、そっか。もう私は彼氏いないんだ…。
もしまだ大星と付き合っていたら、一緒に回ったりとか、ホテル内で合流してお話したりとかしてたのかな…?
すると由香っちがこんな事を私に聞いてきた。
「ちーちゃん、あれから美嶋とは話したりしてるの?」
それが、大星とはもう全然会話をしなくなってしまったんだ。私はその事を正直に伝えた。
「ううん。それがもう全然。話しかけたくてもなんかバリア貼られてる感じ。古典の授業で会うけどそこでも全然話してない。」
「そっか…。」
「もしかしたら千紗乃と美嶋なら、何だかんだで元に戻るんじゃないかな?って思ったけど、美嶋は特に無理か。千紗乃の事本気だったんだもんね。」
と亜美ちゃん。
そう。大星はずっと私の事を好きでいてくれた。なのに私は、奏太を追いかける道を選んでしまったんだ。
「いつかまたちゃんと、話せる日が来るといいよね。」
と、こはるんも言ってくれた。
「うん。そんな日が来て欲しいけどね…。」
「でも、良かったよ。ちーちゃん、振られた後しばらくはすごい絶望してたからさ。元気出て安心した。」
と由香っち。
そう、大星に振られてしまってからというもの、大星と元に戻れない事へのダメージが思ってた以上に大きくて、1週間以上はボーッとしてたし、食欲もなかったんだ。
「あの時はごめんね…。ご心配おかけしました…。」
だって、例えそれがLIKEの感情だったとしても、私は大星の事が大好きだから。それは今でも変わらない。
小さい頃からよく知る大星と、急に赤の他人みたいな感じになってしまった事がとても辛くて。泣いてしまう事もあった。
でも、今更いくら悔やんだって過去には戻れないから、これ以上落ち込んだって仕方ない。
それから夕飯。レストラン会場もすごく広い!!どうやら今日は別の高校も修学旅行で来ているみたいだ。後は一般のお客さんもいる。
「カニ!!ねぇ、カニ取り放題だよ!!」
と私。さすが北海道!海鮮系に強いなぁ。絶対新鮮で美味しいって!!
バイキングだから欲張りし放題だ。
「ねぇ!焼きたてジンギスカン食べれるって!!」
と由香っちも大盛り上がりだ。
そして今日はマグロの解体ショーをやるみたい。
もちろん解体したマグロはその場で捌いてお皿に小分けにしてどんどん置かれるらしい。
私達は解体ショーを近くで見に、ステージの方まで集まった。ギャラリーめっちゃいる…。
「千紗乃、出番じゃん。」
「よし!任せて!!」
私は果敢にマグロを取りに行った。その時にめちゃくちゃ何皿も取っていく人がいた。誰かと思えば玲ちゃんだ。
「玲ちゃん!?」
「おお!千紗乃!」
「めっちゃ取るじゃん!」
「私、海鮮すっっごく好きなの!」
知らなかった…!玲ちゃんにそんな一面があるなんて。それから、
「あれ!?道田くん!」
「よぉ、長瀬!やっぱりこういう所に来ると思ったわ。」
「え!」
「食いもんには目がないじゃん。」
さすが道田くん。さすが、1年の時同じクラスだっただけあるわ。
「仰る通りです…!」
「明日絶対あそこ行くでしょ、白い恋人パーク。」
「え!そこまで分かるの!?行くよ!」
「そうなんだ。俺らの班もそこに行く予定あるから会うかもね。」
なんて話をしつつ、小皿を多めに取って帰ってきた。お盆に10皿くらい乗せようかと思ったけど、さすがに小さい子供もいたから、その子達の目もあるからそこは抑えた。
夕飯の後に温泉タイム!!
気持ち良すぎて時間を忘れそうだ。
サウナもあったから、こはるんと入りに行って、そこでこはるんの惚気話を聞いていたら、いつまでも帰ってこないからって、由香っちに心配されてしまった。
「サウナなげーよ。」
「千紗乃ちゃんにたくさん話聞いてもらっちゃったー♪」
それからお風呂上がり。ロビーのお土産ショップを何となく覗いてから部屋に戻ることになった私達。その時になんと、札幌限定のマリもんストラップが売っていたのを見かけた。
これ、お姉ちゃんに買って帰ってあげよう。
念の為、商品を写メって要るかどうかLINEで送って聞いてみたら、
「くれ」
と来た。
「今すぐ買って抑えとけ」
お姉ちゃん怖い…。今お財布無いよ…。
という事で部屋に戻ってお財布を取ってから、今度は1人でお土産ショップに戻ってきた。他の3人は部屋で寛いでいる。
よし。マリもんゲット!レジで支払いを終えてショップを出ようとした時に、
まさかの展開が起きた。
「千紗乃…!?」
「え…!?」
その声…!嘘……!!
声のした方向を見ると、なんとそこには浴衣姿の奏太が立っていた。
「奏太…!」
私は嬉しくてつい奏太に抱きついてしまった。
「奏太だ!わ!本物だ!奏太だー!!」
すごい奇跡!!こんな所で奏太に会えるなんて!
「千紗乃、他の人見とるからやめぇや。」
と奏太に困り顔をさせてしまったので離れる私。
「奏太ー!ビックリしたよ!修学旅行?」
「そうそう。」
私は奏太の浴衣姿が新鮮で、ジロジロと眺めてしまった。似合っているしかっこいい。
「奏太…浴衣似合うね。」
と伝えると、
「千紗乃もえぇね。可愛い。」
と笑顔で帰ってきた。
お風呂じゃないのに逆上せそうだ。
「千紗乃、今1人なん?」
「うん。さっきまで友達とお風呂入ってたんだけど、お土産ショップでこのマリもん見つけてさ。お姉ちゃんが好きなの。」
「お姉ちゃん…?あぁ、懐かしいな!宏姉の事か。」
奏太の呼ぶ宏姉懐かしい…!久しぶりに聞いたなぁ。
「そうそう。お姉ちゃんがマリもん好きでね。要るかLINEで聞いてみたら早く買って抑えとけって言われて、慌ててお財布取りに帰って買いに戻ってきたの。」
「おお、そうだったか。」
奏太とまだ一緒に居たいな…。だから私は奏太にまだ時間平気かを聞いてみる事にした。
「奏太、もう戻っちゃう?」
「え?」
「誰かと一緒に居る感じ?」
「いや、俺は飲み物買いに来ただけで…。俺も今は1人なんよ。」
それなら、良いよね?
普段会えないんだもん。奏太と一緒に居たって良いよね…?
「ねぇ、奏太……。もう少し一緒に居ようよ!あっちにゲーセンあったよ!少し遊ばない?」
「あぁ、えぇな。」
ということで私達は一緒に回って、某太鼓のゲームで遊んだりした。
修学旅行でこんな事出来るなんて幸せだ…。
もっと一緒に居たい…。
これが恋なんだなぁって私は今の自分の気持ちを噛み締めながら過ごした。
気付けばあっという間に30分以上が経ってしまっていた。
「え!もう30分経ったの!?」
「千紗乃、そろそろ俺戻らんと…。」
「そうだね、私も部屋のみんなが心配しちゃうからそろそろ帰るね。」
早く戻らないと、そろそろ消灯の時間だ。起きてると見回りの先生に気付かれてしまう。
でも、奏太が同じ場所にいるならと思って、ダメ元でこんな提案をしてみた。
「奏太…あのさ……。良かったら明日か明後日…どっちか合流出来る時ってある?一緒に回らない…?」
「え…?」
奏太、引いてないかな?大丈夫かな?そもそも修学旅行の日数も来たタイミングも同じだったかな…?あぁ、相手が奏太となるとすごく気にしてしまう。
「どうかな…?」
奏太は少しうーんと唸った後に、
「ちょっと、考えておくよ。班行動じゃけ、もし会えるタイミングがありそうだったら連絡するよ。」
と言ってくれた。
「やった!ありがとう!」
私は奏太の手を握ってブンブン振り回した。
「痛いで千紗乃…。」
「わ、ごめん…。」
「元気やのぉホントに。じゃあお休み。」
奏太はそう言って私の頭をポンと叩いて、そのまま手を振って部屋の方へ歩き出してしまった。どうやら西館と東館とで、宿泊のフロアは私達青南生徒とは別のようだ。
奏太に頭をポンってされた……。
あぁ…嬉しい……!
修学旅行ってこんなに楽しいものだったっけ…?
急いで部屋に戻り、消灯時間の後も暫く4人でおしゃべりをし続けた。その時に奏太との出来事も話してみた。みんなすごく驚いてて、むしろ2人で回れるタイミングが合いそうならその時は遠慮なく行ってきなといってくれた。
それから朝を迎え、身支度を終えて北海道旧庁舎の見学へ。
外観のレンガ造りがすごく綺麗。中もすごく味があって何より、
「ねぇねぇ、なんか普通に貴族とか出てきそうだよね!」
「こういう所で事件起きそうじゃない?」
「やめてよ!漫画の見すぎ!」
なんて話をして盛り上がった。
「貴族もそうだけど、ここに半沢さん居そう…」
半沢さんってあの半沢さん…!?亜美ちゃん、面白いこと言うなぁ。
そして、やって来ました自由行動!!
「よし、行きますか!」
私が楽しみにしていた白い恋人パーク!
外観もお花畑みたいで可愛い!!
そうか、今は10月だからハロウィン仕様になっているんだね。大きなかぼちゃのモチーフが飾ってあった。
そこで私達は記念写真を撮った。
工場見学も楽しいし、何より楽しみにしていたチョコレート作り!!
食べ物に目がない私にはとっても嬉しい体験!でも、チョコペンは難しいなぁ。
部活で絵を描く感覚と全然違うや。
こはるんは何書いてるのかと思えば…
「えへ。コウくんにあーげよっと。」
相合傘を書いて2人の名前を書いていた。
こはるん、デレデレだなぁ。
それからその後にみんなで食べたソフトクリームが最高に濃厚で美味しかった!
ちなみにその時は道田くんの班とも遭遇して、混ざって一緒に写真も撮った。
道田くんは大星と同じクラスだけど、道田くんの班には、大星いないんだなぁ。
そういえば修学旅行に来てから大星を一切見てないな。
あんなに一緒に居たんだもん。
突然こんなに話す機会も会う機会も激減するのは寂しい。
どっかで会えたらいいのに。
それから移動してラーメン横丁!!
ここのバターコーン味噌ラーメンが死ぬほど美味しかった。こんなに大きなチャーシューのラーメンなんて食べた事なかったよ!
風味も絶妙なバランスで何杯でも食べたいくらい!でも、白い恋人パークで何だかんだで色々食べてもいたから、2杯目のオカワリは出来なかった。
それから北海道大学の中にも入ってみた。銀杏の並木道がすごく綺麗だった。
これはインスタ映えスポット間違い無しだね!
そんなこんなで2日目もあっという間に終わってしまった。
結局奏太からは連絡来なかったな…。と思った時だった。
奏太から電話が来た。
「千紗乃ちゃん!出な出な!」
「うん!」
電話に出てみるとなんと、奏太が今大通公園に居るというのだ。
「そこでも良ければちょっと一緒に散歩でもせん?」
と言うお誘いだった。
「私達もついでに公園行こうよ!」
と由香っち。
「そうだね。千紗乃は奏太くんと回って来なね。」
と亜美ちゃん。
「ありがとうみんな…!」
それから公園に移動して急いで奏太に電話をかけ、私は念願の奏太との札幌デートを試みることに成功した。
のんびりと2人で歩きながら、
「今日はどこ行ってきたん?」
と、今日の行った場所の話をし始めた。
「今日はとにかく食べて食べて食べまくった日だったよ!ラーメン横丁行った!?」
「え?まだ行ってないのぉ。」
「そうかー。あれ、行った方がいいよ!!すごく美味しいのー!それからね、白い恋人パークも良かったよ!」
「おお。両方明日行く予定のところだ。」
「そうなんだ!」
奏太は班のみんなに頼んで抜けてきてくれてるらしいから、一緒にこうやってお散歩出来たのも20分だけだった。
一緒に歩いている時に少しだけ奏太の手が触れる。あぁ…手を繋いでみたいな…。
なんて思うけどもちろん私にはそんな勇気無くて…。
奏太が繋いできてくれるかな…?なんて期待したけど、そんなことも無く。
大星は彼氏だったから、こういう時はしっかり手を握ってくれたのに……。
でも、奏太と過ごせただけで充分。
と思ったら、
まさかの展開が起きた。
「千紗乃、はい。これ。」
「え?」
奏太がとある袋をカバンから取り出した。そしてこう言って私にそれを渡してくるんだから驚いちゃったよ。
「この間誕生日だったろう?誕生日おめでとう。」
私はそれに感動して泣きそうになる。手で口を覆い、顔も赤くなってしまって、奏太と目を合わせるのがやっとの状態だ。
「修学旅行の最中に取り急ぎ用意した物になってしまって申し訳ない。でも、せっかくお互い札幌で近くにいるけぇ、何かプレゼントしたくて。」
奏太のその純粋な気持ち、本当に好きだ。
「え…ありがとう……!嬉しい…!!開けてみてもいい?」
「うん!」
奏太から受け取った袋の中身を見てみると、そこには白いマフラーが入っていた。
「これからもっと寒くなるし、冬場に良かったら使ってや。」
「可愛い…!ありがとう!!大切にする!!」
「おう。喜んでもらえて良かったで。」
私は早速そのマフラーを付けてみた。
「似合ってるで。千紗乃。」
「ほんと!?良かったぁ!」
すると奏太が私の頭を柔らかく撫でてくれて、
「千紗乃がそんな風に喜んでくれるの嬉しいわぁ。千紗乃のそういう所、可愛い。」
と言うからもう、私は何も言えずにただただ顔を赤くすることしか出来なかった。
奏太ってさり気なく突然そういう事をサラッと言うからドキッとする。
…そういえば大星と付き合ってる時は、可愛いなんて言ってもらったこと無かったな。
奏太からもらったマフラーをこのまま付けていたかったけど、値札も着いているし、一旦は大事にしまった。
「奏太は5月27日だったよね!」
「すごいなぁ千紗乃。覚えてるもんやのぉ。」
「もちろんだよ!」
それから奏太とは一緒に写真を撮ってから解散した。本当に幸せであっという間な時間だった。
「また宿で見かけたら声かけてな。」
「うん!またね!」
と、奏太に手を振る私。私はしばらく手を振ってから、みんなに電話をして4人揃ってホテルに戻った。
「千紗乃、良かったね。プレゼントまで貰えて最高じゃん!」
「うん!!」
「良いなぁ千紗乃も由香も小春も。こういう時同級生の彼氏だといいなぁって思う。」
と亜美ちゃんが言うから、
「亜美ちゃん!私は奏太とは付き合ってないよ!」
と返したけど、なんだかカップル扱いで括られたことが嬉しかった。
「ねぇ、写真無いの?撮った?」
とこはるん。
「あ、見たい見たい!」
と亜美ちゃん。そうか、由香っちは文化祭の時に少しだけ会ったけど、2人は会ってなかったよね。私はさっき撮ったツーショットを見せた。
「あ、ほぉ!美嶋とはまた違うタイプだね!いい人そう!千紗乃、こういう真面目な感じの人が好きなの?」
と亜美ちゃん。
「いや、そういう事ではないんだけど…」
「亜美ちゃんったらー。好きになった人がタイプって奴だよ!本能だよ本能!」
とこはるんが亜美ちゃんの肩をポンポンと叩きながらそう言った。
なんかそう言われると照れる…。
それからご飯も食べてお風呂に入った後、私は和ちゃんに誘われてとある部屋に遊びに行った。そこには15人くらいの男女が集まっていた。
何かというと、さっき食堂で和ちゃんに会った時に、トランプ大会を友達の部屋でやるから来なよ。と言われたのだ。
どうやら昨日も開催していたらしい。
トランプは好きだけど、私弱いんだよな…大丈夫かな?
部屋に入ると、同じクラスになった事がなくて知らない男女も居た。
でも、一緒にゲームを楽しんでいる内にすぐ打ち解けられた。少ししてこはるんと篠村くんカップルまでこの部屋にやってきたのだ。すごい人数になってきた。
今はダウトをやって大盛り上がり。その後に大富豪をやって遊んだ後に、とある男子がこんな事を言う。
「キングはまだか?」
と。
「キング?」
「うん。昨日もここでやってたんだけど、うちのキングは強いぞ?」
なんて言っていた。やっぱりトランプって強い人は本当に強いよな。
なんて考えていると、
ガラガラっと襖が開いた。
振り返るとそこには…
「おお!やっと帰ってきたよキング!風呂長いぞ!」
「違うわ。別クラの奴に捕まったんだよ。」
え、キングって……大星の事だったの…!?
私が固まっていると、こはるんに肩を小刻みに叩かれ、コソコソ話で話しかけてきてくれた。
「ちょ、千紗乃ちゃん!大丈夫なの!?2人揃っちゃって!」
と、心配してくれた。
「大丈夫だと思うよ!私たちが付き合ってた事、知らない人は知らないし!」
私も同じ音量でそう返す。
「キング!今からババ抜きしようとしてたところ。キングも混ざろうぜ。」
人数が多いので8人ずつくらいで分かれることになった。
そこで大星と目が合う。
「え…お前なんでいんの!?」
とボソッと大星。
しかも、たまたま隣に座る羽目になった。
「美嶋、私が誘ったの。」
「あぁ。香椎か。」
和ちゃんは私たちが別れた事を知っているから、ちょっぴり「やってしまった!」という顔をしていた。
それからババ抜きがテンポよく始まった。
ババ怖いなぁ。誰が持ってるんだろ。
しかもよりによって順番的に大星が私のカードを引く事になる展開だ。
で、私が篠村くんからカードを引く…。
げ、ババだ。篠村くん、ポーカーフェイスだなぁ。全然分かんないよ。
『あ、こいつ今ババ引いたろ。目が泳ぎ始めた。』
大星お願い引いて…!でも大星は一向にババを取らない。しかも酷いのが、
「ババ持ってんのお前だろ?」
なんてにやけ顔で私を動揺させて公開処刑を図ってくる。
「な、無いよぉ!」
と返したけど、大星は余裕の表情だ。
そして大星はそのまま運にも恵まれ、カードが揃って1位抜けだ。
「さすがキング!!」
と言って騒がれていた。
思い出した…!大星、小学校の時の修学旅行でトランプやった時も負けたこと無かったかも!
まさか高校になって、キングの称号を貰えるなんて思ってもいなかっただろうな。
その後、ババはなんとか別のところに行き、私は最後から3番目に上がる事が出来た。負けたのは別のクラスの女の子だった。
良かった…。大星の前で負けるのはなんだか恥ずかしかったから。
その後も、さっきは居なかった大星を交えてダウトをやったりして楽しんだ後、消灯の時間になって会はお開きとなった。
大星はその後も負けていない。
こはるんと部屋を出て自分の部屋に戻るところで、
「おい。」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると大星が…!
「千紗乃ちゃん、先行ってるね♪」
なんて肩を叩かれ、こはるんは先に戻っていってしまった。
振り返ると、視界には弧を描いて飛ぶスマホが。
慌てて飛んできたスマホを受け取ると、
それは私のスマホだった。
大星はムスッとした顔で、
「忘れもん。置いて帰んなよ。バーカ。」
と言ってきた。
「あ…ありがとう。」
大星との距離は3m近くある。
なんだろう。この間までハグし合ったりする仲だったのに、変な感じだ。
すると大星が腕を組んで廊下の壁によりかかり、
「奏太ん所も来てるんだな。」
と話題を振ってくれた。
「え…?あぁ、知ってたんだ。」
「あぁ。」
でも大星は床に目線を落とし、全然私の方を見向きもしない。
「そっか…。私は丁度昨日、ロビーで遭遇してさ。」
「へぇ。」
「大星は?どこで会ったの?」
「あぁ。今朝、豊平館回ってる時にたまたまな。」
「あぁ…そっか。」
それから壁から離れ、そのまま部屋に入ろうとするから、
「大星…!」
と名前を呼んで、
「お休み。」
と伝えた。
大星は、軽くフッと息を吐いた後、小さい声でボソッと
「お休み。」
と返してから部屋に入って行った。
大星と私は、今はまだ元の状態じゃないけど、やっぱり大星と話せるのって嬉しいな。
またいつか、ちゃんと今までのように話せる時が来るって、期待してもいいよね?
大星、話しかけてくれてありがとう。
それから最終日、午前中の自由行動のうちにお土産を買おう。私達は札幌ステラプレイスの中でお買い物。なんだかあっという間の2泊3日だ。あとテレビ塔登ったら終わってしまう。
すごく楽しい時間だったな。
奏太もこっちにいるし、お土産はいらないかな…?
なんて、こんな時でも奏太の事を考えてしまっていた。
亜美ちゃんは亜美ちゃんで、聡志さんへのお土産をどれにしようか迷っていた。
「卒業したらこういう所まで彼氏と旅行で訪れるとか早くしてみたいな。」
「聡志さんと旅行、楽しそうだね。」
そんな話をしながら買い物を終え、最後のさっぽろテレビ塔へ。
テレビ塔の下にある紅葉の木が真っ赤に彩っていた。昨日の北海道大学の銀杏といい、秋だなぁって感じだ。
景色も最高!この3日間ずっと晴れていたし、今日は雲1つない快晴に恵まれた。昨日行った大通公園が見える。
奏太と一緒に歩いたのはあの辺かな…?なんて、昨日の自分達を思い出していた。
藤ヶ谷高校は今頃どこにいるんだろう…?
でも結局は奏太に会えることはなく、空港に移動する時間になってしまった。
せめてものと思って、私から奏太に
「藤ヶ谷高校はまだ北海道?うちはもうこの後出発だよ!」
とLINEで伝えた。
飛行機一緒だったら良いのに。
そしたら機内で会えるかもしれない…。
なんて考えた。
でも、奏太から返事が来る前に飛行機の搭乗時間になってしまった。
よく良く考えれば彼は千葉県民だ。私達は羽田行きに乗るけど、彼は成田空港行きだろう。どう考えても藤ヶ谷高校から近いのはそっちだし。
奏太、また帰ってから会おうね。
羽田空港からバスに乗り、私達は高校に戻ってきての解散となった。
本当に帰ってきちゃったかぁ。なんて余韻に浸りながら電車に乗って家に向かう。ラッキー!座席が空いてるから座っちゃおう。
電車に揺られてぼんやりとこんな事を考える。
みんなとまた大人になってから旅行行ったりしたいなぁ。
亜美ちゃん、由香っち、こはるん。このメンバーとも旅行とか行ってみたいし、
和ちゃんを始めとした、陸部メンバーでも行ってみたいし、
美術部メンバーとも楽しそう。
……奏太と2人旅…ってのも良さそう。
でも、ちゃんと下調べして、案内とかしてくれそうなのは、
大星だなぁ……。
なんて思っていたら、
いっった…!
誰かに頭を叩かれた。
わっ…!寝てしまっていたんだ。
ん?誰かに今頭を叩かれたって…!?
でも気付けば車内で今、最寄り駅の名前をアナウンスしている。そして扉が開く。
いけない!降りないと!!
私は慌てて荷物を持ってホームに降り立った。
危なかった…。誰かが私の頭を良いタイミングで叩いてくれてなかったら起きていなかった……え?
あれ?
そうだよ。誰が私の事を…?
ん?
しかもこんな良いタイミングで叩けるなんて…たまたま?
いや、たまたまじゃない。
時間は19時。お父さんはもう帰ってるはずだし、残業だったとしてもお父さんは叩いたりしない…。
起きたてながらに頭をフル回転させてホームを見渡す。
分かった…!
私は急いで階段を降りて改札を潜り、叩いて起こしてくれた人を探す。
きっとそうでしょう?
叩いてくれた人。
あなたなんでしょう?
大星!!
そう遠くには行ってないと思うけど、荷物も重たかったから結局走って彼を追いかける事は出来なかった。
別れてしまった後でもこうして見守ってくれている大星の姿勢に感激したし、何より嬉しい。
大丈夫。
大星とはいつかきっと元に戻れる。
信じてるよ。大星。
ーーーーーーーーーーーーーー
千紗乃とは結局大通公園で会った後は、もう1回どこかで遭遇する事はなかったけど、なんとか誕生日プレゼント渡せて良かった…。
豊平館で大星に会った時に相談してみて正解だった。
「なぁ、千紗乃にプレゼント何が喜ぶと思う?」
「え?アイツ?…千紗乃は寒がりだから、マフラーとかは?きっと喜ぶと思う。首に結構グルグル巻き付けるタイプだから、割と長めのマフラーの方がアイツは好きだと思うよ。」
大星のアドバイスがあったからこそ、いい物を選べた。
大星は千紗乃の事、よく見てるな。
ありがとう。大星。
俺は大星にお礼のLINEを入れておいた。
続く
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。