第26話

番外編 京都旅行にて
255
2020/11/23 17:08



高校生の時、恋愛経験の無かった私は1人取り残されたような感覚を味わった。

それで、無茶なお願いを幼なじみにしてしまった。


試しに私と付き合ってくださいと、私は彼に修業を申し入れた。

そんなお願いを彼はちゃんと聞いてくれて、私と付き合ってくれることになった。


そんな彼ではなく、私は無意識に別の男の子を意識していた。


その子への恋愛感情に先に気付いた彼氏が、私の為を思い、別れを告げてきた。


そこからすれ違いもあったりしたし、


元のようには戻れない事が辛かった日々もあったけど、


彼はまた私と一緒に幼なじみとして付き合ってくれることを選んでくれた。


でも、私への想いを抱えたままだった彼は私を忘れようとして、姿を消した。



そんな彼とはたまたま、彼のバイト先で再会した。それは卒業してから1年半以上が経っていた時だった。


そこで、彼に実は恋心を抱いていた事に気付いた私は、今度は自分が彼に想いを伝える番だと決意して、行動を起こした。


私を本物の彼女にしてほしいと彼に伝えたその日から、



半年以上の月日が流れ、私達は大学3年生の夏休み期間の真っ只中だった。




これは、私 長瀬千紗乃と、彼氏となった、美嶋大星との、その後の物語である。




大星とは海に来ていた。

浮き輪に乗ってプカプカと浮いていた私は、不意打ちで大星に思い切りひっくり返された。


慌てて立て直し、顔を海中から出すと、


そこには、ゲラゲラ笑う大星がいた。


「このやろー!!!」

私は大星に浮き輪をぶん投げて攻撃した。


「浮き輪そんな風に使う奴初めて見た!あーおもしろっ!」


私達は、いっつもこんな調子だ。


少しして、自分達のレジャーシートの所に戻って来た私達。体を拭こうとタオルを取ろうとした時、大星が既に手に持っていたタオルを私の頭にかけ、私を見つめながら、

「さっきはごめんな。」

と微笑みを浮かべてそう言った。

ずるい。そんなかっこいい笑顔で言われたら、許してしまうじゃんか。


「別に良いよ。あの後大星の事もひっくり返せたし。」

お互いに相手をひっくり返した時の描写を思い出し、フッと相手の顔を見て笑ってしまう私達。

「おい、何笑ってんだ!」

「そっちこそ!」



体を拭き終わると、レジャーシートに座りながら、来週私達2人で行く旅行の話になった。

「もう来週か!早いなぁ。」

「ねー!京都とか久しぶり!」

「久しぶり…?あぁ。桐葉中の修学旅行は京都だったの?」

「そうそう!あれ?大星ん所の中学は違ったの?」

大星とは中学が別々だった。私は桐葉小学校卒業後は、桐葉中学校だったけど、大星の学区は来栖中学校という別の学校だったのだ。

「クル中は長崎だったんだよ。」

「へぇ!!そうだったんだ!」

「そう。だから実は俺、京都は初めてなんだ。桐葉小の修学旅行は確か日光だっただろ?」

「あぁ…!!そうだったそうだった!!今思い出したよ!」


大星と旅行。絶対楽しいに決まってる!!

そんな旅行を控える私は、旅行前に亜美ちゃん、由香っち、こはるんと一緒に飲みに出かけた。

まさかそこでこんな話になるなんて…!


「千紗乃、下着買っとけ。」


「…はい?」


「えーー!!千紗乃ちゃんまだその辺鈍いの!?」

みんなは何の話をしているんでしょう。京都に下着?いやぁ、そりゃあ旅行なんだから2日目の着替えも無いと。
ん?そういう事ではない…?


「ちーちゃん、彼氏と夜を過ごすんだよ?」

「美嶋くんとは“まだしてない”んでしょう?もう、そろそろだと思うんだけどなぁ。」

「うん。さすがの美嶋も、何か考えてるかもよ?何も無いわけがないと思うんだけど。」



何も無いわけがない…!?





「えええ!!!!」



やっと分かった。

この子達は、旅行の1日目の夜に、大星と私がエッチする前提で話を振ってきていたんだ。


「ええ!って、こっちがええ!だよ。千紗乃って高校の時からその辺は何も変わらないね。」

と亜美ちゃん。

「っていうか、半年以上付き合ってんのにまだしてないの!?って感じ。」

とこはるん。

「そういう雰囲気にもならないの?」

と由香っちが問いかけてきた。




それは、そういう訳でもない。時々大星の家に泊まりに行く事があって、その時にいい雰囲気にはなる。たくさん大星は私に触れてくれるし、唇以外の場所にもたくさんキスもしてくれる。でも結局大星から離れて、さぁ寝ようかって終わってしまうんだ。



その事をみんなに伝えると、亜美ちゃんはビールをグビっと飲んだ後、ジョッキをテーブルにゴン!と置いて、

「2人ともウブかよ!慎重過ぎかよ!」

と言った。

「てっきりちーちゃんが美嶋を待たせてんのかと思った。でも、聞いてる感じそうでは無さそうだね。」

と腕を組みながら由香っち。するとこはるんが物申す。

「千紗乃ちゃん、これは千紗乃ちゃんにも原因がある!また出てるよ!待ち癖が!」

そういえば、大星と付き合う前にも、なんで自分からアプローチかけないんだと、待っている自分を指摘されたことがあった。

「こはるん、そしたら私は何すればいいの?」

と私が言うと、

「ちょーーっと待った!」

と由香っちが止めに入る。

「小春!待って!なんかちーちゃんが美嶋としたい前提になってるけど、ちーちゃんは美嶋としたいって思ってるの?ちーちゃんがしたくないなら、旅行中もし美嶋が襲いに来ても止めればいいんだからね?」




私が大星としたいかどうか…?



それは、答えはyesだった。



ちょっとだけ怖いって気持ちもある。大星は何度も経験があるだろうけど、私は大星が1人目だから。


「…大星とは…したい。でもちょっと怖い。痛いのかなぁとか…妊娠しないかも怖い。ただ、いい雰囲気になったのに途中で止められちゃうから、それはそれでもどかしいよ。もどかしくなる度に、大星に期待してるんだな私…って思う。」

それを聞いて亜美ちゃんがこう言う。


「それなら、もう少し千紗乃からもアクション掛けてみな?したいけど怖いんだって気持ちをさ、素直に美嶋に話して見てもいいと思うよ。」

「そっか…。」

やっぱり私は受け身になり過ぎなのかな…?それにしても大星は、どうしてその先の事をしてこないんだろう。私はその事をみんな気聞いてみると、

「それは、高校の時の修業期間の時と同じだよ!大切過ぎて手が出せないパターンだよ!」

と由香っちがニヤニヤしながら言う。

「好きが故に慎重になっちゃうんだろうね。美嶋にとってちーちゃんは本当に特別なんだと思う!」

「そうだと思うなぁ私も。だから別に、千紗乃が魅力的じゃないとか、そういう事じゃないと思うよ。」

と亜美ちゃんが言った後にこはるんが、

「えぇー!慎重になりすぎてエッチ出来ないかぁ。私、コウくんとは付き合って1週間とかでもう全部しちゃったしなぁ。」

と言うから、

「うん、小春、逆にお前はもっと慎重になれ。」

と、そんなこはるんに亜美ちゃんが突っ込んだ。



みんなで集まった日から数日後。



大星との旅行当日になった。



到着して早速京都タワーに上り、

その後泊まるホテルに荷物を預けてから移動して清水寺へ行った。

京都タワーにしろ清水寺にしろ、どちらからの眺めも最高だ。

私もだけど、大星もスマホでたくさん写真を撮っていた。

もちろん、私たちのツーショットも忘れてはいない。

「ここ、春にも秋にも来たいな。」

「春は桜で秋は紅葉かぁ!全然雰囲気も違うだろうね!」

「だよな。」

それから金閣寺にも向かった。金閣寺は大星が1番来てみたかった場所のようだ。


水面の中心に浮かぶその本堂は、金色に輝き美しく建っている。中学生の時に見た時とはまた感じるものが違うなぁ。

あの時はただただ、金だ金だ!とか言って騒いでいただけだった気がするから。


「なんか、迫力あるな。ずっと見てられるや。」

金閣寺もだけど、そう言う大星の目がある意味1番輝いていたかもしれない。


そして最後に貴船神社でお参りをして、1日目は終了した。

少し部屋でまったりした後に各自温泉へ。露天風呂もあって、風が気持ちが良い。このホテルには、貸切露天風呂もあるみたいだ。
温泉を出て着替え等の嵩張る荷物を部屋に置き大星と合流した後、夕食を食べに食堂へ。

「お前、バイキングだからって取りすぎるなよ?」

「大丈夫ですー!」

大星に注意されたのにも関わらず、1人では食べきれない量を取ってしまった私は、結局大星にも手伝ってもらった。

「っったく。お前ってやつは。」

それから部屋に戻り、自分達用に買っていた京都土産をつまみながら、明日回る所をチェックした。



でも、隣の布団2枚が気になる。



ご飯から戻ってきたら、部屋に綺麗に布団が敷かれてあったのだ。それを見て、この間4人で話した内容を思い出し、ちょっと緊張してきた。

「伏見稲荷人気だよなー!京都って感じするよね。」

「ね!赤い鳥居がいっぱいなんだよね?」

それからしっぽりとお酒も少し嗜みながら過ごした後、気付けばもう少しで0時を回る時間になっていた。

「そろそろ寝るか。」

「う…うん!そうだね!」

それから電気を消して、

「じゃあお休みー。」

と言って大星は寝てしまった。



え…。10分経っても大星が動かない…。

え…!?本当に寝た…!?




今日大星は何もして来ない感じ…?そういう事なら私も寝るか…。


と、なんだか残念な気持ちになっている自分がいた。

その時、

ーそれなら、もう少し千紗乃からもアクション掛けてみな?したいけど怖いんだって気持ちをさ、素直に美嶋に話して見てもいいと思うよ。


亜美ちゃんに言われた言葉を思い出した。

そうじゃん。待ち癖は良くない。何でもかんでも待って、何も無いなら無いで、大星がしてこなかったからって、責任を擦り付けて逃げているだけだった。


私は大星の寝ている布団に移動して、布団には入らず、掛け布団の上に乗り大星の横に寝転がって、顔をじっと見た。


大星は横向きに寝ていたから、その顔の真正面に自分の顔を持ってきた。



私は大星の髪を優しく触り、その後に頬を撫でた。

肌がスベスベだ。



すると大星が唸って寝返りを打つ。今度は仰向けになるから、私は大星の顔をよく見ようと、布団の上から大星の上に跨った。


唇に目がいく私。


大星にキスしたら起きちゃうかな…?



1人でこんなにドキドキして…。なんだか悔しい。


私は大星の顔にもっと近付いて、唇にキスをしようとした。


すると大星が目を開け、


「わっ!!」

と驚く。


「ひぃぃ!」

私も顔を上げ、大星から下りる。


「びっっくりした…。」

大星は上体を起こし、布団に両手をついて後ろ屈みになっていた。


「ご……ごめん。」


「どうした…!?」


「えっと…いやー……ねぇ?」


「ねぇ?ってなんだよ。」


大星はいきなりの事ですごく驚いていた。私が大星の目の前にいるなんて想像もしてなかったんだろう。

大星に伝えるなら今しかない。

でも、どう伝えれば良いんだろう。

エッチしたいはストレート過ぎるし…

うーん…いつもどうしてたっけ…。

場所が違うとどうしても緊張する。

「いや……なんでもない!なんでもないんだ…。」

すると大星が今度は前のめりになり、私の頭を撫でる。

それから優しい笑顔を向けて、

「お前のなんでもないは、基本的になんでもなくない内容なんだよな。…話して。千紗乃。俺は引かないよ。」

と言ってくれた。


「大星……。」

大星が手を頭から下ろす。私は大星の手を握って恐る恐る伝えた。


「大星は……今日…最初からそのまますぐ寝るつもりだった…?」

「え…?」

「怖さはあるけど……私……その…大星と…」


すると大星は私の唇にキスしてきた。


「千紗乃、もう大丈夫。何言いたいか分かったよ。」

「ほんと…?」

「うん…。」

大星は真剣な顔になる。

「千紗乃にこんな事させてごめんな。」

「ううん。」

「千紗乃は綺麗で可愛いよ。だから、千紗乃がもし、自分に魅力が無くて俺が何もして来ないのかと思ってるんだったら、それは違うからね。」

そんな風に言ってもらえて少し安心する私。じゃあなんで…?

「本当は、俺だってしたいと思ってるよ。好きなんだからそれは当たり前だよ。でも、千紗乃は俺と違って、まだ未経験だろ?だからこそ、俺の欲だけでするのは嫌だったんだ。千紗乃が俺とするのを望んだ時まで待とうって、抑えてたんだよ。今だってそう。我慢してた。ってこれ……俺も言わな過ぎだったね。不安にさせてごめんな。」

ホッとした私は大星に抱きついた。大星もギュッと抱き返してくれた。大星は私とキスより先の事をしたくなかった訳じゃなかったんだ。でも、ちょっと嫉妬しちゃう。

私だけが未経験なのが。それはもう仕方がないことなんだけどね。

「ううん。でも…大星が初めてじゃないのに嫉妬。」

すると大星は私にスっとキスをした後、




「千紗乃、俺の事好きにしてよ。」





と言ってきた。


「え、えぇ…!?」

それを聞いて顔を真っ赤にした私。


「俺、動かないからさ、ちょっと俺を攻めてみてよ。」

と言う大星。でも、どうして大星から何もしてくれないの?それが気になるので聞いてみた。

「なんで私から…?大星はなんで何もしないの?」


「分かんない?」


そう言うと、大星は私にディープキスをしてくる。とろけそうな気分だ。体がだんだん熱くなって来た。

唇を離すと、大星はこう言った。



「千紗乃の事が好き過ぎて……俺が本気で攻めたらもう止まんなくなりそうだから。」




そんな言葉に鼓動を速める私。



しかもトドメには、




「大好きだよ。千紗乃。」






と言ってくれるから、胸がキュンとし過ぎてギュッと締め付けられるように苦しくなった。


「大星、私も大好き!!」

「うん。」

2人で笑顔で見つめ合ったあと、

「私…大星をどう攻めれば良いか分からない…。」

と尋ねた。

「……俺、まず浴衣脱ごうか?」


と言ってきたから顔の熱さが沸点に達した感覚になった。

「ひゃ…!!」


「え…?」


「って事は…上裸じゃん…!?」

「…そんなの海で散々見てんじゃん。」

と、大星はクスっと笑ってきた。

「可愛い。」

大星の言葉一つ一つに一喜一憂してしまう私。

すると大星はシュッと自分の浴衣の帯を解き、浴衣を脱いだ。


「千紗乃良いよ。おいで。」


と、手を広げる大星。私はそんな大星に抱きつき、そのまま布団に倒れた。







それから朝を迎え、7時過ぎに目が覚めた私。


隣には大星がいて、寝息を立ててまだ寝ていた。

そっか、大星には腕枕してもらってたんだった。腕痛くなかったかな…?


昨日の夜にお互いに着直して寝た浴衣も、結局肌けてしまっていて、私は下にキャミソールを着てるけど、大星は直に着ていたからかなり色っぽい状態になっていた。




…昨日の夜の大星も、色気が凄かったな。


…かっこよくて、


…ちょっと強引な所にドキドキして、


…それでいてすごく優しかった。



それに、全然痛くなかった。


大星を見て、昨日の夜の一連の流れが蘇る。あぁ恥ずかしい…。照れちゃうよ。初めての私にはすごく刺激の強い夜だったけど、同時にすごく幸せだった。



「大星、ありがとう。」


大星がすごく愛しい。


そんな大星にキスをすると、大星が舌を絡めて来た。

「ひゃっ…!」

驚いて唇を離すと、

寝起きの大星が片目だけを開いて、

「おはよう…。」

と囁いた。

「おはよう…。起きてたの?」

大星は目を閉じ、吐息混じりの声で、

「うん。お前が起きた時の振動でね。」



と言った。それからあくびをして自分のスマホで時間を見る大星。


「7時8分か。朝飯、7時半から9時半の間に行けば良いんだったよな。」

「うん!確かそうだった。」

「だよね。」

大星は上体を起こす。すると、

「いっってぇ…。」

と腰を抑えた。

「え…大丈夫?」

「あぁ…。でもちょっと、久しぶりで調子乗りすぎたかも。」


そんな一面を見たあと、顔を洗ったりして過ごし、7時半に食堂へ向かった。

朝食もバイキング形式だ。


その時に朝風呂の話になる。

「お前、食い終わったらどうする?朝風呂とか行く?」

「あ!そうだね!せっかくだからもう1回行こうかな?」

その時にふと、貸切風呂の存在を思い出す。


大星とお風呂…。


昨日から変だ。こんなに大星と一緒に居ることを望むだなんて。


でも、大星とお風呂…


お互いに昨晩裸を見たとはいえ、



昨日は暗がりの部屋の中で見た訳であって…



でも、もっといろんな大星の一面を見たい…。


私は聞くだけ聞いてみた。


「あのね…貸切風呂があるみたいなの。大星…良かったら一緒に入る?」


「え…。」


大星、嫌だったかな…?

なんだか驚いているようだ。


そりゃあそうだ。疎い私がこんな事言うんだもん。

「待って、恥ずっ!風呂?お前平気なの?」


「そりゃあ恥ずかしいけど…昨日もう見るもの見たし…。」

「やめろその表現。なんか生々しい。」


大星は少し考えた後に、

「まぁ、朝風呂だし……。露天風呂浸かるくらいだし、千紗乃が良ければそうしようか。」

と照れた表情でそう返してくれた。

なので私達は8時半の枠が空いていたので、その時間に大星と一緒に入った。

さすがにお互いに一緒にお風呂に入るのは初めてだし、時間帯も明るいから裸を直視なんて出来ない。なので大星も私も、タオルを巻いて温泉に浸かった。

私の方は髪型をお団子状にした。

「大星、腰は平気?」

「ん?あぁ、起きたては痛かったけど、今はそうでもないなぁ。」

「なら良かった。」


それからちょっと沈黙があったが、2人ともゆったりとしたいい気分になった。
外の景色を眺めながら、

「良いな。旅行。」

と大星が話を切り出す。

「うん。良いよね!私も行く前から楽しみで仕方なかったの。」

「そうだったか。」

それから大星がこんな話をする。

「千紗乃ん所はさ、家族で旅行とかした事ある?」

「あるよ!でも、1年、2年に1回くらいだったし、お姉ちゃんが大学生になってからは行ってないかなぁ。」

大星は空を仰ぎこう続けた。

「そっか。…俺さ、両親2人とも仕事で忙しくて、まともに家族全員で旅行に行ったの、小学生の時に数回行ったくらいで、以降は行ってないんだよね。」

「あぁ、そうだったんだ…。」

「うん、だからこれまで修学旅行以外で行く機会があんまりなかったから、学校とかの行事関係無しにこうやって旅行すんのって良いなって思ったんだよ。」

そう言う大星の声は少し寂しそうにも聞こえた。だから私はこう尋ねてみた。

「そっかぁ…。大星は小さい時、家族で旅行行けなくて寂しかったりしたの?」

大星は、うーん…と唸りながら前髪を掻き上げると、

「寂しかったというか…。それが俺ん家の普通だったから、仕方ないかって納得させてた。今思うと、本心は寂しかったのかもな。だからせめて、親が定年してからでもいいけど、いつかは両親連れてこういう所に旅行に来たいと思うよ。」

大星はそう言いながら私の目を見つめる。大星が私におじさんやおばさんの話をするのは、進路の話をした時以来だったから、2人に対してこんな想いを抱いていたのは知らなかった。聞いている私は温かい気持ちになった。

「大星は親思いだね!おじさんもおばさんも喜ぶと思う。」

「うん。」

大星は私の言葉を聞いて優しく微笑んだ。





それからホテルをチェックアウトし、祇園観光へ。そこで着物をレンタルした私達。

私は紫色で下がピンクの、グラデーションがかった花柄の着物で、大星は青い着物に白の角帯、グレーの羽織を着た。同じ「和」とはいえ、剣道着の袴姿とは全然また違う。似合っていてかっこよかった。

八坂の塔や、小町通りなど、沢山回って祇園観光を終えた後、着替えて伏見稲荷神社へ。

写真で見るのと全然違う!この木々たちの中に聳え立つ鳥居が幻想的だ。

こんなにもたくさんの鳥居があるから、朱色に近い赤がとても映える。


上っても上っても、まだまだ鳥居は続く。


これ、どこまで続くんだろう…!?


何だかんだで、途中の休憩のスポットも入れて、鳥居を潜りながら1時間以上は上り続けた私たち。ただ、頂上で見た夕日を入れた眺めがかなりの絶景で、私たちは達成感に塗れた。


「大星!」

「ん?」

「また一緒に旅行しようね!」


「うん。もちろん。」







それから旅行を終えて帰ってきてから数日後の日曜日。私の家に大星と奏太を招いて食事をした。今日は長瀬家はお姉ちゃんも含め全員家にいる。

お姉ちゃんは社会人になって働いてるけど、土日はお休みだ。

なのでそこで奏太には京都のお土産を渡した。

「おおお!八ツ橋!ありがとうな!てか、色んな味が入っとる!ラムネ味なんてあるんか!」

「そうなの!美味しいよ!」

「ラムネ味選んだの絶対あんたでしょ。」

「なんで分かったの!?」

「そりゃあそうよ。コイツ(大星)が選ぶわけない。冒険心の欠片もない男だよ?」

「おい宏乃、お前今ディスったろ?」


この4人が揃うのは本当に何年ぶりだろう。

懐かしいなぁ。

そんな昔からの関係の私達がこうやってまた集合するのってなんか良いな。



ねぇ大星。いつか私達がこの先結婚して、家庭を持つようになる日が来るならさ、


今度はこうして、みんなの事を呼べる立場にもなりたいね。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「レジ並ぶから、荷物持ちのあんたら2人は外で待ってなさい!千紗乃!並ぶよ!」

千紗乃と宏乃の家でご飯を食べた後、この姉妹の買い物に付き合わされている俺たち。…いや、ほとんど宏乃の買い物だな。

店の外で待っている時に奏太にこんな話を振られた。

「大星、千紗乃とは順調そうじゃの。」

「え?あぁ、まぁそうだな。」

奏太からこんな話をしてくるなんて珍しい。何かあったのか?気になって尋ねてみた。

「どうした?お前からこんな話。珍しい。」

奏太は照れながら俺にこう告げた。

「いや…実は俺、大学で好きな子が出来て…。」

「えぇ…!そうなんだ。」

俺は目を丸くした。

「それで、アプローチの仕方とかも分からんくての…。これまで彼女も居たことないけぇ、恋の仕方が分からんのじゃ。」

奏太は若干顔が赤い。こいつもそう言う可愛い所あるんだよな。

「あー、そういう事?」

「うん。」


そしたら奏太、俺にこんな事を頼んできたんだ。



「じゃけぇ、俺に…恋の仕方を教えてくれんか?」


「えぇ…!?」


千紗乃。俺はどうやら次はこいつに恋というものを教えなきゃいけないらしい。


とはいえ、俺は恋愛マスターでもなんでもない。経験は詰んだけど、その分失敗なんてたくさんしてきてる。


どいつもこいつも、俺に頼んでくるけど、俺で大丈夫なんだろうか。



「まぁ…役に立てるか分からないけど。」


「おぉ!ありがとうな大星。ちなみにさ、大星の考える、恋するのに1番大事なことってなんだと思う?」



「えぇ…!?うーん…。」




千紗乃と付き合えている事は、未だに夢を見てるような感覚だし、こうなれたのは奇跡だと思ってる。


あいつはきっと俺を選ばないって挫けっぱなしだったけど、


俺がこうして千紗乃と両想いになって、お互いを愛し合える関係になれたのは、


これを絶対に無くさずに持ち続けていたからかもしれない。






「相手を想う気持ち…かな。」




俺はこれからも持ち続ける。


この、一生変わることのない千紗乃への気持ちを。






千紗乃。愛してるよ。










fin.

プリ小説オーディオドラマ