第24話

今度は自分の番
216
2020/11/23 16:52
「いやぁ、本当に良かったな。」

大星の家から自宅に帰ってきて次の日。熱も微熱まで下がってきて、今は部屋のベッドで横になりながら、奏太に電話をしていた。

一昨日の夜から昨日にかけての話を奏太にも報告していたのだ。

「うん。」

「そうか。もしかしたら、今なら大星、俺にも返事くれるかもしれんな。」

「そうか。奏太も1年以上大星に会えてなかったんだったよね?」

「うん。そうなんよ。俺からも大星に連絡してみて、何かまた進展あったら伝えるようにするね。」

「ありがとう。私も何かあったら伝えるね。」


「うん。」


高校生の時に好きだった相手の奏太。


いつかもし私に恋をしたら、


その時は俺から告白すると言ってくれた相手だ。


そんな奏太だからこそ、この気持ちはちゃんと伝えないと。



私は深呼吸をしてから奏太にこう伝えた。




「奏太…私……大星に恋してるみたい。」





奏太、なんて言うかな…?構えているとまさかの答えが来た。



「なんじゃ、今気付いたんか?」



「え…?」


どういう事?奏太は続けた。


「1年前、大星に会えなくなって大学まで行って探したろう?あん時くらいから俺は思っとったよ。大星のことが好きなんじゃなって。」

奏太が電話越しで、温かい表情をして私にそう言ってくれてるような気がした。


「千紗乃の気持ち、届くとえぇね。」



「奏太…。」


私は涙を流す。



奏太の気持ちがすごく温かい。奏太、いつも私を見守ってくれてありがとう。




奏太にエールをもらう形で電話を終え、私は昨日の大星との出来事を思い出していた。


やっぱり今までと鼓動が違う。


大星の事を考えると胸が苦しくて、今すぐに会いたくなる。




これは、私の大星への恋心。



まさか、こんなに離れ離れになった今になって大星に恋をするなんて、思ってもいなかった。

大星…会いたいな。

私は大星とLINEのやり取りをしたくて、

「昨日は本当にありがとう!熱は37.1まで下がったから、あともう一息!明日からまた大学に行けそうだよ!大星のお陰だよ~!」

とLINEを送ってみた。



いつ返ってくるかな。



こんなに大星のLINEが待ち遠しいなんて。


今送ったばかりだと言うのに、すぐにでもLINEの返事が欲しいと思ってしまう。

そんな時私は、ふと大星の顔が見たくなって、スマホのアルバムデータに保存されてある、付き合っていた頃に撮った大星とのツーショットの写真達を見返した。

あの時はこんなに距離が近かったんだなぁって思う。

どうしてこの時に大星への恋愛感情を持てなかったんだろうと今だからこそ思った。


今の私の感情のまま、もう一度高校2年からやり直したい。





そしたら私と大星は両想いだったのに。





それから数日後。大学の授業後に亜美ちゃん、由香っち、こはるんの3人と合流し、ご飯を食べに行った。そこでも大星と再会できた事を話した。3人には、奏太と私が付き合ってないという事実を大星に打ち明けた事も含めて伝えてた。

「それで…帰りの車で泣いちゃってさ…。お姉ちゃんがそんな私を見て言うの。それはLIKEじゃないねって。」

「って事は…?」

と、私の正面に座るこはるんが前のめりになる。

「…今更だけど……私、大星の事が好きみたい。」


と伝えると、みんな黄色い声を出し始める。

「千紗乃がついに美嶋を…!!」

「ええ!それでそれで?美嶋とはその後はどうなの?」

と由香っち。なのでみんなにはLINEのやり取りを見せた。

「私がこの間、こう送ってからは、返事はこれだけ…。」

その返事とは、

「それは何より ぶり返さないようにな」

絵文字もなにも無いけど、私は大星からの返事が嬉しくて、

「ありがとう!!元気になったら遊びに行くね!」

と返した。でも、それ以降既読スルーだ。


「既読スルーってこれ…私、脈ナシ?」

と弱気にみんなに尋ねると、

「なんでそう思うの?」

と亜美ちゃんに聞き返された。

「奏太と私が付き合ってると思って大星が身を引いて、私を忘れる為に何も言わずに引っ越したって1年前にみんなが推理してくれたけど、だとしたらさ…大星はもう、私と奏太が付き合ってないって知ってるんだよ…?大星が私を避ける理由なんて無いはずなのに、今こんな感じだからさ…。自信がなくて。」

と答えると、こはるんが腕を組みこんな事を言ってくる。

「千紗乃ちゃん。まだまだ恋愛が下手だねぇ。分かってないなぁ。」

「え…?」

こはるんは続けた。

「厳しい事言うかもしれないけど、まず、なんで美嶋くんが千紗乃ちゃんの事をまだ好きなんじゃないかって前提で話すの?もしかしたらもう、千紗乃ちゃんの事本当に吹っ切れてて恋愛感情なんて残ってないかもしれないんだよ?」

それを聞いて心を痛める私。そうじゃん。とんだ自惚れ発言をしてしまっていた。

それから今度は由香っちがこんな事を言う。

「それにちーちゃんさ、なんで美嶋から動いてくれないかを待ってるの?」

「へっ…!?」

「好きって気付いたならちーちゃんから動かないと!!奏太くんの時と同じだよ!」

それを聞いて、私はどこかで大星の私に対しての気持ちに甘えていたんだと気付いた。

そして亜美ちゃんが、

「そうだよ。待ってたってなんも生まれないよ。」

と言った。



そうだ。みんなの言う通りだ。


それに、高2の時は大星から私に気持ちを伝えてくれたんだ。



今度は私が伝える番だ!!




なので私はみんなのアドバイスに習って、大星と会う約束を取り付けてみる事にした。


家に帰宅してすぐに、大星に送る文を考えてみた。


「来週どこかで空いてる日はありますか?」


と、この文だけ送ってみた。


早く返って来い…!


すると、15分ほどして返事が来たのだ。


「今週末、実家にいるけどそん時に会う?」



その返事を見て口を手で抑える私。嬉しくて、すぐに返事をした。

「え!そうなの!?地元に用事?」

と送ると、意外とすぐに、

「うん。青南に用がある。OBとしてたまに剣道部の後輩の練習に顔出してるんだ。」

と返事が来た。


なので大星とは青南高校の校門の所で待ち合わせする事にした。

家周辺で良いだろと言われたけど、もう一度大星と高校に来てみたかったんだよね。

「大星!!」

当日の16時。校門から出てくる大星を見つけて手を振った。

大星も小さく手を振り返してくれた。

この時点で私は大星を見てドキドキし始める。そして温かい気持ちになる。

この感覚、奏太の時と同じだ。



…いや、それ以上のものかもしれない…?


今私、本当に大星に恋をしてるんだなって実感した。


私の目の前に大星が立っている。すぐに私はこう話を振った。

「懐かしいね!制服じゃなくて私服でここに居るのが変な感じだよ。」

大星はその私の言葉に、

「まぁ、確かにそうだな。」

と返してくれた。

「ねぇ、学校の裏の河川敷行かない?」

と提案する私。私と大星が付き合う事になった場所だ。そこからなら青南の校舎も吹き抜けでよく見えるしと考えたのだ。

「あぁ、良いよ。」

若干大星はぎこち無いけど、そんなの私がすぐに元に戻してやる…!

それから河川敷に移動して、あの時と同じように河川敷の原っぱに座ってこの間のお礼を伝えた。

「大星、この間はありがとう。本当に助かりました!」

「もう良いってば。」

これ以上はしつこいかな…?なので話題を変えることにした。


でも…何話せば良い……?


私…いつも大星とどうやって話してたっけ?


どうやって話題思いついてたんだろう。


そんな風に話題に困っていると、大星から話を振ってくれた。

「大学はどう?」

私の近況に触れてくれるところが嬉しい。私は率直に答えた。

「うん!楽しいよ!」

…あれ?どうしよう。もう話が終わってしまう。

今日に限って何でこんなに下手なの…?ボキャブラリー出てこないのはなんで?そんな気持ちと戦っているとも知らず、大星は質問を投げてきてくれた。

「そうか。進路決める時に美大で良いのか悩んでただろ?だから実際行ってみてどうだったのかと思ったけど、楽しいなら良かったな。自分の好きな分野とか得意な分野は分かってきたのか?」

「あ…うん!私、立体作品よりも平面の方が向くみたい。粘土でとか、木彫りとか、立体だと表現したい事が上手く出来なくて。好きではあるけど自分に向いてるのは絵なんだなって感じてるところ。」

「ふーん。そうなんだ。PC使って絵を描いたりはしないの?」

「するよ!それも楽しいけど、絵の具使って描くのが1番楽しいかなぁなんて思ったりしてる!」

大星のトークの回しのお陰で、話は弾み出した。

大星はというと、どうやらソフトに助けられてる面が多くあるみたいで、

「俺、デザインするのにラフを描こうにも、絵心無いみたいで、お前みたいに描けないんだよ。ノウハウは頭ん中入ってるから、図面は描けるんだけど、俺の脳にある案を上手く描き表せない事に苦戦してる。」

と言う。

「だからお前が羨ましいわ。お前みたいに俺にも画力があればな。」

「そんなそんな!でも、やっぱり人間誰しも得意不得意ってあるんだね。」

そう言って空を仰ぐ私。それからこんな事を言ってみた。


「私が絵に描いた空間を大星が実現させる。そんな事もやってみたいね。楽しそう!」


「えっ?」


大星は静かに驚いていた。それから再び大星の方を向き、

「もちろん、大学の授業の課題に私が加勢するのは単位のこともあるし不正だから出来ないけど、何かの機会にって事ね。」

すると大星はクスッと笑い出す。

「お前、面白いこと言うのな。でも楽しそう。」


大星の笑顔、久しぶりに見た。ふいに見せた彼の笑顔に胸がキュンとする。


大学の近況の話題に花を咲かせた後、2人で電車に乗って家の最寄り駅まで帰ってきた。

2人で電車に揺られるのも懐かしかったな。


それからいつもの分かれ道。ここで大星とバイバイするのも懐かしい。


でも今日は、


「家まで送るよ。」

と言ってくれたから、もう少し大星と居れる。

「ありがとう。」


その時に、帰り道に初めて大星と手を握った日のことを思い出した。

あの時は私が全然繋げなくて、指が大星の手に当たっちゃって、結局大星から繋いでもらったんだったな。



あぁ…もう一度繋ぎたい。




あの時のように手を繋ぎたいよ。





もちろんそんな事出来る訳もなく私の家の前に着いてしまった。


「大星は明日にはもう一人暮らししてる家に帰っちゃうの?」

「うん。月曜日1限から授業もあるし。明日の夕方には出ると思うよ。」


明日も予定を入れていなかった私。なので一か八か会えないかを聞いてみたけど…


「すまん、明日は別の友達と会う予定があるんだ。」

と返されてしまった。


「そっか…。じゃあ仕方ないね。」


どこかで不安なんだ。また大星と会えなくなる日常に戻ってしまうんじゃないかって。

だから大星の事を少しでも繋ぎ止めておきたかった。

「大星……。また今度お家に遊びに行っても良い?」

と尋ねてみると、


「あぁ。来なよ。誰かも誘って一緒においでよ。」

という返しが来た。


それを聞いて私は自分の思考に気付く。



私、大星と2人きりで会うのを望んでるんだなって。


結局この日は私から仕掛けたアクションも不発に終わり、大星とは別れて部屋に戻ってきた。


大星の近況を聞けたのは良かったけど、2人きりでいい感じになりたいと望んでしまう私。


でも、想いを伝えるのは絶対にまだ早い。


まだその段階に達していない。



それに私は大切な事を聞き忘れていた。


大星って彼女居ないってことで良いんだよね?



今度それくらいは会った時に確かめ無いと。



それから数週間後。大星に会いたかった私は、大星にLINEを送ってみた。そして、大星の家に遊びに行く事が決まった。


それから授業を終えた金曜日の夕方、大星の住むアパートに到着した私。






その時、大星の部屋から美人の女性が出て来るのを見てしまった。








私は大星に姿を確認されないように隣のアパートの影に隠れてその現場をじっと見つめた。

「じゃあね大星。」


「うん。またね。」


それに、仲が良さそうだ。







どうやら大星には彼女がいたようだ。





私、1人で遊びに来てしまって良かったのか…?

すると、


「千紗乃?」


あれ?なんでここに奏太が?
私は下で奏太に声をかけられた。

「奏太!?どうしてここに?」

「いや、大星に俺も呼ばれてて。千紗乃、聞いとらんの?」

なんて下で話していると、大星が私達を見つけて、中に入れるよう促した。

どうやら私に言い忘れてただけなようで、実は奏太の事も誘っていたみたいだ。


私は心の奥で、大星の彼女の事が引っかかったままでいたけど、久しぶりに大星と奏太と3人で小学生の懐かしい話しをしたりとか、奏太の大学の近況を聞いたりしている内に、そのモヤモヤはどこかに消えていった。

3人で鍋を囲んでたくさん食べて、お酒も飲んだ。大星は3月生まれでまだ19歳だからお酒は飲まなかったけど、

あの時の3人がお酒を持ち寄って鍋を囲むなんて、大人になったなぁって思った。

たくさん話していたらもう夜も遅い。

大星とまだ居たいし、離れたくないな…。


すると大星が、

「お前ら泊まっていけば?」

と提案してくれた。


なのでお母さんにも連絡をし、私と奏太は大星の家に泊まらせて貰う事になった。


なんだ。着替えとか持ってくれば良かったな。


「奏太、明日何時に出る?」

と大星。

「明日は午前中に用事があるけぇ、9時くらいには出ようと思っとる。」

「そうか。じゃあお前もそんくらいに奏太と一緒に出たら?」

大星にそう言われて、あぁ…やっぱり私とは2人きりになんてなれないよねと、彼女がいる現実を痛感した。






せっかく忘れかけてたのに。






翌朝。起きるとそこには大星しか居なくて…。




「あれ…?奏太は…?」

「奏太ならもう出た。お前がイビキかいて寝てるから、起こさんでやってーって言われたよ。」


との事だった。最悪…大星にイビキ聞かれた…。

と思った次の瞬間、気付いてしまった。



私今、大星と2人きりだ…。




でもいけない。私も急いで支度して出ないと。


大星にはもう彼女がいるんだから。


なので私はベッドから下りて支度を始めた。


「私も急いで出るね!」

「そんなに急がなくて良いよ。俺、夕方のバイトまでなんも無いし。」

と言うから、私はつい…


「でも、彼女さんに悪いじゃん?」


と言ってしまった。


沈黙が漂う大星の部屋。少しして大星が、





「は?彼女?居ませんけど。」




と眉間に皺を寄せて返してきた。

「え!?昨日私達が来る前に彼女さんと過ごしてたんじゃないの?綺麗な女の人が部屋から出てきたのを見かけたけど!?」

とすかさず聞くと、

「あぁ、あれはいとこだよ。」

とすぐに返答が飛んできた。

「い…いとこ…!?」

大星はため息をつく。

「母さんの兄の娘。俺の4個上で、仕事で近くまで来てたから俺ん家に寄っただけだよ。」


それを聞いて一気に肩の荷がおりた私は、フーっと一息ついて、

「なーんだ。そうだったんだ。」

と言った。

「そうだよ。だから別に慌てて出て行かなくても良いよ。」

「そっかぁ。じゃあもう少しゆっくりしようかな…。」

私は調子に乗って大星のベッドに戻った。ちなみに大星と奏太は私をベッドに寝かせてくれて、2人は床に布団を敷いて寝ていたのだ。お客さん用の布団は1セットしかないから、大星と奏太は2人で1枚の布団で寝た。




そんな時に大星から、





「……何?嫉妬?」





と、ニヤついた顔で尋ねられた。




その言葉に顔が火照る私。だって図星だったから。


何も返さず固まっていると、大星がボソッと

「そんな訳ないか。」

とクスクス笑いながら呟くからつい…





「嫉妬した…。」






と口にしてしまった。

大星には苦笑いをされて、


「何言ってんの?変な奴。」

と言われてしまったから、急に自分の発言に小っ恥ずかしさを覚えた私は、顔まで布団を掛けてくるまった状態で


「今のは忘れて!まだ眠いから二度寝する!」

と不機嫌な態度で返した。


すると…


「二度寝?俺もまだ眠いから寝るわ…。」

と言った後に少し間が空いてから、


「俺もそっちで寝ていい?敷布団慣れなくて、体痛い。」



と言ってきたのだ。





「へっ…!?」

布団にくるまっていた私は慌てて布団から顔を出した。こんなあからさまな反応を示してしまう自分に腹が立つ。

気持ちがバレたらどうするの…。


「ん?」

大星はそんな反応する私に首を傾げる。ここで躊躇うのも変な話だ。私は大星に、


「良いよ。」

と伝えた。

そして大星がベッドに乗り、モゾモゾと布団の中に潜ってきた。大星は普通に仰向けになって寝始める。


大星の実家のベッドはセミダブルだけど、そのベッドと違ってこっちはシングルベッド。

大星との距離がすごく近い。



そんな時に大学の友達の話を思い出した私。前に友達の恋愛歴を聞いたことがあって、その時にその子がこんな事を話していた。



泊まりに行った男の子の家でそのまま良い雰囲気になってノリでキスをして、エッチもしたけど付き合う事も無く一夜の関係で終わったと。




大学生ってみんなノリでキスもエッチも出来るの?

私はそんなハイレベルなことは勇気がなくて出来ないけど…


でも、大星だって大学生だ。なにか仕掛けて来てくれる事を期待したけど…何も起こらない…。

前に由香っち達にも言われた通り、期待ばかりして自分から動かないのはダメだな。



私は手探りで布団の中で大星の手を探し、ちょっと触れてみることにした。


布団の中で左手をモゾモゾさせて大星の手を探していると…


「どうした?何してんの?」

と言って上体を起こして、

「なんか探し物?スマホならテーブルの上にあるだろ。」

どうやら私が自分のスマホをどこに置いたか忘れて探しているものだと勘違いをしたみたい。


「あ…あぁぁ。そこにあったかぁ、ははは…。」

私も大星のその言葉に乗っかって、この状況を回避してしまった。



手を繋ぐチャンス、無くしちゃったな。



大星の顔をこれ以上見れない…。私は大星に背中を向ける形に寝転がり、なんでもなかったように装った。






「探し物はこれ…?」


…と、大星がふいに私の手をそっと握る。






……なんて事は起こる訳も無く、私達はそのまま12時過ぎまで寝てしまった。

先に起きたのは私だった。


ふと横を見ると、丁度大星が寝返りでこちらを向いている。

大星って本当に綺麗な顔してるなぁ。

鼻が高くて、眉毛の形もスっと細くて綺麗で、まつ毛も長くて肌も綺麗。


そんな大星にドキドキする私。


大星がこんなに近くにいるのに、何も出来ない…。



こんな事想ってんの、私だけなんだなぁ。


片想いって、辛いなぁ。



高校生の時は、私とギューって抱き合ってくれる大星が居たのに。


最近、大星に対して後悔を重ねるばかりだ。

でも、当時は大星がこういう気持ちだったんだと思う。


大星はそれでも私への気持ちを貫いてくれた。小学校の時から高校卒業時までずっと、私の事を好きでいてくれたんだから。

こんな少しの期間で私も挫ける訳にはいかない。


大星、好きだよ。



もう少ししたら必ず、私から告白するからその時は聞いてね。



私は布団の中から大星の手を探し出し、そっと握ってそう誓った。




それからも私の大星へのアタックは続いた。


とはいえ大星も忙しいようだから、週に何回も会いたいけど、そんなことは出来ない。2、3週間に1度会えたらいい方だ。


高校生の時は当たり前のように月~金まで同じ空間にいたから、会いたくなったらすぐに顔を見に行けた。

でも、今はそんな事が出来ないから、とてももどかしい。

そうこうしている間にクリスマスを迎えてしまう。


そもそも私とクリスマスなんて過ごしてくれるんだろうか?



…いや、そんな事言ってる場合ではない。大星を誘おう。


しかし、LINEで声をけけるも…


「いや、空いてないな。」

と返信が来た。


そりゃそうだよね。大星はモテるんだもん。先約なんて普通にいるだろうし、


大星はかっこいいし、優しいから、大星と過ごしたい女の子なんてたくさんいるよね。


大星のその日の予定が女の子との予定とは限らないけど、どの道もっと早くに声をかけておくべきだった。




大星とクリスマス…過ごしたかったな…。




私は大星と過ごせない事を拗ねてしまい、可愛げのないLINEを送ってしまった。


「さすが大星!モテる男は違うねぇ!楽しんでね!」


このLINEはそのまま既読スルーされ、大星とのやり取りはストップしてしまった。


その事を大学の昼休み中に学食で玲ちゃんに伝えると、

「うわぁ。それは可愛げ無いやつだねぇ。」

と言われた。

「だよね…。」

「以降、美嶋とはやり取りしてないんだ?」

「うん。送る勇気が持てなくて。」

「ふーん…そうか…。クリスマスは結局千紗乃はどうするの?もし良かったらその日、美術部の子達とカラオケするのに集まるから、良かったらおいでよ。」

玲ちゃんは優しい。そうやって私に気を回して1人にさせないようにしてくれる。

「良いの…?」

「うん!誘おうと思ってたんだけど、美嶋の事で頑張ってるみたいだったから様子見てたの。でも、もし美嶋と会える方向になったりとかしたら、その時はそっち行きなね。」

と背中を押してくれる玲ちゃん。

「ありがとう…。でも、会える気しないなぁ。」

「千紗乃ぉ…。弱気過ぎだよ…。まだクリスマスまで3日あるんだから。もう1アクションくらいしてみればいいのに。」

もう1アクションか…。


その時私はふとこんな案を思い付いた。


「玲ちゃん、今日の夜空いてる!?」

「え?あぁ、うん。大丈夫だけど?」


私の思い付いた案とは、大星のバイト先に食事に行ってみることだった。

大星に連絡しても返って来なさそうだし、別に言う必要もないと思ったからだ。

居ないなら居ないで仕方ない。

いざ行ってみると…。



「千紗乃!ほら、あそこ!」


大星がホールで接客をしていた。

黒いワイシャツに、腰だけのタイプのエプロンがすごく似合っていて、そんな姿がかっこよくて見とれてしまった。


ホールのスタッフは何人もいるけど、呼んだら大星が対応しに来てくれる可能性もある。

「いやー。本当にイケメンだねぇ彼。スカウトの人から声掛けられてもおかしく無さそう。」

「うん…。かっこいい。」

それからメニューを開き、注文する物を決めてスタッフさんを呼ぶ。大星が最初に気付いてくれたら良い。


でも、来てくれたスタッフさんは別の人だった。

残念。大星、忙しくて私達が来てる事に気付いてすらいないのかな。

しばらく大学での話をして過ごしていると、


「お待たせ致しました。」


と聞き覚えのある声。



振り返ると大星が注文した料理を持ってやって来た。

「大星…!」

私は感激で目を輝かせる。


「うっす。柳川さんも久しぶり。」

「だねー!」

玲ちゃんは美術部の元部長。大星も剣道部元部長で2人は部長同士。部長会議が定期的にあったみたいで、そこで2人は面識があったようだ。

「ビックリすんじゃん。来るなら言えよ。」

「え!だって大星が今日シフト入ってんのか聞くのってなんか気持ち悪くない?」

「何それ。別に?」

大星にクスッと笑われてしまった私。

「まぁ、ゆっくりしてって。」

料理をテーブルに置いた後、大星はすぐに戻って行った。

「あぁ…全然話せなかったな…。」

「そりゃそうだよ!バイト中なんだから。」

その後も大星は運びに来てくれたけど、ろくに会話は出来ず…。

粗方食べ終わり、玲ちゃんはトイレに行った。すると…


「あれ?柳川さんは?」

なんと再度大星がやって来たのだ。もう頼んだ料理は全て来たはずだ。

「玲ちゃんならトイレだよ。」

と答えた私。

「そうか。」

大星はトレーの上にあったケーキをこちらのテーブルに乗せ始めた。ケーキ頼んでないよ…?と思ったけど、大星はこう言った。


「2人とも俺の高校の時の同級生だって店長に話したら、これ持ってけって。店長からのサービス。」


「えええ!!」

なんて優しい店長さんなんだ…。こんなに見た目も綺麗で可愛いケーキを頂けるなんて。

「うちの店長、気前いい人でさ。レアチーズケーキだってさ。」

「わぁ!私も玲ちゃんもチーズ大好きだよ!ありがとう!店長さんにもありがとうございますって伝えてもらえるかな?」

「分かった。」


そうだ。今がチャンスだ。

大星にクリスマスの事をもうひと掘りしよう。


「…大星、クリスマスはイヴも当日もずーっと予定でいっぱいなの?」

大星は何を答えるかと思えば、

「イヴは1日フルでバイト。25日は昼からバイトで、終わったら飲みなんだよ。多分オール。」

と言ってきた。

「…そうなんだ……。」

その飲み会って…女の子達もきっといるんだよね…?気になって聞いてしまった。

「飲み会ってさ…男女混合?」

「え?そうだけど?」

とすんなり答える大星。


やっぱり女の子いるんだ…。私は悔しくなってつい大星に嫌味ったらしく

「へぇ…そうなんだ……。可愛い女の子いっぱいいるんだろうなぁ。リア充だねぇ。」

と漏らしてしまった。

「は?」

「良いねモテる人は。」


すると大星はムスッとした顔をして、

「つーか、なんでお前そんなに突っかかってくんだよ。関係ないじゃん。」

と言い返してきた。それにムカついた私はつい怒ってこんな事を言ってしまった。

「そうですねー!関係ないですねー!どうぞその日居る女の子とイチャイチャしてくださいー!」

すると大星は、





「言われなくてもしますー!その日めっちゃ可愛い子来るんだよなぁ!俺のタイプの子だから狙ってる。」




と返してきたから、その事実を聞いて私は凍りついてしまった。


大星のタイプの子がいる…?

しかもその子を狙ってる…?


あぁ、こんな言葉聞きたくなかった。


そうこうしていると、玲ちゃんが戻ってきた。


「あれ?美嶋、このケーキなぁに?」

「あぁ、店長からのサービス。同級生なの言ったら持ってけってさ。」





大星…嫌だ。


女の子となんて会わないでよ。


玲ちゃんと話終わった後、大星はホールの作業に戻った。

「千紗乃、どうした?」

私は膝に手を突いて俯く。



「……玲ちゃん…。私、大星とクリスマス…過ごせないや。大星、狙ってる子にアタックするみたい。」





続く


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