ー恥ずかしくて出来ないなら、その時は俺に言えよな。
家に帰り、夕飯を食べてからお風呂に入って部屋に戻った後、私は今日大星に言われたことを、ベッドに寝そべりながら思い出していた。
なんか、大星ばっかり大人になっていって、あの3人だけじゃなくて、私は大星からも遅れを取っていると思った。
私の心は小学生の時のまま止まっているのかな…?
私は将来ちゃんとした大人になれているかなぁ。なんて、自分の未来が少し心配になった。こんな事聞いたら大星、私になんて言うかなぁ?
そう思った次の瞬間には、私は携帯を手に取り、大星とのLINEトーク画面を開いていた。
大星、今何してるかな。
そう思って私は大星に珍しく電話をかけてみた。私が大星に電話をかけるなんていつ以来かな。
そう考えながら携帯を耳に当て、呼出音を聞いていると、
「もしもし?」
大星の声が聞こえてきた。
「あ…!もしもし…!千紗乃だよ。」
「分かるわ!どうした?珍しいじゃん電話なんて。何かあったのか?」
「いや…えっと…。大星、今日は送ってくれてありがとう。」
「なんだ、そんな事?良いのに別にお礼なんて。俺ん家からお前ん家なんて、15分くらいしか離れてないんだから。」
「まぁ、そうだけど…。電話したの、それだけじゃないんだ。」
「ん?どうした?」
私はベッドに座る体勢に変えて電話を続ける。
「あのさ、大星から見て私って、子供のまま止まってる?」
「え?どういう事?中身の事を言ってんの?」
「そう。ちょっと、最近恋愛修業始めるようになってからを振り返るとさ、私が凄く子供なのが目立って、仲良くしてる3人だって私からしたら大人だなぁって思うし、大星見てても思うの。私だけ子供で取り残されてる感じがして…将来平気かなぁってちょっと思ってしまったの。」
大星はなんだか電話越しでくすくす笑っていた。
「そうだな、確かに千紗乃は体だけ成長して、中身は小学生の時のままかもしれないな!変わんないもんなぁお前。」
「なっ!酷い!」
「ははは、体だけ高校生。まぁ、でかくなったのは身長と胃袋だけって所か?肝心な所は大きくないしな。」
どういう事?!肝心な所は大きくないってまさか…!
「酷くない?さっきから!一応これでもCカップは「言わなくていい!」
と、大星が遮ってきた。
「大星、私をからかいすぎ。」
「ごめんな。つい。」
「私ってそんなに小学生かなぁ?大星、私の事小学生としか見てないんでしょう。」
「そんな事ないよ。ちゃんと俺はお前を1人の高校生として、女性として見てるよ。それに、子供っぽくて将来が不安って言うけど、俺は気にする事ないと思うんだ。」
「…え?どうして?」
「俺からしたら、お前の恋愛偏差値が低すぎるだけの事だと思ってるからだよ。他は別に高校生並じゃないか?」
「そう…かな…?」
「そうだよ。それに、俺の部活にも普通に恋愛経験0の奴とかいるよ?」
「え、そうなんだ。」
それを聞いて少し安心する私。
「そうだよ。だから特別お前がおかしい訳でもなんでもないよ。」
「なんだ、それなら良かった…。」
「うん。みんな別に千紗乃を置いてこうとしている訳じゃないんだし、それはお前の勝手な被害妄想だと思うよ。それに今お前は、みんなに着いていけない自分を変えようと、興味を示して来なかった恋愛感を知ろうと動いてる真っ最中じゃんか。だから今は何も不安に思うことは無いよ。全部やり切った後に自分がどうなっていたいのかの方が大事じゃん。」
「うん。そうだね。」
大星の言っていることがスっと入ってくる。全部やり切った後か…。その時にはちゃんと彼氏がいて、恋バナに混ざってみんなとワイワイ話せるようにもなっていたいし、今よりも人の気持ちが察知できるような力をつけて、たくさんの人の支えになって、寄り添っていけるような人になっていたい。そう思えた。
「むしろ、こういう悩みが出たのだって成長してる証拠じゃん。変わろうって決めてこういう手段をとっていなかったら、今のこの悩みは出てこなかった訳だろ?そうじゃなかったら、俺ともこういう話をすることもなかった。こうやって人に相談して、いろんな価値観手にして挑戦していく中で失敗と成功を繰り返していくから成長出来るんだよ。」
「うん。」
「お前が中途半端な気持ちで修業を頼んできたわけじゃないんだろうなって思えたからこそ俺だって引き受けたわけだし。壁にぶち当たったら、いつでも俺に相談してこいよな。」
「ありがとう。大星。」
それにしても大星はどこでそんなこと言えるようなスキルを身につけたんだろう。
「大星はどうしてそんなに的確なアドバイスが出来るの?」
「そんなに的確だった?」
「うん。」
大星はこう返してきた。
「えー?そうだなぁ。いろんな人と話すからじゃないか?ほら、俺さ、小さい頃塾だけじゃなくてサッカーとか習字とか、習い事も多かったろ?そこで出会った友人とは今も繋がってるし、塾の先輩とか、部活の先輩とかと部活以外の所で遊んだりして会って話す機会作ってたし。同級生との繋がりだけじゃなくて、いろんな人との関わりを大事にしてきたからじゃないかな。」
確かに大星は昔から人見知りもせず誰とでも仲良くなっているイメージだった。
「そうなんだ…。凄いなぁ大星は。」
「すごくなんか無いよ。てか、千紗乃とこんな深い話するなんて思ってなかったなぁ。」
「私も。大星にこういう形で相談の電話するの初めてかもしれないね。」
「そうだな。こういう存在って、良いな。」
「うん。良いね。」
気持ち的にほっこりした私。こんな風に電話していると、大星になんだか会いたくなる。そっか、大星と私は彼氏彼女同士なんじゃん。会いたいとか、そういう事言ってみても良いのかな?ドラマでそういうシーン会ったし。
「なんか会いたいな。大星に。」
「なんだ、ドラマのセリフの真似か?分かりやすいなぁ千紗乃は。」
なんて、大星にはそう言われてしまったけど、私は言い返した。
「それもあるけど、本当に会いたいなって思ったから言ったよ。」
こういう気持ちを言葉にした事が無かったから自分でもなんか新鮮だ。大星自身も私からこんな言葉聞く事無かったから同じく新鮮な気持ちかもなぁ。だからこそ大星がなんて返してくれるかちょっとワクワクした。
でも大星から返ってきた言葉は
「そっか。……まぁ良いじゃん。明日また学校で会えるし。」
だった。
何…それだけ?!せっかく私が一生懸命慣れもしない言葉を使ってみたって言うのに、返しがそれ!?
「何それ…!それだけ?!」
と、つい言ってしまった。
「え?何怒ってんの?」
「だってさぁ、修業の為に今、一生懸命私が慣れない言葉使ったっていうのに、それに対しての返答が雑じゃない?!大星にとっては会いたいなんて、聞き慣れてて言い慣れてる言葉かもしれないけど、私にとっては聞き慣れても言い慣れてもないんだからね!」
私は枕を片手で取って自分の胸元に持って来てぎゅっと抱き潰した。
「すまん、お前が怒ると思わなかった。」
「私だって怒るよ。せっかく頑張って言ってみたのに。」
すると、意外な返事が帰ってきた。
「…お前さ、会いたいって言葉を俺が聞き慣れてるし言い慣れてるって今言ってきたけど、俺だって…会いたいなんて言い慣れてないから。」
「え…?」
「なんでもかんでもお前ばっかりが初めてだと思うなよ?!」
大星って人に会いたいって言わない人だったんだ。過去に付き合った事ある女の子の人数、前聞いた時には5人とか言ってたような気がするから、てっきりそんな甘い言葉、とっくに言い慣れてるもんだと思っていた。
「…それはごめん。私だけじゃない部分もあるんだね。」
「そうだよ。俺、別に恋愛マスターとかじゃねぇし。…とりあえず千紗乃、そろそろ切るな。」
「あぁ。うん。電話出てくれてありがとう。また明日ね。」
「おう。お休み。」
「うん。お休み!」
大星との電話が終わって、部屋に静けさが漂う。そこで私はこんなことが頭に浮かんだ。
大星ってどうしたら「会いたい」って言ってくれるんだろうって。
ちょっと明日、みんなにも話してみよう。
次の日のホームルーム前。今日は亜美ちゃんと由香っちの机の所にに来ていた。私が教室に着いてから少しして、こはるんも到着した。由香っちの机の周りに集合すると早速聞かれた。
「千紗乃、手は繋げた?」
「みんな、やっと繋げました…!」
「わぁ!おめでとう!」
と由香っち。
「おめでとう千紗乃ちゃん!いい感じじゃん!」
「良いね!どういう流れで繋げたの?!」
亜美ちゃんからそういう質問が来たから、昨日のシチュエーションを覚えてる限り伝えた。
「なるほどねー。ちーちゃんよく頑張ったね!」
と由香っち。
「そう、本当に私頑張ったんだよ…。」
「手を繋ぐのにもここまで苦労するなんてね。でも、カップルのする事なんてまだまだあるよ千紗乃。」
と亜美ちゃん。
「ですよね…。次は私、何に挑戦すれば良いのかな?」
私が由香っちの机に突っ伏してそう言うと、こはるんがこう返してきた。
「次はあれだよ!ハグでしょハグ!」
「え?!」
私は驚いて顔を上げる。
「私から急にハグなんて…出来ないよ!」
昨日丁度こはるんと彼氏さんがハグしあっているのを見たばかりだけど、あれこそLOVE同士じゃないときついものでは!?と思ってしまった。修業でやるにはハードルが高すぎる。
すると由香っちがこんな事を言ってきた。
「ていうか、美嶋からなんで何もしてこないの?!私にはそれが分からない…。」
それに対して亜美ちゃんがこう言う。
「確かに!千紗乃の恋愛修業する為っていう事情で付き合ってるとはいえ、千紗乃は本当に慣れてないわけなんだから、少しは引っ張ってくれたっていいじゃんね。」
「そうだよね。私からしたら、千紗乃も美嶋くんも慎重過ぎだし真面目過ぎる。」
とトドメにこはるん。
その言葉は私にグサッと突き刺さる。
「ね!だって手を繋ぐのだってさ、ちーちゃんが実行しようとしてたのに気付いてなかったら、繋いで来なかったってことでしょ?いやいや!そこは女子にやらせず美嶋からリードしてあげてよ!って話だもんね。美嶋に今日選択授業で一緒になるから言ってやろうかな。」
と由香っち。
「言わなくていいよー!!ほんとに、大丈夫だから!大星はきっと、私への修業の仕方が分からないだけだよー!…だから昨日も私に対して、会いたいって言い返して来なかったんだと思うし。」
「どういうこと?」
こはるんが尋ねてきた。
「あぁ、そうそう。昨日、大星と夜に電話したんだ。」
「ほぉ!?それでそれで?!」
3人とも私を凝視してくる。
「大星に、私は子供っぽいのかな?このままじゃまずいのかな?って相談の電話をしたら、そんな事ないよ、千紗乃は変わろうとしてるじゃん。ってフォローしてくれたの。だからそんな風に本音で話せる人っていいねって話をしてた中で私が気持ち的にほっこりして、私が大星に、会いたいなぁって伝えたのに、大星は私に、明日学校で会えるじゃんって。」
そしたらみんな、大星の返しよりも先に、私が大星に会いたいと伝えたことに対して驚いてきた。
「えー!!本当に千紗乃がそう言ったの?」
「美嶋くんに会いたいって?きゃー!千紗乃ちゃん、成長してきたねぇ!」
「ほんと!?私成長出来てるの!?やったぁ!」
私は目の前にいたこはるんの腕をとって振り回す。
「痛いよ千紗乃ちゃん。でも、本当に徐々に成長出来てるよ。ちなみにその会いたいって言うのは素で思えたの?」
痛いと言われてしまったので腕を振るのをやめる私。
「うん、なんかほんとに温かい気持ちになった。ただ、これがLOVEかと言われたらうーんって感じ。前に大星から、LOVEの感情は胸が締め付けられるようなものって説明されたけど、昨日の自分がそんな感情だったかって言われたら、そうでは無いんだ。」
「なるほどねぇ。」
「でも、私なりに頑張って伝えたのに大星の返しがそんなだから、なんか雑じゃない?って怒ったら、俺だって会いたいなんて言い慣れてないって言われちゃった。だから、どうしたら会いたいって言って貰えるかなって、私の中でちょっと闘争心が…」
「何でそこで闘争心?!」
と由香っちに突っ込まれた。その後亜美ちゃんにこんな事を言われた。
「てか、美嶋に会いに行ってないよね?ここ来る前に顔出してきたとかしてないよね?」
「え、してないよ。」
「…だよね。」
「亜美ちゃん、どうして?」
亜美ちゃんは私のその返しに目を丸くしてこう返してきた。
「どうしても何も、会いたいって昨日伝えたくせに、会いに行ってないんでしょう?美嶋からしても多分、やっぱりアイツは言っただけかって目で見られるよ?でも別に今から行かなくて良いよ。千紗乃にとっての会いたいって気持ちはその程度だったって証拠じゃん。少し厳しいことを言うかもだけど、そんなんじゃ美嶋から会いたいなんて言って貰えないよ。」
亜美ちゃんの言う事がすごく理解出来た。私の会いたいって気持ちは、昨日のあの瞬間に思えたほんの一時の感情でしかなかったんだ。大星はじゃあ、それを読んで私をそうあしらったのかな?
なんて考え事をしてたら、
「千紗乃いる?」
教室の入口に大星が立っていた。
「え!嘘!ちーちゃん、美嶋から来たじゃん!行ってきなよ!」
私は由香っちに背中をバシッと叩かれ席を立ち、大星の元へ向かった。
「おはよう大星、どうしたの?」
大星と私は廊下の窓側で話す。
「俺さ、朝練がな、その…火曜と木曜にあんだよ。」
ほぉ、何故か大星は少し照れ気味に私に部活の朝練のスケジュールを話してきた。ポカンとしてしまった。でも、次の言葉で大星がなんでそう伝えたのかが分かった。
「月、水、金の1日置きでも良かったら…一緒に行くか?学校。」
「へっ!?」
私は思わず口を手で抑える。そういえば学校一緒に行くなんて、小学校の時だって通学路若干違ったし、大星と朝待ち合わせして一緒に行くなんてこと、今までしたこと無かった。
「どうしたい?別にすぐに答え出さなくても良いよ。考えといてくれたら。」
私は咄嗟にこんな言葉が出た。
「一緒に行こう!大星!ご指導お願いします先生!」
「バカ、先生はやめろっつったろ。じゃあ、そうしようか。」
大星は私に笑いかける。
「でも、急にどうしたの?」
私がそれを問いかけると、少し顔を赤らめてこんな返事が来た。
「お前が俺に会いたいって言ってくれたから…考えたんだよ。俺なりに。」
「えっ…。」
大星、考えてくれてたんだ。
「だから、千紗乃がそう思ってくれるんだったら、少しでも一緒に居る時間が長い方が…良いのかなって思ったんだよ。」
大星は相手の気持ちをよく考えてる子なんだなって思った。さすが私の先生だ。でも、1個だけ聞きたい。
「それだけじゃなかったりして!大星も、私に会いたくなったの?」
なんて聞くと、
「さぁ、どうだろうな!」
とニヤッとされてそのまま上手いことかわされてしまった。
大星は私の頭にそっと手を当てて1度ポンと軽く叩くと、
「修業も良いけどお前、そろそろ中間テスト近い事忘れんなよ。」
と言ってクラスへ戻って行った。
わ…忘れてたーーーー。
しまった、後1週間で中間テストだ。
私は一気に絶望の崖に落とされた。
「みんな…中間テストの存在忘れてたよ…。」
由香っちの机にへばりつく私。
「もしかしてまだテスト前勉強してない?」
と由香っち。
「してない…。」
「そうかぁ…。でもまだ間に合うって!てかちーちゃん、何話して来たの?美嶋と!」
由香っちは肩を叩きながらそう尋ねてきた。
「これからは一緒に学校行く?どうしたい?って聞かれたから、じゃあそうしようかって言って…。」
その話にみんなは大喜びだ。でも私は中間テストの事が頭をぐるぐる巡る…。あぁあ、また勉強との戦いが始まるのかぁ…。
『美嶋のやつ…まさか…。』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
今は2限目が始まる前の時間。私は選択授業の教室に移動してそこで、席に着く前の美嶋を捕まえた。
「ねぇ、美嶋。」
美嶋は振り返ると、
「おい、原西。お前に丁度話したい事があったんだよ。」
と私に言ってきた。
「へぇ、奇遇だねぇ。私も。」
私と美嶋は1年の時にクラスが同じで、仲も良かった。2年になってからはクラスも違って、こうして選択授業の数Bでしか会わなくなって絡みも随分少なくなったけど、最近はちーちゃんの事があるから、美嶋本人と特別めちゃくちゃ話しをしてるわけじゃないのに、ちーちゃんを通して美嶋と会っている気分にはなっていた。
「アイツに試しに付き合えばとか、手を繋げとか、会いたいって言えとか、やいやい言ってんのお前だろ?」
「やいやいって失礼な。私はちーちゃんが恋愛修業したいけどどうしたらいいかなって悩んでたからその提案をしただけだよ。ちーちゃんが私達の言う事を素直に受け止めて頑張ってる。ただそれだけの事。私達が無理矢理やらせてる訳じゃないもん。」
美嶋はムスッとした顔でこう言う。
「お前らがバックにいると思うと、素直なリアクションが出来ないんだよ俺が。アイツがこう言うのも、原西達になんか言われたから挑戦してるだけか?ってな。千紗乃もキャパオーバーになるから、そんなに外野が騒がないでやってくれよ。」
だから言い返してやった。
「言っておくけど、私たちは会いたいって言ってみな?なんて一言も言ってないよ。全部が全部私達が試してみたら?って言った事ではないよ。」
「え?」
美嶋は眉毛を潜めて小さい声でそう反応を示した。
「ていうか美嶋さぁ、受け身過ぎじゃない?」
「は?」
「なんでちーちゃんから来るのばっかり待ってるの?美嶋はそれでいいの?」
「どういうことだよ。」
美嶋はため息をつきながら私の話をダルそうに聞く。
「ちーちゃんの言葉を通して何となく美嶋の気持ちが伝ってくるから。本当は美嶋…「それ以上言うな。」
私が言いたかった言葉を遮られてしまった。
それから数Bの先生が教室に入ってきてしまったから、タイムオーバーだ。
美嶋は私を軽く睨んだ後そっぽを向き、黙って自分の席に着いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
それから昼休み。こはるんがこんな提案をしてきた。
「ねぇねぇ、今度の土曜日に私達4人で集まってテスト勉強する約束してたけどさぁ、千紗乃ちゃん、せっかく彼氏が首席なんだから、別の日にでも勉強教えてもらうよう頼んだら良いのに!」
え?大星に勉強を教えてもらう!?私はそう言われて昔を思い出す。大星は昔から頭が良くて、私が少しでも間違えたりするとダサいダサいって小馬鹿にして笑ってきたんだよね。そのイメージが強いから、大星に教わるとまた小馬鹿にされて、私がイライラしそうと思った。それをそのまま伝えたけど、いつの話をしてるんだとみんなに笑われてしまった。
「美嶋だってその時よりもきっと大人になってるだろうから大丈夫だよ。まぁ、それが本当にトラウマレベルで嫌なんだったら、頼まなくてもいいと思うけど…。」
と亜美ちゃん。
でも、別にトラウマ的な話でもない。どちらかと言うと、
「いや、大星に教わるのが屈辱というか…」
っていう方面の問題だ。
「プライドがあんのね。」
と由香っち。
「そう…!だから勉強教えてとか負けを認めているみたいでなんか嫌だ!」
「何故そこでまた闘争心!?」
と亜美ちゃん。
でも真面目な話、私は勉強が苦手で赤点スレスレのものが特に理数系で多い。来年は受験だし、体育とか美術とか音楽は得意なのに、その他の成績がかなり足を引っ張っている現状っていうのも、打破すべきことではある。
「千紗乃、追試になったらどうしようってよく言ってるから、心配なのよ私は。」
「そうだよねぇ…。問題は数Ⅱと化学だけど、ここにいるみんな得意なの文系だもんね。」
数Ⅱと化学は必修科目。
するとこはるんが、
「あれ?由香ちゃん、数B取ってたでしょう?割と理数系もいけるんじゃ?」
と言った。
「いやー、私、数Bはまだ得意だけど、数 Ⅱはそこまでだよ。教えられても数Bだけだし、でもちーちゃんは履修科目じゃないじゃん?何せ私も点数取れていつも60点とか70点くらいだから、美嶋には及ばないよ…。」
ちなみに1年生の時の数Ⅰの大星の点数を1度だけ由香っちが見てしまった事があるみたいで、その点数がなんと97点だったそうだ。
これは、私が折れて大星にお願いした方が早いか…?
「彼氏の家で勉強とかちょっとドキドキしちゃうよねー!」
「ね!ね!2人きりだし甘えられるし、良いよねー!」
亜美ちゃんとこはるんはそう言いながら自分たちの世界に入っていた。
その後、お弁当を食べ終わってから大星に会いに行った。
「あぁ、長瀬…!」
「道田くん!」
彼は1年生の時に仲が良かった男の子だ。クラスが別になってからというもの、最近遊んだり出来てないなぁ。
「ねぇ道田くん、大星いる?」
「最近よく美嶋に会いに来るね。どうした?」
「そっ…そうかな?」
「あー、でもお前ら確か幼なじみだっけか。」
「そうそう。」
「ふーん。」
この様子、大星は道田くんには付き合っている事は話していないみたいだ。大星はこういう話はあんまり話さないのかな?
「そういえば道田くんって大星とはよく話すの?」
「あぁ、話すよ。出席番号順の席の時なんて、美嶋に道田でお互いに「み」だから、席が前後ろだったから、そこからよく話すようになったんだよ。」
という感じで教室の入口で話していたら、
「なんだ?美嶋美嶋って。」
と言って大星が現れた。
「おぉ美嶋、長瀬が呼んでるよ。」
「でしょうね。」
道田くんは手を振って、
「じゃあなー。」
とニコニコ笑いながらその場を離れていった。
「道田と何話してたの?」
「あぁ、道田と美嶋で名前が2人とも「み」で始まるから、出席番号順で近かったよーって!」
「あぁ。それで俺の名前が出てたのね。そうだ、ちょっと自販機で飲み物買いたいから付き合ってよ。」
そう言われて大星と一緒に飲み物を買った後、外のベンチに座って2人で話す流れになった。ついでに大星が、私用にとピーチネクターを買ってくれた。
「あれか?またノート貸してくれ的な?」
「起きてるじゃん最近は!」
大星は本当に私をからかうの好きだなぁ。大星は笑いながら自分用に買ったサイダーを飲む為に蓋をひねった。すると、
「うわっ。あぁあぁ…!」
そう、サイダーの入ったそのペットボトルから開けた瞬間に泡が吹き出してきたのだ。大星の手はビシャビシャだ。
「わ!ちょっと大星!私の事バカにしたバチだね。」
「は?最悪だわ。」
「そこの蛇口で洗ってきなよ、ほら。放っておくとベトベトになるから。」
私は飲み物をベンチに一旦置いて、大星の腕を掴んで蛇口のところに連れて行った。それから少し捻ると何故か大量に水が出て焦る始末。
「良いよ後は。ありがとう。」
そう言って大星は手をただ洗い…と思ったら、軽く水をかけてきた。
「ちょっと、何すんの!」
大星はケラケラ笑う。
「千紗乃をバカにしたバチだって言ったバチ。」
「意味が分からない!」
私は蛇口を上向きにして強くひねった。
「うわぁぁ!バカバカバカ!冷てーよアホ!」
「あははは!仕返しー。」
しまった、ついいつものノリでこんな事をしてしまったけど、良いのか私。後の事を考えずにやってしまったけど、
こんな事したら勉強教えて貰えないんじゃ…??
「このやろマジで…。冷てー。お前のせいで前髪も濡れたわ。くそー。マジで今にお前をプールの中に放り投げたいくらいだ。」
「えっ!大星、私をかつげるの?昔は私がおんぶしてたのに。」
「お前それ何年前の話だよ。それに前からお前ん事もおぶれただろうが。」
「だって腕相撲だって昔は私が勝ってたくらいじゃん!」
「だから、何年前の話?」
と思いつつも、言われた事に対してついくせで、反射的に返してしまう私。
「当時は奏太の方が力あったもんね!奏太、色白で華奢なくせに、どこからそんな力が出てくるの?って感じだったよね!」
なんて言ってみたら大星は急に私の目の前に来て何をするかと思ったら、瞬時に私の事を軽々と抱き抱える。これは所謂…お姫様だっことやら…?
「奏太になんか負けねぇし。」
太星…?
大星は凛々しい顔つきをしてそう私に言い放った。
その後すぐに私を下ろして、
「小学生の時より力あるっつーの。ほら、ベンチ戻るぞ。」
と言いながら私に背を向けて歩きながらそう言ってきた。
大星に持ち上げられた時、一瞬時が止まったような感覚になった。
その時の大星がちょっと、かっこよく見えた気がした。
ベンチに戻ってきて、大星から話を振ってくれた。
「で?俺に用があって来たんだろ?何?」
大星にいろいろと仕掛けた後だから言い難い…。
「なんだよ。早く言えよ。」
大星は私に顔を近づけてきた。この圧がすごい。
「わかりましたー!言いますー!先生、私に勉強教えてください!」
私は一旦ベンチから立って大星に向かって頭を下げながらそう伝えた。
「…は?」
「テスト勉強、1人じゃ不安で…。理数系の勉強が特に…。」
大星は少し慌てた声色で、
「あのさ、とりあえずは座れよ。」
と私を再度ベンチへ誘導した。
「お前に勉強!?時間かかりそうだなぁ。」
大星はニヤニヤしながら私をからかうように笑ってきた。
「そこをなんとか!追試はもう嫌なの!」
と、手を合わせてお願いする私。
「え?そんなにお前、追試常連なの?」
「常連って程じゃないけど…。」
すると大星は私の頭を撫でながら、
「良いよ。やろっか。その代わり、せっかく教えてやったのに赤点とかやめろよ?」
と返してきてくれた。
「え!ありがとう大星!」
私は大星の両手を掴んで振り回した。
「痛いっつの!」
「あ、ごめん…。」
「でも、どこでやるんだ?お互い部活無い日に図書室とか?あー、でも今日が木曜だから…明日部活やったら来週1週間はテスト前だから部活無いな。」
その時に亜美ちゃんとこはるんの会話を思い出す私。
ー彼氏の家で勉強とかちょっとドキドキしちゃうよねー!
大星の家で勉強が出来れば、みんなの話にも入っていけそうだ!それに、久しぶりに大星の家にも行ってみたいな。という事で、
「ねぇ!大星の家は?今度の日曜日に空いてたら、大星の家とかどう?広いし!」
「え、俺の家??」
「そうそう!それに久しぶりに大星の部屋もみたいし、大星の部屋で勉強とかどうかな?」
すると大星は眉毛を潜めながら苦笑いを浮かべた表情でこう言ってきた。
「あのな、男の部屋に入るとか気安く言わない方が良いぞ。」
え、どういう事?
「なんで?小学生の時はよく遊びに行ったし部屋でゲームとかもしたじゃん。何?そんなに見られたくないものでもあるの?相当部屋が汚いとか?」
「あーもー…そうじゃねぇって。」
「分かった!大星もしかしてエロ本でもあるの!?」
「バカ!ねぇわ!!」
「じゃあどうして?私がどんなに大星の彼女であっても無理なの?大星は今まで付き合ってきた彼女を部屋にあげたこともないの!?」
と、私が言うと大星はポツリと言葉を発してきた。
「ごめん、そうだよな、お前今一応、俺と付き合ってるんだもんな。」
「えー!?忘れてたの!?恋愛修業中じゃん。私!」
大星は少し照れくさそうにしている。
「忘れたわけじゃないけど…再認識したというか。」
「じゃあとりあえず、おばさんに聞いてみて、大星のお家で問題無かったら教えて!」
「はいはい…。母さんに聞くの面倒臭いなぁ。」
大星が言った、男の部屋に入るとか気安く言わない方が良いっていう意味が未だに分からない私だけど、
その後大星からは、次の日の朝一緒に登校している時に、日曜日に家に来てもOKだと返事を貰った。
続く
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。