第8話

千紗乃の決断
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2020/11/23 16:47


私は美嶋にそのまま駅前のファストフード店に連れてかれた。お互いに頼んだものを乗せたトレーを持って向かい合わせの席に座った。

「ねぇ、なんでここ?わざわざ店入る必要あった?」

「長くなりそうだからな。」

美嶋はムスッとした顔をして私を見る。

「良いだろ、おごってやったんだから。」

「そーゆー問題じゃなくて…。」

美嶋は自分のスマホを手に取り、

「大丈夫だよ。お前の彼氏には俺がLINEしたから。」

と言った。

「は?絢斗に?なんてLINEしたの?」

私の彼氏、木原絢斗くんは1年生の時に同じクラスだった子で、実は美嶋とも仲が良い。
美嶋はスマホをテーブルに置き、こう続けた。

「原西借りるわー。事情聴取したいことがあってね。お前もまだ近辺にいるなら来れば?って。」

「絢斗来るの!?」

「知らん。返事来ないから見てないんじゃん?」

「ふーん。男バス今日はうちの女バスとメニュー違ったから、今どこにいるかは分からないなぁ。」

「そうか。まぁ、後に返信来るだろ。」

という事で、仕切り直し。美嶋は軽く息を吸い込んだ後に、

「それで?何?告白って。別れさせろって。」

と聞いてきた。

「あぁ、順番に話すから待ってよ。それに言っとくけど、元はと言えば、あんたのせいなんだからね!」

「はぁぁ?」

私は腕を組んで美嶋に強く言った。


「あんた昨日、詩乃に告られたんでしょう?」

「ゲ。何だよ。女子って恐ろしいな。誰から聞いたんだよ。」

「うちのクラスの友達から。」

「…それ、あいつとも仲良い子か?」

「そうだよ。だからちーちゃんも知ってんの。あんたが告られた事。なのに美嶋はその事彼女の私に何も報告してくれないって悩んでたよ。」

美嶋は鼻でため息をつく。

「話す必要ないだろ別に。俺は断ったんだから。もうそれで終わりで良いじゃんか。何が問題なんだよ。」

「女心分かってないなぁ。女子は隠されるのとか嫌なの。私だって嫌だよ。絢斗が別の人に告られて断ったとしたって、言って貰えないのはなんか嫌だ。断ったんなら、その事ごと伝えればいいじゃんってなる。ちゃんと俺は断ったから安心しろよ?って言って欲しいよ。」


「納得いかん。俺は悪くない。」

「はぁ?あんたが話さないせいで、私ばっかり話すのも…ってちーちゃんが変な意地張っちゃってさ。美嶋が原因なんだからね!」


「…なんだよそれ。」


その時に美嶋のスマホのバイブ音が聞こえる。画面を上に向けると、絢斗からのLINEが表示された。

絢斗からのLINEはこう来ていた。

「何?事情聴取!?面白そうだから行くわ(*`艸´)ウシシシ」


「…なんだろう、すーごく殴りたいんですけど。」

「落ち着けよ原西。とりあえず、店のURLこいつに送るわ。」

そう言ってスマホを操作した後、話を再開させた。

「後、何?別れろって言われたって。」

「どうやら、美嶋とちーちゃんが一緒に登校してる所を今日、詩乃が校門辺りで見たらしいの。」

「ほぉ。で?」

美嶋は顔を顰めた。

「それで、ちーちゃんに美嶋と付き合ってるの?って聞きに来たんだって。」

「なんだそれ。面倒臭い奴だな。それに俺たちは学校付近じゃ手も繋がないようにしてる。バレる要素なんかねーだろ。」


「オーラじゃない?何か感じ取ったんだよ。女の勘はなめない方が良いよ。」

「はー…。ほんとめんどくせぇ。」

美嶋は眉間にシワを寄せて、軽く髪を掻きむしった。

「とりあえず続きを話すと、ちーちゃんは美嶋と付き合ってるのか言い寄られて素直に話したんだって。」

「素直にってまさか…。」

「恋愛修業の為に付き合ってもらってるって正直に話したらしいよ。」

「何やってんだよあいつ…。」

「それで、そんな理由なら私に美嶋をくれ。別れろって詩乃に言われたんだって。」

「あーもー…。なんなんだよホント。」

美嶋はすごくイライラしている。

「で、その事を私達に相談してくれたの。千紗乃、悩んでるよ。詩乃の美嶋への気持ちはLOVEなのに、私なんかが付き合ってていいのかって。恋愛修業のために美嶋に付き合ってもらうのは間違いだったのかなってすごく悩んでる。」

「………。」


美嶋は何も言わずにただただ私の話を聞きながら腕を組む。

「私は美嶋と話せって言ったんだけど、結局美嶋にはなんにも話してないまま今に至るってこと。つまり、あんたがちーちゃんにちゃんと話して安心させてさえいれば、ちーちゃんが道田くんに美嶋の事を相談する事もなかったし、告られることも無かったってこと。」

美嶋は重そうに口を開く。

「…あいつが道田に相談したのか?」

「そうらしいよ。美嶋と別れるべきなのか、別れないべきか分からないって相談をね。男目線の意見も欲しかったみたいよ。」

「なんだよもう…。俺の居ないところで色んな事起こりすぎだろ。」

美嶋は頬杖をつき、目線を飲み物に向け、ストローを咥えて飲み物を吸う。

「ちなみに詩乃に関しては、私にまであの二人別れさせるの手伝ってよって言ってきたからね。」

「はぁ?」

と、すぐに視線の先を私の目に変えた。

「まぁ、私は断ったけどね。そんなの強引だし人としてどうかしてるじゃん。詩乃の男好きには呆れたよ。」

「ほんと。女って厄介だな。」

そこで少しだけ沈黙が漂った後、私は美嶋に対してずっと思っていた事を言ってみた。

「ねぇ、美嶋。私が言うのもあれなんだけどさ…これを機に、美嶋の気持ちちゃんとちーちゃんに伝えたら?」

「え?」

「私にこんな事言われるのウザイかもしれないけど、私は美嶋に上手くいって欲しいの。だから…」

しかし、美嶋には話を遮られてしまった。

「それは駄目だ。」

「え?」

そして、意味深な発言をした。





「だってアイツは…俺じゃないから。」






「どういう事…?」


何?俺じゃないって。

その時、

「おっすー。」

絢斗がやって来た。このクソ男、なんてタイミングで入ってくるんだよ。

「なになに?事情聴取って。警察ごっこ?」

絢斗は美嶋の両肩に手を乗せて、ニヤニヤした表情で話し掛けてくる。

「あぁ、もう事情聴取なら終わった。」

「え!早くね?」

「ちょっと美嶋!話終わってないじゃん!」

私は前のめりになり、少し声のボリュームを上げて反論した。

「え?もう聞きたいことは聞けたし、俺はもう大丈夫。原西、引き止めて悪かったな。」

絢斗くんはなんのこっちゃ?と言わん顔をしている。ずるい!逃げたな美嶋。

「大星、何話してたんだよ?」

「俺の彼女が別の男に告られたんだと。その事情聴取。」

「はい?俺の彼女?え?大星お前、俺に内緒で彼女作ってたのか?」

「あれ?絢斗に話してなかったか?」



美嶋、私と絢斗に気を使ってくれたのかもしれないけど、


絶対コイツ呼ぶべきじゃなかったよ。




ーーーーーーーーーーーーーーー

その夜、お風呂上がりの私はベッドに置いてあるスマホを手に取った。すると、

「不在着信 美嶋大星」

と出ていた。2分前ってなっている。どうしたんだろう。私は慌てて大星に折り返した。

「もしもし?」

大星はすぐに出てくれた。

「もしもし、ごめん電話取れなくて。お風呂入ってたよ。」

「大丈夫。こっちこそ急にごめん。あのさ、今ちょっと家の前出て来れないか?少し話したいことがある。」

嫌な予感がした。でも大星は今日の事も何も知らないはずだ。

「え、うん。分かった。今どこにいるの?」

「今?丁度こっちに戻って来た所で、今駅前の交差点抜けた所。あと10分もあればお前ん家着くよ。」

「あ、分かった。」

「急にごめんな。着く直前にまた電話入れるよ。」

という事で10分後、大星から電話が来たため、スウェット姿のまま1階に下りて

「お母さん、大星が家の前来てるからちょっと話してくる!」

と言って玄関でサンダルを履いた。

「え?大星くん?」

「そう。」

外に出ると、玄関に大星が居た。

「悪いな。」

「ううん。」

すると後ろのドアが開き、お母さんが出てきた。

「大星くん、こんばんは。」

「あぁ、こんばんは。お久しぶりです。」

大星は軽く会釈をする。

「立ち話もあれでしょう?千紗乃、中に入れてあげなさいよ。」

とお母さん。でも大星は、

「野暮用ですぐに終わるので大丈夫ですよ。すみません、気を使わせてしまって。」

とお母さんに返した。

「そう?今度またゆっくり遊びにおいでね。」

「はい。ありがとうございます。」

お母さんは扉を閉めて、家の中に戻って行った。

「すまん。風呂上がりなのに。」

「大丈夫。髪はちゃんと乾かしたから!」

「そっか。」

「それで、話って…?」

大星はいつもより難しい顔をしていた。そんな大星はこう切り出す。

「実はさ、原西とお前の電話の会話を今日聞いちゃってさ。」

由香っちと私の電話?それってもしかして夕方のあの電話のこと!?絶対にそうだ。
だから由香っち、慌てて電話切ったんだ…。

「え…って事はもう…全部話は聞いちゃった…?」

「…うん。図書館でのくだりまで全部。」

あぁ…。それで難しい顔をしていたのか。

「……で、ですよねー。」

すると大星は少しだけ黙り込んだ後に、頭を下げてきて、

「悪かった。」

と謝ってきた。

「え?」

「お前の気持ちに気付いてやれなくて。告られた事、ちゃんと話すべきだったよな。」

私はそんな大星を見て慌ててしまった。

「あぁぁぁ、大星、大丈夫!大丈夫だから、そんな頭下げなくていいよ!」

それから大星は頭を上げて、私の目を見てこう言ってきた。

「俺、高峯の事は断ったから。」

「うん。聞いたよ。」

「でも、今日お前ん所に高峯が行ったらしいな。ごめん。巻き込んで。」

「ううん。」

私は首を横に振った。

「俺も甘かったよ。高峯がそこまでしてくるなんて思ってもいなかった。高峯には明日俺から言うよ。俺たちの事情に首突っ込んで来るなって。」

大星の表情は曇ったまま晴れない。なんだか辛そうだった。

「大星……。私もごめんね。意地張って相談出来ずにいて。」

「原西にも今日怒られた。」

「由香っちから?」

「あぁ。お前に意地を張らせた俺が悪いわ。お前は何も謝んなくていい。」

大星は私の頭を撫でてこう尋ねてきた。

「……お前は俺との関係どうしたい?」

私は今思ってる事を大星にきちんと話した。


「分からないの。どうしたらいいか。だから大星に相談したかった。詩乃ちゃんは大星の事が好きで、道田くんは私の事が好きで…。私達は付き合ってるけど、LOVE同士じゃ無いでしょう…?だからその…。私が大星との修業を終わらせれば、詩乃ちゃんは大星と付き合えるんだもんな…とか考えたり…。大星と付き合い始めた日に、お互いが告白された場合どうするかって所は決めてなかったから、私も対処の仕方が分からなくて。」

大星はため息をついて、

「…言っとくけど俺は高峯とは付き合う気は全くねーよ。」

と答えた。

「え?」

「嫌だよ。そんな自分のことしか考えてない奴。そんな奴とは付き合いたくない。」

「そっか…。」

「問題はそこじゃなくて道田だろ。道田とどうしたいんだ?」

「え…?」

「千紗乃は道田と付き合いたい?」

「…うーん…。」

道田くんの気持ちは嬉しい。気持ちにも応えられたらと思うけど、道田くんが私の彼氏になるイメージが全く出来なかった。

「仮に俺らが別れたとしても、今まで通りの、ただの幼なじみに戻るだけだ。会話だって普通にするし、どっか一緒に遊びに行ったりも、全然するからそこは安心しな。」

と大星は言う。

「とにかく、千紗乃がどうしたいかで決めな。俺との関係は一旦考えなくていいから。」


あれ…?大星の意見は?

この間からそうだ。キスの事だってどっちでもいいって言うし、今だって、お前が決めろって言うし。

大星の気持ちが全然読めない。

私は思い切って聞いてみた。

「大星はどうしたいの?」

「え?」

私は大星の両腕をガシッと掴んで続ける。

「この間からずっとそうじゃん。俺はどっちでもいいとかお前が決めてとか、よくよく考えれば大星の本音全然聞けてない!」

「千紗乃…。」

「大星はズルいよ。」

大星はその言葉を聞いて眉を潜める。それからこう返してきた。

「俺らは確かに彼氏と彼女の関係になった。俺も、お前と遊びで付き合ってない事は確かだよ。でもこの関係は所詮、お前の恋愛修業の過程の関係に過ぎない。」

「え…。」

そう言われてつい、腕を掴む力が緩む。


「俺にとっても、千紗乃を喜ばせる修業ではあるけど、発起人のお前が道田と付き合う事を選ぶんだったら、俺に否定する権利はねぇよ。俺だって、お前と本当の彼氏彼女の関係だったら、容赦なく自分の意見だって伝えるよ。でも今の俺たちはそうじゃない。」


私は返す言葉が見付からず、黙り込んでしまった。

「とりあえず、そういう事だから。俺との関係抜きにして1回ちゃんと考えろよ。明日は俺、朝練だからまた学校でな。」

そう言ってから大星は私に背を向け歩き出し、小さく手を振ってその場を後にした。

大星、冷静だったな。

私が告られた事に対して全然イライラしたり、怒ったりしてこなかったな。

冷静過ぎて逆に怖い。

私は大きくため息をついて家の中に入った。

その時に廊下でお姉ちゃんと出くわした。

「千紗乃どうしたの?ひっでー顔してるよ?」

「あぁ。ちょっとね…。」

宏乃お姉ちゃんは大学2年生。私と違って恋愛経験も豊富で、自分でインスタライブ配信とかもやってしまうような、アクティブな人柄で、交友関係も広い。どうやらお風呂から上がり立てで、自分の部屋に戻ろうとしていたところだったみたい。

そうだ、お姉ちゃんはどう考えるかな?大星とは小さい時一緒に遊んでたから、お姉ちゃんも大星のことは知ってる。大星をよく知るお姉ちゃんからならきっと何かいいヒントが得られるはず。

そう思ってお姉ちゃんの部屋でここまでの話を全部した。

「なんなのお前ら。すっげーーイライラする。」

「えぇ!?」

「だってそうじゃん。あんたも大星も、どっちもどっちだよ。2人してお前はどうしたい?どうしたらいいと思う?そればっかりじゃん。自分の意思が無さすぎる!欲しいものは欲しい!要らないものは要らない!それで良くない?」

「あぁ…。」

私はお姉ちゃんの言葉に圧倒されて何も返せなかった。

「もっと強欲に生きても良いんじゃない?詩乃って子の生き方の方がよっぽど良いよ。」

「えええ!?」

お姉ちゃんは片手に持っていたビールの缶を二口ほどゴクンと音を立てて飲んだ後に続ける。

「まぁ、自分の事しか考えてない所はどうかと思うけど、自分の意思がハッキリしてるじゃん。私はそういう生き方してる人の方がかっこよく思うよ。」

「そっか…。」

それからお姉ちゃんに指をさされながらズバッとこう言われた。

「後、恋愛修業って言葉に逃げすぎ。お前らもう高校生の男女なんだからさ、きっかけはともあれ、付き合ってる事は事実なんだからもっと真剣に付き合えよって感じ。LIKEだから一緒にいる資格ないとかどうでもいい。結婚を前提に付き合ってる訳じゃないんだから。もうこの人とは無理だと思ったら、その時は振ればいいよ。ただそれだけの事。難しく考えすぎ。それに、LIKEだろうと好きは好きじゃん。あんたは大星の事が好きなのには変わんないんだよ。千紗乃、お前は道田と大星、どっちと一緒にいたいんだよ。」

その言葉を聞いて私はハッとした。


ー美嶋は、長瀬と別れたいって思うとは限らないじゃん。それに、そっちの方が高峯のためとか美嶋のためとか、長瀬は他の人の事ばっかり考えすぎ。LIKEだろうがいいじゃん。……大事なのは長瀬が美嶋とどうしていきたいのかじゃん。



今日道田くんに別れ際に言われた言葉も思い出す。道田くんもLIKEの事についてそう言ってた。

それにこの言葉。



ー長瀬、これだけは忘れないで。長瀬はさっきサラッと言ってたけど、異性で、遠慮しないでなんでも言える相手って、そう現れないよ?


私はこの言葉を思い出して自分の中で噛み締めた。



この時私の脳裏には、大星の笑顔が浮かんできた。


大星には昔から、たくさん本音を言えてきたし、大星もそんな私の本音をしっかり受け止めてくれた。



「お姉ちゃん…ありがとう。私答えが見えた気がする。」




それから部屋に戻り、1人考えた。


でも、色んな事がありすぎて疲れた私は、そのままベッドで考え事をしながら寝落ちしてしまった。



そんな時にこんな夢を見た。



私はどこかの高層ビルの屋上にいた。時間帯は夜で、夜景がすごく綺麗なの。そこには大星と来ていて、2人で夜景を見ている時に、大星が私の事を後ろから抱きしめてくるの。

それから大星にはこんな事を言って貰えた。


「千紗乃…。俺はお前を愛してる。」


大星はすごくうっとりとした色っぽい顔をしていた。

「大星…。」

そんな大星にドキドキしている夢の中の自分。大星は私を抱く力を少し強めて、

「俺はこの先も、ずっとお前と一緒に居たい。もう、離したくない。」


そう言ってきた。


「うん。大星、これからもずっと一緒だよ。」

それから私達は見つめ合い…キスを……






する前にハッと目が覚めた。

凄い夢を見たなぁ。


夢の中の私達は、すごくラブラブだった。


それに、すごく楽しそうだった。





そういえば私、大星の家に遊びに行ったあの日に、大星にこんなことを伝えていたじゃんか。

ーそれなら私も、大星に楽しいって思ってもらえるように頑張る!だからこれからもご指導お願いします!先生!


それに、同じ日に大星の事を好きになると決めたじゃんか。


まだ達成出来てないじゃんか。


大星と付き合ってからというもの、慣れないことがたくさん出てきたけど、でも、私にとってはどれも大事な思い出で、

何より楽しかった。



夢の中の大星は、私に「愛してる。」と言っていた。


現実でも大星に、愛してるって言わせてみたいって思えた。


それに、結局大星とはキスの続きも出来ていない。


大星とこれからもっと楽しい事をしていきたい。


幼なじみの関係じゃ絶対に見ることが出来なかった大星を、もっと見つけたい。



大星をもっと知りたい。



道田くん、どうも私…大星じゃなきゃ嫌みたいだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー

俺は昼休みに、席にいる美嶋に声をかけた。

「美嶋、ちょっと良いかな?」

「あぁ。うん。」

すると美嶋は何かを察したのか、

「教室出る?」

と言った。

そのまま俺らは廊下を出て、少し行ったところの開きっぱなしになっていた誰もいない社会科準備室に入って席に座って話した。

俺は昨日の事を美嶋にちゃんと伝えるべきだと思ってこう言った。

「美嶋、ごめん。昨日俺…長瀬に告った。」

すると美嶋はまさかの発言をした。

「……うん。あいつから聞いたよ。いい返事貰えると良いな。」

「え…?おいおい。お前、彼氏だろ?」

美嶋は悲しげな笑顔を浮かべながら、

「“形上”はね。」

と言った。

「え…?」

何それ、どういう意味?

美嶋がそんな事を言ってくるなんて思ってもいなかった。
美嶋はそう言うけど、長瀬はきっと、俺を選ばない。だから俺は美嶋に、

「美嶋、長瀬はきっと美嶋を選ぶと思うよ。」

と言った。

「お前何言ってんだ。俺に気なんか使うな。」

「そんなんじゃないさ。」

「え…?」

俺は1年の時はクラスも一緒だったから、よく長瀬とは他の友達も入れて遊んだりしていた。でも、2年になってクラスも別になってからは、会う機会も激減した。
俺は長瀬の事が好きなくせに、ビビって何も行動出来なかった。クラスが変わった途端これだ。それで思った。あぁ、俺は当時のクラスの環境に甘えてたんだって。

そんな努力も何もしない奴が報われるわけがないんだ。
しかも、長瀬には美嶋という幼なじみもいる。その信頼の強さには絶対勝てない。勝てる自信がなくて勝手に折れてた。
でも、今までも伝えずに終わる事が多かったから、せめて想いだけでも伝えよう。そう考えていた時に昨日、長瀬が俺に相談をしてきた。ただそれだけの事。


「良いんだ。俺は。振られるの分かってて伝えたから。覚悟は出来てるんだ。好きってちゃんと言えたから良いんだ別に。でも、友達のお前に黙ったままなのは嫌で。」

美嶋は驚いたような顔をして黙って俺を見ていた。

「美嶋…?」

俺が美嶋の顔を覗き込むと、少しして美嶋は、

「……振られる覚悟があるってスゲーなお前。」

と言ってきた。

「道田はすごいな。真っ直ぐで、強くて、羨ましいよ。俺はお前と違って、振られるのが怖くてその2文字さえも言えない、狡くて卑怯な奴なんだよ。」

「え?」


美嶋?お前は1人で何を抱えてる?


「そろそろ戻ろうぜ。次、理科室だぞ。」


美嶋はそう言って席を立ち、寂しそうな背中を俺に向けて歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーーー

私は放課後、道田くんを誰もいないうちの教室に呼び出した。


そこで私は導き出した答えを道田くんに伝えた。

「道田くん、ごめんなさい。1晩ずっと考えたんだけど、私……このまま大星との関係を続けたい。大星といるの、すごく楽しいの。私、この先大星の事をちゃんと好きになって、大星の事をもっと楽しませたいって思ってる。」

「…うん。」

「道田くんが、私はどうしたいのかって聞いてくれたから答えが出せたんだよ。ありがとう。だから、友達としてでも良ければこれからも仲良くしてくれたら嬉しいな。」

「…うん。分かった。良かったね。ちゃんと答えが出て。俺も安心した。」

「道田くん…。本当に道田くんのおかげだよ。」

道田くんは寂しそうにしてたけど、

「美嶋とうまくやれよ?」

そう言って後押ししてくれた。

道田くん。本当にありがとう。




そしてこのまま私は大星が部活が終わるのを待った。

こはるんの所属する調理部にお邪魔したり、
近くのカフェで時間を潰したりして、
完全下校の時間より前に学校に戻ってきた。

大星には部活後に話をしたいと伝えてあったから、私が戻ってくる事は知っていた。

「部活終わった?」

と大星にLINEをした。

でも。すぐには返ってこなかったから格技場へ行ってみた。

行く途中にぞろぞろと剣道部の人達が下校していくのを見かけた。そろそろ大星も出てくるんだろうな。

と思った時に、

「格技場にいるよ。」

とLINEが来た。

私は自然と駆け足になる。


格技場に入るとそこには、1人、オレンジ色の夕日に照らされた大星がいた。

大星は着替え終わっていた。
私は上履きを脱いで格技場に入り、大星に近付いた。

「お前、今日火曜日じゃないのになんでこんな時間まで待ってられたの?」

「友達の居る調理部に遊びに行ってた。それに、大星とちゃんと話もしたかったし。」

「……家の前ですりゃ良かっただろ。いくらでも帰りに寄ってやったのに。」

私は首を横に振る。

「今日は、大星と一緒に帰りたかったの。」

「え?」

それから私は大星の手を取り、

「道田くんにはごめんなさいしてきた。」

と伝えた。

「…は?」

大星は何だか驚いていた。

「なんで…?」

「なんでって大星といるの楽しいし。それに約束したでしょう?私が大星を楽しませるって。」

「お前…。」

「大星と付き合ってみて分かったの。付き合う事の大変さも、楽しさも。それから、大星の存在が自分にとっていかに大きい存在なのかも。」

「へっ…?」


大星はただただ呆然と私を見つめる。



「それに、せっかくならもっといろんな大星が見たい。」


「……俺で……良いんだな?」


「うん。」


大星は突然鼻でフッと吹いた後に、

「あぁあ。もったいなっ!」

と言ってケラケラ笑い出した。

「な、なんで笑うの?」

「道田良い奴なのに。次にお前がいつ告られるかなんて分かんないぞ?知らないからな俺は。」

「何それ!失礼な!」

大星はそう言って私をからかいつつもどこ照れているようにも見えた。

私達は手を繋いで一緒に帰った。


それからの私達はちょっとずつ距離感が変わっていった。

週に1回は昼休みに合流して大星と2人でお弁当を食べる日もできた。
大星が部活も塾も無い休みの日には映画とかボーリングとか、ショッピングとか、普通にデートに行くようにもなって、
ツーショットを撮る頻度も増えた。

恋愛経験の無かった私の毎日は、大星の色に染まりつつあった。

そして夏休みに入ったそんなある日、私は大星の家に遊びに来た時に、

「ねぇ、今度の土曜日空いてる?」

と尋ねられた。

「え?土曜日?土曜日はまだ何も予定無かったかな。どうしたの?」

「実はその日に練習試合があるんだよ。」

「へぇ!そうなの!?」

「うん。もし良かったら来ない?」

と、お誘いが来たのだ。

「ええ!行きたい!大星の剣道してるところ気になる!見てみたい!!」

「じゃあ、土曜日空けといて欲しいな。」

「うん。分かった。どこでやるの?」

「花野井高校の格技場でやるよ。」

「あぁ、ここから電車で乗り換えて3駅くらい行ったところの?」

「そうそう。ただ当日はお前とずっとは一緒に居てやれないから、誰か連れておいでよ。」

「ええ!ありがとう!!そうさせてもらう!」

という事で私はイツメングループLINEにその事を投げて返事を待つ事にした。

「わぁ、剣道の試合かぁ…!楽しみにしてる!大星頑張ってね!」

「うん。お前に変な所は見せらんねーからな。良いプレッシャーだ。」

なんて言って大星は私の肩に腕を回し、大星の方へ引き寄せてきた。

「当日の大星がダサかったら笑っていい?」

「笑えるもんなら笑ってみろ。そんなヘマしないから。」

そう言って私達はお互いを見つめて笑い合った。

イツメンからは返事が来て、その日は由香っちは部活で行けなくて、亜美ちゃんはバイトを入れていると言っていた。こはるんは空いているみたいだったから、当日はこはるんと大星を応援しに行くことにした。
こはるんと大星は何だかんだで初めましてかな?紹介してあげよう。

そして迎えた当日。


私とこはるんは花野井高校にやってきた。


続く

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