第10話

1番会いたい人
250
2020/11/23 16:47


今日は焼肉ディナー!
今私は、亜美ちゃんのバイト先にイツメンの4人で来ている。亜美ちゃんのバイト先は焼肉屋さん。ちなみに今日はそこに亜美ちゃんの彼氏さんがシフトに入っていると言う。

亜美ちゃんの彼氏さんは大学3年生の恒松聡志さんって言う方。爽やかでかっこいい方だ。何ヶ月か前に4人でこのお店に食べに来て、その時に会って以来だ。

「聡志ー!牛タンおかわり!」

「また!?デブまっしぐらかよ。」

「はぁ!?良いから!みんなで食べるの!」

「はいはい。」

聡志さんと亜美ちゃんはもう1年以上付き合っているらしい。そんなに続くってすごいなぁ。なんて思う。

今日はみんなの恋バナもそうだけど、私自身も報告しないといけない事があった。

例の大星のキス事件の話は、その場にいたこはるんしか知らない。

一通りみんなの恋バナを聞いた後に、由香っちからパスが来た。

「ねぇ、ちーちゃんは美嶋とはあれからどう?」

すると前に座っていたこはるんが乗り出して付け加えてくる。

「そうだよ!!あの後千紗乃ちゃん、どうやって仲直り出来たのか話すって言ってそれっきりだったじゃん!気になるから教えて!」

と。それを聞いて亜美ちゃんも由香っちも驚く。

「え?喧嘩してたの?」

と亜美ちゃん。

私は2人にも分かるように一連の流れを話した。最後には大星からキスもされて仲直りが出来たってことも。

するとみんなは大きい声で

「えええーーー!!!」

と叫んだ。

「ついに!?ついにちーちゃんと美嶋が!?」

「何それー!!!!ていうかいろいろと進展し過ぎ!!!千紗乃ちゃんが嫉妬!?」

「それ思った!!てかもう2人とも修業関係じゃなくない?」

なんて3人が騒いでいる。2人とも修業関係じゃないって亜美ちゃんの言葉、どういう意味だろう?私は疑問に思って尋ねてみた。

「修業関係じゃないってどういう事?」

「え!その流れでのキスなんて、確実に美嶋は千紗乃に惚れてるね!間違いないよ!」

…え、大星が私に惚れている…??

「えぇ!?そうなの!?」

本当にそうなのかな?大星は私の修業に真剣に付き合ってくれている。ただそれだけの事じゃないの?
でも確かにそうだよね。大星は、何であの時キスしてくれたんだろう…?私は自分の心の持ちようがあの時はキャパオーバーになっていたから、それを聞く事も出来てなかった。

「そうでしょう!私から言わせてみれば、そのキスは千紗乃が嫉妬してくれた事が嬉しくて、千紗乃が愛しいなぁ…!っていうキスに違いないって!相手を本気で好きじゃなきゃ、そのタイミングでキスなんて絶対しないよ!!そんな事しといて、好きじゃないとかだったら、美嶋はとんだチャラ男だよ!」

と亜美ちゃんは言い切った。こはるんも横で頷いている。

「大星がチャラ男!?」

いや、大星に限ってはそんな事ないはずだ。今回だって私の修業に真剣に向き合ってくれてるし…

ん…真剣に向き合ってくれている…?


じゃあ、あのキスも真剣なものだったってこと…?


そう考えている時にこはるんがこう言った。

「いやぁ、美嶋くんは千紗乃ちゃんの気持ちを弄んだりするタイプじゃないと思うなぁ。」

すると由香っちも加勢する。

「美嶋がちーちゃんの事絶対そんなふうに扱う訳ない。ちーちゃんと美嶋、本当の意味で今は両想いになったんじゃないかな?」

両想い…?いわゆるそれって…?

「私たちがLOVE同士になったって事?」

「うん!」

と由香っち。こはるんもそれに賛同してきた。

「私もそう思う!千紗乃ちゃんは自分で気付いてないだけで、絶対美嶋くんの事が好きなんだよ!LOVEの意味でね!だから嫉妬もしたんだと思うよ!」

「そうなのかな…?」

「美嶋の気持ちがまだ何とも読めない所はあるけど、2人がLOVE同士になったんだとしたら、それはもう修業関係じゃなくて本物のカップルだよ。」


その時に私はLOVEってどんな感情?って大星に尋ねた時の言葉を思い出す。



ー要するになぁ。好きなやつといると、胸が締め付けられるような感覚になるもんなんだよ。その人をずっと気にして目で追っちゃったりとか、ずっとその人の事が頭から離れなかったりとか、もっと相手のこと知りたいとか、もっと近くにいたい、もっと触れたい。もっとたくさん良い所を魅せたい…。好きなやつを…自分のものにしたいって思う。LOVEってそういう感情だよ。


確かに、大星の事をもっと知りたいって思ったり、もっと近くにいたいなって思ったりはしたことはある。

でも、未だにこの他の感情がまだ分からずにいた。

本当にLOVEなのかな?と疑問に思うけど、3人が言うなら私の持っている大星の気持ちはLOVEなんじゃないかな?

私はそう思うことにした。

「そっかぁ…。私、大星の事好きになったのかぁ…。」


好きになったらその時は伝えたいと思っていたけど、なんだかまだそんな気にはなれなくて。

ただ、よくよく考えると、LIKEにしろLOVEにしろ、大星の口から「好き」って言葉を1度も聞いたことがない。

みんなは大星は私の事が好きだと言っているけど、そうだとしたらいつから好きなんだろう?

ここまで大星は、どんな気持ちで私と付き合ってきてくれたんだろう。

修業に囚われすぎて大事なその部分をずっと聞けていなかった。

そんなこと聞いても大星は、お前の修業なんだから俺の気持ちなんて関係ないとか言ってきそうだけど、

仮に本当にLOVE同士なんだとしたらそんな事言ってる場合じゃない。

ただ、これは憶測に過ぎない。

大星が私の事、本当に好きなのかは大星にしか分からない。


「大星の気持ち、確かめないとだよね?」


「うん。絶対その方が良いよ!」

とこはるん。すると亜美ちゃんがこう言ってきた。

「ねぇ、次の日曜日にさ、花火大会あるでしょう?千紗乃、それに美嶋誘って一緒に行ってきなよ!」

との事。亜美ちゃん達も彼氏さんと行くみたいだけど、せっかくだから2人で行きなさいと言われてしまった。

でもまぁ、みんなで行こうよ!って私が誘った所できっと大星は、女子で行ってこいよって断ってきそうだしな…。

そこは恋の先輩である3人の助言を聞こう!その前に大星が空いてなかったら意味が無いけど。

私は家に帰ってきた後に大星に電話をした。

「もしもし?大星?今度の日曜日空いてる?」

「え?あぁ。昼は家族で親戚の家に行ってるからいないけど、夜なら大丈夫かなって感じ。どうした?」

これはチャンスだ!みんなに言ってもらった通りに大星を誘おう!

「大星、それならそのまま夜空けといてもらえる?一緒に花火大会に行こうよ!」

「花火大会?」

「うん!屋台も出るみたいだし一緒に回りたいの!」

と言うと、

「良いよ。行こうか。」

と返してきてくれた。

「わあ!ありがとう!!いっぱい花火見ていっぱい食べようね!」

と言うと大星に笑われてしまった。

「お前、花火より食いもん目当てに聞こえるぞ。ウケるな。」

「そんな事ないよ!」

なんて無事に大星を誘えた後にみんなにLINEをすると、浴衣を買おうよ!なんて話になった。みんなは既に浴衣を持っているそうだけど、私は子供の時に着ていた浴衣しか家にない。日程が合わなくて4人揃うのは難しそうだったから、私は後日亜美ちゃんと一緒に買い物に行く事になった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

私は湯船に浸かりながら、前に美嶋に言われた言葉を思い出していた。




ーだってアイツは…俺じゃないから。




あれってどういう意味だったんだろう。

ちーちゃんは美嶋の事を好きになったように感じたんだけどな。

俺じゃないって何?

まるでそれって、ちーちゃんに実は他に好きな人がいるみたいな言い草だよね。

美嶋以外に誰がいるっていうの?


でも、何か大事な事を忘れている気がする。


「…あ!!」

そんな時に私は、修業で美嶋と付き合う前にちーちゃんと話していた会話を思い出した。


ーてか、ちーちゃんは美嶋でいいの?試しに付き合う相手。


ーえ?どういう事?


ーだって、昨日の話聞いてる感じ、明らか奏太くんって人のこと好きじゃん。って思って。



そうだ。


奏太くんって子の事だ。




何?もしかして、




美嶋は、ちーちゃんが転校してしまった奏太くんの事を想ってるんじゃないかって言いたいの?



そんな。だって奏太くんは今はどこに住んでいるかも分からないんだよ?



ちーちゃんの傍にずっといるのは、美嶋の方じゃん。



美嶋は考え過ぎだよ。



だからずっと美嶋は自分の気持ち伝えないでいるの?




だとしたら美嶋は臆病になりすぎだよ。



大丈夫。きっとちーちゃんは美嶋の事、大好きなはずだよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから日曜日。

大星と待ち合わせしてこれから花火大会へ向かう。

肝心な浴衣はというと、一昨日亜美ちゃんと会って一緒に選んでもらった。

ピンクの色の生地に赤と白の花柄の浴衣にした。帯は赤でアクセント。それに、いつも化粧をしていない私だけど、その日はしなさい!と亜美ちゃんに怒られて、化粧の伝授までしてもらった。

浴衣の買い物の後、亜美ちゃんの家で化粧を猛勉強。


ー千紗乃は元がかなり良いから化粧なんてしてなくても可愛いよ!でも、花火大会は千紗乃にとってもきっと特別な日になるはず!美嶋にいつもと違う雰囲気の千紗乃を見せつけて、ドキッとさせてやれ!


と言うとこで、人生初の化粧してのお出かけです。


大星は、ぼーっと私のことを見つめる。

「大星?」

大星は私の声に反応し、ごめんと謝った後、

「千紗乃、今日化粧してんの?」

と聞いてきた。

「うん。友達に教えてもらったの。」

「あぁ…そうだったんだ。」


大星なんでぼーっとしてるんだろう?ずっと私の事なんて見ちゃって。親戚の家からの帰りで疲れているのかな?

「行こう。大星。」

私は大星の手を握り、一緒に歩き出した。

「あぁ。うん。」



『千紗乃、今日のお前すげぇ綺麗で、可愛いよ。』




それから会場に着いた私たち。人混みがすごい…。先に場所を取ろうという事で、大星が持ってきてくれていた、小さめのレジャーシートを敷けるところを何とか探し出して、お楽しみの屋台に向かった。

「大星何食べようか?」

「お前、今日浴衣なんだから汚すなよ?」

「汚しませんー!」

「それに、食い過ぎ注意な。帯で締付けてるんだから腹膨れると苦しくなるぞ。」

と、親のような事を言ってくる大星。

「言われなくても分かってますー。程よく食べますよー。」

と言ったそばから私は目の前にあったじゃがバタとフランクフルトに目が行く。

「大星!両方食べない?」

「はぁ?お前俺の話聞いてたかよ。」

「聞いてたよ!」

「どっちかにしろよ。」

「最初だから胃は余裕だもん!大星さぁ、フランクフルト並んできてよ。私はじゃがバタの方並ぶから。」

と言うも、大星は呆れ顔だ。

「おいおい。2人分買う気か?」

「うん!大星も食べるでしょう?」

「えー。俺はフランクフルトだけでいいよ。何、ホントに並ぶのか?」

「もちろん!という事で大星そっちよろしくね!フランクフルト2本ね!あと、ちゃんとマスタードもケチャップも両方かけてもらってね!」

私はそれを伝えてじゃがバタの列へ並びに行った。

「あの野郎…!」


ちなみにこのくだりを亜美ちゃんに話したら、後日こっぴどく怒られた。

それからその後焼きそばにも並んで、りんご飴の屋台にも並んで両方買った。手がいっぱいになってしまった私達は一旦レジャーシートの所に戻って食べ進めた。

「お前、将来大食いハンターにでもなるつもりかよ。」

「そうじゃないけど、やっぱりお祭りの醍醐味じゃん!屋台でもの買うのって!」

「まぁ、分からなくはないが。」

小学生の時に家の近くの神社で開催していた町内会のお祭りに、私と大星と奏太で行っていた事を思い出した私は、その時の話を大星に振った。

「それにしても懐かしいね。大星とこういう所来るの。昔は奏太も入れて3人で来てたよね。」

「…え?」

奏太は私ほど食べる人ではなかったけど、一緒に射的をして遊んだり、ヨーヨーとって遊んだりもしていたなぁ。大星も、最初は「俺はやんない」とか言ってたくせに、私と奏太が楽しそうにやっている所を見て、羨ましく思うのかいつも後から「やっぱり俺もやる」って入ってきていたなぁ。

奏太は金魚すくいが得意だった。

奏太は手先が器用なんだよね。

「千紗乃、取れんの?教えようか?」

なんて言って優しく声掛けてくれたね。

「お願い!教えて!私も金魚すくい出来るようになりたい!」

それで奏太から教えて貰って、その場で少しは上達したけど、奏太ほど金魚はすくえなくて。

でも奏太はその後に、私の分を新たにすくってきてくれた。

「大事に育てぇや。」

なんて言って渡してくれる奏太がすごく優しくて、奏太の人柄の良さを感じたなぁ。

その後は、奏太からもらったその金魚に名前も付けて、一生懸命育てたっけ。

なんて話をして懐かしむ私。

「大星、金魚すくいとか射的とか、そういう細かい系は全然奏太には敵わなかったよねー!悔しがる大星、今思うと可愛かったなぁ。」

それから3人で作った、丘の上の秘密基地に行って、遠くに上がっている花火を眺めたりしたっけな。

「ねぇ、小学校卒業してから、秘密基地の所に行った?」

「いや、行ってない。」

なんだか気になるなぁ。今どうなってるのかなって思う。奏太の事を思い出したら、なんだか行ってみたくなった。

そこに奏太が居ないことは分かってるのに、

なんだかそこに行ったら奏太に会える気がして。

「今日の帰りにあの丘に寄ってみない?」

すると大星は、

「バカ言えよ。お前今日浴衣だし、基地なんて木の上じゃん。それに暗いしよく分かんねーよ。」

と言ってきた。

大星、なんで機嫌悪そうなんだろう。

「ごめん大星。怒んないでよ。もうそんなに物買わないから。」

と手を合わせて大星に謝ると、

「お前わざとかよ。ホントに。」

と言って呆れ出した。

わざと?何が…?私は大星の言葉の意味が分からないまま、話を続けた。

「でも、行くだけ行こうよ!ね、お願い!大星私服だから、大星が木の上登って確認してきてよ。」

「はぁ?冗談じゃねぇ。」

なんて話をしていたら、アナウンスが流れ始めた。どうやらもうすぐで花火が上がる時間のようだ。

「大星!いよいよだね!」

「そうだな。もう良い感じに暗いし、よく見えるだろうよ。」

そして、少しすると花火が上がりだした。

迫力満点の空に輝く打ち上げ花火に、私も大星も夢中になる。

すごく大きい。

小学生の時は家の近くからしか見ていなかった花火も、今や電車で近場まで移動してこうして見上げられている。私達はあの頃より大人になったんだなと思う。

私と、大星と、奏太…。


あの時は3人で見ていたのに、


今は一人足りない。


ねぇ奏太。あなたは今どこにいるの?


花火、こんなに大きいよ?


奏太の今いる場所からも見えているかな?


そばに居なくとも、


奏太も今どこかで、この花火を見ていたらいいのにな。



奏太…。会いたいな。




この願いが届きますように。



大空を彩り散っていく花火を見て、なんだか心が締め付けられる感覚になった。



しばらくして花火も終わり、私は大星にもう一度屋台を回らないかと提案した。

すると大星に眉をひそめられた。

「大星…?」

「いや、お前途中で目薬でもさした?」

「え?」

なんの事?私は言っていることがさっぱり分からなかった。すると大星は、私の目の下あたりに触れ、親指でなぞった。それでこんな事を言うんだ。

「…お前……泣いた?」

私が泣いた…??



何に泣いたのかな?



あぁ、花火が綺麗すぎて泣いたのかな?


全然無意識で気付かなかった。


「泣いた跡がある。」

「え…!?そうなの!?全然気付かなかった!多分、花火が綺麗だったから感動しちゃったのかも!」

「そんなに…?」

「うん。そうだと思う。」

と言いながらも自分のしたその返答に違和感を覚えながら、私は再度大星に屋台に行こうと提案をした。

私と大星は、チョコバナナを買って一緒に食べた。

「大星ったら、チョコスプレーかけすぎ!面白いなぁ!」

「はぁ?好きに掛けていいですよってなってんだから掛けなくてどうすんだよ。」

なんて言う、甘い物には目がない大星が可愛いなと思えた。

「大星のそういう所、可愛くて好き。」

と笑顔で素直に伝えると、大星はなんだか顔を真っ赤にしてしまった。

「大星!?」

すると大星はそっぽを向きながら、


「可愛いのはどっちだ。バカ。」


と言った。

え?それってつまり…?


その言葉の意味を理解した私は、大星がそう言ってくれた事が嬉しくて、大星にお礼を言った。

「ありがとう、大星。」

それから私と大星は、チョコバナナを食べ終えて少し空いた後に駅に向かって電車に乗った。

地元の駅に着いた時に、私はこの間みんなで話したことを思い出す。



ー大星の気持ち、確かめないとだよね?


ーうん。絶対その方が良いよ!




ヤバいー!!!今思い出すなんて遅い!食べ物と花火に気を取られて忘れていた!!


うわ。どうしよう。どう聞けば良いんだろう?

変な聞き方して、「また原西たちか?」なんて言われても由香っち達に迷惑をかけてしまう…。

なんて大星と手を繋ぎながら1人内心ソワソワさせて歩いてると、


「…行ってみるか。」


と大星が呟いた。


「え?」


「気が変わった。丘。行ってみるか。」


という事で私は大星と一緒に秘密基地を作った思い出の丘に行ってみた。

この丘は小学校から近い所。坂道も緩やかでそんなにキツくないから、浴衣の私でも難なく登れた。まぁ、少し息は切れるけどね。

「あー!着いたー!」

頂上について、街の風景を眺める私達。久しぶりに来たなぁ。


それからつい、周りをキョロキョロする私。


「千紗乃。」


って、奏太が私を呼ぶ声が聞こえた気がして。まぁ、居るわけないんだけどね。

それでもやっぱり来たかった。

少しでも奏太に会えた気分になるかなと思って。

どうしても帰りに寄りたかった。

それから、秘密基地を作ったであろう太い木を見つけ、大星に登ってもらったが、もう私達が建てた屋根や床、カーテン代わりの葉っぱたちは全部跡形もなく無くなっていたみたい。スマホのライトを下から照らしていた私の角度からも、その様子は伺えた。

そりゃそうだよね。もう3年以上も前のことだもん。




私、もう奏太と3年以上会ってないんだね。




「大星、ありがとう。私も気が済んだよ。」

大星は木からおりてきて、

「そっか。でも残念だったな。」

と慰めてくれた。

それから少し原っぱに座って、夜空を見上げた。大星は私が浴衣だから気にしてくれたけど、ここの原っぱはフサフサしていて泥っけも特に無いみたいだ。


今日は雲1つ無い夜空。でも都内だしやっぱり星は見えにくいなぁ。


夏の大三角形らしきトライアングルが少し見えるくらい。


この空のどこか向こうに、奏太はいるんだよね。


それから私はこう言った。


「奏太…会いたいなぁ。」


そう言う私に対して大星は何も言ってこない。

また機嫌悪くなった…?

今思うと大星、私が奏太の話してる時にいつもつまらなそうにしているか、怒っている気がする。

だから私は聞いた。

「大星ってさ、……もしかして奏太の事嫌い?」

「へ?」

大星は驚いた様子でこちらを見る。

「だって大星、最近奏太の話するとちょっと怒ってるような気がして。気のせいなら良いんだけど、もしかして奏太の事…嫌いなのかな?なんて。」

大星は少し黙った後、深呼吸してからこう言ってきた。

「奏太の事が嫌いなんじゃないよ。俺はただ……」

大星は私の頬に手を添え、こう続けた。




「奏太の話をしてる時のお前が嫌いなんだ。」






そう言って大星は、私にキスをしてきた。


え…?どういう事?


今日の大星のキスは、この間とは全然違うものだった。


この間は優しく触れる感じの柔らかいキスだったのに、全然感触が違う。

大星は舌を絡めてきた。


私は反抗せずに大星のキスをそのまま受け入れた。


大星は息を少し荒くし、私の舌に自分の舌を絡め続ける。吐息がちょっと色っぽい。



しばらくして唇を離した大星は、




「そんなに奏太に会いたいの?」


と、少し掠れがかった小さい声で、頬に手を添えたままそう尋ねてきた。



「そりゃあ…会いたいよ。」



だって奏太は、私の大事な友達だから。



すると大星は、

「千紗乃は馬鹿だな。奏太、途中でお前に手紙返さなくなったんだろ…?今の連絡先も知らない。どこに住んでるかも知らない。それなのに、どうやって会えるっていうんだよ。良いか?奏太とはもう、会えないんだよ。もっと現実を見ろよ。」


と、悶えるようにそう言ってきた。
大星、なんでそんな事言うの…?
私は大星のその言葉に腹を立て、


「なんでそう決めつけるの!?どこかでまた会えるかもしれないって、願うことすらいけないっていうの?願うことは自由じゃん。」


と言い返した。
大星は私の両肩に手を置き、力強くこう言ってきた。


「諦めろ千紗乃。もう奏太だって、俺達のことなんて忘れてるんだよ。手紙も寄越してこないのがその証拠だろ。奏太の事思ってるのは、お前だけだ…!」



私はカッとなり、


気付けば私は大星の頬に平手打ちをしていた。


「あ…。」



私…大星になんて事を……!


私は大星を叩いてしまった反対の手でその手を抑え、大星に即座に謝った。

「大星ごめん…!私、そんなつもりじゃ…。」


すると大星は俯いてこんな事を言った。



「……転校するの、奏太じゃなくて、俺だったら良かったのにな。」




「え…!?」


違う…!違うよ大星…!私は大星にそんな事を言って欲しかったんじゃない…!


「ごめん。俺もう、今日はお前を傷付ける様なことしか言えなそうだ。帰って頭冷やすわ。」


そう言って大星は立ち上がり、私を置いてゆっくり丘の坂をおりていってしまった。

「大星…!大星!!」

私は慌てて立ち上がって追いかけたけど、この格好じゃ走れない。

どうしよう。完全に大星に嫌われてしまったかもしれない。

私は大星に電話をしたけど出る訳がなく…。


結局この日はこのまま会えず終いで、大星とは連絡が付かなくなった。

イツメンのみんなには、
結局大星の本心を聞くことは出来なかった事をLINEで伝えた。


後日、美術部の活動日に学校に来た時に格技場を見てみるも、剣道部は居なくて。その日校庭で練習していたのが陸上部だったから、陸上部である和ちゃんに声をかけて、何か心当たりがないか聞いてみた。

「あぁ、剣道部に私の友達いるけど、なんか合宿行くって言ってたなぁ。日にちまでは覚えてないけど、山梨の方って聞いた気がする。もしかしたら美嶋のいる合宿所の電波でも悪いんじゃないかな?」

という事だった。

大星がどこにいるかなんて家を訪ねれば分かる。でも、そんな事したら大星のお母さんに心配されてしまう。

「そうだといいんだけど…。」

「美嶋と喧嘩でもしたの?」

「うん…。」

そういえば和ちゃん、付き合っていることを知らなかったっけ。改めて和ちゃんに簡潔に状況を説明した。

「そうだったかぁ…。連絡早くもらって、安心したいね…。」

「ホントだよ…。」

すると和ちゃんは何かを思い出したようで、私に嬉しいお誘いをしてくれた。

「あ!そうだそうだ千紗乃!あんたにLINEするの忘れてたんだけど、次の土曜日にうちの陸上部が東関東大会に出るの!千紗乃、空いてたら是非応援に来て!」

「東関東大会…!?すごいじゃん!!おめでとう!!」

私は和ちゃんの手を握ってそう伝えると、

「絶対行く!」

と約束した。

「うん。ありがとう!千紗乃いると頼もしいわ。じゃあ、詳細はLINEするね。そろそろ戻らないと。」

「あ、忙しい中ありがとう。LINE待ってる!」

私は和ちゃんに手を振り、校庭を後にした。


実は私は元陸上部。中学が同じである和ちゃんとは部活も一緒で、共に切磋琢磨した仲間なんだ。

私は無茶をして怪我を悪化させてしまって、辞めざるを得ない状況になってしまった。

私にはどうしても走り続けたい理由があったから。

この高校を選んだのも、陸上部が強い学校だったからだ。

でも特にうちはマネージャー制度は無かったから、走れない以上、陸上部には入ることはなく、絵も得意だったから今は美術部に入った。

和ちゃんは私が走り続けたかった理由も、どれだけ苦しくて悔しい思いをしたかも全部知っている。

私が退部する時も、「高校で私が千紗乃を全国大会に連れて行く!!」なんて言ってくれた、心強い大事な友達なんだ。

そんな和ちゃんのお誘いだからこそ、私は絶対に応援に行くと伝えた。

大星の事は不安なままだけど、合宿で忙しくてそれどころじゃないんだろうって信じることにした。

だって、前に観覧車の中で

ー俺はお前を嫌わねーよ。一生嫌いになんてなるかよ。

そう言ってくれた大星だもん。

大丈夫。大星ならきっと、合宿が終わったら連絡をくれるはずだ。



大会のあった土曜日はお母さんと出かける予定があったけど、それを土曜日から日曜日に替えてもらった。よし、これで和ちゃんの応援に行ける!!

青南陸上部には和ちゃん以外にも数人、1年生の時にクラスが一緒だった子がいて、その子達にも私が応援に来ると和ちゃんが伝えてくれていたから、当日は何も心配することなく合流もできた。

すごい広い会場だ。東関東ってことはどこまで来てるんだ?東京、神奈川、千葉ってところかな?

その県を代表する高校が来てるんだよね。これを勝ち進めば関東大会。その後は全国だ!近いようで、まだ道は長い。

うちの青南高校から出るのはハードル走の和ちゃんと、女子短距離走の3年の水野先輩、男子短距離走の2年の林くんと、3年の佐原先輩って方が出ると聞いている。

私は青南の出番に関わらず、ずっとトラックを見入っていた。

私はこの、陸上ならではの爽快感が好きだ。

見ていて全然飽きない。

青南が出た時はみんなで一緒になって全力で応援した。

でもさすが東関東大会。全然レベルが違う。中学生の時は都大会に出て、あと一歩で東関東だった所で私は落ちてしまったから、それより先の事は知らなかった。

脚力が尋常じゃない。

あぁ、私も走りたいな…。

「いけー!!!!和ちゃん!!!!いけー!!!!」

走れない分、私は全力で応援した。

でも結局、和ちゃんは関東大会の出場権は得ることが出来なかった。だから私は部員の子達と一緒に、戻ってきた和ちゃんを抱きしめて、よく頑張ったねと一緒に泣いた。

残念ながら、水野先輩も惜しくも敗退してしまった。

後は、うちからは男子のレースを残すのみ。

その前に男子の100mリレーが始まった。この回も熱い。藤ヶ谷高校っていう所と、皐月高校って所が次のレースに出るらしいんだけど、両方聞いたことがある強豪校だ。
他の高校も、名前こそ知らなかったけどここに来るって事はかなり実力があるんだと思う。


これは見物だ。



私はスタンド席から乗り出して見ていた。






その時だった。





あれ…!?




嘘…。



私は慌てて会場の巨大モニターを確認した。間違いない。



第3走者の名前




本庄奏太って書いてある…!!





あの奏太で間違いないはずだ…!




「和ちゃん…。私……会えたかもしれない…」


「会えたって…!?まさか……あの…?」


「うん…!」



私は全速力で走る彼の姿から目が離せなかった。


このレースは藤ヶ谷高校が1着で幕を閉じた。


なんだろうこのソワソワする気持ち。


まだ、先輩達のレースまで時間がある。



「和ちゃん、私探してくる…!!」



私はスタンド席を離れ、彼を探し出すことに。


絶対あれは奏太だ。


私のずっと会いたかった奏太だ…!




レース中、奏太の事をずっと目で追ってしまった。



奏太の事を1度思い返すと、頭から離れなくなる。



今、奏太がどこにいるのか、どんな生活を送っているのかも全部知りたい…!



奏太…。奏太…!




お願い…!どうか見つかって…!



私は20分以上会場中を探した。さすがにそれだけずっと走ったりしていると、古傷が少し痛む。

あと10分くらい探したら一旦戻ろう。


そう思って少し息を整えて再度走り出した時だった。


私は横から来た人とぶつかってしまった。


「すみません…!」

「すみません、大丈夫ですか…?」


ふとその人の事を見ると…


色白の肌、キリッとした凛々しい目付きに、レース中こそ外していたけど、その眼鏡。


やっと会えた。



やっと…!やっと奏太に会えた…!


「奏太…!!私だよ!長瀬千紗乃!!」


「…千紗乃……?え。あの千紗乃?」


声変わりした聞きなれない声。でも、その声が今確実に私の名前を呼んだ。


「そうだよ。その千紗乃だよ。覚えてる!?本庄奏太くんでしょう!?奏太なんだよね!?」


私は答えを急いでしまう。


でも、次の言葉で安心した。


「こりゃたまげたわ。千紗乃。久しぶりじゃのぉ。」


間違いない。この島根の石見弁。



そしてこの笑顔。




私は奏太に思い切り抱き着いた。




「奏太…!会いたかったよ!!」



私は奏太の胸の中で号泣してしまった。


「おお…千紗乃、どうしたん?あぁ、泣くなや。えぇ…。」


奏太は号泣する私をギュッと抱きしめてくれた。


「よしよし。そがーに泣かんでも。」


と言って奏太は私の頭を撫でてくれた。



「ぞーだー。や゛っど会え゛だー。(奏太。やっと会えたー。)」


本当に嬉しい。奏太に会えるなんて夢見たいだ。


「千紗乃、1回落ち着こうや。そこのベンチで少し休みんしゃい。」


そう言って私は奏太に手を引かれ、ベンチに連れて行かれた。


奏太はトイレに行っていたようで、その帰りだったそう。

「あぁ、ハンカチとか思ったけど…俺のつこうた後だといけんね。」

「良いよー別にー貸してくださいー。」

私は奏太からハンカチを借りて涙を拭いた。それから涙を拭いたあとに、

「千紗乃、こっち向いてぇや。」

と言ってきた。

私は照れながらも奏太に顔を向ける。
奏太は私の顔を見て、

「偉い美人になったのぉ。でも、ちゃんと千紗乃だって分かるで。」

と微笑んでくれた。

「奏太も…奏太だって分かったよ。顔はそんなに変わってないね。背はすごく伸びたけど…。」

「あぁ、小学校の時は目線の高さ同じくらいだったのぉ。」

「うん。」

ちなみに奏太は生まれは島根で、その後に岐阜に引っ越して、その後が東京だったと聞いている。小学校卒業後に引っ越したのは新潟だったと思ったけどなぁ。

私はその辺も聞いてみた。

「奏太、新潟に引っ越したんじゃないの?」

「あぁ、その後に千葉に越したんよ。高校からはずっとこっちなんよ。」

「え、そうだったんだ…。でも、相変わらずしゃべり方は抜けないんだね。」

なんて振ってみると、

「いや、普段はバリバリ標準語なんだけど、千紗乃見たらつい向こうのしゃべりが…。とうの昔思い出して安心でもしたんじゃろか?」

と返ってきた。そんな奏太の言葉になんだか可愛いって思えている自分がいた。

「じゃあ混ぜこぜなんだね。」

「うん。そんな感じ。」

あぁ、もっと話していたい…。私は思い立ってスマホを取りだした。

「ねぇ、奏太。今度またゆっくり話したい!千葉と東京なら電車で行ける距離だし、なんなら私が行くよ!」

「ええ!?全然俺が出向くのに…。」

「奏太。また会いたいから連絡先教えて!」

と伝えたが、奏太はどうやら自分のスタンド席に携帯を置いてきてしまったようだ。

「ごめんな、携帯スタンド席の自分の荷物の中に入れっぱでのぉ…。」

「あ…そうなんだ…。」

「申し訳ない。」

どうしよう。それでも私はどうしても彼との連絡手段を手に入れたい…!

すると奏太がとんでもない事を言ってきた。


「あれ?千紗乃、大星とは全然会っとらんの?」

「大星?いや、会ってないどころか高校が一緒でね。」





「そうか!なら大星に教えてもらうと良ぇよ。」




え?





大星に?




待って、どうして?





「奏太、どういう事?」


「俺、大星の連絡先は知ってるんよ。」




待って?話が読めない。



ー千紗乃は馬鹿だな。奏太、途中でお前に手紙返さなくなったんだろ…?今の連絡先も知らない。どこに住んでるかも知らない。それなのに、どうやって会えるっていうんだよ。良いか?奏太とはもう、会えないんだよ。もっと現実を見ろよ。



じゃああの言葉はなんだったの…?



私は咄嗟の判断で、


「奏太の席まで行く!!大星、今合宿先で電波悪いみたいで連絡が付かないの!だから大星から教えてもらうんじゃなくて、今奏太から教えてもらいたい。」

と伝えた。


どうしてか、大星は奏太の連絡先を教えてくれなさそうという頭が働いたのだ。

「おお、そりゃあやれんねぇ。それなら着いてきて。LINE交換せーか。」

と言ってくれた奏太に着いていき、LINEを交換した。


私のスマホの連絡先一覧に、“本庄奏太”がいる…!


「奏太…!ありがとう!」

「えぇって。そしたらもう戻るけぇ、またLINEで話そう。」

「うん!」

奏太はスタンド席を下りる私が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。


奏太が見えなくなったあと、私はその場で力が抜けてしゃがみこんでしまった。



私、ちゃんと話せてたかな?


奏太に変な奴って思われてないよね…?


あぁ…嬉しい…。


嬉しすぎて私はスマホを両手でギュッと握りしめて、


「奏太…。」


と小さく奏太の名前を呟いた。


それから私は青南の応援席に戻り、和ちゃんに伝えた。

「良かったね千紗乃…!」

「和ちゃんのお陰だよ…。もう走れない私には会うことなんて無理だと思ったから…。」




私が陸上を始めた理由。


それは、奏太が走るのが速くてかっこよかったから。それに私も憧れて、奏太のように速く走れるようになりたくて、奏太を通して走る事の楽しさに気付いたから陸上を始めた。


それに、奏太は転校してしまい、離れ離れになってしまったけど、奏太はずっと走り続けているに違いない。



走り続けていればいつかまた何かの大会で奏太に会えると思った。



だから私はその為に陸上部に入ったんだ。



でも、怪我をしてしまい私はこれ以上は全速力で走り続ける事は出来なくなった。



だからもう奏太には会えないと思っていたのに。



和ちゃんには感謝しかない。




奏太、この再会はきっと運命だって思っても良いよね…?





続く

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