次は…大星と…キス…!?
「お前なんて声出してんだよ。どうした?」
「え、あ…いやその…」
そういえば、私たちが付き合う期間はお互いに好きな人が出来るまでと決めた。でも、期間は決めたけど、どこまでが修業の範疇なのかを決めていなかった。これ、ちゃんと決めておかないとダメじゃん!だって例えば仮に、私が修業の一環だ!って言って大星にキスをしてしまうとする。
でも大星からしてみたらそれは範疇を超えているもので、
え、きも!俺、そこまでしていいなんていつ言った!?
って嫌われてしまうかもしれない。
嫌われてしまうのだけは避けたい!
という事で私は勇気を出して大星に言った。
「大星、私…大星にどこまで修業でやっていいのかって決めてもらってなくない?」
「え?」
「だからさぁその…今のところさ、手も繋いでもらったり、さっきだってギューってしてくれたでしょう?つまり…。」
キスはどうしたらいい??
あぁ…言葉に出来ない!こんな事言ったら引かれるんじゃない?修業でキスは無いよね。でも、キスしてこそ恋愛の修業になるんじゃ?
あぁ、どう伝えよう…!
すると突然大星がフッと吹き出して、
「お前まさか…。」
と言う。どうやら察したみたいだ。
「その…まさかです。大星、どこまでが修業項目ですか?」
私は大星の目を見てしっかりと質問を投げかけた。
大星はドギマギしていた。
「お前、その前に、仮に俺がOKしたらどうすんの?俺がお前のファーストキスの相手になるって事だぞ?」
「それは大丈夫!だって私のファーストキスはお父さんって聞いてるから!」
大星はそれを聞いて苦笑い。
「え…ああ、そう…。」
「大星、それを踏まえてどうしたらいい?」
大星は目を泳がせながら、
「えー…。俺はどっちでもいい。任せる。」
と答えてきた。
「え!ずるくない?」
それから深いため息をついてから、今度は私の目を見てこう言った。
「俺はただ、お前に後悔してほしくないだけだよ。修業の為に俺とキスして、後々、キスを修業の範疇に入れなきゃ良かったって。そんな風にはなってほしくないから。」
大星は凄く私の事を心配してくれるんだな。なんかまるでお兄ちゃんのようだ。大星がもし私のお兄ちゃんだったら、こんな風に振舞ってくれるのかな?
それから私は自分の気持ちを伝えた。
「私、正直なところ…キスはしてみたい。だって早くみんなに追い付きたいし、いろんな経験積みたい。」
少し沈黙があった後に大星は言う。
「追い付きたいって理由だけで、好きでもない男にお前はキスなんかしていいのか?」
なんで好きでもない男だなんて表現をするの?そんな言われ方されると何だか寂しい。それに、大星とのキスはきっと嫌なものじゃないはずだと思えている自分がいた。
「キスは緊張はするけど、逆に大星じゃなきゃ修業自体頼めないし、修業の為にキスしてなんて事も頼めない。だから、大星さえ嫌じゃなければ、キスも範疇に含めて大丈夫かなぁ…?」
大星は深呼吸した後に小さな声でこう返してくれた。
「…俺はいいよ。」
すごい弱々しい返事の仕方に私は心配になる。繋いでくれている手を一度離して、私は大星の両肩を持って、塀に大星を軽く押し付けて少し揺らしながら再度確認する。
「本当に良いの?嫌なのに無理とかしてない?私とキスするの大丈夫なの?大星こそ後悔しないか心配だよ。」
すると大星は、さっきのような小さな声で、
「…今してみようか?」
と言って…
「え?」
私のおでこに優しく大星のおでこがくっ付き、私の頭に手を添えてきた。
大星の顔がすごく近い。
身長差10cmくらいの私達。私の視界は大星の顔で埋め尽くされた。
いつもの人通りのないこの道。
普段通る何の変哲もないこの道が、まるで2人だけの世界にいるような感覚にさせる。
大星は凛とした顔をして私を見つめている。
ーちゃんと俺はお前を1人の高校生として、女性として見てるよ。
大星は私をちゃんと高校生として見てくれていたのに、私の中の大星は、小学校の時の大星のまま。私が勝手に大星のイメージを止めていたんだ。
その小さい時から一緒に遊んでいた大星はもう、すっかり1人の男性になったんだよね。
1人の高校生として今の大星の事をちゃんと見ているようで、全然見ていなかったんだ。
「千紗乃、目ぇ閉じろ…。」
大星、いつからそんなに大人になったの?
一緒に居るのになんだろう、この置いてかれてる感じ。
なんか、大星が遠い。
「え…うん…!」
大星もゆっくり目を閉じて、もっと顔を近づける。
私の脈はどんどん早くなる。
私は覚悟を決めた。
でも…
「ごめん……俺が無理だったわ。」
「え?」
まさかの展開だ。
大星はキスはせず未遂で終わらせた。
「ちょ、大星?」
大星は無言のまま、私の家の方面へ歩き出した。
無理ってどういう事…?
え、そのままの意味か。
拒否されたってことか。
………拒否された?
仮にも彼女なのに?
………えーーー!!!?
次の日、1限目と2限目の間の休み時間にみんなにその事を伝えた。今はみんな亜美ちゃんの席に集まっている。
「嘘!美嶋から拒否られた!?」
と、亜美ちゃん。
「何それ!美嶋くんなにやってるの!?千紗乃ちゃんにキス顔させといてやっぱり無理とか酷くない?」
と、こはるん。
「やっぱりそういう事だよね。私にきっと何か至らぬ点があったってことだよね…。」
さすがの私も、無理って拒否られたら落ち込む。凄く否定されてる感じがしてショックな言葉だ。
「えー?変なこと聞くけど千紗乃ちゃん、昨日美嶋くんとやった?」
「やったって何を?ちゃんと勉強したよ?」
「あぁ…そうじゃなくて…。」
こはるんは私の耳元でこう囁いた。
「エッチしたかどうかってこと。」
その刺激の強い言葉に私は飛び上がる。
「ぎゃー!!してないしてない!!」
「え!してないの?」
こはるんはしてない事実に驚き、つい大きい声が出てしまう。
「声でかいよ。」
と由香っちが私の代わりにそう言ってくれた。
「ごめん千紗乃ちゃん…。いや、単純にもししたんなら、その時に相性が悪くて美嶋くんが無理だって感じる部分があったのかな?って推測したの。でもしてないならその線は無いね。」
「うっそ。ていうかそんなムードにもならなかったの?」
ーこれでも分かんない?俺が言いたいこと。
なってない訳じゃなかった。でも、こんな大星の1面はみんなに知せるべきじゃない。知られてはいけない気がする。
何となくだけど、この事は大星のためにも安易に話さない方が良いのかもしれないと感じた私は、
「何も無かったよ。」
と伝えた。
「そっか…。」
「ていうか今日の朝はどうしたの?一緒に来たんじゃないの?」
と由香っち。
「いや、それが私が寝坊しまして…。」
「そーゆーことね…。じゃあ今日は美嶋に会ってないんだ?」
と亜美ちゃん。
「そうなのー。私が寝坊しなきゃなぁ。ちゃんと今朝聞けたのに。なんか今更わざわざ聞きに行くのもなぁなんて。」
「この一週間はテストで部活もないから、美嶋誘って一緒に帰ればいいじゃん。」
と由香っちは言ってくれたけど、なんだかそんな勇気もない。
「あぁ…うん…。でも、何か会いにくいなぁ…。やっぱりお前の修業付き合えないわ、むしろもう友達でもねぇとか言われちゃったらどうしようって思ったら怖くてね。」
でも、そういえば昨日、大星とこんな話したよね?
ー俺を修業相手に選んでくれたからには、俺が絶対に千紗乃を楽しませてやる。
あの言葉はなんだったんだろう?それとも、キスの展開になる前まではそう思っていたって感じなのかなぁ?私はそのやり取りの事をみんなにも話した。すると由香っちがこう言ってきた。
「もしかしたらなんだけど、美嶋、ちーちゃんの事が大切過ぎて手が出せないんじゃない?」
3人で由香っちに
「え!」
と同時にリアクションした。
「分かんないけどね。そんな気もする。」
大切過ぎて手が出せない……って、何?
それってどういう感情なんだろう?
そう頭に疑問が過ぎった所でチャイムが鳴り、次の授業の先生が入ってきてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ねぇ美嶋、本当の事を教えてよ。
あんたは今、どんな気持ちで千紗乃と付き合ってるの?
千紗乃の事をどう思ってるの?
3限目の選択授業は数B。私は移動先の教室で、既に席にいて教科書を捲っていた美嶋に声をかけた。
「ねぇ、美嶋。ちょっと良い?」
「おぉ、原西。そういや千紗乃の奴、ちゃんと学校間に合ってたか?」
「うん。朝の朝礼前には着いてたよ。」
「あぁ、そっか。」
私は美嶋の席の前に来てしゃがんだ。
「なんだその上目遣い。」
私は細目になって美嶋に尋ねた。
「美嶋、昨日ちーちゃんに向かって無理だって言ったって本当?」
「は?」
美嶋は今のを聞いて明らかに顔が引き攣った。そう言った事は事実なんだろう。
「ちーちゃんが美嶋に嫌われたかもー!どうしよー!ってめちゃくちゃ気にしてたよ。」
美嶋は教科書にしか目をやらず、私を一切見ないで、
「で?俺にどうしろと?」
と返してきた。
何こいつ、こんなに性格悪かったっけ?
「どうしろとって、決まってるでしょ?ちーちゃんとちゃんと話してあげてよ。なんで無理って言ったのかちゃんと説明してあげないとあの子には分からないよ?」
美嶋はそのままの顔で
「うるせーな。あっち行けよ。」
と返してきた。でも私はどうしても美嶋が無理って言った真相が知りたくて、尋ねてみた。周りに聞こえないように小さめに。
「ちーちゃんが大切なんでしょう?だからキス出来なかったんでしょ?」
美嶋は教科書から瞬時に視線を私の目へ移動させる。
「なぁ原西、悪いけど外野から物言われるの本当に嫌いなんだ。これは俺達の問題だから。」
美嶋、何でそうやって1人で抱え込むの?どうせ友達にも部活の仲間にも、誰一人にも話してないんでしょう?
絶対に辛いはずなのにどうして1人で悩むの?
私が今の彼氏と上手くいったのは、美嶋の協力があっての事だった。だからこそ今度は私が美嶋の力になってあげたい。ただそれだけなの。
美嶋は私にまだ心を開ききってないの?
私は美嶋にこう伝えた。
「ちーちゃんの事もそうだけど、私は美嶋にも幸せになってもらいたいだけなの。あんたには、恩もあるから。」
すると美嶋はフッと鼻で笑い、辛そうな笑顔を浮かべてこう呟いた。
「あぁあ。気付いてもらいたい相手はお前じゃないんだけどなぁ。」
その美嶋の言葉を聞いて、私は切ない気持ちにさせられた。
「じゃあ…キスしなかった理由は…。」
と私が口にした所でチャイムが鳴り、授業が始まってしまった。
授業が終わった後に声をかけたくとも、美嶋は他の友達と話しながらクラスに戻って行ってしまい、結局本人からはっきりとした言葉を聞く事は出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから昼休み。私はお弁当をみんなで食べた後に、
「私、大星に会いに行ってみる。」
と伝えた。
亜美ちゃんも由香っちもこはるんもみんな、頑張れと応援してくれた。
「ちーちゃんなら大丈夫!」
「頑張ってね。」
「千紗乃ちゃんファイトー!」
みんなに背中を押され、大星のクラスへ。
でも見た感じ大星は居なくて…。
なので和ちゃんに声をかけて聞いてみた。
「えー?美嶋?そういえば見てないなぁ。」
和ちゃんは道田くんを始めとしたクラスの子何人かにも声をかけてくれたけど、みんな大星がどこにいるかは知らないと答えた。
「そっか…。」
大星どこに行っちゃったんだろう。
「戻ってきたら千紗乃が来たこと伝えておくよ。」
と和ちゃん。
「ありがとう。」
念の為大星には、今どこにいる?とLINEを入れておいた。
大星いなかったかぁ。なんでいつもは簡単に会えるのに、こういう時は会えないんだろう。
今日は古典の授業も無くて会えないし…。
仕方なく私は教室に戻り、大星には会えなかったとみんなには伝えた。
そのまま授業を終えてホームルームの時間に。その時に大星からLINEが返ってきた。
「昼休み教室に来たんだってな!ごめんな。どうした?」
それから、こっそりとLINEを返す。
「今日一緒に帰れる?」
大星もホームルーム中だろうけど、返事をくれた。
「ごめん。今日は塾に寄る。テスト終わるまではそれに集中したいから、一緒に帰れないなぁ。学校一緒に行くのも、テスト終わってからでいい?」
この返事を見て、あぁやっぱり私は避けられてるんだと思った。すごく胸が痛い。
「そっか、、、分かった!了解だよ!勉強頑張って!私も頑張る!」
と返し、既読は付いたものの、その後返事が来ることは無かった。
なので私はホームルーム後に急いで3人に声をかけ、この事を説明した。
「えっ…!嘘やん!」
と亜美ちゃん。
「ちーちゃんそれでいいの?」
由香っちの質問には、
「仕方ないよ。」
と答えた。
それから大星とは廊下ですれ違う程度になり、LINEでのやり取りもないまま約1週間が経ち、テストの3日目を終えた。最終日の4日目は古典がある。
大星とはそこで教室で出くわす事になる。
明日が終われば大星とはちゃんとまた修業を再開できるのかなぁ?
そう思いながら昇降口でローファーに履き替えていると、
「千紗乃。」
なんと、大星に声をかけられたのだ。
「大星…!」
大星は至って普通の態度だった。
「どうよ、テスト。」
と聞かれたので私も普通に答えた。
「あ!そうそう。数Ⅱと化学、今回結構できたかも!絶対赤点にはならないねあれは!」
「ふーん。なら良かったな。」
「大星のお陰です。ありがとう。」
「もちろん点数は教えてくれるんだろ?」
大星は意地悪っぽく笑ってそう言ってきた。
「え…点数言うの?」
「教えてやったんだから良いじゃん。」
「き…きき…気が向いたらね。」
大星に笑われた後、手を振られ、
「じゃあ、俺ちょっと別クラスの奴と待ち合わせしてるから行くわ。またな。」
「あ…うん。」
そのまま大星とはバイバイだ。でも大星は昇降口を出ると思いきや、
「そうだ。千紗乃。」
一旦止まって私の方に振り向き、
「お前も頑張ったしさ、テスト終わったら休みの日にどっか遊び行こうぜ。」
「へっ…!?」
と、誘ってきてくれた。
嘘…!本当に?大星は私の事嫌いになったんじゃなかったの?
「考えといて。行きたい所。」
それって2人で?ってちゃんと確認したかったけど、勇気が出ずに私からは聞けなかった。でも大星がこう言うんだ。
「デートってやつだよ。」
大星の笑顔が眩しい。すごく嬉しい。どうして半分泣きそうになってるんだろう。久しぶりに話せた事がこんなに嬉しいなんて。こんな気持ちは初めてだ。
私は、大星に嫌われたわけじゃ無かったってことで良いんだよね?
だから私は精一杯の返事をする。
「大星がいるならどこでもいいよ!でも、考えとく!」
するとニッと大星は笑って、
「お前、そんなこと言えるんだな。可愛いとこあんじゃん。じゃあまた明日、古典のテストで。」
そう言って手を振って大星は昇降口を後にした。
大星…嬉しいよ。
もっと話したかった。
大星に、明日一緒に帰れる?って聞きたかった。
私のこと嫌いになった訳じゃないのかちゃんと確かめたかった。
何?本当に。いつもの私じゃないみたい。
大星との日常が当たり前になりすぎて、大星と話せる事がどれだけ自分にとって楽しくて、嬉しい事なのかを分かっていなかった。
でもそれに今やっと気付いた。
なんだかホッとして、涙が出てきた。
すると後ろから由香っちに声をかけられた。
「ちーちゃん!?え!どうしたの?」
私は由香っちに今の気持ちを伝えた。
「由香っち…!やっと大星と話せたよ。大星に話しかけられて、すごくほっとして…。きっと、嫌いになった訳じゃなかったんだと思う。」
由香っちは私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよちーちゃん。美嶋は、ちーちゃんのこときっと嫌うわけないよ。」
私は縦に首を振り、由香っちに抱きついた。
それからテスト最終日、最後のテスト科目の古典も終え、私はそこにいる大星に声をかけた。
「お疲れ大星。やっとテスト終わったよー。」
「お疲れー。全教科赤点免れると良いな。」
「うん…!」
それから思い切って、
「大星…!今日一緒に帰れたりする?」
と尋ねてみた。でも大星からは、
「あぁ…悪ぃ。今日から部活始まるんだよ。」
と言われて断られてしまった。
「あぁ。そうなんだ。」
なんだ残念。部活なら仕方ないね。その時大星から、
「ねぇ、考えといてくれた?」
と言われた。
「え…。」
「明後日の日曜日、もし空いてたらどっか行こうぜ。どう?空いてる?」
明後日なら空いてる!私は勢いよく大星の肩を掴み、
「行こう!大星!1日空けとく!」
と大星を揺さぶって力強く伝えた。大星には笑われて、
「全力かよ。という事だから行きたい所考えてLINEしといて。俺も考えてみるよ。」
と言われ、教室で大星とは別れた。
そして迎えた日曜日。
私は大星と遊園地に出かけた。
大星と私は絶叫系が得意で、遊園地に着いては、全部のアトラクションを制覇するペースで色んなものに乗っていく。
絶叫系で、大星も私も叫び過ぎて若干喉が枯れてきた。間あいだで、ショッピングを楽しんだりもした。
「このキーホルダー可愛い!このタンブラーも良いね!欲しい!」
「おいおい。お前さっきから全部に欲しいって言ってないか?」
「そんな事ないよー!」
こうして一緒に過ごす事がすごい楽しい。
それからまた少し絶叫系に乗ったり、後は絶叫以外のアトラクションにも乗ったりして、
それから遊園地内のカフェでお昼休憩。
ご飯を食べ終わってのんびりと会話を楽しむ私たち。
「いやー。それにしてもめちゃくちゃ乗ったねぇ。」
「そうだな。いやー、良いなアトラクション乗りたくるの。」
「うんうん!これ、絶対奏太だったら無理なコースだよね!」
「え?」
実は奏太は遊園地は好きでも、絶叫系は大嫌いなのだ。あの浮遊感が苦手なようで、乗りすぎると乗り物酔いもして吐いてしまう。
この遊園地は昔、小学校の時に奏太と大星と私の3人とみんなのお母さん、それから私のお姉ちゃんとで遊びに来た事があった場所だった。
ちなみに奏太はホラーは得意。私も得意なんだけど大星は実は苦手。お姉ちゃんも強がってこそいたけどホラーは苦手な人だ。
「覚えてない?奏太がさ!あのマウンテンのコースターだったと思うんだけど、落ちる時に気絶しちゃった事があったじゃん!覚えてない?」
「…そんな事あったっけ?」
「そうじゃん!奏太、もう顔の色も青白くなっちゃってさ!しばらくベンチで休ませてたじゃん。」
「ほぉ。…だっけ?」
「その時ガクンって首の力も入ってなくてさ。大星と手分けして、分かんないけどとりあえず飲み物買いに行くか!って、奏太に飲ませる飲み物とか買いに行って、大慌てだったじゃん。」
「うん。そうだったかも。」
「うん!それから休んでメリーゴーランドとかに連れていったら、落ち着くーって喜んでたじゃん!奏太に付き合って、連続で3周回ってさー。懐かしいなぁ。」
「……」
大星は頬杖をついて、なんだか少し疲れたような表情でこちらを見ていた。
「それでさ、その後かな?確か今度はホラー系行きたいとか言って、今はなくなっちゃったけどお化け屋敷入ってさ。奏太と私は平気な顔して楽しんでるのに大星とお姉ちゃんはビクビクしてて。めちゃくちゃ奏太と私で大星指さして大笑いした記憶があるなぁ。」
大星はフッと鼻で笑い、なんだか苦笑していた。話し飽きちゃったのかな?
「ごめん、私の話つまんなかった?」
大星は呆れたように、
「いや。つまんなくない。覚えてもいるし。でも、俺は奏太じゃないんですけど。」
と言ってきた。
つい懐かしくて奏太の名前をたくさん出してしまった。
「ごめんごめん。」
それから大星は、
「ちょっとトイレ行ってくるわ。」
と言って席を立った。
「あ、行ってらっしゃい…。」
そう言って大星は15分くらい戻ってこなかった。私の昔話に相当飽き飽きしちゃったのかなぁ?
大星が帰って来たら謝らなきゃ。
すると、
「ごめん。お待たせ。」
大星が帰って来た。手には何か持っているようだった。
「大星ごめん。私の話つまんなかったんだよね?ついたくさん喋っちゃってごめんね。」
すると大星は、手に持っていた袋をテーブルの上に置いた。
「千紗乃、中見てみ?」
そう言われたから中を見てみると、なんとそこには、さっき私がお店で可愛いと話していたキーホルダーと、タンブラーが入っていた。
「え!これ、さっきの!」
すると大星は優しい笑顔を向けて、
「俺からのプレゼント。テスト頑張ったし、もう少しでなんだかんだで付き合って1ヶ月経つだろ?」
と言ってくれた。
「プレゼント…!え!良いの?」
「うん。」
まさかのサプライズに私は両手で口を押えて目を丸くした。
こんな素敵なプレゼントを貰えるなんて思ってもいなかった。
「大星ありがとう…!すごく嬉しい。キーホルダーはカバンに付けようかな…!?あ、明日から、今使ってる水筒からこのタンブラーに変えて学校に持ってく!」
「そっか。中身カバンの中で零すなよ?」
「そんなことしませんー!」
大星にケラケラ笑われる私。でも、こんなやり取りを出来ること自体が幸せだ。こんなに温かい気持ちになるなんて。大星と付き合ったからこそ、より大星の大切さに気付けた。
大星に出会えて良かったなって思う。
大星、ありがとう。
「写真でも撮るか。」
大星がそう提案してくれた。
「うん!撮ろう!」
私と大星、それから今もらったプレゼントを入れて、数枚写真を撮った。
こうしてたくさん写真を撮って、たくさん思い出を作っていきたい。
大星、いつか私が大星への好きがLIKEじゃなくて、LOVEになる時が来たら、
その時は必ず気持ちを伝えるね。
それから夜になり、私達は観覧車に乗った。
ここからの眺め最高で、夜景が凄く綺麗だった。大星が高所恐怖症じゃなくて良かった。
「大星、すごいよ!もうここまで来ちゃった!もう少しで頂上かな?」
「じゃない?」
私の向かいに座る大星は、シートの肘置きに寄りかかり、窓の外をジーッと眺めていた。そして、少しの間静けさが漂う。
こういう時、LOVE同士のカップルはどんな事するんだろう。
「ねぇ大星。」
「ん?」
「あのさ、観覧車に乗ってる時ってさ、LOVE同士のカップルは、何をするか分かる?」
大星は冷静だった。
「えー?知らんよ。俺、過去の彼女と遊園地なんて来た事ないし。」
「そうなの!?」
「うん。」
大星は、この子なら好きになれるかなと思ってとりあえず付き合うって前に言っていた。相手にLOVEの感情を持ってない状態で恋愛する訳だから、そういう相手とは別に遊園地行こうって思ったりしないのかな?それとも、付き合ってた相手が遊園地好きじゃない人だったとか?
「大星って、過去付き合ってた彼女とはどんな所に遊びに行ってたの?」
「えー?お互いの家かな?後はうーん…カラオケとか行ったかなぁ。」
「遊園地とか水族館とか、動物園とかは?」
大星は私の方を向き、手を振って否定をする。
「無い無い無い無い。誘われたりしたけど部活と被ってて無理だったりしたし、そもそもあんまり気乗りしなかったんだよね。」
「そうなんだ…。」
「うん。」
「大星は相手の事、付き合っていく中で好きになった事はホントに1度もなかったの?」
大星はもう一度窓の外を眺める。
「うん。1度も無かった。だから浮気もされるし、結局だるくなって俺から振る事も多かったよ。」
「そうなんだ…。」
やっぱりLOVEの感情を持ってない状態で付き合ったりするって、結末はそんな感じになるのかな?
「ぶっちゃけ大星は、過去の人達とは何処まで進んでたの?」
すると大星は驚いてこちらを見る。
「おいおい。まさかお前からそんな質問される日が来るなんてな。」
「いや、何となく気になったから。」
大星は前のめりになって私の目を見て、
「一通りしたよ。」
と言ってきた。
「……全部?」
「まぁ。」
なんだろう。私がだんだん恥ずかしくなってきた。
「へぇ…。好きじゃないのによく出来るね。キスも…それ以上先の事も…。」
大星は背もたれによりかかり、
「男なんてそんなもんだよ。それに、向こうだってそんなにガチじゃなかったし。中高生の恋愛なんて遊びみたいなもんだろ。」
と言い切った。
「マジかぁ…。」
大星がすごい手慣れてる感じの発言をしている…!ダメだ。ついていけない…!
私は目をぱちくりさせた。頭から煙が出そうだ。
「あぁ…ごめん。」
大星は私にそう言った後にこう続けた。
「千紗乃、安心しろ。こんな俺のクズの恋愛観なんて真に受ける必要は無いよ。」
「え?」
「今回の俺らの関係は、俺の過去の恋愛とは勝手が違うんだよ。」
「勝手が違う…?」
大星は真剣な顔をしてこう言った。
「うん。だって俺は、遊びでお前と付き合ってないから。」
「え…?」
「言ったじゃん。長年の仲のお前の頼みだったから引き受けたし、お前が真剣にお願いしてきたからこの話を飲んだって。だから俺の過去の話聞いて、もしかしたら不安にさせたかもしれないけど、何も不安に思う必要は無いよ。俺はちゃんと、恋愛修業をしたいっていうお前の気持ちにちゃんと向き合ってるし、お前の期待に応えたいと思ってるよ。」
「大星…。」
「それに、これは俺にとってもある意味修業なんだ。」
「え?なんの…?」
大星は再度前のめりの体勢になって、少しだけ笑みを浮かべてこう言った。
「千紗乃を喜ばせる修業。」
私を喜ばせる修業…!?
大星、そんな風に思っててくれたの?
私はそれを言われて、だんだん顔が熱くなるのが分かった。それから両手で口を覆い、大星の目をまともに見れなくなった。
すごく照れる。なんだろう、この慣れない感じ。
今日はなんだか驚くことばかりでキャパオーバーになりそう。
大星は私の頭を撫でて、
「顔真っ赤じゃん。相手俺なのに。」
と笑ってきた。
私を喜ばす為に修業に付き合ってくれるなんて、こんな人もう二度と現れない。
だからこそやっぱりあの時の言動がどうしても気になってしまう。
「ねぇ大星…聞いてもいい?」
「ん?」
「大星の家からの帰り道…あの日大星が言った無理って、どういう事だったの?」
「え?」
「私はてっきり、私に至らぬ点があって、大星がもう私の修業に付き合うのに嫌気がさしたのかと思ってたの。」
すると大星はクスクスと笑い出す。
「ごめん。お前そう思ってたのな。違うんだ。」
「だって大星…あれから少しの間私の事避けてたでしょう?」
すると大星がゆっくり立ち上がり、私の隣に座って、照れくさそうにこう言う。
「違うんだ。あの時俺、ド緊張して、キスするのにビビって逃げたんだよ。お前の事が嫌になったとかじゃない。俺にとって、遊びじゃないキスなんて、初めてだったから。」
「え…?」
「キスする流れになって、男が逃げるなんてかっこ悪いじゃん。テスト勉強したかったのは本当だったけど、お前に合わせる顔が無くて。避けたりしてごめんな。」
私はそれを聞いて安心した。本当に良かった。大星は私を嫌いになったわけじゃなかったって、やっと確信できた。やっと大星の本心を聞けた。
ホッとしたら、涙が出てきてしまった。
「良かったぁぁぁぁ。」
「おい、泣くなよ!」
「だってぇぇ。大星に嫌われたと思ったから…!もう二度と大星と遊んだり話したり一緒に笑ったり出来ないのかと思ったからぁぁぁ。」
そんな子供のように泣く私を、大星はギュッと抱きしめてくれた。
「俺はお前を嫌わねーよ。一生嫌いになんてなるかよ。」
私も今日は大星に甘える事が出来た。私からもギュッてして、大星のことをしっかり捕まえた。
「大星…。大星は居なくならないでね。」
「居なくなんねーよ。」
それからしばらく大星と抱き合ったあと、私達は見つめ合い、大星が親指で私の涙を拭いとってくれた。それから大星が、
「千紗乃、この間の続きしていい…?」
「え?」
大星は涙を拭ったその親指をそのまま私の唇に移動させ、
「キス。」
と言って優しく触れた。
さすがの私も、こんな事されたらすごく照れるし、大星の事、男性としてすごく意識してしまった。
キスするって、こんなにも緊張する事なんだね。
私はゆっくり、首を縦に動かし、大星とキスをする覚悟を決めた。
「うん。」
大星はうっとりとした温かい目付きで私を見た後に、右手で私の頬にそっと触れた。
そしてお互いに目をつぶって…
ガチャ…
後ろから音が…。
「す。すみ…すみませーん。降りてくださーい。」
何でしょう、この不完全燃焼は。
「やべ!!」
「うわ!!大星!!早く降りて!!私だけ取り残される!」
私たちは慌てて観覧車を降りた後、お互いに顔を見合わせて吹き出して笑った。
それから大星とは、キスをする流れにはならなかったけど、修業とはいえ付き合ってるんだから、キスはOKにしようって事で話はまとまっている。
初デートから2週間以上が経った今、私達には新たな試練が待ち構えていた。
「千紗乃!大変!」
亜美ちゃんが大慌てで私の方に来る。
「どうしたの?」
「美嶋、2年の女子に告られてたよ!!」
「え…えぇぇぇぇえ!!」
続く
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。