埃っぽい古書室の狭い本棚の間に立っていたのはー
暁 陽太だった。
「橘さんだよね?」
私は一瞬誰に対して質問しているのか分からなかった。私はクラスの人達とほとんど関わらないため暁 陽太が私を知っているとは思わなかったのだ。
慌てて答えた。
暁 陽太はホッとした表情をした。その表情になんとなく胸が高鳴る。
私は動揺していた。興味を持った相手だとこんなにも動揺してしまうとは思わなかった。
私は質問してみた。
本棚に収まる古書を見ながら暁 陽太は言った。
正直な気持ちだった。嫌な奴だと思われても仕方のない発言だったと思う。しかし暁 陽太は笑っていた。
話している間も笑った表情を崩さない暁 陽太を私は尊敬する。そしてまっすぐなその性格も。
少し自虐的に言ってみたものの恥ずかしくてならなかった。
こんな人、初めてだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!