清春はやつれた顔で無理やり笑って自撮りをした。
「新しく加入しました六花清春です!
よろしくお願いします!」
と載せた。
胸が引き裂かれそうな思いだった。
徐々に仲が良くなった。
だけど、どこかよそよそしかった。
小太郎がスマブラをする時に何を使うか、どんな攻撃をしてくるか、全部知っているのに何も知らないフリをする。
きっと小太郎が思い出してくれる。
そう思うことしかできなかった。
あの事からもうすでに1ヶ月半経っていた。
小太郎が思い出す気配を少しも感じられなかった。
幸いにも前みたいに話せるようになった。
違うのは小太郎の気持ちだけ。
大丈夫、もうすぐ思い出してくれる。
あと、少しだけ。
小太郎が思い出してくれると信じていた。
しかし、身体は正直でストレスから不眠症になった。
寝付けない日々が続き、寝ても途中で起きてしまう。多くて3時間しか眠れなかった。食欲も沸かないうえに、空腹を感じられなくなっていた。体重が51kgまで落ちた。
ファンもメンバーもそのことを心配していた。
やることがなくなったら小太郎のことを思い出してしまうため、仕事もたくさん入れていた。
さすがに危険だとやっぴ君たちが止め、休みをとらせた。
案の定、小太郎のことを考えてしまった。
こんな事になるなら最初から付き合わなければよかったんじゃないか。
そう思ってしまった。
息が詰まる思いで毎日を過ごしていた。
清春は身も心もとうに限界を迎えていた。
もう生きるのが疲れた。そう考え出した。
カッターを手に取り手首に当てた。
少し引くとズキンという痛みとともに血が滲んだ。
いっそのこと死んでしまいたい。
自分を痛めつけた。
コンコン……
頭が回っていない清春は、ノック音も市川くんの呼んでいる声にも気づかなかった。
市川くんが清春からカッターを取り上げた。
市川くんが清春の腕を掴んだ。
清春が市川くんに「殺して」と泣いてすがった。
市川くんは清春を抱きよせて背中を撫でた。
本音で話して清春は落ち着いた。
市川くんの胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。
どうやら市川くんは、精神が不安定な清春を心配して自分の休みを取り、家にいたらしい。
もし、市川くんがいなくて止める人がいなかったら。
考えるだけでゾッとした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。