7月19日、月曜日。
侑乃は自分の机で土曜日の出来事について考えていた。
璃那から、「今日は休む」と朝に連絡をもらった。今日は土曜日ことについて聞けそうもない。侑乃は大きくため息をついた。
するとその時、白夜からメッセージが来た。
「リーナがまだ来てないんやけど
なんか連絡来とる?」
既読「あぁ、今日休むってよ」
「そか、ありがと」
そんな会話をした後、スマホの電源を切った侑乃は、土曜日の出来事を思い出す。
璃那の上に落ちてきた植木鉢を弾いた、自分に似た黒い霊。自分を睨み「助けてあげればよかったのに」と言ったその少年は、璃那から「ユーノ?」と呼ばれた時に、確かに反応していた。
そして、璃那は「あれは俺の友達、侑乃って言うんよ」と、確かにそう言った。
侑乃は自覚している。自分の名前が珍しいってことを。
そう呟く侑乃だが、おかしいことを言っていることはよく分かっていた。
だって、自分はこの通り生きているのだ。
霊になどなっていない。
1人は侑乃に似たオレンジ色の目の
170cm程の身長の少年。
1人は白夜に似た青色の目の
200cm程の身長の少年。
1人はアラに似た赤色と青色のオッドアイの
180cm程の身長の少女。
1人は華風に似たピンク色の目の
170cm程の身長の少女。
1人は芽衣に似た水色の目の
190cm程の身長の少女。
……身長も目の色も髪も、まるで侑乃達にそっくりだった。
侑乃は、「一体どういうことなんや…」と考えながら、ふと窓の外を見た。
3階の教室からは、反対側の校舎の屋上が見える。
勢いよく雨が降っている外。
屋上の教室から見える場所に……
……いた。
屋上のフェンスの外に立って、雨に打たれながら蓬山の方向を見ている、髪の長い黒い女が。
侑乃が小さく呟くと、その声に反応するかのように、その女は侑乃を見た。
声が聞こえた訳では無いだろう。小さい声だったし、窓は完全に締め切っていた。第一、屋上から教室は何mも離れているのだ。
なのに、こっちを、見た?
何かを言っているその女を見て、背筋が凍った。
…目が、黄色と緑色の、オッドアイだったのだ。
こんなに遠く、雨が降っていて視界が悪く、薄暗い中、その目だけはよく見えた。
美しい程に不気味な目。侑乃は、その目に見惚れてしまっていた。
あの目、あの色の目は。
……璃那に、そっくりじゃないか。
担任の先生のその声でハッとした。先生の方に目をやって、ちらっと先程黒い女がいたところを見た。
女は、いなくなっていた。
小さく呟いた侑乃の声には、誰も気付いていなかった。
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放課後、部室にて……
朝見た女について、侑乃は白夜と華風に話した。
3人だけの部室でその女について考える。
しばらくあーだこーだと話していると……
「なんでここに」と聞こうとした華風は、アラを見て絶句した。
アラがそう言うと、全員が言葉を失った。
1人は、恐らく光輝をストーカーしていた霊だろう。
もう1人は数珠で縛られ解こうと必死になっていて、顔が見えないが…髪型は、侑乃が朝見た女にそっくりだった。
そう言い侑乃は、ストーカー女の霊を簡単に祓った。
そして、全員の視線が、数珠で縛られた黒い女の方を向く。見られているということがわかったのか、その黒いなにかは顔を上げた。
……黄色と緑のオッドアイが、侑乃たちの目に写った。
話しかけたんか……と、とんでもないものを見るような目でアラを見る侑乃達。
なんやねんその目、とアラは不機嫌になってしまった。
……璃那の声だ、と全員が思っていた。
しょぼ、というような顔をしたその黒い何か。
その顔も、璃那そっくりだった。
アラの反応が普通だ。璃那は黒くない、普通の人間なのだから。
侑乃達は、衝撃で言葉すら出てきていなかった。
やっと出せた言葉は当たり前のこと。でも、それも当然だった。
意味不明なことを言い出した、と呆れたような顔をする4人。璃那を名乗る黒いなにかは「はぁ……」と大きくため息を吐いた。
「え?」
全員が黒い璃那を見た。
全員が絶句した。
もう、誰も笑ったり呆れたりしていなかった。
何度目かの静寂が流れたその一室で、不穏な空気が流れ始めた───…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!