第13話

門崎光輝の悩み
63
2021/07/28 09:19
7月15日、木曜日。
学校終わり、門崎 光輝かんざき ないとは憂鬱な気分で帰る準備をしていた。
門崎 光輝
門崎 光輝
…はぁ…嫌だな……
帰る準備が終わり、小さくそう呟いて、荷物を持って1年1組の教室を出た光輝。
光輝は、帰りたくないのだ。

別に、家が嫌だとかそういうことでは無いし、なんなら早く家に帰りたい。だが、”帰り道”が嫌なのだ。
門崎 光輝
門崎 光輝
また今日も”いる”んだろうな……
…なんで僕がこんな目に……
そう愚痴を漏らしながら、光輝は校門をくぐって学校から出る。

……しばらく歩いていると、後ろから足音がした。
………カツ…カツ…
ハイヒールのような音が、自分の足音に合わせて聞こえてくる。
これこそが、光輝が学校から出たがらない理由だった。
真っ黒な女性
真っ黒な女性
……ねぇ…
門崎 光輝
門崎 光輝
ッッ…
真っ黒な女性
真っ黒な女性
お話、しましょう……?
門崎 光輝
門崎 光輝
…いいよ、お話だけね
歩みを止めて光輝はそう返事を返す。振り返って話だけね、ともう一度付け加えると、後ろの女性はこく、と頷いた。
この光景だけ見れば、その女は無害なように見えるだろう。
しかし、1週間ほど前から見えているその女は、初めて会った日、確かに光輝を脅したのだ。
1週間前……
真っ黒な女性
真っ黒な女性
……お話、しましょ…こっちを向いて……?
門崎 光輝
門崎 光輝
…………。
初めの日は、光輝もその女を無視していたのだ。しかし…
真っ黒な女性
真っ黒な女性
こっちを、向いて
門崎 光輝
門崎 光輝
…ひッッ!!
首元に当てられたものを見て、光輝は青ざめた。
電灯の光に照らされ光るそれは、間違いなくカッターの刃だった。
真っ黒な女性
真っ黒な女性
お話、しましょう?
門崎 光輝
門崎 光輝
…わ、わかったから、これ、離して……!
家が少し遠く、同じ方向の人が居ないため、助けを求めることも出来ない。だからといって、帰り道を変えることも出来ないため、この日から歩きながら後ろにいる女と話をする毎日……
「はぁ…」と溜息をつきつつ、女の話に適当に相槌を打つ。
少しすると、光輝の家が見えてきた。
一軒家の、大きな家が。
門崎 光輝
門崎 光輝
…家、着いたから、もういい?
真っ黒な女性
真っ黒な女性
……また。
後ろから気配が消えて、いなくなったことがよく分かる。
門崎 光輝
門崎 光輝
……はぁあ〜〜…
大きくため息をついて、家へと向かった。
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門崎 光輝
門崎 光輝
ただいま〜…
???
???
おかえり〜
門崎 光輝
門崎 光輝
……ご飯作ってんの?

…………白夜。
来栖 白夜
来栖 白夜
いや?今から作るとこ。なんか食べたいのある?
門崎 光輝
門崎 光輝
…ハンバーグ食べたい。あとマシュマロ。
来栖 白夜
来栖 白夜
ん。マシュマロはそん中
光輝と、あと数人とシェアハウスをしている白夜。買い出しや料理や……最年長であるため、白夜はなにかとそういう担当になってしまうらしい。
門崎 光輝
門崎 光輝
そういや、今日部活は?
来栖 白夜
来栖 白夜
今日休み。璃那と侑乃と一緒に帰ってきた
食材を冷蔵庫から出しながら白夜はそう言う。光輝もその2人の名前は知っている。もちろん白夜の口から聞いたことがある、からだ。
門崎 光輝
門崎 光輝
…確か、都市伝説……なんだっけ?
来栖 白夜
来栖 白夜
都市伝説調査クラブな。最近よく依頼来るんよなぁ
門崎 光輝
門崎 光輝
…それって、どんな依頼でもどうにかしてくれるの?
来栖 白夜
来栖 白夜
そう……やなぁ、まぁ、霊に関する事ならなんでも
「…それなら、」と光輝は小さく呟く。
具材を切っていた白夜は、そう呟いた光輝を、手を止めて見る。
来栖 白夜
来栖 白夜
…それなら?
門崎 光輝
門崎 光輝
…その人たちなら、後ろから着いてくる真っ黒い女の人…とかも、どうにかしてくれる?
来栖 白夜
来栖 白夜
……してくれるとは思うけど。
門崎 光輝
門崎 光輝
ふーん……そっか
都市伝説調査クラブ…白夜が入ってるなら紹介してもらおうかな、なんて考えながら光輝はマシュマロを口に放り込む。
来栖 白夜
来栖 白夜
…明日、昼休みに3‐1の教室に来てな、部室まで案内するわ
門崎 光輝
門崎 光輝
んー。
何となく察したのか、詳しい事情は言わずに白夜はそれだけ言った。
するとその時、
???
???
ただま。
中学生だとは思えない低い声を発しながらリビングに入ってきたのは、紅城 綾あかしろ あや
門崎 光輝
門崎 光輝
あ、あぁ、おかえり、綾
紅城 綾
紅城 綾
……あ、マシュマロ…1個くれ
門崎 光輝
門崎 光輝
くれって言う前に奪ってるし…いいけど、僕の分は残しといてよ?
紅城 綾
紅城 綾
気が向いたら。
そう言いながらマシュマロを食べる綾に、具材を混ぜながら白夜が話しかける。
来栖 白夜
来栖 白夜
今日はハンバーグやぞ、手あらっt
紅城 綾
紅城 綾
デミグラスソースな
来栖 白夜
来栖 白夜
分かっとるから食い気味やめぇや…‪w
白夜を冷たくあしらう綾、それに対しいつも通りの反応をする白夜。
紅城 綾
紅城 綾
…美味いなこれ、全部食っていい?
門崎 光輝
門崎 光輝
駄目に決まってるんだけど?
来栖 白夜
来栖 白夜
まぁまぁ、次は二人分買ってくるから
光輝のマシュマロを全部食べる勢いで食べていた綾は光輝にそういうが、光輝は当然でしょ、というように言葉を返す。
そして白夜は、二人を宥めながらも夕飯を作っていた。本当は、こんなに早く夕飯を作らなくてもいいのだが、1人、帰ってきてすぐ夕飯を食べたいとか言う奴が居るのだ。
部活が終わっても寄り道をして帰ってくるそいつは、きっと今日も寄り道をして、夕飯ができる直前に帰ってくる。名前は、鈴宮 遥斗すずみや はると
来栖 白夜
来栖 白夜
とりあえず2人は先に風呂入ったら?2人とも風呂上がる頃には出来とるし、その頃には遥斗も帰ってきとるやろ
紅城 綾
紅城 綾
んー。俺先行くわー
門崎 光輝
門崎 光輝
はいはい……早めに上がってきてよ
そう言いながら綾は風呂場へ、光輝はソファーに向かって行った。
白夜は、もう何度作ったかも思い出せないハンバーグを作りながら考える。まさか、自分の知り合い…それも一緒に住んでいる人間に霊が干渉していたとは思っていなかった白夜は、口調や表情こそ変わらないものの、内心どうしようかと焦っていた。
来栖 白夜
来栖 白夜
…リーナとあいぼーユーノに相談しとこ…
その後も夕飯を作り、もうそろそろ完成、というところまで来た時、玄関のドアが開く音がした。
鈴宮 遥斗
鈴宮 遥斗
ただいま〜。今日ハンバーグ?めっちゃいい匂いするやん
来栖 白夜
来栖 白夜
おかえり、もうそろそろ出来んで
遥斗は帰ってきてすぐキッチンの方に来て、そして流し台で手を洗いながら話をする。「どこ行ってたん?」と聞く白夜に、「友達と公園で話してただけ」と返事を返して、テーブルの方へと向かう。
そして、ソファに座っていた綾は遥斗を見て話しかけた。
紅城 綾
紅城 綾
今日の課題ってさ、あれ習ったとこ?
鈴宮 遥斗
鈴宮 遥斗
綾は授業まともに受けてないからわからんやろうけどちゃんと習ったとこやからな
2人は2年1組、同じクラスだからか学校でも一緒にいるのをよく見かける。それほど仲がいいらしい。
来栖 白夜
来栖 白夜
…出来たで〜
夕飯をテーブルに並べ、白夜はそう言った。
鈴宮 遥斗
鈴宮 遥斗
よっしゃぁ!!
門崎 光輝
門崎 光輝
なんでそんなにテンション高いの…
紅城 綾
紅城 綾
こいつの事やから腹減っとるんやろ。
鈴宮 遥斗
鈴宮 遥斗
弁当だけじゃ足りんのよな
来栖 白夜
来栖 白夜
言ってくれたら量増やすのに…
鈴宮 遥斗
鈴宮 遥斗
それはいいんよなぁ…
テーブルを囲んで座り、全員で手を合わせて、「いただきます」をする。

美味しい美味しいと夕飯を口にしている、何かと頼りになる自分より年上の3人を、光輝は夕飯を口にしながらも見ていて、「もっと早めに相談しておけばよかったかな」と思ったのだった。

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