7月15日、木曜日。
学校終わり、門崎 光輝は憂鬱な気分で帰る準備をしていた。
帰る準備が終わり、小さくそう呟いて、荷物を持って1年1組の教室を出た光輝。
光輝は、帰りたくないのだ。
別に、家が嫌だとかそういうことでは無いし、なんなら早く家に帰りたい。だが、”帰り道”が嫌なのだ。
そう愚痴を漏らしながら、光輝は校門をくぐって学校から出る。
……しばらく歩いていると、後ろから足音がした。
………カツ…カツ…
ハイヒールのような音が、自分の足音に合わせて聞こえてくる。
これこそが、光輝が学校から出たがらない理由だった。
歩みを止めて光輝はそう返事を返す。振り返って話だけね、ともう一度付け加えると、後ろの女性はこく、と頷いた。
この光景だけ見れば、その女は無害なように見えるだろう。
しかし、1週間ほど前から見えているその女は、初めて会った日、確かに光輝を脅したのだ。
1週間前……
初めの日は、光輝もその女を無視していたのだ。しかし…
首元に当てられたものを見て、光輝は青ざめた。
電灯の光に照らされ光るそれは、間違いなくカッターの刃だった。
家が少し遠く、同じ方向の人が居ないため、助けを求めることも出来ない。だからといって、帰り道を変えることも出来ないため、この日から歩きながら後ろにいる女と話をする毎日……
「はぁ…」と溜息をつきつつ、女の話に適当に相槌を打つ。
少しすると、光輝の家が見えてきた。
一軒家の、大きな家が。
後ろから気配が消えて、いなくなったことがよく分かる。
大きくため息をついて、家へと向かった。
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光輝と、あと数人とシェアハウスをしている白夜。買い出しや料理や……最年長であるため、白夜はなにかとそういう担当になってしまうらしい。
食材を冷蔵庫から出しながら白夜はそう言う。光輝もその2人の名前は知っている。もちろん白夜の口から聞いたことがある、からだ。
「…それなら、」と光輝は小さく呟く。
具材を切っていた白夜は、そう呟いた光輝を、手を止めて見る。
都市伝説調査クラブ…白夜が入ってるなら紹介してもらおうかな、なんて考えながら光輝はマシュマロを口に放り込む。
何となく察したのか、詳しい事情は言わずに白夜はそれだけ言った。
するとその時、
中学生だとは思えない低い声を発しながらリビングに入ってきたのは、紅城 綾。
そう言いながらマシュマロを食べる綾に、具材を混ぜながら白夜が話しかける。
白夜を冷たくあしらう綾、それに対しいつも通りの反応をする白夜。
光輝のマシュマロを全部食べる勢いで食べていた綾は光輝にそういうが、光輝は当然でしょ、というように言葉を返す。
そして白夜は、二人を宥めながらも夕飯を作っていた。本当は、こんなに早く夕飯を作らなくてもいいのだが、1人、帰ってきてすぐ夕飯を食べたいとか言う奴が居るのだ。
部活が終わっても寄り道をして帰ってくるそいつは、きっと今日も寄り道をして、夕飯ができる直前に帰ってくる。名前は、鈴宮 遥斗。
そう言いながら綾は風呂場へ、光輝はソファーに向かって行った。
白夜は、もう何度作ったかも思い出せないハンバーグを作りながら考える。まさか、自分の知り合い…それも一緒に住んでいる人間に霊が干渉していたとは思っていなかった白夜は、口調や表情こそ変わらないものの、内心どうしようかと焦っていた。
その後も夕飯を作り、もうそろそろ完成、というところまで来た時、玄関のドアが開く音がした。
遥斗は帰ってきてすぐキッチンの方に来て、そして流し台で手を洗いながら話をする。「どこ行ってたん?」と聞く白夜に、「友達と公園で話してただけ」と返事を返して、テーブルの方へと向かう。
そして、ソファに座っていた綾は遥斗を見て話しかけた。
2人は2年1組、同じクラスだからか学校でも一緒にいるのをよく見かける。それほど仲がいいらしい。
夕飯をテーブルに並べ、白夜はそう言った。
テーブルを囲んで座り、全員で手を合わせて、「いただきます」をする。
美味しい美味しいと夕飯を口にしている、何かと頼りになる自分より年上の3人を、光輝は夕飯を口にしながらも見ていて、「もっと早めに相談しておけばよかったかな」と思ったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。