第18話

”永遠”を望む少女の願い
58
2021/08/02 03:57
7月19日、月曜日。
璃那は、ベッドから起き上がろうとしなかった。
メイドが起こしに来て、母親と父親が起こしに来ても頑なに「行かない」と言い続けたら、父親の方が折れてくれた。
「しょうがない、今日は休ませてやるが明日は行くんだぞ」
と、”優しい父親”を演じたような口ぶりで言う父親。苛立ちを含めた声で「早く出ていって」と璃那が言うと、すぐに出ていった。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……ユーノ…
彼方 侑乃?
…なーに?どしたの?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……俺、頑張ってる方でしょ?
彼方 侑乃?
……うん、リーナはよく頑張っとるよ
嫌いな勉強も、大人の機嫌取りも、それから……
彼方 侑乃?
……”あの子たち”に、嘘をつき続けんのも
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…ふはッッ‪w何それ、嫌味?
疲れた顔をしていた璃那の顔に笑みが戻ったのを見て、黒い侑乃も、他の4人もにこにこしていた
八雲 アラ?
リーナ、今日は学校行かんでええの?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…ほら、ユーノ…侑乃達にお前らの姿が見られたやん。
やから、ちょっと行きづらいやろ?やからいいやって
蓬莱 華風?
確かにめっちゃ見られたなぁ、笑ってもうたわ‪w
来栖 白夜?
でもさ?視られても、あいつらには俺らの正体わからんのやろ?なら別に…
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
絶対に聞いてくるやろ、あいつらは。それと……
「それと?」というような表情で5人は璃那を見た。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……”俺”が、侑乃達にもループについて話す頃やと思うんよ
その言葉を聞いて、辺りは静まり返った。

黒い侑乃は複雑な表情で。
黒い白夜はいつものニコニコ笑顔で。
黒いアラは無関心そうな表情で。
黒い華風は興味深そうな表情で。
黒い芽衣は怯えたような表情で。

各々が様々な表情をしたのを見て、璃那は、「ほんっと変わらんなぁ」と呟いた。
黄蘗 芽衣?
お姉ちゃん…ループについてバレたら、お姉ちゃんはどうなっちゃうんだろ……?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……嫌われて、最悪殺されるんちゃう?
えぇっ、と言うような顔をした芽衣と華風。
驚いているのが全身で現れていて、可愛いなぁと璃那は思うのだった。
彼方 侑乃?
……そんなこと、せーへんやろ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
ん?なんでそんな言いきれるん?
彼方 侑乃?
だって俺ら、リーナのこと大好きやから
来栖 白夜?
…あぁ、確かに‪w
八雲 アラ?
リーナのこと殺したりせーへんよぉ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…ふふ‪wそか、ありがとな
幸せそうに笑う彼女の願いはただ一つ。

”彼らとずっと一緒にいたい”

ただそれだけ。
その為だけに、何度も何度も、ループしてきているのだ。
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彼方 侑乃
彼方 侑乃
…お前の言うことが正しいんやったら、リーナは3学期の冬休みに俺らを集めて……
蓬莱 華風
蓬莱 華風
…ループするために…ずっと一緒にいるために、うちらを殺して自分も死ぬ……
八雲 アラ
八雲 アラ
…その時に御札を使うから、抵抗は無意味……
来栖 白夜
来栖 白夜
…ループを逃れる方法は3つ、行かない、自ら殺される、もしくは…
…俺らが死ぬより先に、リーナを殺す…
黄蘗 璃那?
そうそう
だから、君たちには…出来れば一番最初の手段を選んで欲しい
それが無理なら最後の手段や
その言葉を聞いて、アラはガタンッッと椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がった。
その音にびっくりして全員がアラの方を見る。
アラは、両手を握りしめて一言こういった。
八雲 アラ
八雲 アラ
俺は…ッッ…
リーナの為なら死んでやる!!!
黄蘗 璃那?
……はぁ?!?!
まるで決意したかのようなその声に、黒い璃那は驚いているようだった。
黄蘗 璃那?
いや、何言っとんの?!
あいつの…いや、俺の、自分勝手の為に
お前らが犠牲になるとか、そんなの…!
八雲 アラ
八雲 アラ
お前は勘違いしとるかもしれんけどさぁ!?
黒い璃那が話し終える前に食い気味で大声を張り上げたアラは、1度力を抜いた手を再び握りしめてこういった。
八雲 アラ
八雲 アラ
俺は、俺だって……

リーナとずーっっと一緒にいたいんや!!
黄蘗 璃那?
…は、はぁ……?!
八雲 アラ
八雲 アラ
やからこれはリーナのわがままとか自分勝手に付き合わされてる訳やなくて!!
俺が自分の意思で、「一緒にいる」って言ってるんや!!!
その言葉には、アラの決意が現れているようだった。
来栖 白夜
来栖 白夜
……ふ‪wせやな、俺だって、まだずっとあいつと一緒がええわ
彼方 侑乃
彼方 侑乃
そうやなぁ…あいつと一緒にいるの、面白いし楽しいもんな
蓬莱 華風
蓬莱 華風
そうやね、みんな同じ気持ちや
黄蘗 璃那?
……はぁ…ほんっと馬鹿……
10年前となんら変わらない……
彼方 侑乃
彼方 侑乃
そりゃあ、本質的には変わってないしな
黄蘗 璃那?
…じゃあもういいや…

……説得、頑張ってみたら?
そう言って、黒い璃那は消えていった。どこかへ行ったようだった。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……さて、俺らはどうする?依頼とか、受けてる場合やない気はするけど
蓬莱 華風
蓬莱 華風
……とりあえず…リーナの家とか行ってみる?
八雲 アラ
八雲 アラ
行っても出てくるか…そもそも家におるかが分からんけどな……
来栖 白夜
来栖 白夜
とりあえず行ってみるに越したことはないんやない?
白夜のその言葉で、彼らは黄蘗家へと向かうことにした。
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蓬莱 華風
蓬莱 華風
うっわぁ〜…相変わらずでっかい家……
来栖 白夜
来栖 白夜
やっぱ黄蘗家って金持ちなんやなぁ……
黄蘗家の門の前について、まず思うことは「大きすぎる」という単純なこと。誰が来てもそう思うだろう。だって大きいんだから。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
とりあえず…チャイム押すか……
…ピーンポーン……

……ガチャ
「はい、私メイドの者でございます。
何か御用でございましょうか?」
チャイムを押してインターホンから聞こえてきたのは、若い女性の声。自らをメイドだと名乗るその女性に、侑乃は尋ねた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
あの〜…彼方おちかたです。
璃那と芽衣って今いらっしゃいますか?
すると、そのメイドは驚いたように言った。
「彼方様ですか!?
これは失礼しました、お嬢様のお友達とは知らず…
お嬢様は先程お出かけになりました。妹様は自室にいらっしゃいます」
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……出かけた?
「はい。「少し山に行ってくる」と言って家を出てしまいました。肩掛けバッグを持っていっていたので、散歩かと思ったのですが…」
4人は、少し嫌な予感がしていた。
あの黒い璃那が璃那の元へ戻っているのであれば、璃那はとにかく早めに行動を起こしたいはず。

時すでに遅し、と言うやつか。
八雲 アラ
八雲 アラ
……あのー、すみません。芽衣、呼んでもらっていいですか?
「妹様ですか?拝命しました。少々お待ちを」
そう言って少しすると、芽衣が家の大きな扉から出てきた。
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
ど、どうしたの?こんな時間に。今、そこの門開けるね
そう言って芽衣は門を開けてくれた。

そんな芽衣に事の発端を説明すると、一言芽衣はこう言った。
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
…だからお姉ちゃん、7時になったら家を抜け出して、蓬山の山頂までメイドに連れてってもらってって言ってたのか…
蓬莱 華風
蓬莱 華風
え?そんなこと言われたん?
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
うん…急に部屋に入ってきて、「どうしたの?」って聞いたらそう言われて…
彼方 侑乃
彼方 侑乃
…今の時間は6時50分…
蓬山に向かっていい時間だと思うけど
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
あ、じゃあ、ちょっと待ってて!
お姉ちゃんのメイドさんに送ってもらお!
そういうと芽衣はメイドを呼びに行った。
別に歩いていくつもりだったのに……と、侑乃は少しため息をついた。
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メイドが運転する車に乗って蓬山の頂上に行くと、謎の施設のような場所ができていた。至る所に御札が貼られた”それ”は、まるで歓迎するかのように扉を開いた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……ぅ…なんだこの圧迫感……!
八雲 アラ
八雲 アラ
息、しずら……
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
…こ、怖い……
来栖 白夜
来栖 白夜
…なんやろ、あれ……?
蓬莱 華風
蓬莱 華風
……あれって……!!
???
……やぁ、待ってたよ、みんな
声に反応するかのように振り返り、そういったのは……
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
さ、一緒に遊ぼ?
袴のような服を着て、御札を手に持ち、他の御札を周りに浮かせて上から侑乃たちを見下ろしている璃那の姿だった。

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