7月19日、月曜日。
璃那は、ベッドから起き上がろうとしなかった。
メイドが起こしに来て、母親と父親が起こしに来ても頑なに「行かない」と言い続けたら、父親の方が折れてくれた。
「しょうがない、今日は休ませてやるが明日は行くんだぞ」
と、”優しい父親”を演じたような口ぶりで言う父親。苛立ちを含めた声で「早く出ていって」と璃那が言うと、すぐに出ていった。
疲れた顔をしていた璃那の顔に笑みが戻ったのを見て、黒い侑乃も、他の4人もにこにこしていた
「それと?」というような表情で5人は璃那を見た。
その言葉を聞いて、辺りは静まり返った。
黒い侑乃は複雑な表情で。
黒い白夜はいつものニコニコ笑顔で。
黒いアラは無関心そうな表情で。
黒い華風は興味深そうな表情で。
黒い芽衣は怯えたような表情で。
各々が様々な表情をしたのを見て、璃那は、「ほんっと変わらんなぁ」と呟いた。
えぇっ、と言うような顔をした芽衣と華風。
驚いているのが全身で現れていて、可愛いなぁと璃那は思うのだった。
幸せそうに笑う彼女の願いはただ一つ。
”彼らとずっと一緒にいたい”
ただそれだけ。
その為だけに、何度も何度も、ループしてきているのだ。
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その言葉を聞いて、アラはガタンッッと椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がった。
その音にびっくりして全員がアラの方を見る。
アラは、両手を握りしめて一言こういった。
まるで決意したかのようなその声に、黒い璃那は驚いているようだった。
黒い璃那が話し終える前に食い気味で大声を張り上げたアラは、1度力を抜いた手を再び握りしめてこういった。
その言葉には、アラの決意が現れているようだった。
そう言って、黒い璃那は消えていった。どこかへ行ったようだった。
白夜のその言葉で、彼らは黄蘗家へと向かうことにした。
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黄蘗家の門の前について、まず思うことは「大きすぎる」という単純なこと。誰が来てもそう思うだろう。だって大きいんだから。
…ピーンポーン……
……ガチャ
「はい、私メイドの者でございます。
何か御用でございましょうか?」
チャイムを押してインターホンから聞こえてきたのは、若い女性の声。自らをメイドだと名乗るその女性に、侑乃は尋ねた。
すると、そのメイドは驚いたように言った。
「彼方様ですか!?
これは失礼しました、お嬢様のお友達とは知らず…
お嬢様は先程お出かけになりました。妹様は自室にいらっしゃいます」
「はい。「少し山に行ってくる」と言って家を出てしまいました。肩掛けバッグを持っていっていたので、散歩かと思ったのですが…」
4人は、少し嫌な予感がしていた。
あの黒い璃那が璃那の元へ戻っているのであれば、璃那はとにかく早めに行動を起こしたいはず。
時すでに遅し、と言うやつか。
「妹様ですか?拝命しました。少々お待ちを」
そう言って少しすると、芽衣が家の大きな扉から出てきた。
そう言って芽衣は門を開けてくれた。
そんな芽衣に事の発端を説明すると、一言芽衣はこう言った。
そういうと芽衣はメイドを呼びに行った。
別に歩いていくつもりだったのに……と、侑乃は少しため息をついた。
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メイドが運転する車に乗って蓬山の頂上に行くと、謎の施設のような場所ができていた。至る所に御札が貼られた”それ”は、まるで歓迎するかのように扉を開いた。
声に反応するかのように振り返り、そういったのは……
袴のような服を着て、御札を手に持ち、他の御札を周りに浮かせて上から侑乃たちを見下ろしている璃那の姿だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。