にこにこと笑う璃那の目の前には、追いかけ回された挙句、立てないように足元を重点的に狙われ傷を負わされた侑乃達の姿。
白夜は腕に深い切り傷、左足のアキレス腱を切り、歩くことは出来ない。
侑乃は首に巻きついた御札で首を絞められ、苦しそうにもがいている。
アラは片目を潰され、口を塞がれ、後ろで手を縛られていた。起き上がることは出来なくもないが、片目を潰された痛みで悶えているようだ。
華風は御札から逃げようとした所を後ろから鎌のようなもので切られ、背中に大きな切り傷が。そして、口から御札が体内に入り込み、延々と花を吐くという地獄を味わっていた。
芽衣は手のひらから釘を刺され、貫通した釘が壁に刺さると同時に痛みで気絶し、壁から吊り下げられている。
それぞれがそれぞれの苦しみに耐えているのを見て、璃那は目を細めた。
「違う。こういうことがしたいんじゃない。」と。
璃那はただ、「彼らとずっと一緒に居たい」だけだ。傷付けたい訳じゃない。
じゃあなんで傷つけた?そうだ、邪魔しにしたからだ。
……だから、殺すんだ。
そして、俺も死ぬ。
そうすればやり直せるんだ。
1番楽しかった、高校3年生の、1年間を、何度でも。
璃那はただ、ずっとこのメンバーで一緒にいたい…その願いを、叶えたいだけなのだ。
そう言って璃那は、白夜へと近付いていった。
白夜は、璃那を見て笑ってこう言った。
璃那は絶句していた。だってそれは。
…前回、ループした時の殺し方、じゃないか。
どうして記憶がある?ループした記憶は自分にだって曖昧にしかないのに。殺し方の記憶ほどしか、残らないのに。
なぜ殺された人間が覚えてる?
まさか、記憶を消す呪いが、失敗したとでも言うのだろうか。
どうして、どうして。
殺そうとしているのに。それを知っているのに。何故逃げないのか。
疑問で仕方がない。
なぜ、殺されようとするんだ。
……逃げてくれれば、諦めがつくのに。
…幸せだっただろうか?
……違う。望んでたのはあんなものじゃない。
繰り返したいわけではなかった。
…幸せでは、なかっただろう。
……もう何がどうなってるのか分からない璃那は、白夜から離れ始めた。
後ずさりしながら、どうにもならないことをしてしまったと改めて思い直す。
璃那の精神が乱れたからか、御札は力を失い、攻撃することはなくなった。
璃那はその場に座り込む。その顔に浮かぶのは恐怖の色。
そんな璃那を見て、立つのもままならない5人は、無理をして立ち上がった。
侑乃が白夜を支え、アラが華風を支える。芽衣はアラと華風が倒れないように支えていた。
侑乃が口にしたのは、"一番最初の侑乃"が、璃那に聞いた事だ。
「この問に対しての答えは、なんだって受け入れる。
代わりに、本心を話してくれ」
「……お前は、どうしたい?」
そして、それに対する答えも、未だに変わらない。ずっと一緒に居たい、という璃那の思いは、いつまで経っても冷めることは無かったようだった。
すると侑乃は、高らかになにかの呪文を唱え始めた。
璃那は、直ぐにわかった。気付いてしまった。
それが、”不老不死の呪い”であることに。
でも、止めようとはしなかった。
止めてはいけないと知っているから。
不老不死の呪いは、効果が大きすぎるあまり、代償や、失敗した際の反動が大きすぎる。
失敗した際は、その呪いをかけようとした人間……侑乃が、間違いなく死んでしまうのだ。
さらに最悪だと、周りにいる璃那たちまで命を落とす。
璃那が黙ってその呪文を聞いていれば、長いはずのその呪文が、あっという間に終わった気がした。
璃那は満面の笑みを侑乃たちに見せた。そして。
立ち上がって自分の指を噛み、血を御札に付けた璃那は、5人に向かって御札を投げる。
その御札は先程のように突き刺さりはせず、1枚の御札が分裂し、全員の傷口に張り付いた。
離れた頃には痛みも傷跡もなく、綺麗さっぱり消えていた。もちろん、アラの潰された目も。
にこにこと笑いながら施設を後にした6人。全員が心の底から嬉しそうな笑みを浮かべていた。
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「…次のニュースです。」
「蓬生中央高等学校の生徒6人が行方不明になるという事件が起こりました。」
「黄蘗 璃那さんを始めとする6人は、全員が同じ部活に入っていたことから──」
「何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高いと思われます。」
「では、次のニュースです。」
「蓬山の頂上に城のような建築物が建った怪事件。調査に行った調査員の死体が、山の麓で発見されました。」
「遺体はボロボロになっていて、至る所に御札が貼られており、」
「調査員のひとりは、御札でぐるぐる巻きにされた状態で見つかったとのことです。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!