第4話

推しには好きな人がいる件。
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2021/10/11 04:00
ケントくんと同居させてもらえることになって、初めての朝。
ピンクの髪、青い瞳。

知らない、顔。
少しも見慣れない、自分の姿に戸惑いながら、鏡の前で身支度を済ませる。
私は、昨日気を失った時に寝かされていた部屋を、そのまま私の部屋として使わせてもらうことになった。
(なまえ)
あなた
目が覚めたのに、夢じゃない……
呟くと、鏡の中の見慣れない自分の唇も、同じ形に動いた。
(なまえ)
あなた
(この世界、どうなってるんだろう?)
(なまえ)
あなた
(漫画の展開と、私の妄想がごちゃ混ぜになってるみたい……)
鏡台に載せられたメモ用紙の束から一枚取り、状況を整理するために、覚えている漫画の設定を書き出すことにした。
『ここは人間とヴァンパイアが共存する世界』
『昔は、吸血鬼と人間は世界を住み分けていたから、どちらも平和だった』

『近頃、吸血鬼側が人間の世界に危害を加えるようになり、女性がさらわれはじめた』
『夜しか行動できなかったはずのヴァンパイアに、太陽光に強い種が増えだした』

『秩序を乱すのは、太陽光に強いヴァンパイア』
『ヴァンパイアと戦えるのは、討伐隊とうばつたいだけ』
(なまえ)
あなた
そして……
(なまえ)
あなた
『亡くなったお父さんの代わりに、ケントくんが討伐隊に入隊する』……っと
(なまえ)
あなた
うーん……
昨夜亡くなるはずだったケントくんのお父さんは、無事に生き続けるはず。
(なまえ)
あなた
(そうすると、ケントくんは討伐隊に入らないのかな)
漫画では、むしろヴァンパイア討伐隊にケントくんが入らないと、物語は進まない。
私が変えてしまったことで、これからの展開が大きく変わるのかもしれない。
──コンコン。
ケント
ケント
あなた、準備出来たか?
(なまえ)
あなた
あっ、はい!
ノックされ、返事をすると、ドアが開いた。
(なまえ)
あなた
(わ、わああ……!)
(なまえ)
あなた
(朝から生ケントくん……!)
ケント
ケント
朝食、出来たってさ
(なまえ)
あなた
はい、ありがとうございます
ケント
ケント
食べ終わったら、学校一緒に行こうな。女は、ひとりで行動しない方がいいから
(なまえ)
あなた
は、はいっ!
(なまえ)
あなた
(わざわざ部屋まで迎えに来てくれて、サラッと守ってくれようとするなんて)
(なまえ)
あなた
(生ケントくんも漫画で読んでた通りの紳士的な男の子……)
(なまえ)
あなた
(やばい。好き)
食卓に向かう前に、少し寄り道をすることになった。
寝たきりになっているお母さんに、朝のあいさつ。
漫画では、お父さんが亡くなってしまったせいで、お母さんも心労がたたり、間もなく亡くなってしまう。
(なまえ)
あなた
(それも、回避出来たってことなんだよね……?)
食卓についてすぐ、メイドさんが料理を一品ずつ運んできてくれた。
(なまえ)
あなた
(メイドさんまでいるなんて、すごく豪華な家……)
漫画では、お父さんが亡くなったことで、すぐに家が没落してしまったから、
私たち読者が見ているのは主に、貧しい暮らしをしているケントくんだった。
ケント
ケント
アイリス? 今日も、元気そうでよかった
急に、目の前に座るケントくんが、嬉しそうに右耳に手を当てた。
彼がその名前を口にしたことで、私の心は自分勝手に曇る。
(なまえ)
あなた
(アイリスのテレパシーだ……)
アイリスは、『ヴァンパイアゲーム』のヒロイン。
ケントくんの幼なじみで、……好きな人。

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