胸の音がうるさすぎて、自分の声と重なる。
ケロッと答えるケントくんの顔を見て、ガクッと頭を垂れる。
*
休憩時間、私は廊下に出て、窓から外を眺めていた。
現実世界の学校生活と違うところといえば、校舎がすごく豪華で、
椅子や机も、やたらときらびやかなところくらい。
開けっ放しになった教室の扉から、中を見る。
ケントくんが、クラスメイトの男子とふざけあっている。
一緒にいると、少しずつ彼の印象が変わっていく。
漫画を読んだだけの時には、ケントくんは真面目で紳士的で、強い。
どこか闇を抱えていて、周りの同年代の男子とは何もかもが違う。
王子様みたいな……、そんな人だと思っていたのに。
子どもみたいにはしゃぐ姿を見ると、まるで違う人みたい。
脇から声をかけられて、飛び上がる。
完全に視界外だったから、驚いた。
勢いに圧されて、まともに言葉を返せない。
漫画のリリーユは、アイリスを邪魔だと言いながらも、ふたりの仲を裂くのに卑怯な手は一度も使わなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。